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結婚式はめちゃくちゃになった。教会内にいた人間には緘口令が敷かれた。町長がなんとか収集をつけたが、ロブやライアンの惨たらしい死体は見せられないということで碌に葬式も出してもらえず、彼らはひっそりと埋葬された。
リンデの死体は割と綺麗な状態だったが、彼女も手厚く葬られることはなかった。町長は元よりリンデが気に食わなかったのだろう。町長の家の墓に入れることを許さなかった。それどころかリンデの死体から豪奢なドレスを剥ぎ取ると、死体は町の外へ投げ捨てる様に命じたらしい。
その命令が実行されたのか、それとも情けで親元に返されたのかはオレは知らない。調べようとも思わなかった。ただ、後日会ったおやっさんはたった一日で十以上も老けた様に見えた。
タッドは俺を心配したのか、その後一週間ほど一緒にいてくれたが、オレが落ち着いたのを確認するとまた行商の旅に出た。
程なくしてサイラスは何かに追われる様にひっそりと王都へ向かった。サイラスが王都へ旅立つ時、オレだけは見送りに行った。そして気になって気になって仕方がなかったことを聞いた。
「なぁ、あの時、シアに何を言われたんだ?」
「やめてくれ、思い出したくない」
震えるサイラスは体重が一気に落ちた様で骨と皮だけになっていた。先日までは知的で、自信に溢れた美形だったのに、今ではかつての姿は見る影もない。
「ごめん、でもさ。オレにも関係することかもしれないじゃないか」
「なんでお前に関係があると思うんだ?」
オレは返答に困った。けれどどうしても聞きたかったのだ。
「だって、オレとお前があの二人を町に案内した様なものじゃないか」
オレの言葉にふうっとサイラスはため息をついた。そして周りを探る様に見た後、重い口を開いた。
「『今ここで死ねたら、幸せだったでしょうに』だとさ。この後、僕はどうなるんだろうな。……あの二人はいつかまた僕を殺しにくるんだろうか?」
オレには何も言えなかった。そんなオレを見るとサイラスはうっすらと笑った。
「見送り、ありがとな。お互い頑張ろう」
それから程なくしてサイラスはこんな辺境な町にも名声が届く様な、魔術師になった。村からの帰り道や結婚式の時、一切動けなかったやつが、と思うとなんだか感慨深いものがあった。
それから二年後くらいにサイラスが魔術師団長になるという話がオレの耳に入った。それほど実力がついたなら、もう大丈夫だろうと思った。
それなのに、その叙任式の前に奴は死んだらしい。死に際がどんなものだったかは誰もーー親ですら、教えてもらえなかった。サイラスの遺髪だけが町に帰ってきた。サイラスを殺したのは恐らくヴェラさんだと思った。これで全てが終わったのだろう。