超能力に憧れて何回も試した事あったけど今にしてみたら何回か本当に出来てたような気がするから不思議だよね
やぁ、どうも。
しがないセキュリティ会社の社畜です。
さて、まずは名前を言おうかな。
山南竜馬。
それが私の名前だ。
なんとも歪な名前だとは思わないかね?
苗字は山南敬助の山南だ。
知る人ぞ知る新撰組の参謀役だった男だ。
名前は坂本龍馬の龍馬だ。
こちらは有名な、土佐藩の薩長同盟だとか仲介した頭の切れる男だ。
山南は切腹。龍馬は暗殺。2人とも、最後は悲しい幕切れで生涯を終えている……。
そんな2人の名前を受け継いでいる私は、どんな悲しい末路を辿るのだろう。それともそれを乗り越えて、歴史に名を刻むのだろうか。
一生のうち、何度も何度もそうやって考えていたのだが……
まさかこんな、竜巻に巻き込まれるようなオチだとは思わなかったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!
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「ァァァァァァァァ……あ?」
竜巻に巻き込まれて、随分経った頃。
突然、地に足がついたような感覚があった。
竜巻の中では目を瞑っていたので、周りが見えていない。
もしかしたら死後の世界かも─────?
そう思って、ひとまず目を開けてみた。
「……ここは……?」
薄暗く、不気味な一室に、俺はいた。
辺りには西洋風の人形や藁人形なんかが飾られている。悪趣味な上に歪な部屋だ。
なにやら魔法陣のような物の上に、俺は座り込んでいる。やけに腕が細く見えるのは気のせいだろうか。……まぁ、気のせいだと思っておこう。
「……これは……噂に聞く、異世界転生というやつか?」
俺は冷静に分析する。割と小さい頃から交通事故寸前の事故とか、ヤクザに撃たれる一歩手前みたいなシーンとかがあったせいでこういう突拍子もない場面には慣れてしまっている。
しかし少し疑問に思う。
転生というにはあまりにも……その、方法が過激すぎるような気がする。
いや、竜巻だぞ?
自然災害の類いを、転生に利用する……なんてのは、もはや神の所業だ。
だが、この魔法陣は明らかに人為的だ。これでは人に召喚されたとしか思えない。
……おかしい。単に俺だけが人に召喚されてここに連れてこられるなら、少なくとも竜巻なんて大それたやり方をしなくて良いじゃないか。
「……っあ〜! ダメだ!!」
昔からの癖だ。
俺はこういうどうでも良いことで考えすぎる癖がある。
良い方に働く事もあるが、大体そのせいでミスをするので本当に良くない。
そもそも今、考えるべきはそんな事じゃなく─────
「……この小屋からどうやって出るか、だ」
何故かはわからないが、俺は後ろ手に鎖を付けられ、拘束されていた。
いや、召喚した奴をわざわざ拘束するなよ。
「なんのための転生だよ!? 頭おかしいんじゃあねーのかぁ!!?」
──いや、待てよ?
異世界に召喚されて、勇者だとかそういう役職に就くような、都合の良い展開がそうそうあるわけはない。
むしろこういうのは生贄だとかに利用される可能性の方が高いのでは─────?
「ウワァァァァァァァァ!!!」
今すぐ逃げなくては。
下手をすると、魔物的何かに喰われかねない!
必死に拘束を解こうともがくが、鎖がそんな簡単に解けるわけがない。というか、人間の力で鎖による拘束を解こうなんて、土台無理な話である。こういうのは鍵とかで開けてもらってやっと解ける物だ。
あれ?
つまり無理って事では?
「ァァァァァア!! オシマイダァァァァァ!! 2度目の人生かと思ったら開始1秒でゲームオーバーかよォォォ!! 畜生ォォォ!!!」
喚き散らしながら、それでも生きようと必死にもがいていると、どこかからゴトッ、と物音がした。
「ヒッ!?」
そして、唸るような鳴き声も聞こえてきた。
「ゥゥゥゥゥゥゥ……」
あ、終わった。と思った。
明らかに喰われる数秒前である。
──しかし。
「キャイン! キャイン!!」
「……うるさい駄犬じゃな。失せよ」
綺麗な女の人の声がした、と思ったら、グシャリという鈍い音ともに、先ほどまで唸っていたであろう生物の声が聞こえなくなった。
「……この打鍵への贄、というわけではなさそうじゃな」
薄暗い明かりに照らされて、近づいてきたその女性の顔が見える。
赤い髪の、不思議な女の人……ん? あれ、気のせいかな。すっごぉく小さく見えるぞ? 少女みたいだ。いや、多分そのくらいの子だ。
「……なんじゃ貴様。妾を見た目で判断しておるな?」
「……生憎、ちっせぇ女の子にしか見えねーな。迷子か?」
「たわけ。妾のような小さき娘が、犬を握りつぶした事を少しも不思議に思わんのか?」
あ、そうじゃん。
「……すいません、見逃してはくれませんか」
「……ふむ。それは貴様次第じゃな」
「……あぁ……そうですか」
「……しかし、ちょうど良い所に獲物がおったの」
突然来る、首筋の痛み。
抵抗する暇もなく、一瞬で噛みつかれたようだ。
あぁ、何かを吸われている。血か。血を吸われているのか?
……そうか、この少女は吸血鬼だったか。
あぁ────でも、こんな可愛い吸血鬼に血を吸われて生き絶えるというのなら、生贄にされるよりは、いくばくかは素敵かもしれない。
そう思って……ゆっくりと目を閉じる……。
「……あれ? ちょっ、目っ、目を開けんか! 少年! 目を開けろっ! 逝くでない!!」
「……ふぇ?」
……あれ、生きてる?
「……そ、そんなつもりでは……っ。や、やってしもうたか……?」
「……あのー……」
「こ、こんな……今までこの調整で失敗した事など無いというのに……!!」
「あの! すいません! 生きてます!!」
「ふへっ!?」
目の前の少女はとても驚いたようで、目を丸くして変な格好でこっちを見ていた。
「……な、なんじゃ。生きとったか……。まぁ、妾の調整が狂う事などありえぬし? そりゃあもちろん生きとるじゃろうとは思っとったが……」
どこがだよ。
めちゃくちゃオロオロしてたじゃねえか。
「……で、何が目的で俺を生かしてるんだ?」
「……ん? あぁ、それはじゃなぁ……」
「転移者たるお主を、妾の下僕にするためじゃ。妾の"異能"での……」
「……は?」
「……まぁ、貴様が考えるだけ無駄じゃ。大人しく妾の下僕になるが良い。どうせ逆らえはせぬ」
「……いや、全然嫌ですし逆らいますが?」
「そうかそうか、嫌か! しかし妾の前では……って、ん?」
「……?」
少女が首を傾げる。
俺も、何もわかっていないので、首を傾げてみる。
「……お主、妾に従いたい、とか思わんのか?」
「ああ。全然。対等ならともかく下僕とか無理」
「……えっ」
「エェェェェェェェェェェェェ!!?」
なんだこの人。いきなり大声上げたぞ。
下僕になりたく無いっていうのは普通の感情じゃ無いのか?
誰だってそんな屈辱的なのは嫌だろう。
「……こっ、こやつ、妾の異能が通用しておらんのか……? いいや、ありえん! 妾の異能が防がれたことなどないのじゃぞ! それが、この少年に……? そんな馬鹿げた話が……!」
また出た。"異能"ってワード。
いかにも異世界らしい、厨二病的用語だ。いやまぁ普通の異世界のイメージとは少しズレてるが、それでもなんかそれっぽいワードだと思う。
「その異能がなんだかしらないけど……どうやら俺には全く効いてないみたいだな」
「……認めたくは無いが、どうやらそのようじゃの……」
なるほどな。
吸血鬼みたいなことすると思ったら、異能力とやらの儀式みたいなものだったワケか?
……俺のグレートですがすがしい、あの瞬間感じたアレ、全部無駄だったってワケか?
冗談じゃねーぜ……
「……仕方ないのう。少年よ。行く当てもないのなら、妾と共に来ぬか?」
「……え? 良いの?」
「まぁ、妾の能力が効かぬ存在など、もう2度と相まみえる事も無いであろうし……。まぁ、その、なんだ。いい機会じゃろうと思うてな」
「……本当にいいのか?」
「うむ。ついでじゃから、この世界の事、全て教えてやろう」
「どうじゃ? 貴様としても悪くない話であろう」
いやまぁ、悪くないっていうか……
「……今はそれ以外に※択無いな。わかった。ついていかせてもらうよ」
「……うむ。それでよい」
「では、共に行こう。少年よ」
こうして。
しがないセキュリティ会社の社畜のおっさんは、吸血鬼(?)と共に。
右も左もわからない異世界を、旅することになった。
……少年?
※カードゲーマーは、選択肢の事を「択」と略して言う事がある。