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85 カレンを探せ


─コハク視点─


 ママ達は急いで出て行っちゃった。

 本当はコハクも行きたかったのに……。


 でもママはいつもよりも真剣な顔だった。

 コハクを連れていけない理由があったのかもしれない。

 ママはコハクを心配して大人しくしているように言った。

 コハクだって馬鹿じゃないもん。

 1人で大人しくお留守番くらい出来るもん!


 でも1人になったのは久しぶりだな。

 いつもはコハクの隣にはママがいた。

 どんな時も、いつだって一緒だった。

 ……やっぱり寂しいよ。


 寂しくて1人でベッドに寝そべる。

 何もすることがない。

 お話しする人もいない。

 カレンお姉ちゃんも、シャルお姉ちゃんも。

 

 ……なんか眠くなってきちゃった。

 寝て起きたらママ達が帰ってきているかもしれない。

 それなら寂しい思いをしなくて済むよね。

 ベッドにある枕に頭を乗せる。

 目を閉じて眠りについた。


 ……ん?

 何か匂いがする。

 何の匂いだろう。

 嗅いだことがある匂いだ。

 気になったので目を開ける。

 すると、目の前に知らない男の人がコハクの顔を覗き込んでいた。


「誰なの!?」

「ちっ……目を覚ましたか」


 このおじさんだれ?

 知らない人だ。

 ママに知らない人が来たら扉を開けちゃダメって言われていたのに……。

 あれ? でもコハクが扉を開けたわけじゃない……。

 ということは、コハクは悪くないよね。

 ママなら信じてくれるよね。

 ママとの約束は破ってないよ!


「ガキが。そのまま眠っていたらいいものを」


 おじさんがよく分からないことを言っている。

 でもこのおじさんの匂い……。


「おじさん、前にも会ったことある?」

「あ? 何言ってんだガキ。あるわけねぇだろ」


 そっかぁ……。

 会ったことないのか。

 なら何でこの匂いをコハクは覚えているんだろう。

 うーん。不思議だ。


「しょうがねぇ。本当は連れ去るだけだったが、ここで殺しても問題ねぇだろ」


 そう言うとおじさんは急にナイフを取り出した。

 このおじさん何を言っているんだろう?

 それにこんな所でナイフを出したら危ないよ。

 ナイフはお料理をするときに使うんだよ。

 え、もしかしてここでお料理でもしてくれるのかな?


「死ね!」


 おじさんが急にナイフをコハクに向けてきた。

 え? このおじさんどうしたの!?

 ナイフを人に向けたらいけないんだよ!

 ママが言っていたもん!


「ナイフを人に向けちゃダメなのー!」


 ナイフを避けて、おじさんのお腹にパンチをした。

 おじさんは扉まで吹き飛んでいき、さらに扉が壊れて廊下に倒れ込んだ。

 あれ? 気絶しちゃった?

 コハク、やりすぎちゃった?


「一体どうしたんだい!」


 1階から宿のおばさんが駆けつけてくれた。

 廊下に倒れている黒いおじさんの姿を見た後、コハクを見てくる。


「コハクちゃん、何があったんだい?」

「あのね。このおじさんがコハクに向かってナイフを出してきたの。だからね、人に向けちゃダメって注意したらこうなっちゃったの……」

「……」


 おばさんが何でか困っている。

 コハク、何か変なこと言ったかな。

 ママがナイフは人に向けちゃダメって言ったんだよ。

 コハク悪くないもん。


「そ、そうかい……。このおじさんは悪い人かもしれないから、おばさんが引き取るけどいいかい?」

「うん!」


 よく分からなかったけど、動いたらお腹空いてきちゃった。

 ママのご飯が食べたいな。

 早く帰ってきてよ。ママ。




─ヒナタ視点─


 私は気絶した男を担いで衛兵所に向かった。

 こんなことで足止めを喰らうとは思わなかった。

 でも衛兵所に連れて行かないと、この男が目を覚ましてまた襲ってくるかもしれない。

 危険の芽は今のうちに始末しないと。


「すみません。街中で急にこの男に襲われて……」

「ん?」


 衛兵所にいた男性が私に近づいてくる。

 そして男の顔を確認する。


「こいつは……ちょっと待っててくれ嬢ちゃん!」


 ただでさえ時間がないのに待たせるとは。

 早くカレンを助けに行きたいのに……。


「やっぱりだ! ここ最近この王都で人攫いをしていた連中の一味だ!」


 え、そうなの?

 人攫いって確か、冒険者ギルドでカレンの……元カレだっけ? いや、友人か。

 ルカスって人が言っていたやつだよね。

 そんな人が襲ってくるなんて。

 ……ちょっと待って。

 と言うことはカレンも攫われた可能性があるってこと!?

 だとしたらエラトマ商会に行ってもいないかもしれない。

 これを機に衛兵の人に頼んで、一緒にカレンを助けてもらおうと思ったのに。

 商会にいない可能性があるなら私の憶測で衛兵を連れて行くわけにはいかない。

 そもそも「あそこの商会に仲間がいるかもしれないんです!」って言っても信じてくれないだろうしね。

 うん。衛兵は諦めよう。


「そ、そうだったんですね。では! 後はよろしくお願いします!」

「ちょっと待て、嬢ちゃん!」


 私は逃げるように衛兵所を去った。

 あのままいれば間違いなく事情聴取されるからね。

 流石にそこまで時間を割くわけにはいかない。

 お尋ね者を捕らえただけで感謝して欲しいものだ。


「お待たせシャル!」

「いえ! 早く行きましょう!」


 私とシャルは走ってエラトマ商会へと向かった。

 エラトマ商会は目と鼻の先だ。

 もう少し。

 私達は走る。カレンの下へ。


「ここですね……」


 辿り着いたエラトマ商会は1階建てだが、既に明かりが点いていない。

 ということはもうここには……。


 いやまだだ。

 私は気配探知スキルを発動させる。

 すると、中で5つの反応があった。


「シャル、多分ここにカレンはいるよ」


 確証はない。

 でもこの暗い建物に人の反応があるのは明らかにおかしい。

 つまり周囲から勘付かれないように明かりを消している可能性がある。


「シャル手を繋いで」

「はい……?」


 私はシャルの手を握り隠密スキルを発動させる。

 これなら敵にバレずに侵入ができる。


「ちょ、ちょっとヒナタさん!」

「大丈夫だよ。私のスキルで姿は見えないから」

「……本当ですか?」

「私を信じて」


 シャルを連れて商会の裏口から中へと侵入する。

 とりあえず気配探知に反応がある方向へと向かう。

 廊下を進んでいくと、1人の黒いローブを羽織った男が隣を通り過ぎる。


「本当に気付いていませんね」

「でしょ?」


 あの男は多分見張りだ。

 ここで倒してもいいけど、騒いだらカレンがどうなるか分からない。

 カレンの状況を確認するまでは、大人しくしよう。


 そしてもう1人反応が近い人間がいた。

 奥の廊下からこちらに向かって巡回しているようだ。

 あの男もこちらに気が付いていない。


 ……よし。あと反応があるのは3人。

 このうちの1人がカレンであることを祈る。


 3人の反応のうち2人は距離が近い。

 そしてもう1人は少し離れた位置にいる。


 そこで私は反応がある場所へと移動する。

 周囲を警戒しながら、反応があると思われる部屋へと入った。

 すると……。


「いない……」


 間違いなく反応がある場所だ。

 この3人の反応はこの室内に収まる範囲にいる。

 ……ということは、やはり地下か。

 どうしてこうも、悪い連中は地下が好きなんだ。

 いや、都合がいいのは分かるけどさ。


「シャル、カレンは多分地下にいる。地下への入り口を探そう」

「はい」


 そして私とシャルは地下への入り口を探した。

 各部屋に回って、細心の注意を払って探していく。

 でもなかなか見つからない。

 反応は……特に変化なし。

 カレンが変なことされてないといいけど。


 各部屋を回った後、一際豪華な扉を見つけた。

 他の部屋の扉と違って、綺麗に塗装されている。

 ここは、商会長の部屋か?

 とりあえず扉を開けて中へと入ってみる。

 鍵を掛けていないとは無用心だな。

 まぁ助かるけど。


 中へと入ると、たくさんの書棚があり、丸い机と椅子が中央に置かれている。

 さらに奥には大きめの机がある。

 あれが商会長の机だな。

 私とシャルは部屋の中を細心の注意を払って確認する。

 怪しいところはない。

 私が辺りを見回していると、ふと、商会長の机の上にある冊子に目がいった。


「は……?」


 置いていた冊子には驚きのタイトルが書かれていた。


「カレンの奴隷化に伴う計画書……?」


 何だ、このふざけた計画書は。

 作成者はニア・ガーネストと書いている。

 この名前はカレンに言い寄ってきた貴族の名前だ。


「シャルこれ見て……」

「何ですかこれは……それにこの名前……」


 シャルも気がつく。

 冊子の中を確認すると、驚くべきことが記載されていた。

 内容を要約すると……。


 ウルレインでのカレンの捕獲作戦が失敗した。

 そのため次作戦へと移行することにした。

 次作戦の内容はカレンの父親のベラントを利用する。

 ベラントへ法外な利子での金銭消費貸借契約を結び、娘のケレンを借金奴隷にすると脅す。

 返済に苦慮するであろう父親に、カレンに返済を頼むよう助言する。

 そしてカレンがベルフェストに来たときに捕獲することとする。


「何だこれは……」

「ひどい……」


 ウルレインでの捕獲作戦についても詳細に記載されていたが、私と騎士団で殲滅したため、その次に行った作戦が今回のベラントの借金か。

 つまりこれは、全てニアの思惑通りに進んだことになる。

 それにしてもウルレインでの奴隷売買組織はニアの差金だったとは。

 これが露見すればもう私達だけで解決できる問題ではない。

 これは国際問題であり、下手をすれば戦争にだってなり得る。

 この冊子は重要な証拠書類だ。


 それにしてもこんな重要な書類をこんな場所に置いておくなんて……。

 本当に無用心な商会長だな。

 いくら護衛がいるとはいってもね……。


「これは持ち帰ろう」

「はい……」


 私達は真実を知り困惑しながらも地下室への入り口の捜索を再開した。


読んでいただきありがとうございます!


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