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満喫♪ハンターライフ



「アリスちゃん、そろそろ行こうか」

「宇佐美さんー! 待ってくださいよー!」


 地元の猟友会に所属する新米ハンターの乙狩アリスは、休憩を終えた先輩ハンターの宇佐美の背中を足早に追う。

 宇佐美はこの道40年のベテランハンターで、アリスの教育係であった。時に厳しく、時に優しく導いてくれる宇佐美に、アリスは大層懐いていた。


 アリスは、高く結ったポニーテールを揺らし宇佐美の後に着いて、サクサクと気持ちの良い音を立てる新雪を踏みしめながら注意深く辺りを見回し、獣の痕跡を探す。


(あっ! この足跡はイノシシだわ!)


 しばらく歩いていると、アリスの視線の先には大きく曲がった蹄が特徴的なイノシシの足跡があった。目当ての獲物の痕跡を見つけたアリスは顔を上げ、声を潜めて宇佐美に呼びかける。


「宇佐美さん、いました! イノシシです!」


 しかし、声をかけるも、本来なら近くにいるはずの宇佐美の姿は見当たらず、不安に駆られたアリスは先程よりも大きな声で彼の名前を叫んだ。


「宇佐美さんー! 近くにイノシシがいそうですよー!!」


 いつもなら「大きな声は極力控えるように!」と咎める声とともに宇佐美がすっ飛んできてもおかしくない状況であったが、いくら待てども彼が現れる気配は無かった。


(もしかして、はぐれた!?)


 夢中で足跡を追っていたアリスはどうやら、宇佐美とはぐれてしまったようであった。辺りを見回しても人っ子一人おらず、見覚えのない景色ばかりが広がる森に、アリスの顔はサァッと青くなる。


「ど、どうしよう! こんな時はスマホ⋯⋯じゃなくて無線だわ!」


 アリスは胸ポケットから無線を取り出し、呼びかける。しかし、無線からはザァザァという無機質な音が聞こえるばかりで宇佐美からの反応は一向に返ってこない。


(なんで、繋がらないの⋯⋯!?)


 涙目になり、心細さに耐え切れなくなったアリスは腕に抱える愛銃、チェシャ丸をギュッと抱きしめる。

 アリスがチェシャ丸と名付けたその銃は、ハーフライフルと呼ばれる散弾銃の一種で、1/2以下にライフリングが施されたボルトアクション式散弾銃である。

 アリス自らがローズピンクにカスタマイズした狩猟には欠かせない相棒であった。



「うっ、宇佐美さーん!! どこですかー!?」


 孤独感が限界値を突破したアリスは獲物に逃げられることも厭わずに、大声で宇佐美の名を呼び続けた。


 アリスは、宇佐美の姿を求めて歩くうちに、日の差し込む比較的歩きやすい場所から、日の当たらない足場の悪い道へと入っていく。

 冷静さを欠いた今のアリスは、どんどんと森の奥へと進んでいることに気付かなかった。

 

 そうして、水分補給も行わずに歩き続けるアリスの足元は覚束なくなり、頭もズキズキと痛くなってくる。


「誰か、いませんかー!!」


 もうこの際誰でも良いと思った矢先、注意力を欠いたアリスの爪先は足元のツタに引っかかってしまう。


「っ! きゃあ!?」


(転ぶ——!!)


 咄嗟に受け身を取ろうとしたが、そこは運悪く急斜面で、アリスは愛銃もろとも勢いよく転がり落ちてしまう。


(いたい、痛い!! でも、チェシャ丸だけは⋯⋯⋯⋯!)


 木の枝に引っかかりながらも勢いの衰えないアリスの身体にはたくさんの切り傷が出来ており、地面に打ち付けられる胴体も傷んだが、それでもと大切な愛銃を庇うように抱きしめながら転がり落ちる。


 どのくらいの時間が経っただろうか。時間にしてみれば一瞬かもしれないが、アリスには永遠のように思える時間であった。急斜面を転がった後、ようやく平坦な地面になりアリスの身体は徐々にスピードを落としていく。


 完全に勢いが止まった頃には、露出しているアリスの頬や手は傷だらけで、お気に入りのピンクのウェアも所々破けてしまっていた。しかし、命懸けで守ったチェシャ丸は無事なようだとホッと息を漏らす。


 愛銃の無事を確認した途端に気の抜けたアリスは、大の字で新雪の上に寝転がり、やがて意識を失ったのだった。









貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ここまで読んでいただけて嬉しいです!

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