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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
虎擲竜挐のベルセルク

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35/43

男に生まれた以上この人だって決めた人間は誰であろうと一生忘れられないから早めに捕まえるのが大吉


時は少し遡り───────


──────「ヤミノミコンギルド交流戦」前々日の事。


───────────────────────




「おーい、ガンド! こっちだ!」


俺ことガンドは、アンブラと共に、「ヤミノミコンギルド交流戦」の選抜会へ参加するために、「工藤工房」へ向かっていた。


「工藤工房」というのは、随分前に(と言っても1週間程度しか経っていないが)、「工藤陽平」という人に出会った、その人が社長のカードショップである。


ギルドが沢山集まって交流戦をやる「ヤミノミコンギルド交流戦」は、数多のギルドがプレイヤーを送り込もうとするため、まず予選会からスタートするのだ。


俺は「五十の辻」のメンバーとして、アンブラは「焔流異能指南道場」のメンバーとして、参加する事になっていた。




「……着いたか。なんだか久しぶりだな。……色々あったからなぁ」



そう。色々あり過ぎた。

エイドの件、ギルド併合……メンバー加入。

そのせいで、長い時間が過ぎたように感じてしまう。現実的にはあっという間だったのだがな……。


「……さて、行くか、アンブラ」


「ああ。遅れをとるなよ」


「わかってるよ」


───────────────────────



数時間後。

予選会が終了した。


8回戦まであるリーグ方式で行われた予選会。俺は6勝2敗。カゲトは7勝1敗で終えた。


2敗しちゃったよ。


「しかも普通にプレミ負けだったよ……」


「ドンマイ。まぁ、オーバーブレスegの切り時は読みにくいし仕方ないさ」


「いやでもなぁ……1戦目は完全に目覚めの煌めき見えてたんだよなぁ。アレ撃たれた後で良かったんに」


そんな、専門的用語が飛び交う意味わからん会話をアンブラとしていると、工藤さんが裏から出て来て俺たちの所に来た。普通に来たよこの人。


「お疲れさん。あと、予選突破おめでとさん」


「ありがとうございます。まぁ2回もプレミ負けしましたけど」


「ああ。オーバーブレスeg切り時ミスってたらしいな。店員の子から聞いたよ。まぁ俺もよくやるししゃーない」


よくやるのか。

工藤さんがそう言うなら、まぁ良いのか。


「じゃあ、あんまり気にしないでおきます」


「おう。ま、次は本戦だ。頑張れ」


「うっす」


「本戦はヨルムンガンド対策くるだろうし、メタ除去積んだ方が良いぞ」


「持ってねえんだよなぁ」


と言った所で、工藤さんがニヤッと笑い、ショーケースの一角を指差した。


「そんな君に朗報だ。あそこに、ヨルムンガンドに無理なく組み込めて完璧にメタカードを除去出来る1枚があるぞ!! その名も「アリストテレス・ブレイン」!!」


「うおぉ!! よっしゃ買います! いくら!!?」


「1枚……5000円だ!!!」


「たっけえ!!!!!」


「うん!!! 俺もそう思う!!!!!」


───────────────────────


まぁ背に腹は変えられんという事で。

俺は泣く泣く二万円を使い、そのカードを買った。

そしてアンブラと今日の反省会をしつつ、店からの帰路を歩いていると……


瞬間、後ろから感じるドス黒い"オーラ"。

慌てて振り向いた俺は、そこに1人の男を確認した。


俺たちの後ろに、何故か仁王立ちで立っている。

黒くて長い尖った髪は、先端のみ白く染まっている。


不敵に笑うその男は、俺が振り向いたと見てすぐ口を開いた。


「流石に1ギルドのリーダーだっただけはあるな。俺に気づいたか」


「……何者だ」





「俺の名を聞いたか? 俺の名は、ウォーリー・グランデ。……さすらいの旅人、とでも言っておこうか」


「……へぇ。旅人ねぇ。旅人さんが俺に何の用だ」


「風の噂で、お前の話を聞いてな。興味が湧いたのだ」


「ふ〜ん。そりゃありがたいね」


「"神剣城"って名前のギルドのリーダーで、帝国から来たは良いものの、帝国最高ギルドの幹部を倒してしまい、帰れなくなり、"五十の辻"との合併をして王国に留まる選択をした男……」


「それがお前だ。間違いないか? 間違いないよな?」


「ああ。間違いないが?」


「……よし! なら質問だ」


そう言ってすぐ、グランデは俺の目の前に瞬間移動して来た。


「っ!!?」


「……お前、何か悩んでいることはないか?」


「なにを……っ!?」


今度は俺のすぐ左へ移動した。


「お前は、今俺の動きがまるで見えていない。瞬間移動にでも見えているんじゃないか?」


次はすぐ右に。


「だが、お前の"部下"なら……見えるかもな。それもはっきりと。お前もそう思うだろう?」


「……っ。それは……!!」


今度は、すぐ後ろ。背中合わせに立っている。


「俺の推測だが。あの4人。お前の部下達は全員、お前より強いんじゃあないか?」


「……」


「フェルバー・グランデベントの直属にして、最も評価されたメイド。アン・マーティン、だったか」


「……それは聞いたことがある」


「嘘をつけ。今初めて知った、という顔だぞ」


……実を言うと初めて聞いた。なんじゃそりゃ。そんなすごい人を送って来たのか、フェルバーさんは。


「それから、トレイル。フェルバーの姉であり、王族としての身分を捨てた女。奴も昔は、"破砕"でその名を轟かせていたらしい」


「……!?」



"破砕"にいたのか……??

トレイルが……あんな優しい子が!?


「……それから────」


「待て」


「ん?」


一度、深呼吸する。

少し、普通よりも長く、深く。……考え込むような意識で。



「……何が言いたい?」


「フッ。簡単な話だ。お前も力を欲しているのではないか? 今の現状を打破するために」


「……それは……」


「お前は今、守るべき立ち位置にいるはずなのに、暗に守られているこの状況が気に食わないはずだ。お前がピンチになれば必ず奴らの誰かが来て、簡単に解決するだろう事を危惧している」


「……ハッハッハ!! 貴様は馬鹿か。ガンドが彼奴等より弱いと? それは無いな。彼奴等が動けぬ状況で覚醒し、"破砕"の幹部を追い詰めたのはガンドなのだからな」


「……ほう」


「ガンド。そいつの戯言に耳を貸す必要は───」


「違うんだ、アンブラ!!!」


「……ぬ?」



……すまないアンブラ。あの屋敷にいないお前や皆からすればそう見えるのは当然だ。でも違う、違うんだ。現実は残酷なんだよ。



俺がマジで馬鹿だったら、あの日常にいても理解出来なかったと思う。たった数日でも理解出来るくらいに俺が頭の出来が良かったらしいから気づいただけ。それだけだ。



「……アイツらは、俺より……強いんだよ」


「……は!?」


「そうだ。隠さなければならない事情があって隠しているだけで、本来お前よりも圧倒的に強い」


「……ああ」


「だが、よく気付いたな。まぁ俺も一目見て、お前が全てを悟っている事を理解したわけだが」


「……どうやって?」


「仕草だよ。節々でお前は警戒してるんだ。いつどこに奴らがいるかわからない。そんな警戒を。お前の強さならある程度いらないだろう警戒だ。今でも俺がすぐ後ろにいるのに、振り返りもせず辺りに目をやっているだろう」


「……確かにな」


「ククク……わかりやすかったぜ」



「……で、どうする? 力を求めるか、今の現状に甘んじるか。まぁ、お前が女々しいカスなのなら、現状に甘んじるんだろうが」


「……そんなわけがないと、お前はどうせわかってるんだろう」


「当たり前だ」


「俺には、"獰猛さ"を感じ取る特性がある。お前は獰猛で気高い人間だ。……それだけはよくわかる!!」


「勇気を、覚悟を示せ。そして俺と共に……頂へ向かう意思を持て」





「ああ。やってやるよ。……これからは、俺のターンってやつだ」



第3章


虎擲竜挐のベルセルク





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