エルファニア滞在記・序
「依頼の内容を説明するにゃん♡」
そう言いながら、可憐な少女は椅子から降りてきた。
「よろしくお願いします。"神剣城"のリーダー、ガンド・ヴェルナーと言います」
頭を下げる。
「エルファニア十二種王が1人、"我王"の三木猫蓮にゃん! よろしくにゃん♡」
……それにしても、レナといいこの人といい、肩書きがああで実体がこれなのは何かの流行りだろうか?
女性にしたって鬼なんだし、もっとゴツいのを想像していた。ほら、腹筋割れてて巨乳だったり、それでなくてもハイパースレンダーで小さいのに腹筋バキバキだったり……。
この人はそんな風には見えない。
「……鬼なのに随分女の子らしいとか、失礼な事考えてるね?」
(!?)
思わず顔を見上げると、目の前に三木さんの顔があった。びっくりしたが声は出さないようにした。
「ぜーんぶお見通しだよ。ま、大体の人はそう思うからね」
「でも、先入観で考えちゃダメよ? この国では特に……ね?」
「は、はい……」
「あわわ……我王様が語尾を忘れていらっしゃる……」
「ま、まさかあの男……」
(む……なんじゃ? 我王の部下どもが随分騒いでおるようじゃが)
「じゃあ、本題に入るにゃん♡」
「は、はい」
「今回の依頼は、調査と討伐にゃん」
「人が突然怪物のような姿になり、自らの強い願いを実現するために暴れるという事象が多発したのにゃ。それを解決するために、私はレナと相談して王国の図書館に潜り、手がかりを探したにゃん」
「何日も何日も、なーんにちも徹夜して、やっと見つかった資料からわかったのは、それが人為的な物であるという事だったにゃん」
「そして……」
「それを引き起こしている者の、ある程度の所在や正体も掴めている」
レナが説明に割って入った。
……いつからいたんだ?
「そう。しかし……」
「しかし、そこに潜入や突入をする事は出来なかった。その者の所在地は帝国だったから」
「……ちょっとレナ! 遮らないで欲しいにゃ!」
「説明の補助が必要かと」
「必要ないにゃん!! 今は私が説明をする番なんだから!」
「……」
「……」
(……こりゃあ、長くなりそうだな)
案の定、長々と喧嘩しながらの説明となった。どうやら2人の相性はよろしくないようで、片方が遮ればもう片方が怒るということを繰り返していた。
性格の相性は悪くなさそうだし、もう少し仲良くできそうなもんだが。やっぱり権威的な問題がそこにあるのだろうか。
「……というわけで、帝国のギルドに協力を求める必要があったわけだにゃん」
「な、なるほど」
「そんなわけだから、まず暫くはパトロールをお願いするにゃん」
「……どのくらいでしょうか」
「「2ヶ月」」
長っ。
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俺たちは2ヶ月、我王の城に宿泊させてもらって、パトロールの仕事をする事になった。
依頼料が凄まじく、環境も最高なので何の文句も言えない。
フェルバーさんに連絡したら明らかに不機嫌になっていた……。許してください、陛下。
俺たちは三木さんの部下の人に部屋を案内された。俺は中々広くて扱いやすい部屋をもらった。ありがたい。他の皆はもちろん別の部屋を案内された。
明かりが提灯だったり鬼の面が飾ってあったりで結構ホラーな感じだが、別に慣れれば問題ないだろう。
暫くは明かりの付け方によっちゃビビるだろうが。
「……さて。まだ18時くらいだし、少し街に散策にでも出てみるか」
俺はそう思って、街に出かけてみた。
おどろおどろしい飾りなんかもあるが、活気がある。鬼や人、エルフなど様々な人種の人々がいるし、すごく良い街だ。俺はこういうの、とても好きだ。この国が平和な証とも言える。特定の人種が威張っているわけでもないしな。
ぶらぶらと街を歩いていると、一軒のカードショップらしき物を見つける。
ん!?
「カドショ!!? あ、でもアレか、"ヤミノミコン"てなカードゲームがあったな!」
そう。この世界にはTCG……トレーディングカードゲームがあるのだ。本当に、本当に現代チックな異世界である。
そしてTCGがあるならカードショップもあって然るべきなのだ。何も驚く事ではない……だろう。
入ってみるか。
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「失礼しまーす……」
内装はとても綺麗で、かなりシンプルだった。ただ広告だとかは現実だったら何度でも優秀賞を取れるくらいにはしっかりしていた。
ショーケースには高額なカードなんかが並べられている。円で設定されていて、かなり高い。
特に"ヤミノミコン"のカードは、3000円なんかは当たり前のようだ。デッキも超高額である。
そして"ヤミノミコン"はこのショップはメインで取り扱っているようだ。……随分前にロバストに聞いた環境デッキがずらっと並んでいる。面白デッキっぽい物とか、安いカードで組まれた初心者向けデッキがある。
……何より驚いたのは。
「……ロバストにもらったデッキクソたけぇじゃん」
"赤青ヨルムンガンド"だったか。あのデッキ、このショップでは"134000円"とかいう超高額で売られている。何だこれすげーな。
ほぇー……というような、呆気に取られた顔してショーケースを眺めていると、横から、灰色の袖を纏ったかなり筋肉質な手が伸びてきて、指で"赤青ヨルムンガンド"デッキの値段を指した。
俺は驚いて横をゆっくり見た。
「……おいおい、値段が安くなってるならまだネタに出来るが、このミスはダメだろ」
腕の主は、やれやれというような、呆れたような顔をした、大柄の男性だった。
「……値段、ミスってるんですか?」
「ん? んー……0が一個多いですね(笑)」
「あ、という事はこちらは13400円なんですね、本当は」
「そういう事になりますねー。こちらの購入をお考えで?」
「いえ、友人からこのデッキをそっくり貰ったんですが、値段があまりにも高かったのでびっくりして」
「あー! なるほど! そうですね、昔は"ヤミノミコン"だとこれくらいの価格の物結構あったんですが、最近はテーマにフューチャー……集中強化と集中再録を行うパックを公式が発売するようになりましたので、段々と安くなってきてますね」
丁寧に説明してくれている。笑顔を絶やさないし、この人はとても良い人のようだ。
「なるほど……。ありがとうございます」
「こちらには初めてご来店ですか?」
「はい!」
「そうですか。ありがとうございます。旅行ですか?」
「実は僕、"神剣城"というギルドのリーダーなんですが……今日から依頼でこの国に滞在する事になりまして。暇が出来たので街を歩いていたらここを見つけまして……」
「えっ、リーダーさんなんですか?」
「はい」
男性はそこまで聞くと、ニヤリと笑った。
「……実は私もギルドリーダーなんです」
「ほぇ?」
「私の名は工藤陽平。クソったれの転売ヤーや犯罪者どもをボコボコにぶっ潰すために発足した、カードショップ兼ギルド"陽平工房"の社長兼リーダーでございます!」




