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82 借金返済


「じゃあ、元気でねカレン。体に気をつけて……」

「すまないな。カレンに迷惑をかけてしまって……」

「そんなの気にすんなよ。また帰って来るから、2人とも元気でな」


 カレンが両親に別れの挨拶をする。

 両親ともにとても寂しそうな顔をしている。

 でも離れた場所で暮らしているといっても、永遠の別れではない。

 生きてさえいれば、いつか必ず会える。


「シャルちゃんにヒナタさん、それにコハクちゃんもまた来てね」

「「はい」」


 私達はカレンの家を出て、馬車へと乗り込む。

 カレン達の故郷はいい場所だったな。

 また来ることがあるといいな。


「そういえば、お父さんの借金はどのくらいなの?」


 スリープシ村を出て街道を進んでいる所でカレンに聞いてみた。

 カレンが返せないとは思えないが一応聞いてみる。

 もし返せないなら私も貸すくらいならできる。


「父さんから聞いた話だと、借りたのは金貨10枚だったみたいだけど、今は利子込みで金貨43枚だとよ」


 完全に法外な利子だな。

 日本円で100万円を借りたけど、今では430万円になったってことか。

 っていうか今更だけど、そんな法外な請求は無効だから訴えることもできるんじゃないか。


「それって払う必要あるの?」

「明らかな違法だけど、家族の安否を優先すると穏便に済ませた方がいいだろ」


 言っていることは分からなくもないけど……。

 でもカレンもずっとベルフェストにいる訳ではないから、悪徳商会に自分の家族が目を付けられたままだと安心もできないか。

 それならいっそ、全額払って何もなかったことにした方がいいと……。

 納得はしないけど、カレンがそういうなら私はとやかく言えない。


「金貨43枚も払ってカレンは大丈夫? 厳しいなら私も貸そうか?」

「そんな貧乏じゃねぇよ! こう見えて結構貯めていたんだから大丈夫だよ。すぐに商会に行って払い終わるからそしたら王都を観光しようぜ。ヒナタ、楽しみにしていただろ?」


 それならよかった。もし返済できる金額を持っていたとしても、残額だけでは生活が苦しくなってしまうようであれば、私も貸したりしていただろう。

 それにカレンの言う通り、ベルフェストの王都観光はかなり期待している。

 サンドラス王国では出会えていない、多種族ともまだ会話もしていないしね。

 しかし王都に到着するまで、5日は掛かる。

 多種族との交流を急いで事故に遭ってしまったら目も当てられない。どうせ返済期限までまだ余裕もあることだし、安全運転を心掛けてゆっくりと進んでいこう。


 しばらく進んでいると、コハクが私のスカートを掴んで声を掛けてきた。


「ママ……」


 どうしたんだろう?

 またお腹でも空いたのかな。

 それともお尻が痛くなった?


「どうしたの?」

「なんか知らない人の匂いがするの……」

「え……?」


 どういうことだ?

 人の匂いがするって……。

 でもコハクの嗅覚の凄さは前回のオーク討伐で立証済みだ。

 念の為、周囲を確認するために私は気配探知スキルを発動させる。


「……誰もいないようだけど」

「くんくん……。気のせいかな……」


 コハクが周囲の匂いを嗅いでいる。

 やっぱり気になるのかな。

 最近使ってなかったけど、気配察知スキルを使用する。

 こちらに殺気があれば私はその気配を察知することができる。


「……やっぱりいないよ?」


 やはり誰かがいる雰囲気はない。

 コハクの勘違いだと思うけど……。


「そっかぁ。なんか匂いが消えちゃったから分かんないや」


 私のスキルで把握できない別のスキルなのかな。

 もし隠密だとしたら、気配探知では無理でも気配察知で把握できそうなんだけどね。

 でもレベルが高い隠密スキルなら私ではどうやっても把握ができない。

 ……よく分からないな。

 でもコハクのことを信じないわけでもない。

 この状況で私にできるのは、王都まで常にスキルで周囲を確認することだけだね。

 急に襲われたら嫌だし。


「また何か感じたら教えて?」

「うん、分かった!」


 その後、王都までの道のりでは常時スキルを展開して過ごした。

 御者中でも馬車で休んでいる時も野営の時も……。

 しかし何の反応もなかった。

 コハクもあの後は何も言って来なかったので、やっぱりコハクの気のせいだったのかなと思ってしまう。


「ママ! お城が見えるよ!」


 気が付くともう王都に到着したようだ。

 正直、寝る間を惜しんで周囲の警戒をしていたからかなり寝不足だ。

 早く宿でゆっくり眠りたい。

 そして王都の門を抜け、前回お世話になった宿へと辿り着く。


「いらっしゃい……。ってカレン達かい!」


 思ったよりも早い再会にカーネルが呆れている。

 しみじみとお別れをしたと思ったら、約10日後には再会だからね。

 そりゃ呆れるわ。


「また世話になるよ」

「お世話になります」

「はいよ。4人部屋は空いているから好きに使っておくれ!」


 私達は以前泊まった部屋へと移動する。

 私はすぐにベッドに寝そべった。


「じゃあ、あたしは商会に行って来るから」

「え? 1人で行くの?」


 シャルがカレンに聞く。

 どうやらカレンは1人で行くみたいだ。

 みんなで行くと思っていたから予想外の展開。


「別に金を返すだけだからあたし1人で十分だろ」

「でも……。悪い商会なんだよね? 危なくない?」

「ああいう奴らは金さえ返せば何も言ってこないよ。だから大丈夫だって! じゃ、行ってくるな!」


 私が危険だということを言ってもカレンは聞いてくれない。

 そしてすぐに部屋を出て行ってしまった。

 シャルも心配そうに部屋の扉を見つめていた。

 本当に大丈夫かな……?




─カレン視点─


 あたしは急いで宿を出た。

 ただ金を返しに行くだけでシャルもヒナタも心配性だな。

 でも怪しい商会ではあることは確かだ。


 父さんから聞いた話だと金を借りた商会はエラトマ商会って言っていた。

 父さんに地図を書いてもらってエラトマ商会に向かっているが、こんな商会はあたし達が王都にいる時に聞いたこともない。

 まだ新米の商会なのかもしれない。


 本当はヒナタ達にも付いて来て欲しかったけど、これはあたしの家の問題だからな。

 ヒナタ達にこれ以上、迷惑を掛けるわけにもいかない。

 それにヒナタにはかなり助けられているからな。

 これくらいのことでヒナタを頼ることもないだろう。

 あたし1人でも問題ない。


 それに何故かヒナタは王都までの道のりで疲れているみたいだった。

 野営はあたしが見張っておくって言ったのに、「念の為ね……」って言って遅くまで一緒に起きていた。

 結局何をしたかったのかは分からない。

 でもヒナタは意味のないことはしない。

 きっと理由があってあたしと一緒に見張りをしていたんだろう。

 だからこそヒナタは少し休ませておいた方がいい。


 あたしはエラトマ商会に向かってまっすぐ進んでいく。

 エラトマ商会は王都の中心街から少し離れた場所にある。

 とは言ってもこの辺りは人通りも多いから、新米商会にしては良い立地になるだろう。


「ここか……」


 辿り着いた商会は1階建てで店の前には大きくエラトマ商会と書かれた看板があった。

 私は入り口の扉を開けて、中へと入った。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」


 対応してくれた男性は正装姿で礼儀正しいように見える。

 それに怪しいと思っていた商会だが、店内にはさまざまな魔道具や装飾品が売っている。

 そしてお客も多い。

 この商会に怪しさなんて微塵も感じさせていない。

 本当にここで合っているのか……と疑問を感じさせるほどだ。


「えっと……父さん、いや、ベラントの娘なんですが」

「ベラント様ですか……」

「ベラントが借りていたお金の返済に来ました」

「……かしこまりました。お調べしますので奥の部屋でお待ちください」


 あたしは男性に連れられて奥にあった個室に案内された。

 そこには1つの机に4人分の椅子があった。

 あたしは椅子に座って、男性は別の部屋へと移動していった。


 今のところ怪しさは微塵も感じられない。

 普通に一般の客もいるし、接客をしている男性も丁寧な対応だった。

 でもこれなら何事もなく借金を返済して帰られそうだ。


「ベラント様の金銭消費貸借契約における返済に来られた方ですね?」


 扉が開いてやってきたのは、さっきとは違う男性だった。

 でも服装は同じで、こちらも礼儀正しい対応だ。


「はい。娘のカレンです。父の代理で返済に参りました」

「わざわざご足労お掛けして申し訳ありません。では早速ですが……契約ですと返済額は金貨43枚でしたね。こちらにお願いします」


 男性が持ってきたトレーのようなものにあたしは金貨43枚を乗せる。

 男性は1枚1枚、丁寧に数える。


「はい。丁度ございますね。こちらが領収書になります。本日はありがとうございました」


 男性が丁寧に頭を下げる。

 あたしも同様に頭を下げた。

 思ったよりも普通に終わったな……。なんか呆気なかった。

 あたしもちょっとは警戒していた分、少し拍子抜けだ。

 でもこれで父さんも妹のケレンも安全だ。

 あたしは安堵しながら、男性に案内されて出口へと向かった。

 入ってきた扉とは違い商会の反対側に位置する扉だったが、何も気にせず扉に手を掛けた。


「がっ……」


 すると突然後方から、鈍器のようなもので頭を殴られた。

 そしてあたしはその場で意識を失った───。

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