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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
窮鳥入懐のディターミネイション

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17/43

我王の城へ


ガンド達がエルファニア行きの超速特急に乗ったころ、当のエルファニアでは…


──────────────────────


「……クソ!! 面倒くさいったらありゃしねぇ!!」



エルファニア "我王"の地、"鬼ヶ城辺"。

鬼達が牛耳るこの地には、強大な摩天楼が存在している。超技術を持つ河童達を住まわせ、働かせ、技術の発展を行なっているのだ。


薄暗くなってくると、この辺りは摩天楼と合わさってとても優雅な景色を見せてくれる。


そんな鬼ヶ城辺の摩天楼の中を、2つの人影が、怪物のような影を追い、飛び回っていた。


「ギークさん! そっち行きましたよ!!」


1つの影は、アンブラの物である。

彼は、ガンドより先んじて依頼を受け、一旦は断ったが、千明の気まぐれに付き合わされ、千明と共にエルファニアに潜入していた。


そしてもう1つは……


「ちっ、了解!! とっとと仕留めるぞ!!」


もう1つの影の主が、暗闇の中から光の当たる場所へと出てくる。金髪でポニーテールで、黒いコートを羽織り、上下真っ黒なスーツを着たその青年の名前は、ギーク。


「"雷撃武装"!!」


ギークの腕に電流が走って、ばちばちと音を立てる。はっきりと見えるその電流を纏った腕をギークが思い切り振ると、パンチを形どった電流のエネルギー波が放たれ、怪物のような影を追う。


それが見事に命中すると、ギークは更に足に電流を走らせる。


「アンブラ、炎を貯めろ! 俺が奴を捕まえる!」


「はい!」


ギークは目にも留まらぬ速さで飛び進み、先ほど電流を喰らってよろめいた怪物の影に飛びつき、一瞬のうちに捕まえてしまった。


「ぶっ放せ!」


「……"マキシマム"……」


アンブラの腕が発火する。実際には炎を纏っただけだが、人から見ればそう見えるのである。


だが、アンブラがそれを放つ前に、ブーメランが1つ、怪物の頭に突き刺さった。


怪物が動かなくなると、ギークがため息をつく。

空中で怪物を捕まえたまま浮遊していたギークはそのままゆっくり下に降下し、地面に着地する。


「おい、パラス!! 勝手に仕留めてんじゃねえよ! アンブラにポイントつかねえだろうが!」


「ここで炎を出して、ビルに燃え移ったらどうするんだ? 仕留めて正解だろう」


摩天楼の影から、黒髪の青年が現れる。緑色のジャケットを着て、黒色のズボンを履いており、強者のオーラを醸し出している。


彼の名はパラス。


「それに、アストルティアからはるばるやってきて、他の国のギルドにポイントを持たせるのは如何なものかと思うのだけど?」


「うるせぇよ。テメェがどう言おうがな、俺が気に入ったんだからそれで良いんだよ。しゃしゃり出てくんな」


ギークとパラスがいがみ合っているのを見て、アンブラはため息をつく。


(……本当にこの人達、あの"五十の辻"の"プロ級メンバー"なんだろうか……)


ギークとパラスの所属するギルド"五十の辻"は、"アストルティア連邦国"という国のギルドであり、その名の通り50人の精鋭……でなく、名前とは関係なく50人以上の名だたる異能使いが所属するギルドである。


彼らは、"五十の辻"でも特に強大な力を持つ"プロ級メンバー"であり、その実力は指折り付きである。


しかし、彼らのいがみ合っている様子を見ると、そうは見えないのも仕方ないだろう。側から見れば高校生の喧嘩のようなのだから。


「……不安だ。この人達と協力して、あの"依頼"をこなすなんて……」


「「なんか言ったか!!?」」


「い、いえ! 特には〜!」


──────────────────────



『次は〜エルファニア中央〜エルファニア中央〜』


「……はっ」


いかんいかん。

どうやら俺は途中から眠っていたらしい。


俺の肩にフェターリアが寄りかかっている。可愛い。

トレイルとアンも肩を寄せ合って寝ている。俺たちはとても仲がいいのだと、改めて認識する。


「……フェターリア、起きろ。降りるぞ」


「……ん〜? ……わかった……」


あくびをしながらゆっくりフェターリアが起きる。俺はフェターリアが肩から離れるのを待って、トレイルとアンを優しく起こした。


「……さ、ゆっくり用意して、出発だ」


「「「お〜……」」」


「……眠そうだな」


アレ?

そういえば、レナがいないような……。



ん、ちょっと待て。

そもそも、レナはどこに座ってた?

……この座席は4人用だ。アイツが座ってたなら、少しは窮屈に感じて良いはずだ。



『私はそこにはいない。元からいない』


「!?」


レナの声がする。俺の頭がおかしくなったのでないなら、頭の中に語りかけているのだろう。


おそるおそる、頭の中で返事をしてみる。


「……どういう事だ?」


『私は、"魔法"使い。あなた達の使うこの世のものならざる力"異能"とは違う、古来より存在する呪術を使う者』


「……ちょっと待て、なんで魔法と呪術を同列みたいに……」


『それは……長い話になる。だから、またの機会にして欲しい』


「……わかった」


『……とにかく、()()()()()だから、私はあなた達の想像の及ばない事も出来る』


「ふむふむ」


『これはその一つ。分身を作り出して様々な事を共有出来る力と、一度話した相手の脳内に直接語りかける事が出来る力』


「……すごいな。色々と」


『納得してくれただろうか』


「まぁ、とりあえずそういう事にしておく」


『わかった』


「それで……ここからどうすれば?」


『ひとまず現王担当の"我王"の地……"鬼ヶ城辺"に来て欲しい。詳しい事はそこで話す』


「了解」



「よーし、皆。"鬼ヶ城辺"に行こう。多分そこで……」


「……聞いておったわ」


「え?」



「聞こえてましたよ?」


……。

どうやら、アンやトレイルにも語りかけていたらしい。言っといてくれよ。



俺は少し不機嫌になりつつ、眠そうなフェターリア達をやさし〜くしんちょ〜うに誘導して、列車から降り、駅で乗り換えして"我王線"に乗り、"鬼ヶ城辺中央街駅"まで乗って行った。


途中キャリーケースを線路内に落としたり、フェターリアが正面から転けそうになったので受け止めた何故か突き飛ばされたりと、変なイベントもあったのだが、長いので割愛する。


とにかく、ある程度は無事に"鬼ヶ城辺中央駅"にたどり着いた。



自動開閉ドアが開き、フェターリア達をやさし〜く誘導しながら降りてみると……



「テメェかぁ!? アンブラの親友ってのは!!」



……なんというか無駄に声の高い、はっきりと響く嫌な声が轟いた。


目の前には金髪ポニーテールの謎イケメンがいる。そしてその剣幕から、そのイケメンが叫んだ事に気付く。あぁ、残念なイケメンなのだろうと、俺は悟った。


「……ア、アンブラのお知り合い……ですか?」


「あぁ。一昨日からの知り合いだ。お前で間違いなさそうだな。俺はギークだ。よろしく!」


うわぁ!! いきなり落ち着くな!!


「それで、何のご用ですか?」


「テメェと……嬢ちゃん達は"我王"に用があんだろ? 俺たちと目的は同じみてぇだし」


「あ、はい」


「多分このくらいの時間に来る、と戦王さんが言うんでな。とりあえず迎えにでも行くか、とな」


「なるほど。ちょうど道を調べようと思っていたので、助かります」


「おう、それなら良かった」


ギークはニカっ、と笑った。とても気前が良さそうな男である。


「アンタの名前は?」


「ガンド・ヴェルナーです」


「ふむ。んじゃあ、ガンドだな! よろしく」



「では、ガンドさんご一行、お連れいたします」


「よろしくお願いします」



──────────────────────



ギークに連れられ、俺たちはレナや"我王"のいる"鬼ヶ城"へと足を踏み入れた。


荘厳な城で、内装はやはり和風……というか、平安時代に書かれた鬼の屋敷そのまんまだ。


ビル群の立ち並ぶ街とはえらい違いだ。外から見ただけだと、平安時代と近未来都市を掛け合わせたような状態になっている。


最終的に俺たちは王の間に案内された。

デカくて豪華な扉を、ギークが叩く。


「ギークだ! ガンドさん等を連れてきたぜ!!」



『あ〜、入っていいよ』



「……だとよ。入るぜ?」


「おう」



扉が開かれる。

その荘厳な城の先にいたのは……!



玉座に座った、少女だった。またかよ。

黒髪で猫耳をつけており、何やらフリルのついたセーラー服を着ているが、額には立派な角が付いている。



「ようこそ。我が城へ。さぁ、依頼について説明するにゃん♡」




どうやら、これからが本番らしい。

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