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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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第一の衝突


「……迎えに来た、か」


「ええ。帰りましょう? 私達の家へ」


トレイルが手を伸ばしてくる。


「……いきなり足を貫いてきた女の言う事じゃあないな、それは」


「……抵抗される気がしたもので」


「……ハハッ。確かにな」


「否定しないんですね」


「今、帰るわけにはいかないからな」


「……そうですか」




「別に、強くならなくたって良いんですよ?」


重くのしかかる一言。

諭すように言っているが、どちらかといえばトレイルは「強くなるな」と圧をかけているつもりなのだろう。


ただ……俺からするとその一言は……



「……アハッ、アハハハハ」


「ハッハッハッハッハ!!!」


笑えてくる一言だった。



「……何を笑っているのです」


「いやぁ……お前ら、ほんっとうに俺の事わかってないんだな!!」


「……は?」


「俺が、強くならなくて良い、だと? ふざけるなよ。俺がリーダーで、俺が決めた事だ。指図するなよ。強いなら、テメェの身はテメェで守れるだろうがよ!!」


「……一体、何を言っているのです」


「わからねぇか? ……まぁ良いさ、教えてやる。男ってのはな、周りが強いと焦るんだよ。死ぬほど焦る。どうしようもないくらいに焦るんだ……」


「……」


「取り残される恐怖は凄いもんだぜ。ま、逆に周りになんもないとだらけたりするから不思議だが……俺の場合は、テメェらがいるわけだ。そりゃ焦るよな」


「そんな、くだらない事なのですか」


トレイルの触手のような影が更に足を2・3度貫いてくる。


「ぐっ……! あっ、ああそうさ!! くだらねえ理由だよ!! ……俺は極度の負けず嫌いなんだよ!!」


「……そうですか。では、貴方の心を折るしかありませんね」


影がいくつも連なって飛んでくる。

俺は緑髪に変色し逆立ついつもの変身を即座に発動し、スピードを上げて避ける算段をする。


左にスライドするように移動する。そのままぐるーっと周り、影から逃げながらトレイルに近づいて行く。


あと一歩の所まで近づいたが、影に足を取られ、その場に叩きつけられる。凄まじい力だ、全く振り切る事が出来ないなんて。


「……クソッ!!」


「無駄な抵抗でしたね。大人しく、捕まっていてください」


トレイルが吐き捨てるように言う。

俺はもうダメかと、正直今まで1番絶望的な気分でそう思ったが……



「無駄ってわけでも無さそうだがな」



という言葉と同時に、トレイルに黒い禍々しい気弾が炸裂する。爆風により俺は少し吹き飛ばされ、トレイルが気弾を受けた事で影が解けて自由になる。


「……っ! その声は……」






「全く、派手にやられやがって」


「グランデ!」


グランデが、ぬっと俺の横に現れた。

助けに来てくれたようだ。


「……まさか本当に自分とこの女にやられかけるとは思わなかったぜ。こりゃ修行せざるをえんわな」


「……だろ」



「ま、後は任せておけ」


グランデはそう言うと、煙が立ち込めるトレイルがいた場所を睨む。


「……良い度胸ですね。私の邪魔をするなんて」


かなりの爆発だったが、トレイルは無傷だった。

……影でガードしていたらしい。


「チッ。くだらん能力しやがって。無駄に手こずらせられそうだな」


「……貴方こそ、無駄に実力が高そうですね」


「……ふっ。まぁな」




「見ておけ、ガンド。お前の異能が起こしたその変身がどういうものか、ちょうど良いから詳しく教えてやる」


「……??」



「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


グランデが力み始める。

直立したまま拳を突き上げた姿勢で、グランデが力むと、黄金のオーラが徐々に湧き上がる。


「ハァーーーーーーーッッ!!!」


黄金のオーラが一気に噴出する。




その変化する一瞬はやたらと長く感じられた。

グランデの体格が、よりがっしりとしたものになり、

髪は伸びて、銀色へと変色し、

顔つきが少しだけ変化したのだ。




「……"神域・微解放"」


「ガンド。今お前がやっている変身は、"神域異能"のおよそ15%の力を引き出す技法……"神域・微解放"だ。……そしてコレが!」


「俺の微解放状態の戦闘能力ッッ!!」



グランデが消える。

次の瞬間、トレイルが吹き飛んだ。

蹴飛ばされたようなモーションだった。


「!?」


見えない。

見えないが確かに、そこにいるのだろう。

……いや、いたというべきか。



トレイルは持ち直した後、影で何かを守るように必死に異能を操作している。

影が移動した場所に衝撃が打ち付けられた跡が一瞬出ているのを見ると、恐らくそれがグランデの攻撃なのであろう事を予測できる。


そう、速すぎるのだ。

次元が違う。


あまりにも次元が違いすぎる……。


「驚いたか?」


後ろから声がした。

グランデが戻ってきたのだ。


「俺の異能は、元々力を解放するような役割の異能だ。それが神域として引き出されているから、通常より少し出力が高い。……という事を踏まえて言うが……」


「……この次元に到達した要因の9割は修行だ。お前も踏ん張れば追いつける」


「……ま、今は見てろ」



グランデはまた消えた。

凄まじい連続攻撃の跡だけが見える。


確かに凄いが……それに対応するトレイルの実力も怖い。あの小さな女の子のどこにそんなポテンシャルがあるというのか。



……まぁでも、言うて三味さんとあまり体格変わんないし……考えるだけ無駄か。


「……しっかし埒が開かねえな。ここは1つ、とっておきをぶちかましてやるか!!」


空中に再び現れたグランデは、そう言い放つと、両手を真ん中に持っていき、気弾を撃つための、エネルギーを貯める典型的なポーズを取る。


すると、黒くて禍々しい気弾が生成されていく。


「……俺の力を見ろ! 慄け!! これが、焔流門下の実力だという事を、思い知れ!!!」


「"ディザスター・キャノン"!!」


放たれた気弾は、地面に勢いよく激突したかと思えば、そのまま地面を抉りながらトレイルに向かって行く。


「……っ!!」


トレイルは影でガードをしたが……


「無駄だ。その気弾は全てを喰らう……!」


なんと、グランデの攻撃を耐え切っていたあの影を、打ち消した。


「そんなっ……!」





気弾はトレイルに命中し、爆発した。

 

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