表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

怪奇小説集・朧

不安の情景

作者: とらすけ

 不安の情景



 もう一週間も雨が続いていた。さすがに憂鬱な気分になる。

 最終電車から降り、改札を抜け、駅の西口から傘をさして外に出る。ザーザーと傘に当たる雨の音が激しい。風がないのが幸いだった。


 道路脇の排水溝の蓋から溢れた水が、道路の上を川のように流れている。少し雨が続くとこれだ。排水溝に何か詰まっているのではないかと疑問が湧く。

 雨天用の防水の靴を履いているが、道路がこんな川の様な状態では焼け石に水。すでに足元はずぶ濡れだ。


 仕事の書類を濡らしては不味いので、鞄を胸に抱えるようにして歩く。誰も居ない雨の夜の帰り道。川のように道路を流れる水に、街灯の明かりが吸い込まれ、水が道路の上をうねる生き物のようにも見える。こんな夜には、此の世のモノとは異なるモノが姿を現す。



 何かが道路を流れる川を堰き止めていた。人間の赤ん坊の様に見える。心臓の鼓動が早くなる。

 近付くとそれは人形だった……。何年か前に流行したベビー人形だ。街灯に照らされた顔が、水に濡れながら無邪気に笑っている。

 何処からこんな物が流れてきたのか……。


 しばらく歩くと、今度は何か得体の知れないぶにゅぶにゅした物が流されてきた。

 ひゅーひゅーという声のような音を出しながら流れていった。


 後ろから、ぴちゃぴちゃと不規則に歩く音も聞こえる。

 見ると、右足の足首から下だけが、川のようになった道路の水を避けるように飛び跳ねて歩いていた。

 が、バランスを崩したのか、水の流れに嵌まり転がるように流されていった。


 そして、今度はどろりとした半固形の物だ。見ようによっては、人の泣き顔のようにも見える。

 ”てけすた、てけすた”と言いながら流されていった。



 闇の中には何かが”居る”。



 こんな雨の夜には、まるで膿を出すように、その何かが押し出されてくるのだ。



 坂道にさし掛かり、道路が滝の様になる。その上から人の背丈はありそうな巨大な玉が、わしゃわしゃと転がるように流されてきた。


 その玉が、手のついた腕の固まりだと気付いた時には、その手に身体中を掴まれ暗い闇の中に引き摺り込まれていた……。



 そして……。


 残された傘だけが、クルクルと回りながら流されていった…………。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良いですね。 こういうホラーを待ってました。 最後の傘が〜がの部分が最後まで怖さを引き出していました。 面白い作品を読ませて頂きありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ