第五話
ガイは練習用のスタッフを構える。
俺もガイから借りた、子供用の小さなスタッフを持たされるのだ。重杖とは、魔法を発現するのに補助してくれる杖。
「さぁ、君から来てくれ」
そう言われて、身体強化を掛ける。
俺が魔法を使った事に、ガイは驚いた表情で質問をした。
「え?あれ?それって、無属性魔法第二階身体強化だよな?」
「?...そうだけど?」
「詠唱はどうした?」
「詠唱って必要なのか?」
最近じゃ相性なしで魔法を使っている。
最初は詠唱がないと、100%の力を発揮できないと考えるが、詠唱なしとありと比べても効果は変わらないと分かった。
「いつも詠唱なしなのか?」
「...うん」
「マジか。こりゃ天才だわ。この歳で無詠唱の領域に辿り着くなんて僕以上だな」
え?詠唱なしって難しいのか?この魔眼があってこそだが、魔力の流れが分かっていれば詠唱しなくとも、扱えるんじゃないのか?
ビリリッ
そして俺は稲弾をチャージする。
影はここでは使わない、呪力の事は説明が難しい。それに影無しの俺はどこまでいけるか気になる、最近じゃ影に頼ってばかり。
「...あはは、アリスどこまで僕を驚かせてくれるんだい?間違っていなければ、それは雷かい?」
「そうだよ。パパの様にいろんな属性を使えないからね」
ガイのように複数の属性を使えない。
いや、正確には無属性魔法以外は何故か使えないのだ。
「いやいや、確かに複数属性持ちは凄い事だけど、雷はそれ以上だよ...それは神の怒りの力だよ。空間魔法同様、伝説な魔法...」
神の怒りの力?
そして、俺は雷装を纏う。
「行くよパパ」
高速移動で俺はガイの背後に回り込み蹴りを入れる。だが、ガイは腕で受け止めたのだ。
「うん、魔法使いの弱点は身体能力が低い。どうやら、アリスはその弱点がないようだね。流石母さんの子だ」
「槍を放てよ。第二階魔法『岩槍』」
「?!」
刃の様に尖った岩が空中に現れ俺に射出する。
だが、あらかじめにチャージしていた稲弾で弾き飛ばしたのだ。
岩槍の詠唱ってそんな短かったか?確か、土の神よ、我が敵を貫く槍を放てよ。じゃなかったか?
「何を驚いているんだい?詠唱を端折る事より、無詠唱で魔法を放つ方が凄いんだよ」
「そうか、岩槍ってそうな感じなんだね」
チャージしていた稲弾を回転させて、ドリルの様に鋭くし高速で飛ばした。それは今までの2倍のスピードで射出している。
「んー?もしかして僕の魔法を見て真似たのかな?六道眼があるこそとは言え、初見でコピーするなんて凄いな」
「パパ、もっと本気でやって欲しいな。他の魔法も見せてくれると嬉しい」
「あはは、そうだね。なら、これはコピーできるかな?弾き飛ばせ。第二魔法『風爆』」
「?!」
速い、魔力の流れが見えなかった!
俺の目の前に風の塊が現れる。
そしてその風は小さく爆発し、俺を吹き飛ばしたのだ。だが、受け身を取りすぐにガイに攻撃をするが、全て弾き返されるのだ。
魔法のプロに魔法じゃ勝てない...いや、良いのがあるじゃん
ガイから借り全然活用していないスタッフを、剣の様に先を持ち構える。
「へぇ、見た事ない構え方だけど、様になってるじゃん。独学か?」
横で観戦していたラーラが小声で呟く。
そしてガイはスタッフを槍の様に振り回す。
「うん、次は近接戦を見せてくれるのかい?」
槍の様に突くが、全て受け流す。
「凄いな剣士の才能もあるのか?でも、もうすぐ夕飯の時間だからおしまいにしようか。氷つけ第三魔法『氷河の石化』」
「え?」
ガイから冷気が発生し俺を凍らせた。
だが、そんな事より氷なんて魔法は知らない。魔導書にはそんな魔法は書かれていない。
「パパ、これは水魔法?」
「んー、違うよ。無属性魔法には一般型と特別型に分かれてるって知ってるよね?炎属性や水属性にもそれがあってね。一般型と派生型があってね。氷魔法は水魔法の派生型なんだよ」
「あはは、そうなんだ...そんな事より寒いや」
「あ!ごめんね!」
多分威力は弱らせているが冷気で凍らせて居る事に、慌てた様子で温かませてくれた。俺はプルプルと震えながら毛布を羽織っていた。
「才能はあるけど、まだまだだね」
「...」
容赦のない父親はあはは!と笑っていた。
「(悪いな、アリスには才能がある。だから、速く君に完全な敗北を味わせたかったんだ。昔の僕の様にならない様にね)」
才能のある人間は力に溺れやすいとガイは知っていた。それはかつての自分であったからだ。同じ過ちをしない為に、アリスには痛い思いをさせないとダメだった。
「それにしちゃ、才能の限度っちゅうのがあるんだけどな...」
「え?なんの話?」
「いや...そう言えば、その状態で何分保てる?」
身体強化と雷装を纏って居る状態の事を言ってるのだろうか?
「同時なら4分ぐらい、ブーストだけなら20分、雷装...雷を纏って居る状態なら8分って所かな?」
「その歳で20分は恐ろしい才能だな」
『化け物め!』
ビクッ
脳裏にトラウマがフラッシュバックした。
才能ある者は褒められる。だが、それは行きすぎてしまったら、化け物と恐れられてしまう。もしかしたら、ガイもラーラも化け物として見てくるんじゃないのか...
「流石俺僕の息子だな!凄いぞ!」
「...」
ガイは嬉しそうに頭を撫でる。
一体、俺は何を考えてるんだ。ガイやラーラはアイツらなんかじゃない。
「アリス、剣には興味ある?」
「え?...まあ、少しは」
何故唐突にそんな質問をするんだろ?
俺はそう答えると、ニンマリも満面な笑みを見せる。
「魔法と剣、どっちが好き?」
「えー、そりゃ魔法も捨て難いが、剣も好きだな。んー、どっちかと言われると難しい」
剣は...いや、刀はよく振っていた。
前世の時は陰陽師であるが、父は剣を指導者であった。だから、子供の時から父から剣を叩きつけられていた。父は嫌いであるが剣は好きだ。
「ふふ、そっかー」
「なんなんだよ...」
ニマニマと笑う母親に、少し不気味さを覚えるのだった。
第五話 『卓越した才能の持ち主』