ヤミノミコン・パレード
グランデとの邂逅を経て、ヤミノミコンギルド交流戦当日。
のべ200人前後のプレイヤーが、会場に集まった。
エルファニアのギルドだけでこの数である。
……実際に世界各地からプレイヤーが集まる大会では、2万〜3万人集まる事もあるらしい。おっそろしいゲームだ。
「……これだけでも人波に飲まれそうなくらいだな」
「ああ。この人数のプレイヤーの頂点……。正直異能者と戦うよりもしんどいんじゃないか?」
「頭使うしな。ラムネ持ってきたか?」
「ああ。無いと困るからな。あと、水分も取らないと眠気に殺されるから気をつけないとな」
「そうだな」
俺達が前の世界でカードゲームをやっていた時の教訓。
糖分の接種は必須。水分もこまめにとる。
何時間もやる大型大会では、おそらく皆やっているだろうことだとは思うが。
「……よっしゃ、やるぞ!!」
「よぉし」
俺たちは、事前の準備も終え、意気揚々と席へ着いたのだった。
───────────────────────
負けた!!
しかも、工藤工房社員に負けた!!
すっっっっっごい強かった!
流石に、カードショップの人間。全く侮れない。
ここまで強い人がいるとは……。
具体的に言えば、戦術の先を全て読まれて負けた。
ポーカーフェイスかただの予想か。
いや違う。多分、アレはデッキを全て知り尽くした上での対策を、そのまま押し倒してきただけだ。
経験の差、という奴かな……。
「……こりゃあ、参ったね」
1回戦敗北というのは、格好がつかない。
まぁ、今回は相手が悪かったし、仕方ないと言えば仕方ないのだが……少し反省しなければ。
「カードゲームも実戦も同じ。経験と鍛錬無くして勝利はありえない、ってとこだな」
俺はそんなふうに、大会会場の階段辺りで、1人で反省会をしていたのだった。
……すると。
「……もし、そこの御仁」
階段の上から声がした。
「……なんでしょうか?」
「ギルド交流戦とやらの会場は、ここで合っているかね?」
「……そうだが? あんたは誰だ」
「……ここでの戦いに興味を持った。ギルド交流戦と言うからには、強い戦士が集まっているのだろう」
コイツ、何者だ。
シルエットだけで姿はわからないが、ひしひしと感じる圧と殺意。かなりの強者だ。恐らく、俺なんかは足元にも及ばないくらいの。
「……残念ながら、コレは戦いと言ってもカードゲームの戦いじゃあないんだ」
「……なんだと?」
「カードゲームだよ。知らないのか? まぁ良い。戦いがしたいなら、他を当たってくれ」
「……そういうわけにもいかんのだ」
そのセリフと共に、一瞬聞こえる風の音。
何かヤバいと思い、咄嗟に、本能的にしゃがむ。
─────その瞬間。俺の右肩から血が吹き出した。
「っ!?」
「ほう……俺の風を避けるか。見た所それほど強くは無さそうな奴だが、面白い」
風……。
今のは、風の異能による物なのか?
俺のとは全く違う、正確で速すぎる風……。
こんな人間がいるなんて……。
「……貴様は今こう思っているな? こんな人間がいたのか、と」
「……!! だったら、何だ」
「……いや。別にその考え自体はそれほど重要では無い。だが、この程度で驚かれては困る、というだけのこと」
「……なんだと……!!」
男の飛び上がる音が聞こえてくる。
階段の上から、実際に飛び降りてきているのだろう。俺を殺す為に!!
「さぁ、かかってくるが良い。この俺が貴様を試してやろう」
「……ほざいてろよ!! "風弓"!」
俺は風の異能エネルギーを具現化させ、弓を作る。最初の頃にやったアレである。そして、奴が降りてくるその短い時間を最大限に利用し、奴を視認する。相変わらずシルエットしか見えないが、どこにいるかは予測できた。
「"風衝矢"!!」
俺は弓を引き、奴を狙って矢を撃った。矢は鋭く正確に飛んでいき、奴の腹に突き刺さった。
「よし!」
俺はガッツポーズをしたが……
「甘いわ。こんな物で俺は止められん!!」
瞬間、隣から聞こえる異様な風の音。
まるでギュルギュルと渦を巻くかのようなその風の音の主は、先程飛び降りてきていた、矢が命中したはずの、奴なのだろう。
この距離、この音。当たれば特大なダメージは免れない。しかし遅い。対応できない。受けるしか無い!!
「……その身に受けよ。"大竜巻"」
───────────────────────
「負けちゃったね、ガンド」
ガンドらの応援に来ていた、瞳とフェターリアは、ガンドが負けたのを大会アナウンスで知った。
「まさか一回戦負けとはの……」
「まぁ、勝負は時の運って言うし、仕方ないんじゃ無いのー? どうせ次もあるでしょ」
「そうじゃな。カードなどようわからんが、次も応援に来てやろう」
「そだね」
少し前までの様子からは想像もできないほど、仲良くなっている2人。平和に談笑する2人の声を、大きな風の音が突然遮った。
ゴオオッ、という凄まじい風の音がした後、どこかの壁が崩れる音がする。
「なんじゃ?」
「事故か、あるいは敵襲ね。まぁ、ギルド構成員がこれだけいるんだし、私たちが行く必要はなさそうだけど」
「……必要、ありそうですよ」
2人の後ろから、ペットボトルを2つ持ったトレイルが声を掛けた。
「……なぜ?」
「……あの方角は、先程ガンド様が向かわれた方角です。反省をすると言っていました」
「……という事は、まさか……!」
───────────────────────
吹っ飛ばされた。
とてつもない強さの風だった。
咄嗟に異能で風をぶつけて、多少は抑えたが……それでも恐ろしい強さだった。
腹から血が吹き出す。
あちらこちらに怪我を負っている。これは随分とまずい状況だな……。
というか、俺はそもそも今落下しているわけで。
「ちくしょーーー!! こんなに強いとは思ってなかった! 壁をあんな簡単に突き破って! 簡単に吹き飛ばされるなんて! 思わなかったぁーー!!」
ギルド交流戦の会場は、地上45階の場所であった。迂闊に入ってこれないようにするためらしい。
だから俺は、吹っ飛ばされ、地面に向かって落下しているわけである。
「……だが、威力の割にダメージが軽い方だ。これなら助かる!」
俺は異能による風でクッションをいくつか作り、それを使って落下の衝撃を殺していき……隣のビルに着地した。
「……ふぅ。危なかった……」
「今のを受け切るとは面白い!!」
上から声が聞こえてくる。
「貴様はこの俺の名前を知る資格がある!」
「我が名はエオリカ!! 覚えておくと良い!」
「……くそっ、舐められたもんだな」
まぁ実際、舐められるほどの実力差はあるだろうが。
……しかし目的がわからない。何故、降りてこずあそこで喋っている?
「……一体なんの目的で……?」
と、俺が悠長に考えていると。
「ヌヲッ!!?」
エオリカと名乗った、その褐色肌の男が、何者かに後ろから蹴り飛ばされた。
「なんだとっ……」
蹴り飛ばされたエオリカは、なんと異能による風のエネルギーで、空中に静止した。
蹴り飛ばした者の姿が見える。
──────────────瞳だ!!
「瞳!?」
「……そこまでよ、"破砕"の幹部、エオリカ!!」
「……ほう。既に俺の事を知っていて戦いを挑んでくるか……!!」
「瞳!! 危険だ!!! やめろ!!」
「ガンドは──────黙ってて!!」
「─────すぐに終わらせるから」




