81 お墓参り
みなさんおはようございます。ヒナタです。
昨晩はカレンの両親にサンドラス王国での話で盛り上がりました。
カレンとシャルが執拗に私を褒め称えるのでかなり恥ずかしかったです。
私は朝起きて顔を洗おうと洗面台に行くと既にシャルがいた。
そういえばシャルはカレンの家にいたけど、自分の家には行かないのかな、と疑問を抱く。
「シャルはお父さんとお母さんに会わなくてもいいの?」
私の問いにシャルが一瞬暗い顔をした。
「……お父さんは私が小さい頃に亡くなっています。お母さんは私が成人する前に病気で……」
……これはまずいことを聞いてしまった。
知らなかったとはいえ、シャルに失礼なことを言ってしまった。
「ご、ごめん……。知らなかったよ……」
「いえ、私も言っていませんでしたから……」
少し気まずい雰囲気になってしまった。
私の無神経な発言のせいで、シャルの思い出したくもない過去を掘り返して心を傷つけてしまった。
こういう時の正しい対処法を私は知らない。
「……それならご両親のお墓に行きたいな。私の大好きなシャルを産んでくれたことにお礼を言いたい」
「ありがとうございます。朝食を食べた後に行こうと思っていたので、案内しますね」
気まずい状況になってしまったが、朝食を食べているシャルはいつも通りだ。
無理をしていないと良いけど……。
でもまさかシャルの両親が亡くなっているとは思わなかった。今まで一緒にいて、そんな雰囲気を全く感じなかった。
私達3人はあまり自分達の過去を話さないから知らないことも多い。
でも今回の帰郷でカレン達の過去を結構知られた気がする。
私の知らない交友関係とか、ベルフェストでの苦労とか。
本当に来てよかったと思う。
「ヒナタさん。行きましょうか」
「う、うん……」
朝食を食べ終えた後は、シャルが私を誘う。
カレンはどうするんだろうって思ったけど、シャルの雰囲気を感じ取ったのか一緒に来る。
そしてコハクは全く状況を察していないけど、私について来る。
結局、私達は4人で歩いて墓地へと向かった。
到着した墓地にはたくさんの石碑があった。
石碑には一つ一つに名前が彫られている。
そして2つの並んだ石碑の前でシャルが足を止める。
石碑にはコーマンそしてカレラと書いていた。
「お父さん、お母さん。ただいま」
シャルが石碑の前で腰を下ろして話し掛ける。
シャルはまだ19歳だ。
それなのに成人前に両親を失くすというのはどのような気持ちなのだろうか。
シャルは今、前を向いて進んでいるのか。それともまだ過去に縋っているのか。
同じ状況になったことのない私には想像もできない。
それに私の場合は両親よりも先に死んでいるから完全に親不孝者だ。
地球で両親はどんな気持ちになったのかな。
私が死んでも元気に生きていてくれているかな。
でもまさか、両親も私が別の世界に転生して女になって、既に娘がいるなんて想像もできないだろう。
私の両親に孫のコハクの顔を見せてあげたかったな。……竜だけど。
私はシャルに続いて石碑の前で腰を下ろす。
この世界でのお墓参りの作法は知らないけど、私は手を合わせて心の中でシャルの両親に感謝を述べる。
「シャルを産んでくれて、そして大切に育ててくれてありがとうございます」……と。
シャルが立ち上がりカレン、そして私も立ち上がる。
この状況をコハクはよく分かっていない。
子供の頃はあまり死が身近でもないから、私達がこの場で何をしているか分からないのだろう。
でも私達の雰囲気を察してか、ずっと大人しくしており私のスカートを掴んでいる。
「私の家に行きましょうか」
「そうだな」
シャルが歩き出す。
私達はシャルが生まれ育った家へと向かっていく。
「ここです」
辿り着いた家は数年間誰も住んでいるとは思えないほど、綺麗なものだった。
家に隣接している畑も何も植えられてはいないが、整地されているように感じる。
シャルの家はカレンの家とは違い木造の1階建てだった。
そしてシャルが家の中へと入る。
「片付いてる……」
シャルが呟く。
どうやらシャルも数年放置している家がこんなに綺麗なことに驚いているようだ。
「誰かが定期的に掃除でもしているのか?」
「どうなんだろ……?」
カレンとシャルも不思議そうな顔をしている。
私は初めて来るから分からないが、家具も整えられていて、埃一つない清潔な家だった。
到底誰も住んでいないようには見えない。
「掃除をしに来たのに、あまり意味なかったかな……」
この世界には仏壇もなければお焼香の文化もない。
写真が発明されていれば、遺影でシャルの両親の顔を見てみたかったが……。
写真があった前世は思い出を残す意味で素晴らしいものだと実感する。
「せっかく帰って来たんだからもう少しゆっくりしていこうよ」
「……そうですね」
私達はリビングにあった椅子に腰掛ける。
椅子は3つしかないから、コハクは私の膝の上にちょこんと座り込んだ。
「ここに座ったのも久しぶりだな……」
「よくお母さんとカレンと3人で夕食を食べたね」
2人とも感傷に浸っている。
シャルのお母さんが生きていた頃を思い出しているようだ。
2人とも幼馴染だからよく一緒に遊んでいたのだろう。
それも多分、家族ぐるみの付き合いだと思う。
……そう考えるとシャルのご両親にも挨拶したかったな。
「ママ、お腹すいた」
気がついたらもうお昼だ。
思ったよりもお墓参りで時間が経っていたようだ。
「シャル。キッチン使ってもいい?」
「はい。いいですよ」
私はキッチンに向かい、昼食の準備をする。
簡単に野菜をたくさん入れたスープでもいいかな。
大した味付けも出来ないけど、すぐに作れるからね。
「はいどうぞ」
4人分のスープを作り終え、テーブルに置く。
「おいしい!」
コハクがスプーンで掬って美味しそうに食べている。
ふと、カレン達の様子を見ると、シャルがスープを啜りながら涙ぐんでいた。
「どうしたのシャル? 美味しくなかった?」
「……いえ。よくお母さんがこうしてスープを作ってくれたんです……。なんだか懐かしくて」
声を震わせながら答えてくれた。
私が作ったスープによって、お母さんと一緒にこの食卓で夕食を食べていた頃を思い出したようだ。
お母さんの作る料理に味が似ていたのかな。
だとしたら嬉しいけど。
「シャルのお母さんが作るスープも美味しかったよな……」
「お母さんも同じようなスープを?」
「はい……。お母さんは元々病弱だったんですけど、早くにお父さんが亡くなって無理して働いていたんです。でも私はそんなお母さんに気が付きませんでした。お父さんがいなくなってお金もないのに、お母さんは私のためにたくさんの野菜が入ったスープを作ってくれていました」
シャルのお母さんにとっては唯一の1人娘だ。
シャルの笑顔のためならなんだって頑張れたんだろう。
私もコハクのためならなんでもしてあげたいと思うから気持ちはわかる。
「優しいお母さんだったんだね……」
「私にとって世界一のお母さんです……」
コハクは私の隣でスープを啜っている。
私もコハクの笑顔が見たいからいろいろ無理をしちゃうかもしれない。
私はコハクの頭を撫でる。
そんなコハクは不思議そうな顔で私を見ていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
しばらくシャルの家で過ごした後、カレンの家へと帰ってきた。
もうすぐ夕方だからか、カレンのお母さんが夕食の準備をしていた。
「もうすぐ夕食ができるから待っててね」
「はい」
「ありがとうございます」
リビングの椅子で座っていると夕食が並べられる。
鶏肉を焼いて胡椒で味付けした料理にサラダと、野菜入りスープだ。
すごく美味しそう。
「そういえば、シャルの家が思ったよりも綺麗だったんだけど何か知ってる?」
カレンがお母さんに聞く。
確かに気になっていたことだ。
カレンのお母さんなら何か知っているかもしれない。
「シャルちゃんの家は私がたまに掃除をしに行っているのよ」
「そうだったんですか!?」
シャルが驚いて椅子から立ち上がる。
そうか、カレンのお母さんが掃除をしてくれていたんだ。
本当に家族ぐるみで仲が良かったんだな。
「いつでもシャルちゃんが帰って来てもいいようにね」
「ミレルダさん……。ありがとうございます」
シャルがカレンのお母さんに頭を下げる。
たぶん、カレンのお母さんはシャルに帰って来る場所があることを伝えたいのだと思う。
冒険者として仕事をしていても、楽しいことばかりではない。
辛いことがあって故郷に帰りたくなっても、両親がいないとなれば、シャルには帰る場所がないようなものだ。
そんなシャルの気持ちを考えて、両親がいなくてもカレンの家族が味方でいてくれるだけで心強いだろう。
それならこのスリープシ村に安心して帰って来ることもできる。
2つの家の家族愛を感じる。なんか泣けてくるよ……。
やっぱり帰る場所があるっていいよね。私にはもうないし。
その日のシャルは泣きながらではあったが、笑顔で夕食を食べていたのが心に残った。
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