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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
窮鳥入懐のディターミネイション

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20/43

不穏な夕暮れ


「……ん」


オレンジ色の空が、もうすぐ夜になる事を教えてくれている。夕刻まで寝てしまっていたようだ。


俺の腕を掴んで寝ている三木さんと晴藍を優しく退けて、俺は立ち上がった。


「……グッズ、部屋に持って帰らないとな」


工藤工房で買ったグッズも持ったままで寝ていた。早めに持って帰っておかないと、壊してもつまらない。さっさと部屋に行こうとすると─────────



「……何処へ行く気なのか、ニャン?」



───────眠そうな声で、三木さんがそう言った。


「部屋に戻るだけですけど」


「ん〜? か弱い女の子を2人残して?」


「……いや、ここ、我王様の城ですし。それに貴方達なら自分で自分の身、守れるでしょ」


「……ん〜。ま、そうだけど」


「まぁ……そうでしょうね。では、俺はこれで」


「待て、にゃ」


三木さんは瞬時に近づいてきて、俺の肩を凄まじい力で掴んできた。



痛い痛い痛い痛い!!


「ちょっ、痛いんですけど!?」


「これは理屈じゃないの。女の子ってのはね、こういう時無条件に不安になる生き物なの」


「……はぁ。そうは言ってもうちの子にはそんな子1人もいませんけどね」


「そう?」


「はい。」


「……でも、あの話をしてから、皆部屋から出てこないじゃない」


「それは……休んでるんだと思うんですが」


「いいえ。それは違うわね。皆怖いのよ」


「自分が怪物になるかもしれない事が」



「……………………え?」




──────────────────────



人それぞれが持つ想い。

時にそれは力を生む。恨みも、喜びも、等しく狂った力を産んでしまう事が、時たまにある。



この世界の聖典に載ってる話だ。

これはこの世界では顕著で、ほぼ常識みてーなもんになってる。


現に今この国で起きてる事がそうだ。

あの"怪物化"。ありゃあ、人間が持つ強い未練が、宿主である人間を喰らった結果完成するモンだ。


こうなっちまうと、元に戻す方法は殆どねえ。強いて言うなら殺してやるか、似たような強い想いで引き込めば良い……ってくらいか。


俺は仕方ねえと思ってる。この国で、仕事を頼まれた以上、怪物を殺す事を躊躇するわけにはいかねえ。


……そうでもねぇとアイツに笑われちまう。それだけはお断りだぜ。



俺の名前はギーク。

"五十の辻"のプロ級メンバーで、"荒雷神"の2つ名を欲しいがままにする男、らしい。


俺は普通に戦ってるだけなんだが……?



「……いつから俺はあんな変な2つ名が引っ付いて回るようになったんだっけか。まぁ覚えてねぇからいいや」



俺は今、パトロールをやってる。

"怪物化"した人間が発生するまで見張ってて、発生したらブッ殺す。簡単な仕事だが胸糞悪ぃ仕事だ。だが先程も言ったように、俺は仕方ねぇと割り切ってる。


そうでもしねぇと、やってらんねえのよ。



「……こっちは異常なし、か。ちょっと安心だな。どうせ、ちょっと目を離した隙に現れたりすんだからよ」




「おー、やってんなぁ、ギークさん」


……うるさいのが来た。

後ろ手に髪を結んだ、緑のTシャツを着ているこのバカそうなツラしてやがる男は……


「火魔刃……てめぇ、仕事はどうした」


天野火魔刃。コイツは俺の同僚。"五十の辻"のメンバー……だが、同期で入ってきたにも関わらず、未だプロ級メンバーに選ばれていない。


じゃあ、コイツは大して強くないのか?

否。コイツは俺とタイマン張れる強さを持ってる。のくせに仕事しやがらねえんだ。正直俺はコイツが嫌いだ。


「んまぁ、そんな事はどうでもええやろ。こっちの方が面白そうやし〜」


「そういう問題じゃねえだろ、バカがよ」


「まぁまぁ。それよりギークさん、有用な情報があるんやけど、聞く?」


「……なんだ」



「今まで"怪物化"した奴らの傾向から……この事件の犯人はグランデベントの人間やと推測されとるやん? なんや王国の貴族なんかに恨み持っとる奴がおって……」


「んなの知ってるよ。で?」


「んでまぁ、王国の方々はそっちに目ぇ言っとるんやけどな? 我王様だけはどうやら違うらしいねん」


「……んん?」


「我王様は異なる共通点に目を向けた……。それは、被害者が共通して恨みの感情に喰われてたっちゅう点や」


「……確かに、奴らの目的は恨みを持った誰かを殺すとかそんなんが多いがよ、そのレベルなのか?」


「どうやらそうみたいや。恨みつらみってのは怖いもんやが、ここまでのは無いと思わへんか? あまりにも不自然やろ」


「確かにな」


「せやから、それに目を向けよるっちゅう事や」


「……で、それがどう有益なんだよ。俺が聞く限りその情報、今ん所何も核心的な物に触れてなかったぞ。1番肝心な、犯人によ」


「……せやな。この話は別に犯人を見つけられるっちゅう手がかりの話やないからな。これは、この情報を我王がどう使うかっちゅう話や」


「……なんだと?」



ざわざわと、嫌な胸騒ぎがする。

1人目に帝国から来たアンブラは気の良いやつで、その友達のガンドも気の良いやつだった。


俺はそんな2人を、何かよからぬ事へ巻き込んだのではないかと疑念を持った。この次の、火魔刃の言葉を聞いた、その瞬間に。




「……我王は、ガンドの仲間の誰かが怪物化するのを待っている」


──────────────────────



「……忌々しい」


「なぜ、ガンドは妾に目を向けぬ」


「折角の旅行だというのに」


「お主は妾と、ギルドメンバーと共にあるべきであろう」


「何故そんな者らとおるのじゃ」



我王に迫られ、仕方なく我王や晴藍の相手をするガンド。そしてそれを、側から見つめるフェターリア。


苦虫を噛み潰したかのような顔をしたフェターリアの肩は、少しだけ黒ずみ始めていた。



「……許さんぞ、ガンド・ヴェルナー」



フェターリアの目線を気にする暇もなどない。

ガンドは、この後も暫く、ギルドメンバーと過ごす時間を作れないのだが……



それを後悔するのは、もう少し後のお話である。

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