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91 シャーロットの過去⑤


 さらに1年の月日が経った。

 私は13歳。カレンは14歳。

 カレンはいよいよ来年成人だ。

 カレンは成人したらどうするのだろう?

 村を出ていくのかな。それともこれからも私とずっと一緒にいてくれるのかな。

 もしカレンがこの村から出て行くなら寂しくなるな。

 でもカレンが決めたことなら、私に止める権利はない。

 カレンと将来の話なんてした事がないから、今度機会があったら聞いてみよう。


 この1年で何かしらの変化があれば良かったけど、私の生活は何も変わっていない。

 朝の畑仕事をした後は森に行って鹿や猪を狩ってくるだけの毎日。

 でもそのお陰で弓の技術も向上した。

 ほとんど狙い通りの場所を射ることができるようになった。

 でも環境にもよる。

 例えば雨の日だと視界が悪くなり目標に向かって正確に射るのは難しく、又、風が吹いていたりすると風向きを考慮する必要もある。


 そのため雨の日や風が強い日は森に行ったことがない。

 そういう日は村の中で練習をしている。

 長い間練習をしているが、まだまだ狙い通りにできているとは言えない。

 動かない的ではあるが未だに狙い通りに射ることはほとんど出来ない。

 でも、だからこそ私はまだ成長できると感じていた。


 カレンの剣術もかなり成長したように見える。

 大人の男性相手でもカレンは負けない。

 カレンは私と違って足も速くて素早い動きもできる。

 そのため、持ち前の素早さで相手を翻弄することもできる。

 さらにカレンは筋力が無くて力負けしてしまうという自分の弱点を、身体全体を使って剣に力を込めることで克服した。

 その結果、大人の男性相手でも力負けをしなくなった。

 私と違ってカレンは自分で考えて強くなろうとしている。

 私もルイドさんに教えてもらってばかりじゃなくて、自分で考えて強くなりたい。


 そのために何より経験が必要だ。

 私にはまだまだ経験が足りない。

 元々弓の才能があったわけじゃないけど、たくさん経験を積んで努力をすればいいだけだ。

 いつだったかお母さんが教えてくれた。

 「努力は才能を超える」って。この言葉を胸に私はさらに努力することを決意したんだ。


「今日は雨が降っているから、森に行くのはやめておこうか……」


 私達はいつも通り森に行こうとしていたが、ルイドさんに止められる。

 確かに行かない方が賢明だ。

 でも私にとってはチャンスなのだ。

 雨の日でも魔物が村を襲ってくるかもしれない。

 その時に戦力になる私が、「雨の中では視界が悪いので魔物を射ることができません」なんて言えるわけがない。

 どんな環境でも弓を扱えるようにならなくてはいけない。

 練習でできないことは本番でできるわけがない。

 そう、この雨の環境でも狩猟ができるように今のうちに練習がしたい。


「いえ、私は行きます」


 ルイドさんに向かって私は言った。

 普段はあまり自分の意見を言わないが、私は変わった。

 カレンが私を変えてくれたから。


「……そうだな。あたしも行くよ!」

「いや、しかし……」


 カレンが私に同意してくれる。

 でもルイドさんは困惑しているようだ。

 なんとか説得してみよう。


「雨の日だからこそ私は行きます。雨の日に村に魔物が襲ってきたらどうするんですか。魔物は待ってくれません。だからこそ雨の日の狩猟も経験しておきたいです!」


 私は真剣な目でルイドさんに訴えた。

 いつもは自分の意見を言わない私にルイドさんも驚愕している。


「……分かった。でもあまり遠くには行かないようにしよう」

「「はい!」」


 私の思いが伝わったのかルイドさんが了承してくれた。

 そして私達は雨で視界の悪い中、森を進んで行く。

 ルイドさんにカレン、そして私の順で進む。

 雨の影響か森の地面はとても滑りやすくなっている。

 全員が足元に注意しながら慎重に進んでいった。


 しかし、いくら進んでも獲物が現れない。

 雨が降っているからか、鹿や猪もいないのかな。

 これじゃ私の弓の練習ができない。

 私は視界が悪い中ではあるが、目を凝らして周囲を見渡しながら進んで行く。


「きゃっ!」


 突然地面に足を取られた。

 雨の影響で地面が緩くなっていた。

 そして私はその場で前屈みに倒れた。


「いてて……」


 私は泥だらけになったが、なんとか自力で立ち上がった。

 獲物を探すのに夢中になってしまって、足元の注意が疎かになってしまった。


「あれ?」


 気が付くと私しかいなくなっていた。

 周囲を見渡すがカレン達の姿が見えない。

 もしかして(はぐ)れた?

 先程まで目の前を歩いていたカレンがいない。

 雨の音で私が転んだことにも気が付かなかったのかもしれない。

 私の周囲には雨の音だけが響いている。


「カレーン!」


 私は叫んだ。

 しかし返事がない。

 森の中で1人になったのは初めてだ。

 だからこそ不安になる。

 視界も悪く、周囲の音も雨で掻き消されている。


 でも私はカレン達が進んだであろう道をそのまま進んだ。

 周囲を警戒しつつも足元にも注意して慎重に進んでいく。

 時よりカレンの名前を叫んだりもした。

 別に村に帰る道が分からないわけでもないから、もしこのまま進んで行ってもカレン達がいなければ村に帰ればいいだけだ。


 森の中で1人になるのも経験だ。

 助けもない状況でどれだけ1人で冷静にいられるか。

 私はすぐに冷静さを欠いてしまうからいい練習になるだろう。

 私1人でも大丈夫だということをカレンにも知ってほしい。


 1人で進んで行くが、いくら探してもカレン達の姿が見えない。

 周囲への警戒も怠らずにカレン達を探した。


「ん……?」


 雨で視界が悪い中、遠くに黒い影が見えた。

 すぐにカレン達だと思って走って近づいた。


「カレン!」


 声を掛けても返事がなかった。

 だから私は影に近づいていった。

 ……あれ、思ったよりも影が小さい。

 本当にカレンか?

 確証が得られないから、目の前の影にさらに近づいた。


「ゴギャァ!」

「きゃあ!」


 突然影がこちらに近づいてきて叫んだ。

 目の前にいるのはゴブリンだ。

 あの日、私が恐怖で足が動かなかったことを思い出した。

 でも今は違う。あの時の私とは違う。


 すぐに走ってゴブリンとの距離をとる。

 そして弓を構える。

 雨で視界は悪いが、ゴブリンの影はなんとか見える。

 そしてゴブリンは私に向かって走ってきている。

 もしこの矢を外してしまったらゴブリンに殺されてしまうかもしれない。

 でも大丈夫。この時のために今まで練習してきたんだから。

 昔の私とは違うんだ。


「いけ!」


 私はゴブリンの頭を目掛けて矢を放った。

 狙い通りゴブリンの頭に向かっていく。


「ゴギャ!」


 よく見えないがゴブリンに命中したようだ。

 でもゴブリンは倒れていない。

 そのままこちらに向かってきている。

 私はすぐさまもう1本の矢を取り出してゴブリンに放つ。


「ゴギャァァ‥…」


 私の放った矢はゴブリンの頭に命中してその場で倒れた。

 すぐにゴブリンに近づいて倒したことを確認する。

 どうやら1本目の矢は右腕に命中したようだった。

 そして2本目が眉間に突き刺さっている。


「やった……」


 初めて魔物を倒した。

 怖かったけど、冷静に対処できた。

 それも1人でだ。

 カレン達と逸れてゴブリンに出くわすとは思っていなかったけど、いい経験ができた。

 私も1人で魔物に立ち向かえることが分かった。


 カサカサ……。


 ゴブリンを倒したことが嬉しくて周囲への警戒を怠っていた。

 近くで草木を掻き分けるような音がする。

 どんどん近づいてきて、影も見えてきた。

 私はすぐに弓を構えた。

 

「シャル!」

「カ、カレン?」


 目の前に現れたのはカレンとルイドさんだった。

 よかった。声を掛けてくれなかったら矢を放っていた。


「無事か? 急にいなくなったから心配したぞ……」

「ごめんね。ちょっと転んじゃって見失っちゃった」


 カレンとルイドさんは私から視線を外して倒れているゴブリンを見ている。


「シャーロットちゃんがやったのか?」

「はい。カレンと思って近づいたらゴブリンでした」

「そうか……無事でよかった」


 ルイドさんが私を心配してくれた。

 子供1人が森でいなくなったから責任を感じてしまっていたんだろう。

 もし私に何かあったらルイドさんにも迷惑を掛けてしまっていた。


「ごめんなさい。(はぐ)れてしまって……」

「いや、ちゃんと確認していなかった俺の落ち度だ。すまない……」


 私にとっては結果としていい経験になったけど、2人を心配させて迷惑を掛けてしまった。

 だから頭を下げて2人に謝罪した。


「すごいなシャル!」


 カレンは私の肩を叩いてきた。

 私がカレンの方を見るとものすごい笑顔だった。


「うん。なんとか倒せたよ」

「シャルならこれくらい出来るって思っていたぜ!」


 カレンはどうやら私には当然だという言いぶりだ。

 確かに技術だけならゴブリンくらい倒せるとは思っていた。

 でもあまり過信もしたくなかった。過信は油断にもなるから。

 でも今回の経験で自信はついたかな。

 あの時の恐怖を克服できた。

 私は確実に強くなった。


「ありがとうカレン」


 私はカレンに笑顔で感謝を述べた。

 カレンは何故私がお礼を言ったのか分からないのか首を傾げていた。


読んでいただきありがとうございます!


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