焔流、しんどい修行
「……あと200回!」
俺は、腕立て伏せをさせられている。
ここに来て、最初にさせられているのは、この腕立て伏せを含む基本的なトレーニングだ。
……というか、それしかしていない。
あと、やってる事と言えば、三味さんの生活のお手伝いくらいのものだ……。
(……俺は何をさせられているんだ?)
疑問が浮かぶが、すぐに忘れる。
言ってもしょうがない。強くなるためには、こういう基本的な鍛錬は必要不可欠だろうし。
……今は打ち込むしかない。
「腕が止まっていますよ?」
「すみません。すぐ再開します」
「よろしい」
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「奴も中々頑張っているな」
「あぁ。基礎的なトレーニングでもしっかりやり遂げている。これなら、どんな修行でも乗り切れそうだな! お前もそう思うだろ、アンブラ」
影からエオリカ、グランデ、アンブラが、ガンドの特訓を見守っていた。
「……もちろん。強くなってもらわんと、困るしな。相棒として」
「……フッ。相棒か。良い関係性だ」
エオリカが少し笑って見せる。
「フフ。……さて、そろそろ帰るかな。俺もやる事がある」
「……アンブラ、お前最近、あのヒメサマに随分とお熱だな。もしかして気があるのか?」
「……そういうわけでは……」
「……身分は違えど、向こうはお前を気に入っている様子だった。狙い目かもしれんぞ」
「おいおい、揶揄わないでくれよ、エオリカ。そんなつもりはないさ」
「……フッ。どうだか」
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「……終わったー!!」
午前の修行が終わった。
いつもならここから1時間ほど休憩して、次の授業なのだが……。
「……ガンド。今日は午後はお休みにしましょう」
「……え? 何故です??」
「たまには休息も必要です。その時間で、この道場の周辺を見て回ってきてください。あなたに会いたがっている弟子が、何人かいますので」
「……わかりました。ありがとうございます」
と、言われたので。
お言葉に甘えて、俺は周辺へ散策に出た。
道場周辺は、普通に街になっていたが、よく見てみると、武器屋などの戦闘に必要なアイテムを売る店が点在しており、ここが戦う者達のための場所でもある事を証明している。
山に作られた街だからか、中々に眺めも良い。とある公園から景色を眺めてみたが、エルファニアが一望できてとても良い。
公園でボーッとしていると、隣に誰かが来た。
その男は、懐からタバコを取り出して吸い始めた。
白髪で、色白だが、どこか力強さを感じるがっしりとした体格をしている。目はキリッとしており、睨まれれば足がすくんでしまいそうだ。
「……お前、新人か?」
話しかけてきた。
「新人か」と言ってきたということは、この男も三味さんの弟子なのだ。
「……ええ、まぁ」
「そうか。……なら基礎鍛錬からか。舐めてかかると、意外とキツくて驚くだろう」
「そうですね。中々キツイです」
「フフ。だがそれに慣れれば、色んなことが見えてくるようになる。異能を鍛えるって事の意味もよりわかりやすくなる」
「……なるほど。今は耐えて、頑張ります」
「……ほう。中々やる気があるじゃないか。そういう奴は大歓迎だ。これからも励むんだぞ」
「はい」
「俺は、東雲龍次郎という者だ。何か困った事があったら頼ってくれ。スマホは持ってるか? 連絡先を渡しておこう」
「……ありがとうございます」
「あ、あと敬語はやめろ。お前、見たとこ同い年だろ。流石に同い年の奴に敬語使われるのは何とも言えん」
「……わかった。俺はガンド・ヴェルナーだ。よろしく、東雲」
「こちらこそ、よろしくな。ガンド」
東雲さんと色々話をした後、俺は公園を後にした。
飯の時間までに戻らないと後が怖いが……
「……もう少し時間あるな」
俺は、気になっていた場所に向かった。
なんと、この周辺地域において、1つだけカードショップを見つけたのだ。
────────しかも、「工藤工房」を。
「……あるとは思ってたが、まさかこんな戦闘者向けの地域にあるとはな……」
あと、タイムリミットまで2時間ほどある。
40分くらい遊んだって問題はないだろう。
「……ここから歩いて10分くらいの所にあるはずだ」
俺は少し小走りで移動し始めた。
それくらい気になっていた。
道場にいて日々戦いに明け暮れるような人々でも、あのゲーム……「ヤミノミコン」に興味を持つという事実。
そして、工藤さんがそんな場所で店を出しているという事実。
なんだか心が躍っていた。
「……よし! 後少しだ!」
明らかにハイテンションになった俺は、思うままに走り始めていた。
─────────黒い手に足を貫かれるまでは。
「……!?」
足を抑えてその場に膝をつき、後ろを確認する。
そこには、鬼の形相でこちらを見つめるトレイルの姿があった。
「……探しましたよ、ガンド様」




