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「久しぶりね、フィンリー。地獄の底からあなたを殺しに来たわ」


「どう…して、タッ、ド」


「どうしてかって?君がそれを聞くの?言っただろう?誰かを踏みつけて平気な顔している人間は許せないって。彼女を踏みつけておいてのうのうと生きている君を心の底から軽蔑するよ」


「な…に…?なん、の、こ…と?」


「しらを切るの、フィン。私、知っているの。お父様を陥れたのはあなたでしょう?お父様の執務室に横領をしているって偽の書類を紛れ込ませたでしょう?」


「なんの、ことか…。なん、で、オレが…そん、なこと…」


「ライアンに頼まれたんでしょう?あなたは昔からライアンにべったりだったもの。リンデと恋仲になったライアンは私が邪魔になったのよね?」


 わたしはひゅっと息を飲んだ。まさか知られていたとは思わなかった。


「だけどお父様は影響力がある方だったから、私と簡単に婚約破棄できなかった。それであなたに頼んで、まずお父様を陥れたのよね?」


「本当に、ライアン様もあなたもずっと同じことをしているのね。いつまで経っても変わらないのね、次からはもっと早く会いに行ったほうが良いのかしら?これ以上被害者を出すのはよろしくないもの」


 リーリアの言葉に呆れた様にアウドヴェラ様が続ける。違う違う違う、わたしは悪くない、だってライアン様に頼まれたのだ。だから、だから!


「ち、がう…、オレは…」


「何が違うのよ、お父様の執務室に入れる人間なんて限られているじゃない。しかもお父様に問い詰められたあなたは食事に毒を混ぜたのよね?」


「ち、がう、そこ、までは…して、な…。オレが、したの、は…書、類を、まぎれ、こま」


 オレがしたのはライアンに頼まれて書類を父の執務室に横領の証拠になる書類を紛れ込ませただけなのだ。父に問い詰められたことなんかなかった。ましてや毒なんて知らない。父は自殺だと、そう言いたかったけれどもうオレには声を出すことができなかった。


「信じられる訳ないじゃない。しかも私の動きを全てライアンに報告したのもあなたでしょう?家族よりもライアンをとったのよ!」


 そう言うと姉さんはナイフを懐から取り出した。


「た、すけ、て、タッ、ド」


「助けて?君は誰かを助けたことがあるのかい?リーリアがライアンとリンデに娼館に送られた時もその後も君はリーリアを助けなかったじゃないか。

 自分は誰も助けないのに、君は誰かに助けてもらえるつもりなの?」


「この時をずっと待っていたわ、本当ならライアンも、リンデも私が殺したかった。でも、死んでしまったものは仕方がないわね。あなただけでもこの手で殺してあげるわ」


 そう言って姉が浮かべた微笑みはアウドヴェラ様そっくりだった。


「タッ、ド…、助け…」


「リーリアから君の話を聞いて、ずっと君を見ていたんだ、フィン。表面は良い人なのに、君は自分以外の人間を軽視してた。調べれば調べるほど、君の歪さがよくわかったよ。

 でも一度話をしてみたかった。もしかしたら調べたことが間違っていたかもしれないって思ったから。でも君は調べた通りの人だった。僕に身の上の話をしたけれど、あの時も自分は悪くないって話し方だった。でも父親を陥れたのは君自身だったのに。気持ち悪いって心底思ってる」


 タッドが吐き捨てる様に言った言葉に眩暈がした。知られていた、彼にだけは知られたくなかった。なぜ、なぜ、そう思ったオレに答えをくれたのはやはり姉さんだった。


「タッドはね、私の初めてのお客様だったの。私の心を助けてくれたのはこの人だった。私の代わりに色々と調べてくれたのは彼なのよ」


「ち、が…ちが、う」


「何も違わないだろう?結局いつも君は君だけが大事なんだ」


 目の前が真っ暗になった。なぜ、こうなったのか。タッドと一緒に幸せになるはずだった。どうして…?


「ねぇ、絶望しているのかしら、フィンリー。ふふふふ、私はこのまま絶望の底で這いずり回るあなたを見るのも楽しいのだけれど…彼女は貴女を殺したいんですって。それならそれでいいかと思うの。だって私には有り余るほどの時間があるもの」


 アウドヴェラ様のそんな言葉が降ってきたが、身体に痛みが走り、それどころではなかった。アウドヴェラ様によく似た微笑みを浮かべた姉さんがオレの腹を刺していた。喉から何かが上がってくる。あぁ、これで終わりなのか。


「さようなら、さようなら、フィンリー。私のことを忘れないでね?また来世で会いましょう?」


 あぁ、もう生まれ変わりたくない……。昔もそう思ったのに、わたしはまたこうして生きている。望んだことは叶わないものなのかもしれない。来世もまたアウドヴェラ様はやって来る。幸福の絶頂の時に。

 それならば、幸福を感じない様に生きていけば、いいのかもしれない。薄れゆく意識のもとで思った。けれど、アウドヴェラ様のことを思い出すのは彼女に会ってからだ。幸せになった時にアウドヴェラ様はやって来る。覚えたまま、生まれ変わりたい。そう思った時に、ふと思った。幸せを求めずに生きていける人間などいるのだろうか?いるはずなど、ないだろう。少なくともわたしは無理だ。


 あぁ、これは抜け出せない地獄だ。そしてアウドヴェラ様はこの地獄にずっと生きている。そして、わたしたちを待ち構えている。ふとシアの言葉を思い出した。


『道理で地獄が空っぽなわけです』


 そうか、全ての悪魔は地上にいるのか。

 胸に走った痛みを最後にわたしの意識は闇に飲まれた。

思ったよりも長くなってしまいました。ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。


 もし、この話の続きを書くときはヴェラ視点になると思います。そのときはどうぞ宜しくお願いします。


 また、傷物令嬢の更新が遅れております。申し訳ありません。頑張って参りますので気長にお待ちいただけるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。 軽い気持ちで読み始めましたが、気づいたら最終話まで夢中になって読んでいました。
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