分たれる道
「……危険だと叫ぶ者の声を振り切って戦いを挑むか。普通は逆なのだがな」
悪かったな、弱くて。
「……男だとか女だとか、戦場には関係ないでしょ」
「クク。それもそうか」
「ならば容赦の必要は無いな」
エオリカはそう言い放つ。覇気を放つほど重く、強い声。今にも吹き飛ばされそうになるくらいだ……。
エオリカは滑らかに手を動かし、交差させる。そして両掌に風を生み出し、投げる。それは小さな竜巻となり、巻きながら瞳に向かっていく。
「……こんな物!!」
瞳が蹴りで吹き飛ばそうとしたのを見て、
「ダメだ!!」
と俺は反射的に叫んだ。
竜巻は瞳の足を絡め取ろうとしていたのだ。
俺が叫んだのが少し早く、瞳は蹴りをやめて後ろへ下がった。
竜巻は虚空を掴んだのち消えた。
「……ぬぅ。中々に鋭いやつよ」
エオリカは前方の瞳より、俺を気にしているようだ。
「ふっ。俺は実力は無いが、そこらの奴よりは頭が回るんでな」
「……だろうな」
「どこ見てんのよ!!」
「貴様の相手は!!」
「妾たちじゃあ!!」
フェターリアと瞳が、飛び出してきた。その後ろからは、エオリカを掴まんとするトレイルの黒い影の手が伸びている。
「私が捕まえます! お2人は奴に攻撃を!」
「任せて!!」
「全身全霊で、叩く!!」
「甘いな。貴様らが一般の戦闘員であれば……この時点で既に終わっている」
エオリカは奇妙な腕の振り方をする。
「あっ! アレは……ッ!!」
「皆!! 危ない─────ッ!!!」
既に遅い。
エオリカの手から放たれた、高精度の竜巻は、瞳、フェターリア、トレイルを的確に狙撃し、会場の壁へ吹き飛ばした。
「皆!!!」
「……貴様の女は随分と単細胞らしいな、ガンドよ」
「なんだと!?」
「今、飛び出す前に俺を覆うように影を出していれば、俺は攻撃を喰らっていた。奴らがあのような面倒な手段で攻撃せず、本気で実力を行使していれば攻撃を受けずに済んだやもしれん」
「……妙だとは思わんか」
「……ああ。そうだな」
エオリカは俺の所まで降りてきた。
「アイツら、また来るぞ」
「わかっている。が暫くは来れんだろう。なぜならばあの竜巻は、奴らがもがいても数分は巻き続ける竜巻だ」
「……なるほどな」
「……先程は、無礼な真似をしてすまなかったな。同じ師に学ぶ者として謝罪させてもらう」
「……んん?」
え、今同じ師にって言ったか? この人。
「……マジすか?」
「ああ。グランデに聞かなかったか? 貴様と同じ風使いが、あの師匠の元にいる事を」
「……いや、まだ会ってすらないな」
「そうか。そういえば最初の接触から2日程度しか経っておらんかったな」
「ええ」
「……ならば……都合が良い」
「はい??」
「このまま、連れてこうってのか? じいさんよ」
後ろからグランデの声がした。
振り返ると、グランデは腕を組んで直立していた。
「その通りだ。奴らに知られるわけにはいかん。なら手っ取り早く、連れ去ってしまった方がいい」
「えー……まだイベント終わってないんだが」
「気にするな! 今回の事は、あちらさんから頼まれた事だ。工藤からな」
「……えっ?」
「工藤陽平は、我らにガンド・ヴェルナーの修行相手を探し、密かに修行をつけるように依頼してきたのだ。……何やら不穏な動きがあるというので、こちらとしても異能使いを増やしておきたい」
「ま、win-winだったわけだ」
「……不穏な動きとは?」
「俺が元々所属していたギルド"破砕"についての動きだ。エイドが貴様に殺された後、新たに刺客を送り込んできたらしい」
「元々? 今は違うのか」
「……俺は元より、2人の仲間と共に、旧破砕のリーダーに呼応して加入した。しかし今のスカムバグにはまるで賛同できず、仲間と、何も知らぬスカムバグの息子を連れて帝国を脱出したのだ」
「……息子がいるのか!?」
「ああ。その息子は、スカムバグとは似ても似つかぬ聖人のような男でな……。現在、師の元で修行している」
「……そろそろ降りてくるぞ」
グランデが言った。
「だろうな。それで、覚悟は出来たか?」
「ああ」
俺は意外にもあっさりそう言った。
自分でも、かなり意外だった。
俺に取って彼女達から離れるというのはそれなりに寂しい事ではあったからだ。
「……どうやら、心配する必要はないらしいな」
「ああ……。その目。その凛々しい立ち姿よ。貴様は既に、次の段階へ進む準備をしているのだな」
……無意識に立ち上がっていたらしい。
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ようやく、竜巻が消える。
とんでもなくウザい竜巻だった。無理矢理消そうにも、掴めない。
時間を使われた。
ガンドは……もう殺されているかもしれない。
嫌だ。それだけは嫌だ。
「助けなきゃ」
フェターリアとトレイルが起き上がったのが見えた。
後から工藤さんや、ギルドの他の人たちが来たのも、わかった。
……アンブラは来ていないみたい。だろうね。今、席を外すわけにはいかないはずだし。
大丈夫。友達は私達が守るから。
「行くよ、2人とも!」
「おお!」
「はい!」
3人で飛び出した。
……でも。
もう、彼はそこにはいなかったんだ。




