これからの事
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暗い海の中にいる。
ああ、また、まただ。あの時と同じ光が見える。
『……会ったんだね』
「……?」
あの時と同じだ。声が聞こえる。
トライスに腹を貫かれ、意識を失った時に見た、あの夢……だ。
『……君は、彼女に出会えたんだね』
「誰の事だ?」
『……瞳』
「!?」
何故知っている!?
……いや……これが夢なら、当然知っているだろう。
「瞳に会ったことで、何かあるのか?」
『……それは君達次第だよ。とにかく、会うことが重要だった。後は君達の物語だ』
『私は、ずっと見守っているよ……』
『──────。』
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「……ハッ」
視界が開けたように、眩しい光と共に白い天井が見えてくる。……目覚めたらしい。
どうやらここは病室のようだ。何故か? 普通こういうふうに見知らぬ白い天井が出てきたら、そこは病室だと相場が決まっているからだ。
「……ああそうか。あの時俺は意識を失ったんだったな……」
「……ん、起きたか」
声に反応して、ゆっくり起きる。俺が寝ているベッドの横に置かれた椅子に、アンブラが座っている。すぐ横に小さな台があり、その上にリンゴが置かれている。どうやらアンブラは、リンゴを剥いて皿に置いてくれているらしい。
「なんだ……随分と優しいな」
「食わせてやって欲しいと頼まれたもんでな。あそこで寝てる奴に」
「……ん?」
アンブラが指差した方向を見ても、扉と壁しか見えない。しかしアンブラは更に、指を下に曲げて見せた。
……下に何かいるのか? と、そう思って覗き込んでみる。
いた。
寝袋に入ったたらこみたいになってるのが……3人!?
この狭い病室で!? 3人!!?
「寝苦しくねえのかこいつら」
「知らん」
「いや明らかに寝苦しそうにしてるぞ。特に右の奴、横壁だからか物すっごく苦しそうだぞ。もうちょいなんとかならなかったのかよ」
「起こすか?」
「……いや、放っておこう」
「んがっ!!」
寝袋3姉妹の真ん中、薄い赤色の寝袋が飛び起きた。
「─────────瞳、お前ずっとそこにいたのか」
寝袋に入っていたのは、瞳。両隣はトレイルとフェターリアである。
……さっきから思ってたけど、どこか既視感があるなこの光景……。
「んん……? あ! 起きてる!?」
「あ、うん。ついさっき起きた」
瞳の声に反応したらしく、トレイルとフェターリアも起きあがってきた。
左がトレイルで右がフェターリアである。
お前ら取り敢えず寝袋から出たらどうなんだ?
「……ガンド様……?」
「……起きたのか、ガンド!!」
そう言いながら、フェターリアが寝袋を引きちぎった。
おい、寝袋って結構いい値段するんだぞ……。
「あっ、フェターリアさん、ずるいですよそれは」
横で頑張って寝袋を脱ごうとしているトレイルと瞳そっちのけで、回り込むようにこっちに駆け寄ってきて抱き着いてきた。勢いがすごかったので「ウッ!!」と声を出してしまった。
どうやら体はまだ完治していないようで、抱き着かれた瞬間に痛みがあった。
「……良かった」
「……心配かけたな」
「ちょっ、もうちょっと詰めてください」
トレイルはフェターリアを押しのけて、俺の手を握ってくる。
「ガンド様……お目覚めになられて、本当に、本当に良かったです」
少し目に涙を浮かべているように見える。
……そんなに心配していたのか。
「……ああ。ありがとう」
「ガンド」
瞳も近づいてきた。
「お前にも心配かけたな」
「……別に」
「心配してなかったら、寝袋入ってまでここにいないだろ」
「……私を守って倒れたんだから、私にはここにいる義務があるのよ」
「……まぁ、それでいいや」
「……ガンド」
アンブラが声をかけてくる。
「どした」
「いや……良い思いしてる所悪いんだが、お客さんだ」
「……良い思いって、お前な……」
そう言いながら病室の扉の方に目をやる。
すると、ゆっくりと扉を開け、ゆっくり入ってくる郡さんがいた。
「あ、郡さん」
「……お、起きていたか。邪魔したか?」
「いや、良いですよ。……助けていただき、ありがとうございました」
「ん。まぁ、うちのを助けてもらったし、当然っちゃ当然だ。それより、お前さんに二、三聞きたいことがあるんだが」
「……なんですか?」
「お前さん、帝国の王族と繋がりがあるんだってな」
そう言った瞬間、俺の手を取ってなんかうっとりした表情をしていたトレイルが、バッと振り向いて郡さんを睨みつけた。
「……フェルと、あの汚物を同一視しないでいただけますか」
汚物というのは、"破砕"リーダーのスカムバグ・グランデベントの事だろう。どうやら身内であるトレイル達にもよく思われていないらしい。(※
「あー、大丈夫。そんな事は思ってない。フェルバーさんとは面識もあるしわかってる。俺が言いたいのはそういう事じゃない」
「……ガンド、お前このまま帝国には帰れないと思うぞ」
その言葉を聞くと、トレイルから少し淀んだオーラみたいなのが出始める。
「……随分と冗談がお好きなようで? フェルが、我々を奴に売るとでも?」
「いや、違う。……多分だがお前らが破砕の幹部と接触した事は、向こうにも伝わってる」
「それはそうでしょうね」
「多分、奴らはでっち上げをすると思う。そうなった時、お前らもフェルバーさんもかなり危うい立場になる。……下手をすれば全員……」
「「っ!」」
「……なんて事になりかねないから、帰れない、というか帰らない方がいいと思うんだ」
「で、だ。そこでお前達に提案があるんだが─────────」
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数時間後。午後23時。
俺は病室で、アンブラが結局話を聞きながら全部剥いてくれたリンゴを齧りながら、郡さんの提案について考えていた。
郡さんが持ちかけてきたのは、合併。一時的でも良いが、ギルドを統合する事で、フェルバーさんにも、俺たちにも手を出しにくいこじれた状態を作る、という物だった。
というのも"五十の辻"は、様々な国に顔を出しているギルドではあるが、本拠地はこの場所、エルファニア王国にあるのだ。なので国家間の線を超えてのこの合併が起きると、事件を公に出来なくなる。つまりは何かのでっち上げをする事も難しくなる、という事である。
でっち上げをやるとしたら、今回の事件に関連づけるぐらいしか、今の所ないからな。
それについて悩んでいるのである……。
ちなみに寝袋3姉妹は、まだこの病室にいる。ただ流石に遅いので、3人とも眠ってしまっているが。
アンブラがこの病院の院長に顔が効くらしく、突貫工事的な事をして病室に3人が寝れるデカい簡易ベッドを特別に付けてくれたのだ。
そもそも個室であったことに驚きだし、アンブラがいくら顔が効くとは言えあっさりそんな事をやっちゃう所が、ある意味すごいと思った。
……そして、吸血種という別種であるにしても、血を吸う種族が夜ぐーすか寝ている所を見ると、現実って面白いなって思うのであった。
「……どうしようかな」
「……まだ悩んでるの?」
瞳が、まだ起きていたようだ。もしくは起こしたのか?
「……起こしたか?」
思った事をそのまま口にする。
「……んー、大丈夫……それより、さっさと決めなよ。下手明日にでもでっち上げするかもしんないんだからさ」
「……そうだな……」
「……お前はどうして欲しい?」
「……は? 何で私に聞くのよ」
「うーん、なんとなくだよ」
「……あっそう……」
何やら呆れたような顔をしている。まるで、こんな事も1人で決められないのかと言いたげな顔である。
瞳は一呼吸置いてから、喋り始めた。
「私はね、アンタに死んでほしくない。一回でも命をかけてくれた相手に死なれたくないわ」
「……それにこの子達とも随分仲良くなっちゃったし」
「だから、生きるために、決断しなさい。……わかった?」
「……ああ」
充分だ。
「ちゃんと決めるよ」




