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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
目覚めと始まりのメタスタシス
3/33

ギルド作成記 その②









幸いにも、2人はさほど大きな怪我をしなかった。しかし、床に打ち付けられた衝撃でトレイルの指の怪我が酷くなり、傷が残る事になった。



申し訳なさが一杯で、何かお詫びが出来ないかと言ってみたが、トレイルはそんなのは良いと言った。


……それどころか、


"それよりも、貴方のその力──────それのコントロールが心配です。信頼できる人に、指南を依頼しましたので、この住所に行って、その人に会ってください"


そんな事を言って、彼女は住所が書かれた紙を渡してくれた。


───────なんて良い子なのだろう。普通、初対面の男に怪我なんてさせられたら誰だって嫌って当然なのに、この子は……。




で、「4番街3番エリア2-17」の住所に向かう事になったのだが、フェターリアは別の用事があると言ったので、俺1人で行く事になった。





……この住所の表記の仕方、現世の住所表記によく似ている。同じ言語があるのだから、こういうのも似てて当然なのだろう。


とは言っても、こうなると逆に慣れないな……。こういう、現世と似たような部分のある物を見るたびに驚いてしまいそうだ。





そんなこんなで、1人でその住所まで歩き、たどり着いた。そしてまた、驚いた。




「……こ、これって……」




その場所に建っていたのは、日本家屋風の建物で、しかも看板には「焔流異能指南道場」と書かれていた。



「……道場まであんのかよ……」



もはや考えても仕方ないので、俺はそのまま道場に入った。


怒号が鳴り響いていたりするのかと思いきや、中は意外と静かだった。


だからと言って人がいないのかと言えばそういうわけではなく、修行しているらしき人達はいた。皆、道場着を着用していて、各々が的やマネキンを相手に、"異能"らしき力を使って攻撃をしている。



「……異能修練のための道場とはなぁ」



俺は関心しつつ、トレイルの言っていた"信頼できる人"を呼んでもらうために、休憩している人に声を掛けた。


「あの、すみません。この道場の……"千明(ちぎら)"さんという方を探しているのですが」


「……あぁ、師範代ですね? お呼びします……」


そう言って声を掛けた人が顔を上げた。






「ん?」


「おっと?」




俺はこの人を──────いや、この男を知っている。黒髪短髪で、所作が丁寧なこの男を。


コイツは……小学生来の友人、影塚壱龍だ。



「壱龍、お前なんでここに……!」


「……その名前はこっちじゃタブーだ。俺はその名前を隠してるからな。今の俺の名前は"アンブラ・タクティリス"。お前は?」


「……ガンド・ヴェルナーだ。……先に大事な事話してくれんの、変わってねえな」


「ハッ。お前も変わってはいないようで安心したよ。……それで、師範代を呼んで欲しいって事は、異能関連か」


「そう。案内所での異能調査でやらかしちゃってさ。ここに来るように言われたんだ」


「……OK、了解だ」




そう言うと、アンブラは立ち上がり、奥の方へ歩いて行った。


俺は他の人の修行風景を見ながら、ジッと待つ事にしたのだった。















「師範」


アンブラは、師範代が休憩を取っている部屋に入り、師範代に声を掛けた。




「ん〜? 何か用? ってかさ、"影塚"。2人きりの時は"千明"って呼んでって言ってるじゃん」


「すみません。客人がいらしているので、今はそれよりも……」


「"今は"? 私の事よりも大事な事があるわけ?」




師範代、もとい千明がアンブラに詰め寄る。アンブラは一瞬その勢いに怯み、何かを諦めたかのようにため息を吐いた。




「……ごめん、千明」


「……よろしい」




そう言うと、千明は機嫌を良くしたのか、アンブラの頭を撫でて、少し離れて、ニコッと笑顔を見せた。




「それで、要件は?」


「トレイルさんの客人が来てる。異能の扱い方について、教えて欲しいと。……客人とは言っても俺の友人なんだけどさ」


「ふむふむ。……トレイルがねぇ……そうだなぁ」


「……まぁ、千明が教えるの面倒なら、俺がやるけど」


「それでもいーよ? 君なら出来るし」



そう言うと、千明はアンブラに対してウィンクをする。アンブラは顔を赤くし、少し目を背けた。



「あー! 目を逸らしたなー!」


「……ごめん」


「……ふふっ。まぁ良いや! がんばれ!」






















「……まだかアイツ」


俺は待ちくたびれていた。

アンブラが行ってから10分は経っている。何やってんだ?


(……もしかして、師範代って女だったり……)


可能性はある。そもそも現世にだって女の師範代はいるはずだし、俺はこの世界で強烈に強い女性を1人知っている。


……そう。フェターリアだ。


ああいう子がいるのだから、この世界にあれだけの強さの女性はまだまだいるだろう。そういう意味では教えるポジションに女が就いていたってなんら不思議ではない。


そして師範代が女性であるなら、かなり良い奴であるアンブラが師範代とそういう関係にあっても何ら不思議ではない。


(……気長に待っててやるか……っと)


そんな事を考えているうちに、アンブラが戻ってきた。しかし、1人だけでだが。



「……ダメだったのか?」


「いや、俺が教えてやれるから教えてやる。師範代は今ちょっと疲れててな」


「ありゃりゃ。まぁそういう事なら。ありがたく教えてもらうとするよ」


「……よし、じゃあ早速だ、こっちに来てくれ」


俺は、アンブラが指差した場所に移動した。そこにはマネキンが置いてある。これを相手に練習するのだろう。


「……んじゃあ、俺が実践しつつ教えるから、ついてきてくれ」


「了解」




「まず、心の中で力を引き出すイメージする。これは多分異能調査の時にもやったよな?」


「ああ……」


「そこから、引き出した力を優しく包み込むようなイメージをしてみてくれ」


「……おう」


言われた通りにイメージをする。


まず、前も感じた力が噴き出るような感覚を覚えた。……そして次に、優しく包み込むイメージをすると、吹き出た力が、制御されるかのようにゆっくりと体の芯を温め、全体に行き渡っているような感覚を覚えた。



「……筋が良いな」


「そうか?」


「普通は結構難しくて、時間がかかるんだ。まぁ、俺も言われた時はすんなり出来たけれど」


「……ふむふむ」



それは良かった。

ギルドリーダーが多分初歩であろう異能のコントロールすらまともに出来ないとか、ありえないもんなぁ……。



「……問題はここからだぞ」


「あ、そうなの?」


「そうだ。……次はこのコントロールした異能の力を、マネキンに上手く使わなきゃならない」


「……なるほど」




「まずは異能を見ないとな。ガンド、"異能の力を手に優しく集めて、少し吐き出す"……みたいなイメージをしてみてくれ」


「わかった」


言われた通りのイメージをする。





────────ゆっくり、ゆっくりと力の流れが手に集まり、ブワッと吐き出される───────というような感覚の後、手のひらにそよ風が発生した。


「おっ、来たぞ!」


「風、か……! ……相性良いんだな、俺の異能と」



アンブラの手のひらには火の粉が発生していた。どうやらアンブラの異能は火に関連する物だったようだ。




「俺の異能の名前は「ヒノカグツチ」。お前の異能の名前はどうする? 洒落た名前にしても良いが、恥ずかしくないのにしろよ」


「……お前のがその名前なら、俺は「シナツヒコ」にするよ。問題ないだろ?」


「……良いねぇ。それで行こう」




「ほんじゃあ……その風を利用してみよう。"何か攻撃できる物を考え、その形に力をコントロールする"。そういうイメージをしてみろ」


「……おう」





(攻撃できる物……)


(……矢……矢、だ……)



鋭く、美しい形の矢。そしてそれを引く、弓。それらを頭の中に浮かべ、そしてそれらを力を使って形取り、手に取る。……掴む。






そういったイメージを、俺は必死に行った。





そうして……手に掴んだ時。


手に馴染むように、まるで最初から持っていたようかのように……、俺の手元にそれはあった。


薄緑の澄んだ色。風の力で形取られた弓と矢が。




「……」



俺は、弓を左手、矢を右手に持つ。そして、弓を前に持ち、矢を当てて、引く。


綺麗な姿勢でゆっくりと引き、限界まで引いて────────────放つ!









「"横断の矢"」







引いた瞬間、奏でられた綺麗な音は。

これから俺が進む、気高く険しい道を、希望の光で照らしてくれているような、そんな美しい音色だった……。


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