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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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38/43

絶望、しかし露知らず


……その朝は、最悪の目覚めだった。

覚めたくなかった。


現実を受け入れたく……なかった。



足取りが重い。

一段ずつ階段を降りる度に、昨日の事を思い出して、苦しくなる。


降りて……

3人で邂逅して。

改めて気がついた。





今ここに、(アイツ/あやつ/あの人)はいないんだと……。



───────────────────────



夜通し移動して、朝方にようやく辿り着いた。

朝の風が気持ちいい。

正直かなり眠いが……多分大丈夫だろう。


その社は、遠く離れた所にあった。

ヤミノミコンの大会会場からはほぼ真反対だった。


長い階段を登った先にあるその小さな社の上に、彼女は佇んでいた。


……そう、屋根の上に。


「待っていました」


そう言って、彼女はにっこりと微笑んだ。

俺より30cmは低い身長で、かなり細っこい体躯だった。薄い銀髪の、ショートヘア。女の子らしい白いスカートと、洋服。人形のような彼女が、言葉を口にした瞬間、俺と共にやってきたエオリカとグランデは、跪いた。


「お久しぶりです、師範」


エオリカがそう言った。



……師範!!?


「……連れてきたぜ。件の風祝さんをよ」


……風祝?



「そのようですね。ありがとう、2人とも」


くるくる回りながら、屋根から華麗に飛び降りて着地し、彼女は歩いてくる。


「ガンド、跪くのだ。この方こそ、我らが師範なるぞ」


「……わかった」


「その必要はありませんよ。というか、前からそういう堅苦しいのはやめて欲しいと言っているではありませんか」


「……だとよ、エオリカ。俺はこういうの苦手だからやめるぞ」


「貴様! ……むぅ。わかりました、師範」


2人が立ち上がった。


「……さて、ガンドさん。改めまして、「異能指南道場」の総合師範をやっています。石崎三味(しゃみ)と言います。よろしくお願いします」


「……「異能指南道場」? まさか……」


「……ご明察」


彼女は得意げに笑い、ふふん、と小さく言ってから、指を立てるポーズをした。


「貴方のご友人が所属する「焔流異能指南道場」は、私の弟子が創設した物なのです」


「……マジですか」


「ええ。ちなみに、割と最近に出来た物ですよ」


そうだったのか……。

つまりこの人は……かなりの実力者って事になるな。

いやまぁ横の2人を見れば、一目瞭然なんだが。



「では……私が貴方をここへ連れてきてもらった理由を説明しなければなりませんね」


「え? ……目的は修行、ですよね」


「それはそうですが、私が気にかける理由はまだ知らないですよね?」


「……確かに」


「というわけで、お話しします」




「正直、この国に貴方が来るまでは、私は貴方について何も知りませんでした」


「ただ……この国に来て、エイドを倒した時の貴方の姿を見て、貴方が……とある、伝説の存在に近しい性質を持っている事を確信したのです」


「……伝説って?」



「"風祝"」


エオリカが一言それだけを言った。


「……そう。風祝。嵐を静める役割を持つ者。強大な風の力を持ち、緑に輝く風の装甲を身に纏う者」


「……確かに、あの時俺は緑色に髪が変色したりしたが……装甲って……」


「……そう。貴方のあの力は、装甲を身に纏ったというよりも、単なる変身。伝説とはかけ離れているのですが……」


「……重要なのは貴方の異能が"緑"の性質を持つ事なのです」



「……ふむ」


「"風祝"は緑の性質を持つ者。異能において緑とは風を意味します。……そして、風の異能を持つ者は殆どいない。まぁ、今ここに2人いるわけですが……」


「そして……その中でも"神域"に至る者は稀」


「……ん? "神域"とは、一体?」


「……ああ、そうですね。お話しします」



「"神域"とは、異能を極めた者が至る、至高の領域。異能の力を装甲のように身に纏い、神のような身体能力と耐久力を得ることが出来ます」


「しかし技術的には相当高尚な物……。私の道場でも、至れたのは一握りの人間のみ。さらに風となると、かなり厳しい物があるようで。エオリカなどは実は未だ"神域"では無いのです」


……そうなのか。

その"神域"とやらに至れずとも……あの異能のパワーなら必要なさそうだけどな。



「……しかし、エオリカが至れていないのなら、俺に出来るような物では無いような気もしますが」


「……出来ると思いますよ」


「えっ、いやでも……」


「……そうですね……。……貴方がよく使う、"変身"。見せてください」


言われるがままに、"アレ"を発動する。

髪が緑色に変色し逆立つ。


するとそれを見た三味さんは、微笑んだ。


「……やはり」


そう言うと、三味さんは近づいてきて、背伸びして俺の髪を触ろうとしてきた。……流石に届かないだろうな、と思ったので、俺は少ししゃがんで見せた。


「……むぅ」


三味さんは、何故かちょっとむすっとした表情をした後、俺の髪を触り、何かを確信したように頷いて、後ろに下がった。


「……やはり、そうですね。それは"神域"の力です。……まだ未完成ですが」


「……マジですか??」


「はい。マジです」




……なんかとんでもないことを聞いたような気がする。


「……つまり俺は、すでに神域を獲得していると……?」


「未完成、と言ったでしょう? まだ、10%も引き出せていませんよ」


「ですが……天才というべきですかね。何百年と修行しても辿り着けない事もある領域に、少し手が届いているなんて」


「……鍛えがいがありそうですね。……ガンドさん」


「は、はい」


「これから、よろしくお願いしますね」



───────────────────────


「……異能指南道場本山に行ったというのは本当なのですか?」


「ああ……。どうやら、妾たちの元を離れ、修行をするつもりらしい」


「……なんでよ……私達の何が不満なの!!?」


「……守ろうと、しすぎたのかもな」


「……」




「フェターリアさん、瞳さん。……私は少し出かけます」


「……1人で行く気か?」


「……いえ。そちらではありません……。少し、やるべき事を思い出しまして」


「……奇遇だな。妾もじゃ」


「……私も」




「……暫くは……別行動……ですね。」


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