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89 シャーロットの過去③

本日より3月末まで毎週日曜日の21時更新を続けます。


 その日の夜のうちに魔物の襲撃事件が終息した。

 襲撃してきた魔物はゴブリンというらしい。

 初めて見たけど、とても怖かった。

 お父さんとお母さんが村の外に行ってはいけないと言っていた理由が分かる。

 

 今回のゴブリンの襲撃での死者はいないみたいだった。

 でも怪我人も多くて村の働き手がしばらくは機能しなくなるみたいだ。

 しかし、領主様から支援として治癒師の派遣と食料が送られてきたらしい。

 ありがたい話だ。

 

 私はというとゴブリンの襲撃後は、カレンの家に泊まった。

 お母さんがいつ帰ってくるか分からないので、数日はカレンの家にお世話になることになった。

 毎日美味しい食事を用意してくれるカレンのお母さん。

 そしてこの時に初めて、カレンの妹のケレンとも仲良くなった。

 どうもケレンはカレンと違いあまり家から出ないで、本ばかり読んでいる。

 私は字が読めないから、凄く賢い子だと思った。

 でも話してみるととても明るい子で、国の歴史とか他国のことまで教えてくれた。

 私はこの村のことしか知らなかったけど、どうやら私の生きている村はかなり小さいみたいだ。

 世界はこの村よりももっと大きくて、たくさんの人々がいろいろな生活をしているらしい。

 いつかは私もいろんな場所に行く時が来るのかな。

 

 そしてカレンの家で2日間お世話になり、私は自分の家に帰ってきて後片付けをしていた。

 ゴブリンによって荒らされてしまったし、何より扉が壊されてしまった。

 私は扉を直そうと木材を貰ってきた。

 そして扉の壊れた部分に、木材を釘で打ち付けて応急処置をした。


「ふー……」


 初めてこんなことしたな。

 今までは家に穴が空いたらお母さんが直してくれていた。

 でも初めてにしては上出来なような気がする。

 

 さらに私は家の中の荒らされた家具を元に戻す。

 扉を壊された時に飛び散った木片も床に落ちていてとても危険だ。

 私はすぐに箒を持ってきて、木片を一箇所に集める。

 そんなことをしていると、私が直したばかりの扉が勢いよく開いた。


「シャル!」


 入ってきたのはお母さんだった。

 あ、私が直した扉が少し壊れた。

 やっぱり応急処置じゃダメだったのか……。


「お母さんおかえり!」

「大丈夫? 怪我はない?」


 お母さんが近づいてきて私を抱き締める。

 どうやらゴブリンの襲撃を知ったのだろう。


「うん。カレンが助けに来てくれたから」

「ごめんね。大事な時にお母さんがいなくて……。怖い思いをしたでしょう?」

「……大丈夫だよ。お母さんも疲れたでしょ? 早く休んで」


 私はお母さんを心配させないように嘘をついた。

 これ以上、お母さんを心配させるわけにはいかないから。

 

 でも、今回のゴブリン襲撃で私は思った。

 カレンに助けられてばかりいられない。

 いつまでも誰かに助けられてばかりではいけない。

 私は強くなりたい。

 また今回のようなことが起きても立ち向かえるように。

 ……お母さんを守れるように。


「お母さん、お父さんの使ってた弓ってどこにある?」


 私はお父さんの形見の弓を求めた。

 武器を持って魔物を倒せるように弓の技術を磨きたい。

 たくさん練習して、最初は鹿とかを狩って、最後は魔物を倒せるようになりたい。


 渡されたお父さんの弓はすごく上等なものだった。

 若い頃、お父さんは冒険者をやっていたらしくその時から愛用していたらしい。

 私はお父さんの弓を受け継いだ。

 そして私は弓の練習を始めた。

 木の板を的にして、何度も矢を放った。


「全然ダメだ……」


 いざやってみたものの、力がないからか思った通りに飛んでいかないし、威力もない。

 そもそも自己流でやっているからダメなんだ。

 このままじゃいつまで経っても上達しない。

 だから、村でお父さんと一緒に狩猟をしていたルイドさんに弓の技術の教えてもらえるように頼み込んだ。


「シャーロットちゃんが弓を……?」

「はい! 私、強くなりたいんです! お母さんを守れるように、自分に自信を持てるように!」


 私はルイドさんを説得した。

 自分の思いを伝えた。

 このままじゃ私はダメだと。

 今までたくさんの人に守られてきたから、これからは守れる人間になりたいと。

 必死に。


「……分かった。俺でよければ協力しよう」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 それから私は畑仕事が終わった後は、ほぼ毎日のように弓の練習をした。

 ルイドさんの時間がある時は練習に付き合ってもらい、何度も指導を頂いた。

 毎日、手の握力が限界になるまで矢を放ち続け、いくつもマメができた。

 すごく辛くて、痛くて大変だった。

 でも、私はやめない。

 私の決意は本物だから。

 どんなに辛くても乗り越えられる。


「シャル……。あんまり無理しないでね」

「私は大丈夫だよ。お母さんこそ無理しちゃダメだよ」


 お母さんは私の手を見て心配している。

 マメができては何度も潰れて血が出ている。

 私の指には包帯を巻いている。

 そして包帯には血も滲んでいる。

 心配してくれるのは嬉しいが、私にとっては頑張っている証のようなものだ。

 こんなに頑張っているのは今まであっただろうか。

 今は自分の目標に向かって突き進んでいるから自然と楽しさもある。

 最初は木の的にすら届かなかった矢も、今では届くようになった。

 でもまだ安定性がないし、威力もない。

 それでも自分の成長に喜んだ。


 そんなある日、私はいつも通り畑仕事を終えた後、弓の練習をしているとカレンが久しぶりにやってきた。

 最近カレンは忙しかったのか、私の家にあまり来ていなかった。


「シャル! 弓の練習を始めたって聞いたぞ!」

「え、うん」


 カレンは私の顔に近づいて笑顔で言ってきた。

 なんか目が輝いている気がする。

 どうしたんだろう?


「だからさ、あたしは剣の練習を始めたぞ!」

「え……」


 え、どうして……? と思った。

 カレンが剣の練習をする必要はないと思うけど。

 ……いや、必要がないわけではないけど、この村の女性で剣を振るう人はいない。

 全員、家事をして家を守るのが女性の仕事だ。

 私みたいに弓の練習をしているだけでも珍しいのに……。


「……えっと、なんで?」

「そんなのシャルが頑張っているからに決まっているだろ! あたしも負けてられねぇぜ!」


 どうやら私が弓の練習をしていることに感化されたみたいだ。

 でもほんの少しだけ1人で練習するのは寂しいと思っていた。

 カレンが一緒に頑張ってくれるなら心強い。


「そうなんだ。ならカレンも一緒に頑張ろう」

「負けねぇからな!」


 別に勝ち負けの問題ではないと思うが、カレンが挑発してきた。

 そもそも扱っている武器が違う。

 どうやって勝負が決まるのかも分からない。

 でもカレンは満面の笑みだ。

 よし、私もカレンに負けてられない。

 もっと頑張らないと。


 それから私は更に弓の練習に励んだ。

 カレンも一緒にやってきては、自己流で素振りをしている。

 何故ならこの村には剣術の指南ができる人がいなかった。

 私にはルイドさんがいるけど、カレンにはいない。

 それでもカレンは毎日一生懸命になって剣を振り続けている。

 周囲からは私達が女の子なのに、武器を持って戦闘訓練をしていると思われて、非難されているらしい。

 私は元々1人だったから、あまり気にならない。

 私が本当に守りたいのはお母さんとカレンの家族だ。

 周りの目なんて気にならなかった。

 でもカレンはどうだろうか……?

 私と違ってカレンはたくさんの子供達とも遊んでいた。

 剣の練習を始めてから、私以外の友達と疎遠になっているような気がする。


「カレン、その……。他の友達とは遊ばなくてもいいの?」

「え? あたしにはシャルがいるだろ?」


 呆気なく言った。

 それが当然だろ、みたいな感じで呆気なくだ。

 私は不思議だった。

 カレンはどうしてここまで私に寄り添ってくれるのか。


「カレンはどうして私と一緒にいてくれるの?」


 私はカレンに聞いた。

 そもそもカレンは私のそばにいる理由はない。

 私と一緒じゃなくてもカレンにはたくさんの友達がいた。

 村民から非難されてまでも私と一緒にいる必要などない。

 だから聞いた。

 カレンがどんなことを考えているか知りたかったから。


「そんなの友達だからに決まっているだろ」

「え……」


 それだけで……? と思った。

 確かに私にとってカレンは唯一の友達だ。

 でもカレンにとってはたくさんいる友達の中の1人だ。

 たったそれだけの存在のはずだ。

 それなのに友達という理由だけで、ここまで寄り添ってくれているの?

 余計に混乱する。


「シャルは大切な友達だ。この村で一番の友達だ。だから一緒にいたいんだよ!」


 カレンにとって私はそこまでの存在になっていたのか。

 私は知らなかった。

 カレンがそこまで私のことを思ってくれていたなんて……。

 私の目から自然と涙が出てきた。

 カレンが一緒なのが心強い。

 これからもカレンと一緒にいたい。

 私にはお母さんだけではなく、カレンもそばにいてくれているのが改めて分かった。


「ありがとう。カレン……」


 私はあの日、カレンが木の下で手を差し伸べてくれたことを思い出していた。


読んでいただきありがとうございます!


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