表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/108

97 情報収集


 あれからコハクに対してこれからの予定を話した。

 でも、シャルが死亡したことについてはコハクの心を傷つけてしまうと思ったため、その部分は伏せることにした。

 ……とは言ってもシャルがいないことに疑問を抱くのも時間の問題のため、シャルが突然いなくなってしまったが、アスクレピオス迷宮という場所にいる可能性がある。という内容でコハクには説明した。

 考えれば他にも良い言い訳があったかもしれないが、咄嗟に吐いた嘘がこれだった。

 でも結局アスクレピオス迷宮にはコハクも一緒に行くわけだし、無事に蘇生の宝珠を発見してシャルをその場で生き返らせることができたら、帰りはシャルも一緒になるってことを考えると、辻褄を合わせるにはこれくらいの嘘で丁度いいと思う……。

 まあ、質問されればボロが出てきそうな内容ではあるがコハクは案外すんなり受け入れてくれた。


「なら、早くそこに行ってシャルお姉ちゃんを見つけないといけないね!」


 コハクは真剣な眼差しで私に向かって言ってくる。

 なんかコハクを騙したことで罪悪感を感じてしまうのは私だけだろうか。

 母親である私が嘘をつくはずがない……というような純粋な目で見つめられると……。

 うっ……。心が痛い。ごめんコハク、今コハクの目を見られない……。

 私がコハクへの返答に困っていると、バンッと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。


「ヒナタ! 急にいなくなるとびっくりするだろ!」


 カレンが汗だくになり、息を切らした状態で部屋の前に突っ立っていた。

 あ、カレンのことを完全に忘れていた。

 ルカスからコハクのことを聞いて、無我夢中でここまで走ってきたからね。


「あ、ごめんね。コハクのことを聞いたら居ても立っても居られなくて……」

「全く……。とりあえず、あっちの方は落ち着いたから、あたし達は急いで迷宮に行こうぜ」


 カレンの言葉に私はすぐに立ち上がり、カレンを連れ部屋を出て廊下に向かった。

 カレンにはコハクに説明したことに対して口裏を合わせておく必要がある。

 そのための作戦会議だ。

 私達は廊下に出た後、部屋の扉を閉めてコハクに聞かれないように、ひそひそと話し始める。


「カレン、コハクにはシャルが死んじゃったことは言わないでね」

「まあ、確かにそうだな……。でもそれなら何て説明するんだ?」

「それについてはさっき説明したよ。シャルが突然いなくなっちゃったけど、アスクレピオス迷宮にいるかもしれないから一緒に探しに行こうっていう風に説明した」

「……それをコハクが信じたのか?」

「……うん。早く探しに行かないとって、やる気に満ち溢れていたよ……」


 カレンが呆れたような目で私を見てくる。

 うぅ〜。だってうまく説明ができないんだもん。

 コハクを騙すことにかなりの罪悪感があるんだからそんな目で見ないでよ。

 今回の嘘は騙すための嘘ではなくて、優しい嘘なんだよ。

 しかし、そう思ってはいてもやっぱりコハクに嘘をつくのは気が引ける。


「でもそう説明したんならもう後には引けないな。なら早速行くとするか!」


 カレンが凄いやる気に満ち溢れている。

 でも、いきなり迷宮に行ってすんなり踏破できるとも思わない。

 そのためには事前に情報収集が必要だ。

 何も知らない状態で挑むより、ある程度アスクレピオス迷宮についての知識が必要だ。


「その前に……その迷宮について情報が欲しいんだけどカレンは何か知ってる?」

「……知らない」


 私から目を逸らして答えた。

 どうやらカレンには計画性というものがないのか。

 いつも頼りになるリーダーなのに、一体どうしたというのだ。


 ……いや、今のカレンの頭にあるのはシャルを生き返らせるということだけだ。

 それまでの過程について何も考えておらず、勢いだけで乗り越えようとしているのかもしれない。

 なんか迷宮でヘマをやらかさないか心配になってくるな。

 あ、ダメだ! これはフラグになるかも!


「そ、それならその迷宮についての情報ってどこなら分かると思う?」

「冒険者ギルドならもしかしたら……。でもヒナタが教会にある書物での情報ってのも気になるな……」


 確かに教会にあった書物で知り得た情報だったが、あそこには迷宮の情報は全く載っていなかった。

 何階層あるのか、どのような魔物がいるのか、罠があるのかなど。

 多分冒険者ギルドの方が情報を得られるかもしれない。

 もし冒険者ギルドで有力な情報がなければ、教会に行ってみた方がいいかな。


「なら冒険者ギルドに行ってみようか。そこでダメだったら教会に行くっていうのはどう?」

「そうだな。それでいこう」


 というわけで、私達は昨日からほとんど食事を摂っていないため、カーネルさんがドン引きする程の量の朝食を食べた後に、すぐに冒険者ギルドに直行した。


 冒険者ギルドの2階には初心者のための薬草図鑑や魔物図鑑等の様々な書物が取り揃えられてあり、誰でも自由に閲覧が可能みたいだ。

 この場所は図書館のような構造ではなく、どちらかというとファミレスに近い。4人くらいが団欒できるような机と椅子が複数個設置されている。

 アスクレピオス迷宮について調べるにしても、2人で書物を漁るのは非効率なので、私とコハクでアスクレピオス迷宮についての書物を探し、カレンには他の冒険者から情報を聞き出すという方法にした。

 まあコハクは字も読めないし、私の傍から離れないから一緒にいるだけなんだけど……。


「さて、迷宮に関する書物は、と……」


 早速私とコハクはアスクレピオス迷宮に関する書物を見つけるために本棚を探し始めた。

 以前にサンドラス王国でも図書館に行って書物を探したのを思い出す。

 あの時は、ケートス討伐で取得した無属性魔法に関する情報を得るために行ったんだよな。魔法に関する書物だけでも数百冊はあったからそれだけで探すのに苦労したっけ。

 そう考えれば図書館に比べ、この冒険者ギルドにある書物の数は大したことがない。どうせすぐに見つかるだろう……そんな風に考えていた。





「…………ない!」


 隈なく書棚を探したが、アスクレピオス迷宮に関する書物が見つからなかった。

 あるのは、初心者冒険者のための参考書みたいなものばかりだったのだ。


 『冒険者になったならまずはこれを読め!』『冒険者としての心得』『野営で注意するべきこと』『薬草の正しい採取方法』『初めての魔物討伐』『女性冒険者のための護身術』等々。


 まさに初心者のためにある書物ばかり。

 そもそも本当にこの本を真面目に読んでいる冒険者なんているのだろうか。

 私だって読んだことない……いや、そもそも存在すら知らなかった。

 ウルレインでセレナさんにそんなこと教えてもらえなかったしな。

 

 でもこのままじゃ駄目だ。ここでは何の情報も得られない。

 カレンに期待するか……?

 いや、人任せにするのも違う気がする。せめて、カレンが帰ってくるまでは私に出来ることはやっておきたい。

 そうなると……書物の保管場所に関して詳しい人に聞くのが一番だね!

 ということで私とコハクは1階へと降りた。


「えっと、アスクレピオス迷宮に関する書物とかってあるのかな?」


 ギルドの受付の人に聞いてみた。

 うん。これが一番早い気がする。


「アスクレピオス迷宮ですか……? 久しぶりに聞きましたね……。それにもう誰もあの迷宮には挑戦していませんけど、もしかして……行くんですか?」


 もう誰も挑戦していない?

 え、何でだろう?

 迷宮といえばお宝発見して人生大逆転!

 みたいな場所だから、冒険者にとっては稼ぎ場所じゃないの?


「そのつもりだけど……え、もう誰も迷宮には行ってないの……?」

「はい……。第一階層から攻略難易度が高いみたいで、誰も先に進めないみたいなんです」


 なんてこったい。

 第一階層から難易度が高いなら、攻略するなんて無理なんじゃないの?

 ちょっと困ったことになったな……。

 でも、話を聞いただけで諦めるわけにもいかないんだよね。

 単なる好奇心で話を聞いているわけでもなく、シャルの生死が懸かっているんだから。


「とりあえず、その迷宮の情報が分かる書物があれば嬉しいんだけど……」

「お勧めはしませんが……でもアスクレピオス迷宮については古い書物しか残っていませんよ。それでも大丈夫でしょうか?」


 古い書物でもないよりはマシだ。

 正直、書物の存在すら諦めていたから安堵している。


「大丈夫。見せてもらってもいいかな?」

「えっと、探してきますので少々お待ちください」


 よかった。最初から受付に聞けばすぐに済んだことだった。

 これで何かしらの情報が得られればそれだけでも私の目標は達成する。

 でも攻略難易度が高そうなのがどうしても引っ掛かる。

 どんな魔物がいるかによっては、対処方法も異なってくる。

 以前の鉱山でのネメアー戦では物理攻撃耐性があったため、私しか戦力にならなかったりする。

 今回の迷宮でも似たような魔物、つまりは魔法攻撃耐性とかが備わっている魔物がいた場合は、私は役に立たない。何せ、私の剣術はルークよりも劣る。魔法が使えない私なんてただの木偶の坊なのだ。

 そのため、万一にもそのような魔物が出現する場合にはカレンとコハク頼みになってしまう可能性もある。

 でも、コハクを戦闘要因として数えるのは母親として失格なのでは……と思ったりはするが、仕方がないじゃん。コハク強いんだもん。あの華奢な身体のどこにそんな力が備わっているんだよって、ついツッコミを入れたくなるくらいコハクは頼りになる。でも極力、コハクは戦闘に参加させずに私とカレンで頑張りたいものだ。

 ……でもコハクは言うことを聞かないだろうなぁ。コハクだし。


「アスクレピオス迷宮についてはこの一冊しかありませんね……」


 迷宮での戦闘について考えていると、受付のお姉さんが何処からか書物を持ってきた。

 んー、かなり古いものだな。埃が被っている。


「ありがとう。これって持って行ってもいいの?」

「返却していただければ大丈夫ですよ」

「なら少しの間だけ借りるね」


 私は書物を受け取る。

 さて、早速2階に行ってこの書物を熟読しよう。

 もしかしたら、蘇生の宝珠についても記載されているかもしれないしね。


「コハク、また2階に行くよ」

「はーい!」


 私はコハクを連れて2階へと移動する。

思ったよりも長くなりそうなので、次回に持ち越します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ