焔の誓い その2
なんだかぼんやりした感じで、俺は千明さんと分かれた。ずっと、なんとも言えない寂しそうな顔をしている千明さんの事が、よくわからなかった。
……それより今は、怪物化についてだ。
まだ"因子"が残っていると奴は言っていた。
それはつまり、千明さんはまだ"エイド"になる可能性があるという事。
奴の異能はそういう異能だった。
怪物化した時、何とか抑え込めたから良かったものの、あのまま抑えられなければ千明さんも……と思うとぞっとする。
「……奴が怒ったのも無理はない」
他人の身体を乗っ取り操る。
そんな外道な行為、見逃しておけるものか。
ガンドは、あの時心からそう思っただろう。俺もそうだった。
「……だからこそ引っかかる」
奴は何故わざわざ忠告しに来た?
わかっているのなら乗っ取りが完了する時まで黙っておけば良かっただろうに。
そんな簡単な事を奴が見逃すはずはない。そういう人間だ。
─────────つまり。
「それをする理由が今の奴には無い。……もしくは」
────────してはならないと思っている。
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「……あの人は力強かった」
「僕という存在そのものを変えてしまうくらいに」
「だからこれはきっかけを作った君への餞別だよ」
「ちゃんと幸せになってね」
「ごめんなさい」
───────────────────────
翌朝。
起きてみると、部屋に置き手紙があった。
机の上に乱雑に置かれていたのでびっくりしたが、千明さんからだった。
別に重要ってほどの物ではなく、「ローズと一緒に出かけよう?」という旨の物だった。
……メールで連絡してくれれば問題ないのだがな。
「……支度するか」
ちなみに……俺と千明さんは同居している。
特に意味は無いし俺は道場の寮を使いたかったのだが、彼女の強い希望でこうなった。
……なんでだろうな。
支度を終え、家を出て、城まで向かう。
門番に通してもらい、城に入り、部屋に向かう。
いつものマイルさんとのショートコントみたいな会話を終えた後、ローズの部屋に入る。
部屋に入ると、ピリッと感じる空気の重さ。
目に入ってくる、何やら睨み合うローズと千明さん。
……なんだか嫌な予感がする。
「どうしたんですか?」
「……ちょっと、ね」
「……」
千明さんが顔を背ける。ローズは立ち上がり、こちらへ向かってくる。
「……あのね、お兄様。1つだけ聞きたい事があるの」
「なんだ??」
「お兄様は結局、どっちが好きなの?」
「は??」
言っていることの意味がよくわからないと言いたくなるが……抑える。
「……なぜ?」
「……質問を質問で返さないでよお兄様」
「……」
なぜそんな事を聞くのか、と言いたいが2人がここまで機嫌が悪いと、そんな聞き方をするとボコられかねないのでやめておく。
「……2人とも好きだよ」
「お世辞とかそういうのは無しにして。ちゃんと言って」
「……ちゃんと、って……」
「ほんとはローズの方が好きなんでしょ」
千明さんがそう言った。
「……は?? なんでそうなるんですか」
「だって、こっち来てからローズに構ってばかりだもの。一目惚れってやつ? アホらし」
「っ! そんなつもりは……。俺は妹みたいに見てただけで」
「ふ〜ん? 妹みたいに、か。じゃああたしが入院してしんどい時にもここに来てたのはどういうつもりなのかな??」
「え……っ。いや、それは報告のつもりで……」
「報告!? そんなのメールで済ませればいい! わざわざ行く必要なんてない!! なのに行ったのは、あたしよりローズの方が好きだからでしょう!!?」
「そんな事はない!! 俺は心配かけたくなかったから……ただそれだけだ!!」
「そんなの嘘!! だって……君はエイドにあそこまで、ギリギリまで言われても……気にも留めなかったじゃないか!!!」
千明さんは、涙を流し始める。
大粒の涙は流れて止まらない。
ローズはずっとこっちを睨んでいる。
ため息をつくと、ローズは小さく口を開く。
「私に構ってくれるのはとてもうれしいけれど、お兄様の大切な人を悲しませるのは、ローズは悲しいよ」
「……だから」
ローズは、部屋を後にする。
すれ違う瞬間、一言だけ、
「……受け止めてあげてね」
そう言った。
「……おっ、おい……」
呼び止めようとして、凄まじいエネルギーの気迫を感じて千明さんの方を見る。
千明さんの腕が、"怪物"の物に変化し、千明さんの目が赤く光っている。
「……私のことを見てくれない。君は、私の事を見てくれていなかった!! ……嫌だ、嫌なの。そんなのは嫌……』
「……千明さん……?」
千明さんの身体に、エネルギーが形取り、鎧となって纏われていく。
『……だから、君の全てを私だけの物にする』
「……!!」
千明さんのエネルギーに呼応してか、部屋全体が変化し、広い空間へと変わっていく。それはまるで亜空間のよう……いや、亜空間だ。
新しい空間の風景はとても綺麗だ。地平線の向こうが見えない……。千明さんの見たい清々しいほどの雄大な自然の風景なのだろう。
……いや、これってもしかして。
『……あたしは君が好きだから』
『この世界で、2人だけで……』
千明さんが、俺と見たい景色なのか?




