プレデター その②
「"破砕"だと!? テメェ……」
ギークが真っ先に反応した。
それに続いてアンブラが前に出て、炎を出す。
「……よくのこのこと俺たちの前に出て来れたもんだな」
「あぁ、君はアンブラ君じゃないかぁ? 元気だった? 怪物化した千明さんを止めるのに苦労してたけど〜」
「……貴様……っ!」
!?
千明さん、怪物化してたのか!?
「……無事なのか?」
「……一応治った。ただ、今は昏睡状態でな、あと1週間で目覚めると言われてるよ」
「なるほど……な」
つまり、アンブラは千明さんの怪物化を止められなかったわけだ。そりゃあ……うん、気にかけてくれていたのはそれもあったんだな。
……とりあえず、コイツは許さねえ!!
「ちょっとそこどいてもらおうか!」
俺はエイドとやらに腹パンを喰らわせて、そのまま飛び跳ねるようにアンブラ達の所へ移動した。これで一定の距離が出来たわけだが……。
「……へぇ……なかなか良い攻撃をするね」
とか言ってるが、エイドはビクともしていないし、傷一つ付いていない。ピンピンしている。割と本気で蹴ったと思うんだがな……。嫌になっちまうよ。
「……マジか」
「ああ。アイツ、物理攻撃が全然効かないんだ。相当に"タフ"という事なのか、それとも……」
「異能じゃねえだろうな。ただタフだって事なんだろう。……だったら」
「ここは俺に任せてくれ」
「なっ!?」
「……!!」
ギークが1歩前に出た。
「おいギーク、貴s「気持ちはわかるが今は抑えろ」……ちっ!」
「テメェは一回負けたんだろ。だったら今は出るべきじゃねえよ。正直な話ここで1番つええのはこの俺なんだからよぉ」
「なんだと!! 俺は……あの時は油断しただけだ! こんなやつに遅れをとるほど俺は……」
「いいや。油断だけで負けるタマじゃねえだろ、テメェはよ」
「……くっ……!!」
悔しいような、辛いような表情をするアンブラをよそに、ギークはエイドの方へ真っ直ぐ向いて、怒りの形相で睨み付けている。
「それにコイツにゃ親友が貸してるモンがあんだ。テメェだけの獲物じゃねえのよ」
ギークの身体の周りを、バチバチと音を立てて電流が迸る。身体を駆け巡るその電流は、ギークの異能により現れ出でた物だろう。
「……"雷獣月駆"……」
「……ふ〜ん。中々筋は良さそうだけど……その程度で勝てると思われるのは心外だなぁ」
「ほざけよ」
アンブラは悔しそうにしつつ、ゆっくりと深呼吸をしたあと、こっちを向いた。
「よく見ておけ、ガンド。……アイツは、俺たちより1段階上にいる人間だ」
俺たちに背を向け、エイドと対峙するギーク。
どことなくその背中は、これから起きる戦いを伝えるような、覚悟を持った背中であった。
「……行くぞ、クソ野郎」
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その頃、我王城、我王の間では。
「ギーク達が"破砕"の人間と接触したというのは、本当かにゃ?」
「間違いない。"眼"で確認したからな」
我王城に、ドンノラがやってきていたようだ。ギーク達の一連の出来事を"見た"ようである。
「あの分身、本当に便利にゃね」
「情報の確認くらいはお手のものだ。……しかし三木よ、お前その"にゃ"とかいう語尾、良い加減やめたらどうだ」
「……やめれたら苦労してねーんだよ。しょーがねえだろ、我王の怖いイメージを変えるためには少しでも可愛く振る舞う必要があるんだよ」
「いや、お前……そんな心配ないだろ」
「はぁ?」
「……まぁ良い。あまり他の女を褒めると妻がうるさいし。いずれわかるだろう。それより……どうする。こちらとしてもただギークに任せるだけでは心許ないのだが」
「……そうにゃねー……。じゃあ、瞳ちゃんに出向いてもらおうかにゃん。借りがあるって言ってたし、あの子の力量ならカバーは出来るでしょ」
「ふむ。確かに"赤巫女"なら、相手が破砕の人間であろうが余裕だとは思うな」
「お話、聞かせてもらいました」
我王の間の扉が勢いよく開き、瞳が入ってきた。その目には怒りとも決意とも取れる炎が宿っているようで、今すぐ飛び出してしまいそうである。
「そうか。なら、向かってくれるな?」
「はい。もちろん。"仇"をギークだけに任せる気なんてさらさらありませんから」
(……他の2人は戦いに参加していない扱いなのね)
「待て、妾も行く」
瞳の後ろから、ぬっとフェターリアが現れ、瞳の横に立った。
「はぁ?」
「妾もそやつに借りがある。あの背中から侵食されるような感覚は間違いなく"怪物化"じゃった。妾にまで影響を及ぼすとは、不快な奴よ。この手でその身の愚かさを知らしめてやろうぞ」
「……なによそれ。そうやって行って、また同じように怪物化されたどうするの?」
「妾がそんなヘマをするか。小娘風情が調子に乗るでない!」
「はぁ!? そっちこそ調子に乗ってんじゃないわよこの吸血鬼BBA!!」
「BBAではない。生き残りじゃ」
といった感じで、2人がいがみ合い始めたので、ドンノラがやれやれといった感じで止めに入ろうとすると、三木が止める。
「……何故止める」
「よーく見ておきなさい、にゃん」
「……もういいわ。私が先に行ってちゃっちゃと片付ければいい話だもの」
「ふむ。ならば妾も……そうするかッ!!」
2人はまるで矢の如く、勢いよく走って開け離れた扉から出て行った。
「……まぁ、そういう事にゃん」
「なるほど……わからん」
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「……面倒な事になりそーな予感がするぜ……」
ギークが何やら不穏な事を言っている。
「……さっさと片付けるか」
そう言って、ギークは消えた。
いや、「消えたように見えるくらい速く移動した」のだ。
目で追うのがやっとか。いや、もはや人間の目に追えるような速度ではないかもしれない。
そう思うくらい、彼はとにかく速かった。
ギークはその速さのまま、エイドに飛び蹴りを喰らわせた。エイドは不意を突かれたのもあってか防御が出来ておらず、その飛び蹴りをモロに喰らって吹っ飛んだ。
ギークはそれを高速で追った……のだろう。気がつくともういなかった。
「……な、なんだあの速さ」
「……奴の異能は一言で言えば「電気」。電流の如く移動し、敵を穿つ。着いたあだ名は「閃光の申し子」……。とんでもない力の持ち主だ」
「……これが1段階上だって!? そんなレベルじゃないだろ!! アレは……もう」
「いや……信じられないと思うが、アレで1段階上なんだ。お前も俺も、あそこまで強くなる可能性はあるんだ」
「……マジかよ……」
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もはや目にも止まらぬ速さで動くギークは、そのまま対応できずにいるエイドに追撃を仕掛けていく。まず、先ほど飛び蹴りで吹っ飛ばした。次は───
(……腕だ。腕を潰す!!)
ギークはエイドの背中を背後から殴ると、その勢いで飛び蹴りの勢いを相殺され空中に一瞬静止したエイドの腕を、瞬間的に掴んで握りつぶした。
「がっ────」
エイドが声を上げるよりも速く、ギークは次に両足を両手で掴んで握りつぶす。そして股間を思い切り蹴り飛ばし、上に吹っ飛ばした。
ここまでがギークが着地するまでの一連の出来事である。エイドはそのまま地面に激突した、が……。
「……ぐっ……」
エイドはボロボロながらも立ち上がった。どうやらタフというのは本当らしい。
(潰しても無駄か……? おかしいな。異能でなくただタフなだけなら……)
タフなだけなら、先ほどの勢いで足も腕も動かなくなっているはずだ。
「まぁ良い。なら、もっと叩き込むだけだ!!」
そう言い、ギークは速度を上げてエイドに殴りかかった……!!
しかし、そのギークの拳はただ虚空を切り裂いただけだった。
「!?」
振り向くと、エイドはのけ反ってギークの拳を避けていた。ギークは怯まず、後ろ手に蹴りをのけ反ったエイドに向けて放ったが……これも避けられた。今度は内側にくの字になって避けてきたのだ。
「……なんだと……!?」
異変を感じたギークは、咄嗟の判断で3歩後退してエイドから離れた。そしてエイドを見てみると、目が赤く光っている。
「……テメェ……その謎の回避力に……その朱色の目は……!!」
「"赤目族"の……力……!?」




