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あれだけ酒を飲んだのに、次の日は早い時間に目が覚めた。オレは本来は朝は弱い人間なのだが、昨日も今日もなんだか早くに目が覚めた。二度寝をする気にもなれなかったので、起きて、朝食の準備をすることにした。朝食の準備を始めようとしたら、タッドが起きてきた。
「あ、ごめん。泊めてもらったのに手伝いもしないで」
そう言ってタッドは朝食の準備を手伝うと言ってくれたので、二人で手分けして簡単な朝食を作った。とは言っても昨日買ったパンの残りを焼き直して、スープを温めただけだけど。
「今日の予定は?」
オレがタッドに聞くとタッドは口内のパンを飲み込んだ後、口を開いた。
「うん、注文されていたレースとリボンを届けに行かなきゃいけないかな。あとは得意先を少し回って仕入れをしようかと思ってる。
フィンは?」
「オレは特別な仕事を受けてたから五日間は休みをもらえるんだ。だけど、まぁちょっと知り合いに会いに行こうとは思ってる」
オレの言葉にあぁ、とタッドは頷いた。恐らく察したんだろう。タッドは苦笑いをこぼすと馬に蹴られない程度に程々にね、と笑った。
朝食後、タッドは荷物を整理してロバに乗せると出かけて行った。この町にいる間は、遠慮せずにオレの家に泊まってほしいとオレが伝えたら、タッドは嬉しそうに笑って「助かるよ」と言ってくれた。助かるのはオレの方だと言うと顔をくしゃくしゃにして笑った。
タッドを見送った後、オレはライアンの家に向かった。明日が結婚式だから忙しいかもしれないと思ったが、訪ねて行くとライアンはすぐに会ってくれた。
ライアンに会うのは少し緊張したし、今からのことを思うと怖かったけれど、ライアンは機嫌が良さそうだった。
「やぁ、フィン、ドレスは受け取ったよ。悪かったな」
「あぁ、役に立てたなら嬉しいよ。そういえば、サイラスとロブから話を聞いたかい?」
「橋の話は聞いたよ。親父に伝えておいたから安心して良い。ロブからは何も聞いてないな。何かあったのか?」
「明日が結婚式なのは重々承知の上で言うんだけどさ、リンデとの結婚は辞めておいた方が良いんじゃないか?」
怒るかもしれないと思いつつそう言ったらライアンは、ふふふと笑って肩をすくめた。
「他でもないお前が反対するのか、フィン?」
そう言ったライアンの声がいつもより低い気がした。不興を買ったかもしれないと思うとライアンの顔が見れなかった。なんだか居た堪れなくなって右手の親指の爪で左手の親指の爪を弾いた。緊張していたのだろうか、思ったよりも強く弾いてしまった様で手が痛んだ。
「わた…あの、オレ昨日見たんだ。その、リンデと」
「あぁ、皆まで言う必要はない。把握はしている。困った女だとは思うけれど、俺は何があってもリンデが愛しいんだ。どうしてこんなに惹かれるかわからないんだが、それでもあいつ以外考えられない」
ライアンはそう言って肩をすくめ、俺の顔を見ながら笑った。
「お前の忠告はありがたく受け取っておくよ。あれは情が深いんだ。だから寄って来る男を無碍にできないんだろう。大丈夫、嫁に迎えたらもっと締め上げるさ。ロブとサイラスとは距離を置かせるつもりだ」
ライアンはオレの肩を軽く叩いた。ライアンが全て知っていてそれでもリンデを迎えようとしていると聞いてオレは驚いた。正直ライアンの正気を疑った。けれどこれ以上はオレが言えることではない。
「フィン、今日は悪かったな。この話は…」
「うん、誰にも言わないさ。それじゃあ…」
正直に言ってオレはもうライアンにも、リンデにも、サイラスにもロブにも関わりたくなかった。ライアンもサイラスもロブも幼馴染だ。リンデが現れるまでは奴らのことはよくわかっていたつもりだった。
けれど今は全くわからない。三人で一人の女を取り合うことは、珍しいことではないかもしれない。けれど三人が三人その女と関係してて、しかもお互いそれを知っているなんて異常としか言いようがない。これからは四人とは距離を置くことにしようと思った。できれば明日の結婚式も出席したくなかった。