78 山道を抜ける
みなさんおはようございます。ヒナタです。
昨日は突然の雨でしたが、結局夜までずっと降っていました。
宿の部屋の窓から見える通り、道にもあちこちに水溜まりができています。
それにしてもすごい豪雨だった。この世界に転生して初めて経験したくらいの大雨でした。
でも朝起きたら晴天になっていたので安心です。
これなら今日も何の問題もなく先へ進めそうです。
「とりあえず次は王都に向けて出発するか」
「なら少し買い出しに行こうか」
「ああ、そうだな」
ここから王都までは2週間程度掛かるみたいなので、食料の補充のために買い出しを提案する。
そして私達は食料調達のために商店街に到着しました。
サンドラス王国と同じように盛んだ。
やはり国境近くの街だから人も多いのかな。
しかし、あまり長居も出来ないのですぐに食料を買い込んで街を出た。
「王都に行くには山脈を越えないといけないから少し時間が掛かるぞ」
ここから王都までの距離は遠くないのだが、途中で山脈を越えなければ王都に辿り着かないそうなので、どうしても時間が掛かってしまうそうだ。
ネメアー討伐の時も山脈を越えたりしていたけど、あの時は飛行魔法だったからな……。
馬車ごと魔法で浮かせられればいいのだが、私の魔力ではすぐに枯渇するだろう。
街から出て数時間で山道になった。
上り坂になっており馬車が進むのも遅いため、結構時間が掛かりそうだ。
更には先日の豪雨によって道が滑りやすくなっている。
慎重に進まないと馬車が下っていくかもしれない。
その後もゆっくりと慎重に進んで行くと分かったことがあった。
どうやらこの山道には一定区間で森の木を伐採して更地になった場所がある。
そこには何台かの馬車が停車しており、休憩所となっているみたいだった。
何人もの行商人や冒険者が厳しい山道で休憩や野宿ができるよう設置しているのだろう。
何回か行商人と思われる馬車ともすれ違う。
どうやら私達もこの休憩所で野営することになりそうだ。
マイホームを召喚できないのがちょっと辛い。
というより、この山道でマイホームを設置できる平地を探すのが難しいだろう。
王都までの2週間はマイホームを召喚するのは諦めよう。
……でもお風呂に入りたかったな。
流石にこの何の区画もされていない休憩所で水浴びをするわけにもいかない。
男だったらそんなの気にしないで済んだかもしれないが、今の私は女性だ。周囲の男から性的な目で見られるのは気持ちが悪くなるので我慢するしかない。
数日は濡れたタオルで身体を拭くだけしかできないだろう。
その後も何の問題もなく順調に進んでいくと夜になったため、休憩所に馬車を停めて私達は野営の準備をする。
ここには私達以外にも1組の行商人がいた。
「ママ! 今日はお肉食べたい!」
コハクからオーク肉の提案。
いつも通りコハクはオーク肉を御所望のようだ。
やっぱりコハクはオーク肉が大好物なんだね。
私はすぐにオーク肉のステーキを焼きコハクに渡す。
そしてカレン達にも同じようにオークステーキを作る。
私がステーキ焼いている間はシャルが付け合わせのサラダをお皿にトッピングしてくれている。
夕食を食べ終えた私達は馬車の中に入り、交代で身体を濡れたタオルで拭き始める。
でも、やっぱり物足りない。お風呂が恋しい。
しかし、ここまで大方順調に来られた。
できればこのまま何事もなく進んでくれればいいな。
そう考えながら、馬車の中で眠りについた。
あれから2日が経ち、普段通り山道を進んでいると複数台の馬車が列になって停留しているのが見えた。
「あれ?」
「どうしたんですかヒナタさん?」
「いや、前で馬車が止まっているから……」
何かあったのかな。
何人かの人達が馬車から降りて話し込んでいるように見える。
「私ちょっと見に行ってきます」
シャルが先行して馬車から降り、様子を見に行った。
行商人らしき人にシャルが話し掛けている。
少し話した後、シャルが戻ってきた。
「どうやら、この先で土砂崩れがあったみたいです」
「なるほど。それでみんなが停まっていたんだね」
この前の豪雨の影響か、山道が封鎖されてしまったみたいだ。
こういう時はどうするのが正解なのかな。復旧まで待つのか、それとも一旦戻って別の道から王都を目指すのか。
「迂回するしかないのかな?」
「ここから迂回するとなると、王都に着くまで凄い時間が掛かってしまいます……」
やはりそうか。だから全員がここで待機しているんだよね。
どのくらいの規模の土砂崩れかは分からないけど、飛行魔法で行けなくもないとは思う。
でもかなり目立つ。飛行魔法は絶対使えない。
それなら……。
「ちょっと私見に行ってくるよ。コハクのことをお願い」
「え、はい……」
私は馬車から降りて、人混みを掻い潜って土砂崩れの現場に向かった。
そこでは何人かの冒険者らしき男性達が、崩れた土砂を手作業で退かしていた。
そして風魔法が使える2人の女性が微量ずつではあるが、魔法で土砂を退かしているようだ。
これなら私も協力できそうだ。すでに魔法で土砂を退かしている人がいるなら、私の魔法もそう目立つ事もないだろう。少しだけ助太刀的な感じで援助をしよう。
まあ人がいなかったら、一気に土砂を吹き飛ばして山道を復興していただろうけど。
「私も手伝いますね」
「え、はい。ありがとうございます」
私は魔法使いの女性に話し掛けて復興に参加する。
この女性達は結構魔法レベルが高いのかもしれない。
無詠唱で風魔法を起こし土砂を払い除けている。
服装的に冒険者っぽくはないけど、凄腕の魔法使いなのは間違いない。
そして私は崩れている土砂に魔力を流して、土魔法でレンガのように固める。
以前にも地面を窪ませたりしたこともあったから、同じ要領でやってみた。
魔法は新たに物質を作り出すことに着目しやすいけど、実は魔力を通すことで自由自在に変形させる事もできる。
そして固めたレンガ状の土砂を通行の邪魔にならないよう、風魔法で山道の脇へと移動させる。
「す、凄いですね……」
「え、そうですか?」
この女性も凄いと思うけど……。
私にとってはそんなに凄いことをした自覚はないんだけど。
「そうやって土砂を固めることもできるんですね……」
「そうですね。魔力を流せば自由自在に変形させる事だってできるんですよ」
「そうだったんですか……」
どうやらこの凄腕の魔法使いさんは、このような魔法の扱い方を知らなかったらしい。
まあ私も偶然発見しただけなんだけどね。
「時間も掛かりそうなので役割分担をしましょうか。私が土砂を魔法で固めますので、お二人は風魔法で山道の脇に土砂を移動させてください」
「……はい。では、お願いします」
「分かりました……」
その後は私が土砂をレンガ状に固めて、魔法使いの2人の女性がそれを風魔法で移動させるという手順で山道を塞いでいた土砂を全て撤去した。
もちろん手作業で土砂を払い除けていた筋肉質な冒険者も頑張ってくれた。
「ふー。終わった」
それにしても結構時間掛かっちゃったな。
もう夕方だから予定の到着より1日遅れてしまうな。
「手伝っていただき、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ助かりました。では失礼します」
女性達からお礼を言われたため、私も頭を下げてお礼を言う。
そして私はそのまま立ち去って、馬車へと戻った。
とはいっても、土砂の影響でかなりの数の馬車が停留してしまっていたため中々進まない。凄く渋滞している。
こうなると、次の休憩所は人で溢れかえってしまうのではないか。
「ねぇ2人ともどうする? このままだと次の休憩所で休めないと思うよ」
「そうだな……。少し山道から離れて野営でもするか」
「「賛成!」」
私達は馬車を山道の脇に停めて、野営をすることにした。
どうやら私達と同じ考えの人もいるらしく、休憩所ではなく山道の脇で野営をしている馬車が何台かある。
とりあえず焚き火をしながら夕食の準備をする。
今日は鍋にしよう。
白菜があるから豚肉のバラ肉と合わせてミルフィーユ鍋にする。
渦巻き状に鍋に盛り付けるのが面白いんだよね。
「はふはふっ!」
「ん〜美味しいです!」
カレンもシャルも美味しそうに食べている。
鍋って簡単に作れて美味しいから便利だよね。
「ママおかわり!」
コハクも気に入ってくれたようだ。
私も前世からミルフィーユ鍋は大好きだから、みんなが気に入ってくれて嬉しい。
でも本当はポン酢で食べたい。この世界にはそんなものはないから、このミルフィーユ鍋の味付けは醤油だ。
でも醤油があるだけでもかなり便利なんだけどね。贅沢はいけない。
それに今日は土砂崩れで予定外に進行が遅れたけど、何とかなって良かった。
まだ王都までは遠いけれど、このまま進めば何とかなるだろう。
ベルフェストの王都はどんな場所なのかな。
そういえば、獣人族がいるとも言っていたな。
ちょっと……いや、かなり楽しみだ。
「そういえばスリープシ村って王都から近いの?」
「そんなに遠くはないよ。大体5日くらいで着くはずだ」
思ったより近いようだ。
なら王都に着いたら、もう目的地に到着したのも同然の様なもの。
少しだけ王都でお買い物してもいいかな。食文化の違いがないか見てみたいよね。
「ちなみに王都の滞在はどのくらい?」
「えっと、冒険者ギルドで金を下ろしたいだけだから、一泊かな……」
がっくし……。
私は項垂れる。
うん。分かってたよ。
今回の目的はあくまでカレンの家族のために来たんだ。
私のわがままで妨害するわけにはいかない。
「……用事が済んだら王都を観光しようか?」
カレンからの提案。
私が落胆していたのを察してくれたのか。
ありがたや。
「うん!」
これで王都観光もできそうだ。楽しみだね。
そして私は馬車の中でコハクを抱き締めながら眠りについた。
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