閑話休題 金甌無欠のフラグメント
初任務より、半年ほど経った頃。
民間の任務をこなすのにも慣れ、書類仕事にも慣れ。上手くこなせるようになり、全体的な評価も上がってきた。
そんなある日、フェルバーさんから2回目の直属の依頼が送られてきた。
前回が"アレ"だったので、今回は一体どんなヤバい依頼なんだと、皆で警戒しながらアンの話を聞いてみると……
「今回の依頼は、帝国中央駅に明日午前3時ごろに到着する連絡便に積まれた、フェルバー様のお荷物を護衛する任務です」
「……そいつはどんな激物なんだ?」
「いえ、激物とかではなく、高価な宝石のような物です」
「……本当に……?」
「はい」
俺たちは心から安堵した。
警戒心が強すぎて、気を張りすぎていたのか、その場にへたり込んでしまった……。
次の日の午前3時、俺たちは言われた通りに帝国中央駅へ向かい、連絡便を待った。
やはりというかなんというか、連絡便はディーゼル車が引っ張っている、J◯の貨物列車みたいな見た目をしていた。
そろそろ現世と間違えそうなんだが?
俺は異世界にいるんだよな? なぁ??
「……わかっちゃいたが、いざ見ると色々驚きと困惑が出てくるな」
「……そっちの世界にも、このくらいの列車はあるじゃろうに」
「いや、あるからびっくりしてるんだよ。俺らの世界で語られる「異世界」は、こういう物は無かったから」
「ならば、其奴らは真の異世界を知らんのじゃな」
"神剣城"のリーダーである事を車掌に伝え、荷物を持ってきてもらう。
車掌は小包を持ってきて、俺たちにそ〜〜〜っと渡してきた。
どうやら、相当丁寧に扱わないといけないらしい。
俺たちは交代交代で小包を持ち、落としたりなんたりしないように慎重に、ゆっくり持って帰った。
アジトに戻ると、フェルバーさんが待っていた。お付きの人とかはおらず、1人で来ていた。
「……へ、陛下。こちら、お荷物です」
「うむ」
小包をそ〜〜〜っと渡した。
フェルバーさんは小包をそっと開け、中の物を取り出した。
取り出されたそれは、美しい何かの破片であった。透明の球体に入れられていて、中で常に浮いている。
「……フェル、これはもしかして……」
「ああ。これは"コンクルード・フラグメント"だ」
「"コンクルード・フラグメント"?」
「"その単体のみで完結する性質を持つ破片"だ。とても高価な物だが、今回ある国から安く仕入れる事が出来たのだ」
「へぇ〜。それで、これはどんな性質を持つんですか?」
「これの性質は……」
フェルバーさんがそう言いつつ、フラグメントに触れると、フラグメントの表面に、映像が浮かび上がってくる。
「"電子機器と、電波などを介さず完璧に連絡を取る事が出来る"性質だ」
映像には、薄暗い、デスクの上にコンピューターが無数に並べられた部屋と、その中の一台を椅子に座って操作している1人の少女が映し出される。
「む、出しどころを間違えたか」
フェルバーさんはそう言って、フラグメントに触れ、ダイヤルを回すような動きをする。すると映像が切り替わり、恐らく先程の少女であろう人の前面が映し出された。
『ひょっ!? あっ、フェルバー陛下!? という事は……例のブツを手に入れたんですか!?』
「ああ」
『では、"神剣城"の皆さんも無事に任務をこなしたんですね!! これで一安心、です』
「そうだな」
「紹介しよう。彼女は我の配下の清宮園江だ。IT関連を担当している」
『よろしくお願いします〜!』
「よろしくお願いします」
俺が返事しておいた。
清宮園江という名の少女は、朱色のおさげでとても可愛らしい……ただ、なんというか全体的に少し"幼い"感じのする雰囲気の子であった。
「お前達には、このフラグメントを介して、園江と情報交換をしてもらいたい」
「……情報交換? 何をじゃ?」
「なんでもだ。このフラグメントなら情報が漏れることもない。日頃の事も、重要な事も、なんでも話せ」
「なるほどのう」
「このフラグメントは壊れやすい。それゆえ……」
「アン! アレをもってこい」
「はっ」
アンが、別の部屋からガラスケースを持ってきた。フェルバーさんはそれの蓋を開け、ゆっくりとフラグメントをケースに入れ、蓋を閉める。
ガラスケースには少し大きめで、フラグメントは出てこないくらいの穴が開いている。
「ここから触れられる。フラグメントから連絡を取る時は、ダイヤルを回すような動きを3回するのだ」
「切るときは?」
「逆に3回回せ」
「了解です」
「では、詳しい事は園江に聞くが良い。我は宮殿へ戻る」
「はっ」
フェルバーさんはそのまま部屋を出た。
『……ええっと、まず……今後はアンさんだけでなく、私からも連絡を行います』
『重要な依頼や、極秘の情報などは私から連絡する事になると思います』
「了解です」
『はい。あとはまぁ、話したい時に声をかけるかもしれません。その時はよろしくです〜』
「あ、は〜い。それは全然構いませんよ。いくらでも話し相手になります」
『ふへへ、そうですか? ありがとうございます〜』
『それにしてもガンドさん……あなた、随分可愛らしい顔をしてらっしゃるのですね』
「……は?」
可愛らしい? 俺が?
「……俺が?」
『アレ? ……もしかして気付いてらっしゃらない?』
そういえば、スマホの画面に映る自分が、おっさんでなく美少年、いやなんか美少女っぽく見えていた気もするが。んなわけないだろうと思っていた。そもそも忙しすぎてスマホを触る暇なんかほとんどなかったし……
……浴場でも鏡をあまり見ないんだよな、俺。
「……なぁ、清宮さん。鏡あるか? ちょっと見たいんだが」
『はい? 良いですよ?』
清宮さんが鏡を持ってきてくれる。
少し歪んで見えるそれを覗き込むと───
───────そこに映っていたのは、黒い綺麗な髪を持つ、中性的な美貌の人間であった。
……は???????
「はぁ!??? これが俺ェェ!?」
『? はい、そうですけど。だから言ってるじゃないですか〜。可愛らしくて素敵ですよ!』
「……えぇ……。元はおっさんだったのに……」
なんともいえない気持ちになった俺は、キョトンとしたトレイルやフェターリアらに見つめられながら、ガクッと項垂れたのである。
あまりにも鈍感すぎる、と。
俺は心の底からそう思った。




