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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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36/43

ヤミノミコン・パレード



グランデとの邂逅を経て、ヤミノミコンギルド交流戦当日。


のべ200人前後のプレイヤーが、会場に集まった。

エルファニアのギルドだけでこの数である。

……実際に世界各地からプレイヤーが集まる大会では、2万〜3万人集まる事もあるらしい。おっそろしいゲームだ。



「……これだけでも人波に飲まれそうなくらいだな」


「ああ。この人数のプレイヤーの頂点……。正直異能者と戦うよりもしんどいんじゃないか?」


「頭使うしな。ラムネ持ってきたか?」


「ああ。無いと困るからな。あと、水分も取らないと眠気に殺されるから気をつけないとな」


「そうだな」



俺達が前の世界でカードゲームをやっていた時の教訓。

糖分の接種は必須。水分もこまめにとる。

何時間もやる大型大会では、おそらく皆やっているだろうことだとは思うが。



「……よっしゃ、やるぞ!!」


「よぉし」


俺たちは、事前の準備も終え、意気揚々と席へ着いたのだった。



───────────────────────




負けた!!

しかも、工藤工房社員に負けた!!

すっっっっっごい強かった!


流石に、カードショップの人間。全く侮れない。

ここまで強い人がいるとは……。


具体的に言えば、戦術の先を全て読まれて負けた。

ポーカーフェイスかただの予想か。


いや違う。多分、アレはデッキを全て知り尽くした上での対策を、そのまま押し倒してきただけだ。



経験の差、という奴かな……。


「……こりゃあ、参ったね」


1回戦敗北というのは、格好がつかない。

まぁ、今回は相手が悪かったし、仕方ないと言えば仕方ないのだが……少し反省しなければ。


「カードゲームも実戦も同じ。経験と鍛錬無くして勝利はありえない、ってとこだな」


俺はそんなふうに、大会会場の階段辺りで、1人で反省会をしていたのだった。



……すると。



「……もし、そこの御仁」


階段の上から声がした。


「……なんでしょうか?」


「ギルド交流戦とやらの会場は、ここで合っているかね?」


「……そうだが? あんたは誰だ」


「……ここでの戦いに興味を持った。ギルド交流戦と言うからには、強い戦士が集まっているのだろう」



コイツ、何者だ。

シルエットだけで姿はわからないが、ひしひしと感じる圧と殺意。かなりの強者だ。恐らく、俺なんかは足元にも及ばないくらいの。



「……残念ながら、コレは戦いと言ってもカードゲームの戦いじゃあないんだ」


「……なんだと?」


「カードゲームだよ。知らないのか? まぁ良い。戦いがしたいなら、他を当たってくれ」





「……そういうわけにもいかんのだ」


そのセリフと共に、一瞬聞こえる風の音。

何かヤバいと思い、咄嗟に、本能的にしゃがむ。

─────その瞬間。俺の右肩から血が吹き出した。


「っ!?」


「ほう……俺の風を避けるか。見た所それほど強くは無さそうな奴だが、面白い」


風……。

今のは、風の異能による物なのか?

俺のとは全く違う、正確で速すぎる風……。


こんな人間がいるなんて……。



「……貴様は今こう思っているな? こんな人間がいたのか、と」


「……!! だったら、何だ」


「……いや。別にその考え自体はそれほど重要では無い。だが、この程度で驚かれては困る、というだけのこと」


「……なんだと……!!」



男の飛び上がる音が聞こえてくる。

階段の上から、実際に飛び降りてきているのだろう。俺を殺す為に!!


「さぁ、かかってくるが良い。この俺が貴様を試してやろう」


「……ほざいてろよ!! "風弓"!」


俺は風の異能エネルギーを具現化させ、弓を作る。最初の頃にやったアレである。そして、奴が降りてくるその短い時間を最大限に利用し、奴を視認する。相変わらずシルエットしか見えないが、どこにいるかは予測できた。


「"風衝矢"!!」


俺は弓を引き、奴を狙って矢を撃った。矢は鋭く正確に飛んでいき、奴の腹に突き刺さった。


「よし!」


俺はガッツポーズをしたが……





「甘いわ。こんな物で俺は止められん!!」



瞬間、隣から聞こえる異様な風の音。

まるでギュルギュルと渦を巻くかのようなその風の音の主は、先程飛び降りてきていた、矢が命中したはずの、奴なのだろう。


この距離、この音。当たれば特大なダメージは免れない。しかし遅い。対応できない。受けるしか無い!!


「……その身に受けよ。"大竜巻"」



───────────────────────



「負けちゃったね、ガンド」


ガンドらの応援に来ていた、瞳とフェターリアは、ガンドが負けたのを大会アナウンスで知った。


「まさか一回戦負けとはの……」


「まぁ、勝負は時の運って言うし、仕方ないんじゃ無いのー? どうせ次もあるでしょ」


「そうじゃな。カードなどようわからんが、次も応援に来てやろう」


「そだね」



少し前までの様子からは想像もできないほど、仲良くなっている2人。平和に談笑する2人の声を、大きな風の音が突然遮った。


ゴオオッ、という凄まじい風の音がした後、どこかの壁が崩れる音がする。


「なんじゃ?」


「事故か、あるいは敵襲ね。まぁ、ギルド構成員がこれだけいるんだし、私たちが行く必要はなさそうだけど」





「……必要、ありそうですよ」


2人の後ろから、ペットボトルを2つ持ったトレイルが声を掛けた。


「……なぜ?」


「……あの方角は、先程ガンド様が向かわれた方角です。反省をすると言っていました」


「……という事は、まさか……!」



───────────────────────




吹っ飛ばされた。

とてつもない強さの風だった。

咄嗟に異能で風をぶつけて、多少は抑えたが……それでも恐ろしい強さだった。


腹から血が吹き出す。

あちらこちらに怪我を負っている。これは随分とまずい状況だな……。



というか、俺はそもそも今落下しているわけで。




「ちくしょーーー!! こんなに強いとは思ってなかった! 壁をあんな簡単に突き破って! 簡単に吹き飛ばされるなんて! 思わなかったぁーー!!」


ギルド交流戦の会場は、地上45階の場所であった。迂闊に入ってこれないようにするためらしい。


だから俺は、吹っ飛ばされ、地面に向かって落下しているわけである。


「……だが、威力の割にダメージが軽い方だ。これなら助かる!」


俺は異能による風でクッションをいくつか作り、それを使って落下の衝撃を殺していき……隣のビルに着地した。



「……ふぅ。危なかった……」




「今のを受け切るとは面白い!!」


上から声が聞こえてくる。


「貴様はこの俺の名前を知る資格がある!」


「我が名はエオリカ!! 覚えておくと良い!」




「……くそっ、舐められたもんだな」


まぁ実際、舐められるほどの実力差はあるだろうが。

……しかし目的がわからない。何故、降りてこずあそこで喋っている?


「……一体なんの目的で……?」



と、俺が悠長に考えていると。


「ヌヲッ!!?」




エオリカと名乗った、その褐色肌の男が、何者かに後ろから蹴り飛ばされた。


「なんだとっ……」


蹴り飛ばされたエオリカは、なんと異能による風のエネルギーで、空中に静止した。




蹴り飛ばした者の姿が見える。

──────────────瞳だ!!



「瞳!?」


「……そこまでよ、"破砕"の幹部、エオリカ!!」


「……ほう。既に俺の事を知っていて戦いを挑んでくるか……!!」



「瞳!! 危険だ!!! やめろ!!」


「ガンドは──────黙ってて!!」





「─────すぐに終わらせるから」

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