ジャッジメント・オブ・タービュランス
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【前回までのあらすじ】
エルファニア王国を襲った、人が怪物化する奇病。その原因を調査するため送られたガンド達"神剣城"は、調査を進める中で"五十の辻"というギルドと接触した。
”五十の辻”メンバーのギークや瞳と会い、徐々に調査を進めていたガンド達は、”怪物化”の黒幕と思われる、グランデベント帝国最強のギルド”破砕”のメンバーであるエイドと邂逅する。
エイドを追う途中、瞳がガンド達に自らや五十の辻とエイドとの因縁について語った。
それはあまりにも壮絶であった……。
エイドは瞳の友人の身体を……直接的に言ってしまえば、乗っ取っているのである。
その事実を話した瞳は、エイドにかけられた呪いによって血を吐き、倒れ伏した。
彼らの前に現れたエイドを前に立つガンドの腕は、怒りで震えていた。
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怒りが身体を熱くする。
荒ぶる怒りが、異能と共鳴しているように感じている。強く強く、吹き荒れる風を、背中から吹き飛ばされそうになるくらい感じている。
異能の風が、吹いている。
ああ。今なら何でもやれそうだ。
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「……ここは、オレがやる」
「……おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。なんとなく、今負ける気はしねえ」
「そうか……わかった。お前の友人としてここは信じるよ」
アンブラは深呼吸してから、フェターリアの方を向いた。
「瞳を安全なところへ。その呪いが解けない限り、戦わせるわけにはいかない」
「えっ……」
瞳が目を見開く。
「お主はどうするのじゃ?」
「俺はここに残って奴の戦いを見届ける」
「……わかった。どうか無事でな」
「ああ」
「ちょ、ちょっと!! 勝手に話を進めないでよ!!」
「黙っておれ。今は……」
その時、瞳に向かってエイドが瞬時に近づき殴りかかってきた。
邪悪な笑みを浮かべながら……。
「ひっ……」
「ぐっ!?」
しかし、その顔は次の瞬間には苦痛に歪んでいた。
ガンドがいつの間にか移動し、エイドの腹部に正面から拳を叩き込んだのだ!
「な……なぜ……」
「さあ、何故だろうな」
エイドはその場に崩れ落ち、膝をつく。
見下ろすガンドの眼光は、緑色に鋭く光っている。
「……そ、その姿は……!!?」
見上げたエイドは驚きの声を出す。
無理はない。先ほどまでのガンドはもうそこにはいない。
瞳たちに見守られるその背中は、雄々しく緑のオーラを纏い、そのオーラは激しい炎のように体の回りを回ったり跳ねたりしている。髪の色は薄く緑色を帯びて、風に煽られるかの如くはためいている。眼光は鋭く、「可愛い」と過去に言われたこともある男の面影はそこにはない。
言葉に形容するなら……「乱気流」。それもとても強力な。
「……いい加減にしろよ、クズ野郎」
「関係のねぇ人達を、次から次へとひどい目に合わせやがって……」
しゃがみ、エイドの襟元を掴んでエイドを持ち上げ、手を放す。そして体の中心目掛けて思い切り殴る。
「貴様!!だけは!!許さねぇ!!!」
何度も何度も、思い切り殴り続ける。その衝撃によってエイドは空中に浮遊しているかのように落ちることなく攻撃を食らい続けている。
「オレが!!貴様を!!」
「ぶっ殺す!!!」
最後の一撃で、エイドは衝撃によってそのままの態勢で建物を破壊しながら飛ばされていった。
ガンドは、少し深呼吸した。
「……よし。ちょっと落ち着いた」
ガンドはそういうと、ニヤリと笑い、振り向いて瞳達に目をやると……二指で敬礼をした。
「んじゃ、ちょっくら行ってくる。アンブラ、二人を頼むな」
「……ああ。ちゃんと守っといてやるよ」
「ああ。……瞳!!」
「……な、何?」
「オレが必ず、友達助けて戻ってくっから、安心して休め。いいな? ……んじゃな!!」
ガンドの足元に風が発生する。そしてそれは、トランポリンのように作用するらしく、ガンドは足を一瞬踏ん張ったかと思うと、飛び跳ねた。
そしてガンドは風を纏い、優雅に空を飛んで行った。怒りを含んだ爽やかな笑顔で。
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エイドは吹っ飛ばされた後、十数件ほどの建物を突き破り、破壊し、静止した。
よろよろと起き上がり、エイドは辺りを見回した。
そして、深く息を吐いた。
「……どれだけ飛ばされたんだ……?」
エイドは先程見た、睨みつける鋭い緑の眼光を思い返す。
(……あんな急激に、人が成長するものか? いくら異能の強化方法を身につけたからといって……そんな簡単に……)
エイドは少し混乱していた。
今までの常識を覆されたような気分なのだろう。
混乱して、イライラしたのか、声を上げて後ろの壁を思い切り殴りつけた。
「……まぁいい。倒せば済むことだよね〜……」
そう言って、エイドは飛び上がった。
そしてちょうど良い塩梅に、飛んできたガンドの拳をモロに顔に受けた。
「ごふおっ!?」
「……オイオイ、前方確認は基本だぜ?」
エイドはよろめいたが持ち直し、ガンドに殴りかかる。ガンドはエイドの突き出した右腕の拳を観察し、避けてみせる。
「だりゃああっ!」
そしてエイドの右腕を掴み、そのまま一本背負い。空中から、地上へと投げ飛ばした。
「うわぁぁぁ……」
ガンドはエイドが地面に激突するよりも速く着地し、落ちてきたエイドを蹴る。エイドはその衝撃でグルグル回転する。回転の勢いで空中に静止しているエイドをガンドは更に上に蹴り上げる。
エイドは目を回し、空中で変な声を出している。ガンドは飛び跳ねて、エイドに近づき思い切り殴り飛ばす。そして再び追尾し、エイドが民家に激突しそうになった所で回り込んで蹴り、空中に静止させる。
エイドは目を回しながら地面に激突する。その衝撃が道を少し破壊し、破片が飛びちり、煙が出る。煙の中でよろよろと、エイドが立ち上がりガンドを睨む。
「い、いい気に、なるなよ……!」
「……ふっ。その様子だと、もはや貴様に余裕など残っていないようだな……。オレの力に耐えるだけで、精一杯だということだ……」
「黙れ!!」
「黙らねぇよ。オレは永遠におしゃべりなのさ!」
ガンドは煙の中に突っ込み、エイドを見つけ出すと、腹部に殴りつける。エイドは顔を歪め、嗚咽を漏らす。
「……お前ェェェェェェェェ!!!」
エイドは、鬼の形相でガンドを見上げ、ガンドに手をかざす。するとエイドの掌から、光のような物が放たれる。
恐らく異能による何かの攻撃なのだろう。
「……これがお前の怪物化を呼ぶ異能か?」
「……ば、馬鹿な。僕の異能が……どうして……」
どうやらガンドには、効いていないようだ。
「"少しは効いたぜ"」
そう言った数秒後、エイドは突然発生したエイドだけを狙った凄まじいかまいたちにより斬撃を全身に浴びた。
……これは、ガンドの異能による攻撃であった……。
「……あっ!! やっべえ、やっちまったー!! これじゃあ瞳の友達にまでダメージいっちまうじゃねえかー!!!」
ガンドは、自分がしでかした事を理解し、絶叫した。もはや完全に手遅れであるが、一縷の希望にかけて、ガンドは手を合わせて神に祈った。
(頼むぅ! 神様仏様……いやいやここは国津神に祈って……!! どうかなんとかなってくれーーー!!!)
と、かなり必死に祈った。
……すると、願いが届いたのか、エイドが突然光に晒され、"エイドの皮膚"だけが剥がれ落ちていく。
中々グロテスクな光景を経て、ゆっくりと、その皮膚の下から瞳の友人、霧ヶ峰陽奈が無傷で現れた。
「……よっしゃー!!! 無傷だーーー!!!」
とりあえず、願いは届いたが。
「ただなんも着てねぇー!!! どうすりゃいいんだーーー!!!」
ガンドは見ないように、見ないようにしつつ、近隣の男性を近づかないようにして、女性の方に服を借りて着せてもらう……というような方法でなんとか切り抜けたのであった……。
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「……お、帰ってきたぞ、アイツ」
空からゆったりと降りてくる。霧ヶ峰陽奈を肩に担いで、ガンド・ヴェルナーが帰ってきた。
「……陽奈……? 陽奈……ッ!!」
瞳が陽奈の名前を呼ぶ。よろめきながら立ち上がり、駆け寄ってきた。ガンドは陽奈を下ろして、その場に寝かせた。
「後はお前が運ぶといい。……大丈夫。気ぃ失ってるだけだ。すぐに起きるさ」
優しい顔をして、ガンドがそう言った。
「……ありがとう」
瞳がそう返す。
陽奈を見つめながら、瞳はポタポタと涙を流し始める。
「……ありがとう……!」
陽奈にひっついて泣き始める瞳の頭を、ガンドは優しく撫でた。
「お疲れさん」
「……行かなくていいのか、フェターリア」
「よい。今は好きにさせてやる。その後どうするかはアイツらが決めるじゃろ」
「随分、軽いな」
「……最終的に妾の元を離れなければそれでよい」
「……フッ。なるほどな」
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日差しが暑い。
やけに眩しい太陽が、俺たちを照らしている。
なんというか、体が芯から変わったような気がする。
俺の中に、ただ一つ、揺るぎない信念が生まれた。
今まで流れるままにこの世界を生きてきた俺は、この日、その信念を持って生きる事を決めた。
俺は俺自身の手で、大切な物を守り抜くと。
そのためならなんだってする。……そのためなら、俺は悪党だろうが鬼だろうが、何にだってなってやる。
もう2度と、友人や恋人の、悲しい顔は見たくない。




