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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
窮鳥入懐のディターミネイション

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プレデター その③


ギークの攻撃を軽々避けてみせたエイドの目は、依然として赤く爛々と光っている。


「……"赤眼族"……!!」


(……とんでもねえ野郎に出くわしちまったな)



"赤眼族"とは、目が赤い種族の事である。

それだけで言えば単純なのだが、彼らはそうではない。彼らには1つ大きな特徴があるのだ。


それは、"異常なまでの動体視力と反射神経"である。

彼らはその特異な動体視力と反射神経により、大抵の攻撃なら簡単に避けてしまう回避力を備えている。


そんな彼らの目は常に赤く光っているのだ。


「……しかし納得いかねえな」




そう。赤く光っているはずなのだ。つまり赤眼族かどうかは目を見ればわかるはずであり、一目見てわからないなんてことはあり得ない。まぁただ目が充血してしまっている一般の方という事もたまにはあるが、大抵は赤眼族である。


「テメェ、どうやって隠してた」


「ん〜? 簡単な事だよ。この世にはアイコンタクトって便利な物があるだろう?」


「はぁ。……まぁ、それならそうか? まぁ良い。それより……」


そう、そんな事よりも今ギークが考えないといけないのはその眼に対する対抗策である。


このままだと埒が明かないのは必然だが、ギークは少なくとも今は、雷による高速攻撃以外の術を持たない。


それが避けられてしまうとなれば……


(……とりあえず、速度を上げるしかねえか)




ギークはエイドに再び殴りかかる。

左方向に軽々と避けたエイドを目で追いつつ次の攻撃に移ろうとして、エイドの目を見る。


エイドの目線は一時もずれる事なくギークを見つめている。次にどんな攻撃を繰り出したとしても、避けられてしまいそうである。


仕方なく、ギークは3歩下がってエイドとの間合いを空ける。反撃も攻撃もされないようにジッとする。


「……ちっ。いくら考えても俺には1つしかねえか」


(身体への負担は強くなるが、仕方ねえ!!)


ギークの身体を帯びる電流の音が、より一層強くなる。それはギークの身体を強化する雷の異能の力が、増幅した事を示すサインだ。


「……テメェがその眼を持ってても、俺の異能にゃついてこれねえ。覚悟しやがれ」



ギークは更に加速する。

エイドに殴りかかるその速さは、エイドの眼には追えても、身体には追えなかった。


エイドは殴り飛ばされ、再び吹っ飛んだ。



──────────────────────




「あのヤロー。随分と遠くに行きやがって」


「アレは追えんな……。仕方ない。ゆっくり行こう」



俺たちは、遥か彼方に飛んでいったギークを追う気にもならず、ゆっくり合流する事にした。


道中をパトロールしつつ行った方が効率的であると考えたのだ。



異能による飛行を駆使して屋根をつたって移動していると、いがみ合いながらやってきた瞳とフェターリアと合流した。


「ん?? お前ら、何やってるんだ?」


「お前達を助けに来たのじゃ。ありがたく思え」


フェターリアは瞳の頭を押さえつけながらそう言った。……いや、説得力無いぞ。


「どう見ても喧嘩してるようにしか見えんが?」


だよな、そうだよなアンブラ。


「それは此奴が出しゃばるから……」


「それはアンタでしょ!? こんのっ……」



「……他所でやってくれないか?」


「ま、待て!」


瞳を突き飛ばして、フェターリアは姿勢を正してこっちを真っ直ぐ見た。


「それで状況は?」


「ギークが対応してる。速度が速すぎて追いつけないんで、俺たちはゆっくりついて行く事にしたんだ」


「なるほど……。其奴の異能は確か雷じゃったな。雷獣の如く速い、というわけか」


「まぁ、そんな所だ」


「ふむ。そうじゃな……ならば妾らも、ついて行くとするかの」


──────────────────────



「オラオラァ!! どうしたァァ!? テメェの力はそんな程度かァァァ!!」


凄まじい速度で攻撃を仕掛けて行くギーク。

目にも止まらぬ攻撃の応酬に、エイドは防戦一方である。


しかし攻撃をするたび、ギークは息を切らしていた。体力の消耗が激しく、既に稼働力も落ちてきていた。



しかしその程度で諦めるわけにはいかない理由が、ギークにはあったのだ。


「……テメェは! テメェだけは俺たちの、"五十の辻"の手でぶちのめしてやらなきゃならねえ。"ダチ"のためにも、絶対に!!」



ギークがエイドを蹴り飛ばし、街路の壁にエイドが激突し爆風が起こる。ギークは呼吸を整えようとする。


「……くそっ」


なかなか呼吸が整わない。それもそうだろう。既にギークの体力は限界に近づいている。


「……肝心な時に……!」




「随分消耗しとるやん、ギーク」


誰かがギークの肩を叩いた。

ギークはその声に覚えがある。


「……なっ、火魔刃! 助けに来たのか……?」


「まぁ、任せても良かったけど、なんやピンチみたいやったから。来たったで」


「……助かる」


「……まぁ、お前がそないにアイツのこと気にしとるとは思わんかったけど?」


「……るせぇよ! ダチはダチだろ」


「はいはい。まぁええわ。……じゃ、とっととやるで」


「……おう」



「……1人、増えても。君のその体力じゃ僕には勝てないんじゃない?」


エイドがフラフラと起き上がってきた。しかしそのフラついた様子からは考えられないほど、ダメージを受けていないようだった。というのもエイドの身体の目に見える傷は……頬の1つだけだったのだ。


「なるほど。あの眼がある上で、タフっちゅーわけか。こらあかんわな」


「……そうだ。で、どうする?」


「さぁ……。とりあえず叩くしかないやろ」


──────────────────────




「……ギーク、どこまで遠くへ行ったんだ?」


「さぁ。アイツの事だ、そう遠くまでは行ってない……はずだが」


「わからないよ。相手が"怪物化"の主犯だって言うなら、自分でもわからないうちにとても遠くまで行っているかもしれない」


「……主犯である事と、何か関係があるのか?」


「……」




「いいよ。話してあげる。私たち"五十の辻"や世界各国と帝国の因縁。そして……私たちの友人の話」

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