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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
窮鳥入懐のディターミネイション

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21/43

巫女と赤眼と問題と

俺は我王の機嫌を一日取った後、気絶するように眠った。

正直、あの顔で詰められても特に怖くないし突っぱねるのは簡単なのだが、後が怖いのでいるうちは言うことを聞いておこうと思う。


物凄く眠いが、俺は無理やりにでも起きた。頑張った。

一日中寝ててもおかしくないくらいだ。なんせ午前4時ぐらいまで相手をしていたからな。


「……まだ眠い……」


当然と言えば当然なセリフを言いながら、俺は着替えをしていた。一応シャワーもちゃんと浴びておいた。顔に水を全力で当てても目がぱっちりしなかった。すんごい眠いし全然眠気が取れない。マジで勘弁してくれよ。当然の如くクマもできてるし。



「……こんなんで仕事できんのかねぇ」



少し心配だが、だからと言って休めないのでもう気にしない事にする。まぁ、身体を動かしていればそのうち眠気も覚めるだろう。


俺は早々にパトロールに出かけた。と言っても『パトロールしろ』以外に何も言われていないので、ほぼ観光に行く気分だが。


……一応ギルドメンバーにも声を掛けたが、皆まだ寝ていた。そりゃそうだろうな。


「なんだってまだ6時だからな」



──────────────────────




鬼ヶ城辺以外のエリアに行ってないので、今日は他のエリアも見てみようと思う。電車? ノンノン、もちろん異能を使って、だ。


俺の風の異能なら、上手く使えば屋根伝いに移動出来るし、風だからか移動速度を速くする事も出来る。とは言ってもそこまで速くはないが。


……眠気のせいか、よく転ぶ。さっきも思いっきり転んで頭を打ちそうになった。もしかしたらこの移動方法、今日はやめておいた方がいいかもしれないな。


次転んだら降りて電車に乗ろう……。



「キャァァァァァ!!」



下からすんごい悲鳴が聞こえてくる。まるでバケモノでも見たかのような……あっ。


「……"怪物化"かっ!?」


下を見てみると、エイリアンみたいな怪物が暴れていた。


『ゴォォォォォォォォ!!! ァァァァァァァァァ!!!』


謎めいた怪物は奇怪な声を発しながら、人々を襲っている。


悲鳴を上げたらしい女の子が、逃げれずその場にへたり込んでいる。茶髪のセミロングヘアーで、良いとこのお嬢様が着ているような服を着ている。まぁ想像通り、お嬢様なのだろう。


「……助けた方がいいな、アレは」


その方が利益がありそうだ。

俺は飛び降りる。急降下により速度がつく。俺は風の異能を使い、拳を強化する。


これは、エルファニアに来る前にフェターリアに教えられた"異能強化術"である。異能のエネルギーの本流を拳や脚に流して、身体の一部を強化する、というやり方のようだ。別に修行で慣れているわけではないので、一か八か……半分賭けのような物ではあるのだが……さて、上手く行くか。


「"ウィンドスマッシュ"!」


落下の速度を利用しつつ、異能で強化された拳を怪物に叩き込む。直接エネルギーを流し込むような強烈な衝撃を与えているはずだが……。


「ギィアアアッ!!」


どうやら上手く行ったらしい。怪物は雄叫びを上げると、背中からべたんと倒れた。俺は風を発生させてゆっくり着地し、ため息をつく。


「……良かった。上手く行った」


めちゃくちゃ緊張した。上手く行かなければ恐らく死んでいたかもしれないと考えると、結構危ない橋を渡っていたなと後から思った。


俺は振り向いてお嬢様的な人に目線を合わせた。


「大丈夫ですか?」


「……あ、ありがとう。助かったわ。本当に死んだと思った」


「そうでしょうね。間に合って良かったです」


「え、ええ。……あっ!!」


んん? 何か恐ろしい物を見るような表情で口をパクパクさせているぞ? なんだろう、何かいんのかな。


そう思って前を見てみると……怪物が、起き上がってこっちを見ていた。


(あっ)


やばい、これは死ぬ。そう思った俺は咄嗟に後ろのお嬢様的な人を庇うように立ちはだかった。……ただ、どうやら俺は運が良かったようで、怪物が突然何かにぶっ飛ばされた。



「……た、助かった……」


俺は大きくため息をついた。

怪物をぶっ飛ばものの正体をよく確認してみる。巫女服を着た少女がそこに立っているのだが、彼女がやったのだろうか。


「あの、もしかして君がアレを?」


そうやって声をかけてみると、少女はこっちを睨むように見た。いや、普通に睨んできた。怖い。


「……そうだけど、何か?」


「助かったよ、ありがとう」


「……それはどうも」


「俺、ガンド。まだまだ新米でね、油断もする。さっきは本当に助かったよ。ありがとう」


「……瞳。よろしく」


この子の名前は瞳というらしい。

不思議な雰囲気を纏う子で、瞳の色がすごく綺麗だ。名前の由来がなんとなーくわかるような気がする……。いや、推測でしかないのだけれども。



「……君は、どこのギルドの子?」


「あたしは"五十の辻"から来た。他の連中が未だに調査に手間がかかってるみたいだから、手伝いにね」


「なるほどな」


「あんたも"怪物化"の調査にきたクチ?」


「ああ、そうだ」


「ふ〜ん」




「……あの、すみません」


あ。

お嬢様っぽい子の事を忘れていた。

彼女は俺たちの間に申し訳なさそうに割って入ってきた。


「あの、助けていただいてありがとうございます。私、アローネ・アモーレと申します。よければお二人にお礼をさせていただきたいのですが」


「え? あぁ、いや、お礼なんて……」


「ありがたくいただくわ!」


「え」


「……なによ。貰えるものは貰うべきよ?」


「……お、おう」



意外と図太い人だなぁ……。

まぁ良いや。礼くらいは素直に受け取るか。


「んじゃあ、貰おうかな」


──────────────────────


俺と瞳は、アローネの家に招かれた。

……いや、家というより城だったのだが。

城内は豪華で煌びやかで……という事は無く、我王の城と同じようにちょっと暗くて、おどろおどろしい感じの装飾がしてあった。


ただ我王の城と違う点は、鮮明で綺麗な雰囲気があった事だ。かなり恐怖を演出するような装飾がしてあるにも関わらずそう感じるので、なんだか少し混乱した。


「すごい……変な城……だな」


「中々良い城じゃないの。ちょっと和風チックだし、私はこういうの好きだわ〜」


「へぇ」


その割には震えてないか?

と言いたかったが、やめといた。

ものすごく震えている。見てすぐにわかるレベルだ。めちゃくちゃ怖いんだろうな。


怖いのには耐性がないというわけだ。



「着きました。こちらが……"兄"の部屋です」


「……ほう」


明らかに王座の間の扉にしか見えない荘厳な扉だった。うん、まぁここに連れてこられた時点で想像はしてた。


「では、参りましょう」


扉がゆっくりと開かれる。

先には畳が敷き詰められた神秘的な空間と……



王座のない空間に、1人佇む青年がいた。


「……アローネ? 何か用か?」


「兄さん。実は……」


アローネが、青年の元に寄っていって説明をしていた。青年は納得した様子を見せると、アローネの頭を撫でた。


「……妹を助けていただき、感謝する。俺は"火王"ドンノラ・アモーレだ。まぁ、ノラとでも呼んでくれ」


「"神剣城"のリーダー、ガンド・ヴェルナーです。よろしくお願いします」


「瞳と言います。よろしく!」


お互いに自己紹介をして、少しの間を置いた後、ノラさんは懐から小刀を2本取り出した。いやちょっと待てどうやって収納してたんだ!?


「これを2人に差し上げよう。我が一族が使う小刀"赤眼の小刀"だ。これを使えば、信頼できる人間に居場所を共有出来る。使い方は簡単で、コイツに念を込めるだけで良い」


そう言って、ノラさんは俺と瞳に1本ずつ小刀をくれた。


瞳はなんだか値踏みするようにそれを見つつ、すごい嬉しそうにしていた。嬉しいんだろうが換金しようとか考えてそうでちょっと引いた。


……にしても、信頼できる人間と居場所を共有出来るってのは、かなり良さそうだ。


「ありがとうございます」


「俺からの感謝の気持ちだから、礼はいらない。重ね重ねありがとう。妹を助けてくれて」


「いえいえ。当然の事をしたまでですから!!」


瞳がにこやかな顔で言った。多分しょうもないものだったらこんな顔しないんだろうな、と変な事を考えてしまった。


──────────────────────


「瞳の奴が、ガンドと同じエリアに行ったってのは本当か?」


「みたいやなぁ。参ったなぁ、ガンド君には。女を引き寄せる匂いかなんかついとるんとちゃう?」


「そんな人間いないよ。バカか君は。……このままだとまずいのはそうだが」


「我王の思う壺だぜ。このまま行けば……」





「「「確実に誰かが怪物化する」」」




──────────────────────


様々な人間の思惑。

意識せず、離れていく距離。

そんな事を全く気にせず、俺は浮かれた気分でいた。


この1週間の果てに、とんでもない事が待っているとは知らずに。



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