郡司という男
「……よし。大体片付いたな」
ディーテは1つ息を吐きながらそう言った。
既にこちらのエイドらは全員倒れ、囚われていた人々は助け出されていた。
「しっかし気味悪い能力だぜ」
「そうだね。人に自分を着せる能力とでも言えば良いのか……悍ましい能力だよ」
「せやなぁ。……アイツもこんなんにされてたわけやな」
「……アイツの場合は自分からだろ」
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目の前だった。
瞳が殺されそうになったあの時、陽菜は瞳と引き換えに自分を差し出すと言って、エイドの……奴の能力を喰らった。
奴の"怪物化"を喰らったやつは、その段階で怪物化を解いてやらなければ、皆エイドそのものになる。
……アイツは怪物化でひとしきり暴れた後、エイドになって飛んで行った。
俺たちに一瞥もくれずに、な。
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「……ダチとして、やれるだけのことはやれたかね」
「いや、まだだよ。まだ終わっていない。君の仲間と、彼が戦っている場所へ向かおう」
「ああ」
「やったるで〜」
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「休めと言ってるだろ」
「……嫌ですよ。俺も戦います」
俺は傷だらけの身体を引きずりながらも、郡司さんの横に立っていた。
「何故そこまでこだわる。救援に来たんだから休んでもらわないと困るんだが?」
「……郡司さん。俺ね、瞳の事……」
「……!? おま……」
「……最初、ものすっごいダメな奴だと思ってたんですよ」
「……は?」
「贈り物を値踏みするように見てたり、王の屋敷に行くとなってすごい喜んだり……まぁ色々と。ただ、後から見て気付いたんです。あの子は、よくよく見ればすごい良い子で、俺が思っているような行動はしてないんだと」
そう。
もっと早く気づくべきだった。
俺は上辺だけの評価をしていたのだ。
瞳は値踏みなどしていなかった。
彼女は、武器の性質を見ていたのだと。俺も少し確認したから後でわかった。アレはあの小刀がどのように切れるかとかを計る目だ。
屋敷に連れて行ってもらえる……つまりもてなしを受けられるから、とかで喜ぶわけもなかった。アレだけ友達想いな奴が、そんな見返りにこだわるような真似はしない。……純粋に嬉しかったのだ。
純粋に、感謝されたり褒められて嬉しい時。それは俺にもあるからよくわかる。
「……そう思ってた分のお詫び、と言ってはなんだけど……。とにかく、俺も瞳のために戦いたいんです。それと、フェターリアのためにも」
怪物化の影響を受けるほど、フェターリアは寂しがり屋である。俺は、もう少し彼女との関係をよく考えるべきだったと今でも後悔している。
「……うん。わかったよ。どうせそんなんじゃ止めても止まらないよな。やれるだけやりな」
「……はい!!」
俺はボロボロながらも緑髪の力を解放し、変身する。正直何の力なのかさっぱりわからないから怖いが、今の所のフルパワーなので使わせてもらう。
「……"神域"……。面白いな」
郡司さんが、感心した様子でそう言った。
……"神域"が何かもわからないが、今は聞いている場合ではないだろう。
「……行きましょう、郡司さん」
「郡で良いよ。さぁ、行こうか!!」
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「……私、どうなったんだっけ」
「なんもなっとらんよ。五体満足じゃ。あやつのおかげで、妾らはなんともなっとらん」
「……そう」
「……その通りだ。悔しいが、アイツが全部なんとかしてくれたような物だ。俺は……実力不足だった」
「だが負けんぞ!! その力、すぐにでも超えて見せてやる!!!」
「アーッハッハッハッ!!!」
アンブラが、高笑いしている。
それを横目に、今まさにエイド達と戦闘を繰り広げるガンドと郡司を、瞳は眺めている。
「……そっか……郡さんと共闘してるんだ、今」
「ボロッボロじゃがな。ど阿呆めが」
「そうだね……私のせいかな」
「いや、違うな。誰のせいでもない。奴の自業自得じゃ。なんにでも首を突っ込みおってからに」
「……じゃがそのおかげで、心強い仲間を得たのかもしれんな、妾達は」
「……??」
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郡とガンドが飛び回りながら、エイドを1人1人確実に仕留めていく。やはり力関係ではガンドは圧倒的にエイドを上回ったようで、何人かかってきてもあっさり倒せるようになっていた。
しかし、エネルギーの使いすぎなのか、ガンドの動きは段々と鈍くなってきていた。
「ハァ……ハァッ……!!」
「……大丈夫か?」
「問題ありませんよ……! まだまだ……これからです!!」
「……そうか。だが、俺は少し疲れてきた。悪いがとっとと決めに行かせてもらう。遅れを取るなよ」
「え!!? ……はっ、はい!!」
郡は、エイド達を引きつけるように飛行し、一点に集めていく。ガンドはそれを察知し、郡を追わないエイド達を片っ端から倒していく。
「見てろよ……。これが"頂"の力だ」
郡は最後のエイドを、一点に集まったエイドにぶつかるように蹴り飛ばし、一瞬の混乱を作る。そして、サッと手を合わせて力を込めると、エイド達を包むようにエネルギーの空間が出来上がる。
「"結界衝波"」
そして────────エイド達はその空間の中で起きた衝撃爆発によって吹き飛んだ。
地面にぼとぼととエイドが落ちていく。嫌な雨である。下に落ちたエイドは裂けていく。つまり……今の一撃で全てのエイドを倒したのである。
「……す、すごい……!!」
「よっし。終わり!!」
そう言いながら、郡が降りてくる。
「……アレが、郡という男、か。……俺もあれぐらい強くなれたら……っ……」
そう言ったあたりで、ガンドは意識を手放した。




