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異世界異能譚  作者: 幸田啄木鳥
目覚めと始まりのメタスタシス

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クルーティ・フラジール その①






指名手配犯バッラのあらかたの情報に目を通して、とりあえずの捜査方針を決めた。


まぁ、被害者や目撃情報がとにかくスラムの辺りに集中しているから、それ以外の場所で捜査する意味などないわけで。手分けしてスラムを探索してみようという話になった。


多分スラムに地図なんて物もないだろうから、ついでにマッピングもしていこうという話もした。


方針が決まった後、俺達はとりあえず今日は休んで明日捜索する事にした。






その後、俺達は晩御飯……というよりは晩餐というべきか。とにかく、ギルド設立して以来初めてとなる、メンバー全員での食事を取った。




アンは、フェルバーから俺達の世話をするように言われていると言っていた。当然それは食事の面倒もなのだ。


が、しかし。1人で作れる量には絶対に限界がある。トレイルが手伝っていたが、そうは言っても微妙な所だろう。迷惑をかけているようで申し訳ないなと思っていたのだが……




実際食堂のテーブルに並べられたのは、2人で作ったにしてはあまりにも多い数の料理であった。ワインも置かれていて、今から宴会を始めようという雰囲気が満載である。




「……つ、作ったのか? これを? 2人で?」



「はい。と言っても、このレシピを考えていたのはアン殿です。私はお力添えをさせていただいたまで」


「あはは……トレイル様がいなければ、間に合わなかったかもしれませんが」




「妾も手伝えば良かったかのう?」


「いえいえ。フェターリアさんには重要なお仕事がありますし」


「確かにあれも重要じゃが……」


「まぁまぁ。とにかく食べよう。せっかく作ってくれたんだ。冷めないうちに食べないと損だよ」


「……そうじゃな。頂こう」




「ではフェターリア様にも1つお手伝いしていただきましょう」


そう言うと、アンがワインボトルをフェターリアに手渡した。


「あぁ。なるほどのう! ガンド、グラスを持つが良い。妾が注いでやろう」




フェターリアはやけに嬉しそうに、俺が手に取ったグラスにワインを注いだ。随分申し訳なさそうにしていたし、これはこれで良かったのだろう。





皆が席に座って、グラスを持つ。


「それでは……ガンド様、よろしくお願いいたします」


トレイルがそう言ったので、俺は少し考えてから、口を開いた。


「それじゃあ……ギルド"神剣城"、設立を祝って乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」




ちなみに、ご飯はすんごく美味しかった。

現世で一度行った事のあるイタリアンの店。あの店の料理は大層美味い物だったが、あんなのは到底及ばないくらいの美味しさがあった。あの短時間でこれだけの物を作るなんて、すごい腕前だな、と思ったが……。




不意に、むかし母の料理に子供ながらも感じていた温かみに近い物を感じた。


そして気付く。これだけ美味しいと感じるのは、それだけ美味しいと思って欲しいと願って作ったからだと。


もちろん、あの時の店側にその気持ちが無かったなんていうつもりはさらさらないが、そう言った客に対しての料理と、大切な人に対しての料理とは、随分違った感情を持って作る物だと思うから、その分感じる物の大きさも変わってくるのではないだろうか。


何が言いたいのかというと、俺は彼女らに大切な人だと思われているのかもしれないな、という事だ。驕りかもしれないが、共に過ごした時間が短い中で、それだけ想われているのは嬉しい事だ。



俺は感謝を込めて食事をし、ちょっと無理をしつつきっちり完食した。胃袋を鍛えて、もっと食べれるようにしないとな。




俺が「ご馳走様」を言った時も、皆嬉しそうに笑っていた。……俺は出逢いに恵まれているのだと、心の底から実感した。





「っあ〜〜〜〜〜」



俺はその後しばらくした後、風呂に入った。



「……にしても、俺は良い仲間を持ったもんだなぁ。いまだにあの量を2人で作ったのは信じられないけど」


「……トレイルの異能、とかかな。アンももしかしたらそういう異能なのかもしれない」



俺は現世にいた頃から、あるゲームの某メイド長の影響で、普通に仕事が出来る人間という考え方は出来なくなっていた。大抵異能かなにかだと推測してしまう。




「あ〜……ダメだなぁ〜〜。すぐこういう発想になっちまうなぁ。まぁこの世界ならそれで良いんだろうけどさぁ」




四方八方、どこを見ても異能者がいるような世界だ。何に対しても疑いを持つべきである。


しかし人間的には疑いを持ちすぎるのも良くないのであって、この辺りはかなり難しい所なのだが……。



「……はぁ」





入浴を終えて着替えた後、寝室で寝た。やたらと豪華なベッドが用意されていて、なかなか寝付けなかった。




寝不足気味で迎えた次の日、朝早くから俺は調査のために支度をしていた。



「……くそ、まだ眠いな……」



ようやく寝付いたのが朝の3時で、起きたのが6時だったから、ほとんど寝ていない。


こんな状態で大丈夫かとも思ったが……よく考えたら現世にいた時も睡眠時間3時間なんてことは割とあったし問題ないか、となった。




「ガンド、眠れんかったのか?」


「……ん〜、まぁ大丈夫だよ」


「なら良いが……」




朝食を食べた後、いよいよ調査に出る。

ちなみに朝食は和食……というか、鮭と味噌汁だった。普通だ……と思いつつ、美味しく頂いた。


どちらかと言えばこっちの方が落ち着くから、問題はないのだが。


昨日張り切りすぎたらしく、そこまで頑張れなさそうだった、とアンとトレイルは言っていた。そりゃそうだろうよ。



で、疲れた2人をそのまま調査に同行させるわけにはいかないので……調査は俺とフェターリアで行く事にした。




4番スラム街。数日前にあのパーカーの男と戦った場所だ。


昼になって行ってみると、思っていたよりも寂れており、住宅は廃材などのつぎはぎで構成されており、そのせいかどこが道でどこが道じゃないのかわかりにくくなっていた。


いくら壊しても問題ないと彼が言っていた理由がわかる。これだけつぎはぎだらけなら壊しても修復するのは簡単だろう。



「フェターリア、どっから入れば良いんだこれ」


「そうじゃなぁ。まず、データによると……あの右端の道を進んだ方に、居酒屋があるらしい。スラムの情報はそこで集められそうじゃと」




俺たちはスラムの細くてチョッピリ臭う道を通り、居酒屋を探す。


道の中は廃材などでごちゃごちゃで、すごく歩きにくい。頭や腕がガンガンつっかえる。整備くらいして欲しい所だ。


まぁ、おそらく何度も壊れていて、どこかで整備を諦めたのだろうな、という想像はつくのだが。




ようやく目的地であるちょっとボロめの酒場に辿り着いた頃には、体の節々にちょっとずつ痛みを感じていた。フェターリアも同じようにあちこちぶつけているからか、すごく不機嫌そうな顔をしている。


「……大丈夫か?」


「平気じゃ。 ただ……流石にここまで道が悪いと不機嫌にもなるじゃろう」


「確かにそうだな。だが、スラムに入った時点でこういう可能性があるのはわかってたし、仕方ないと俺は思うけどな」


「それはそうじゃ。そんな事はわかっておる」




そんな事を言い合いながら、俺たちは酒場に入店した。内部は思ったより広く、いかにも西洋風と言った感じで、外装からは少し意外なほどにおしゃれだった。


カウンター席があったので、賑やかなテーブル席の間を進み、2人で並んでカウンター席に座った。


カウンターの先では、バーテンダーの服を着た、顔に一本の大きな傷跡のある男が、グラスを拭いていた。おそらく店主だろう。



「お客さん、何にしますか?」


「何でも良いから、軽めのやつを」


「お連れさんは?」


「シェリーはあるかの?」


「ありますよ」


「では、それを頼む」


「かしこまりました」



暫くして、店主はお酒と共に、何やらカードゲームのパックのような物と、カードプロテクターを渡してきた。



「……えっ、これ、カード……?」


「はい。最近この酒場で流行りのゲーム「ヤミノミコン」のパックです。お客さんご新規さんですので、サービスです」


「……ここで開けても良いかい?」


「どうぞどうぞ」



なんというか、懐かしい気持ちになる。

ここに転移するまでは、ずっとカードゲームに触れていた。趣味だったのだ。


後輩に呆れられるほどカードゲームに没頭していた事もあったな……。



「ガンドよ。調査を忘れてはおらぬよな?」


「あっ。いやいや、忘れてないよ。マスター、少し聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」


「なんでしょう」


「"バッラ"という男について、何か情報はないかい?」


「おやおや。その男の名前が出るとは。もしかして……ギルドの方ですか?」


「まぁ、な」


「では、その男の情報に詳しい者を1人知っておりますので、後ほどご案内いたします」


「そうか! ありがとう」




その時、酒場に誰かが入ってきた。


「おや、いらっしゃい」


「よう、フランベ。いつもの頼むぜ」


「またアレかい? 物好きだね」


「まぁな。ロバスト、お前もなんか飲むか?」


「やめとくよ。俺はこの後、大会があるしね」



ゆっくりと会話しながらこちらに近づいてきて、俺の隣とその隣の席にその2人は座った。




「よお、兄ちゃん。ここは初めてかい?」



そのセリフを聞き、俺は確信する。

彼らがはじめに入ってきた時から、聞いた事のある声がすると思っていたのだ。

正解がここにいた。




「……お前、この前の」


「……ん?」



隣に座ったのは、あのパーカーの男だった。

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