77 国境を越える
みなさんおはようございます。ヒナタです。
今日もベルフェスト王国に向けて移動中です。
ちなみにカレンは昨晩ずっと見張り番をしていたので馬車で寝ています。
何事もなければ明日にはサンドラス王国とベルフェスト王国の国境に辿り着くようです。
それに国境を通過するには私達はギルドカードで、コハクは身分証明書で入国できるそうなので安心です。
もしかしたらパスポートのようなものが必要かとも思ったのですが、特にそのようなものは必要がないらしいです。
いつも通り、街に入るような感覚で入国が可能なのです。
「ママ、お菓子まだー?」
コハクは昨日のうちに事前準備して作ったアイスが楽しみなようだ。
一晩冷やしたからもう食べられるとは思うけど、この場ですぐに与えてもいいのだろうか。
出来れば、コハクには我慢するということを教えてあげたい気もする。
「今日の夜にみんなで一緒に食べよう?」
「えぇー。コハクは今食べたいのに……」
頬を膨れさせて不貞腐れる。
この顔が可愛いからアイスを与えてもいいかな……っていかんいかん!
お母さんの私が率先して甘やかしてはいけない。
これもコハクのためだ。心を鬼にして教育していかないと。
「う〜ん、それなら……夜まで待ったらもっとおいしいお菓子を作ってあげようか?」
「本当!? やった!」
……あれ? 結局コハクを甘やかした提案になったのかな?
でも夜まで我慢するという目的は達成した。
それに元々パンケーキを焼くつもりだったし。
うん。問題ないよね。
「ヒナタさん」
突然馬車の荷台からシャルが声を掛けてきた。
まだ御者の交代には早い気がするけど……一体どうしたのだろうと後ろを振り返る。
「どうかしたの?」
「今回、カレンのために一緒に付いて来てくれてありがとうございます」
「何言ってんの。当たり前でしょ?」
仲間のために行動するのは当然だもんね。
逆に私が置いてけぼりで、マイホームでコハクと2人だと寂しい思いもする。
いや、コハクがいるから寂しい事もないだろうけど、一緒にいたはずの人がいないと違和感というか心にぽっかりと穴が空いたような感じになる。
それにせっかく異世界に転生したんだから、他国の文化にも触れてみたいという希望もあった。
でもカレンの家庭の事情で憧れの他国に行くことになるとは思わなかったけどね……。
「ヒナタさんも知っていると思いますけど、私って臆病じゃないですか。だから昔からいつもカレンに迷惑ばかり掛けてて……」
シャルが深刻そうな顔で話し始める。
「臆病かな? もしそうなら冒険者になってBランクにはなれないんじゃない?」
これは私の正直な気持ちだ。
私にとってシャルは臆病というより謙虚だと思っている。
たぶん根が優しいから、他人のことを優先して自分のことを蔑ろにしてしまうタイプだ。
「でも冒険者になったのもカレンから誘われたからで、私1人ならBランクなんて絶対に無理ですよ」
「それでもカレンと2人で頑張ってきたんでしょ? カレンもシャルがいるから安心して戦えるって言ってたじゃん」
以前オークジェネラルのリベンジ戦でシャルが威圧スキルで気を失ってしまった時に、泣いていたシャルを励ましたカレンの言葉だ。
実際のシャルは後方でカレンの支援を完璧に出来ていると思う。
もしシャルの言う通り本当に臆病なら、オークジェネラルに立ち向かうことなんか出来ずに、見かけたらすぐに逃げ出すという選択をするだろう。
「……そうですね。でも私はカレンにはたくさん助けてもらってきたんです。だからカレンにもしものことがあったら私が助けてあげたいんです」
「うん。そうだね。その時は私も協力するよ」
「ふふ、ヒナタさんありがとうございます」
シャルはカレンに恩返しがしたいのだろう。
私がパーティーに入ってからは2人で助け合っているイメージが強いけど、昔はそうじゃないのかもしれない。
2人は幼馴染だからね。子供の頃からずっと一緒に過ごしてきたんだ。
でも子供の頃の2人は想像できそう。
例えるならカレンはジャ◯アン。
シャルは……し◯かちゃん?
お山の大将的な存在だけど、いざという時は優しいカレンに、しっかり者のシャルみたいな感じかな。
私は前世では幼馴染がいなかったから少し羨ましいと思ってしまう。
「そろそろ私が代わりますよ」
シャルに御者を交代する。
もうお昼くらいか。そろそろ昼食でも食べようかな。
私は無限収納から野菜を挟んだサンドイッチを取り出す。
今更だけど無限収納は本当に便利なスキルだ。どんなに大きなものでも収納できるし、時間停止機能でも付いているのか魔物や食料も腐らない。
このスキルがあれば行商人をやってもかなり稼げそうだと思う。
それに私は飛行魔法がある。
そう考えれば色んな職業に転職可能だ。
……そういえば前世で転職をしたことがなかったな。
というより、そもそも自分がやりたい職業がなかった。
趣味を職業にするにしても私の趣味は漫画とかアニメ鑑賞だった。
到底自分にはできない仕事だったから、一番最初に内定をもらった銀行の営業職をやっていた。
学生の頃にもう少し勉強をしていれば別の可能性もあったかもしれない。
サーシャの家庭教師をしたこともあるから、学校の先生とか……。
先生か……。
まさか自分が人に教えることが好きなんて、サーシャの家庭教師をするまで知らなかった。
もし自分が先生になっていたら死ぬこともなかったのかな。
まあ今更後悔しても遅いんだけどね……。
「ママ、コハクもそれ食べたい!」
私が食べているサンドイッチをコハクも求めてくる。
お昼は魔力を与えているが、コハクも食事が好きみたいだ。
それにオーク肉だけじゃなくて、野菜も摂るようになってきた。
サーシャと2人でお出掛けしてからだから、あの時に食べたのかもしれない。
勝手に魔物の肉を与えなくちゃいけないという固定概念があったけど、コハクを見ているとそうじゃないことが分かる。
これなら毎日オーク肉を焼かなくても大丈夫なのだと思う。それにオーク肉って市場で買うとなると、結構高いんだよね。家畜用の豚に比べると、少しだけ高い価格設定になっている。
まあ、人間が危険を犯して討伐した魔物だから高くするのは分かるんだけどね。
「はい、よく噛んで食べてね」
「うん!」
コハクがサンドイッチに齧り付く。
美味しそうに食べているのを見ると私も幸せな気持ちになる。
前世で子供がいたらこんな気持ちになっていたのかな……なんて、コハクを見ているとしみじみと感じてしまう。
その後も順調に進んで夜になったので、マイホームで一晩過ごすことになった。
いつも通り夕食の準備をしてみんなで食べる。
夕食の後は、予定通りパンケーキを焼いてアイスを乗せ全員に配る。
「おいしぃ〜! ママ、これすっごくおいしいね!」
コハクが笑顔で食べている。
我慢した分、さらに美味しいはずだ。
このコハクの満面の笑みを見ると、また作ってあげてもいいかなと思う。
「明日にはベルフェストに着くから、国境検問所を抜けたら近くの街で休もうか」
「うん、そうだね」
カレンの言葉に私は頷く。
もうすぐ初めての他国への入国は結構楽しみだ。
デザートも食べ終わった私はお風呂に入った後、ウキウキしながらベッドで眠りについた。
「ヒナタさんそろそろ出発しましょうか」
「あ〜、シャルおはよう……」
「はい、おはようございます」
翌朝シャルに起こされた私は、ベッドから起きて着替えてから馬車へと乗り込む。
国境検問所には昼には着きそうなのでゆっくり出発した。
「見えてきたな……」
進んでいくと目の前に城壁のようなものが見えてきた。
思ったよりも国境がしっかりしている。
あれが国境検問所のようだ。
石で高く積み上げられて造られた城壁で、不法入国を防いでいるみたいだ。
なんでも昔に戦争をしていた時に造られたんだとか。
その時の名残でそのまま残っているようだ。
そして街道に沿って進んでいくと、城壁の入口に数人の騎士がいた。
「止まれ!」
1人の騎士に言われた通りに馬車を止める。
「身分を証明できるものはあるか?」
「はい、どうぞ」
私達3人のギルドカードとコハクの身分証明書を騎士に提出する。
そして騎士は私達が乗ってきた馬車の中を確認した。
次に再度馬車に乗っていた私達の人数と顔を確認した。
「カレンか……」
「え、あたしがどうかしたのか?」
「いや、なんでもない……。カレンにヒナタ、シャーロット、コハク。身分証明も問題ないし、不審な物も入っていないようだ。入ってよし!」
騎士がカレンを気にしていたようだが、特に何もないらしい。一体何だったのだろうか?
もしかしてカレンの美貌に惚れたのかもしれない。
でも残念。カレンは私のものだ。
え、自惚れるなって? ごめんなさい。
「ヒナタ、この先を進んでいくとすぐに街があるから」
「分かったよ。そこで今日は泊まるんだよね」
そのまま30分程度進んでいくと、街が見えてきた。
門にいた騎士に先程と同じようにギルドカードとコハクの身分証明書を提出する。
「入れ」
問題ないようなので、街へと入った。
門の先に広がった街並みはウルレインと同じ感じだ。
他国だと文化も違うかなと思ったけど、着ている服とかも同じに見える。
異国人だと違和感が出ると思ったけど問題ないみたいだ。
「どこかいい宿って知ってる?」
「前に来た時に世話になった宿があるからそこに行こうか」
カレンに案内されて、宿へと向かう。
……すると突然雨が降ってきた。
少し雲行きが怪しいとは思っていたけど、突然の大雨だ。
「早く宿に行こう!」
急いで宿へと向かう。
御者をしている私は雨に当たって身体が冷えてきた。
早く宿に行って温まりたい。
それにしてもベルフェストに入国してすぐに雨とか嫌な感じだな。
無事に宿に到着して、受付へと行く。
私は雨に当たったことでピッタリと服が身体に張り付いて、身体のラインがはっきり見えている。
そのせいか、宿にいた男性客が私のことをチラチラと横目で確認している。
前世であのような視線は女性にバレていないだろうとタカを括っていたが、案外女性側になってみれば丸分かりなんだね。私も男性側だったら、こんな服も透けて下着と身体のラインが見える女性がいたらチラチラと見てしまうだろう。
でも今の私は女性だ。あのいやらしい視線が耐えられないから早く部屋に入って着替えたい。
私がそんなことを考えている間にカレンが受付を済ませて部屋へと入った。
ベッドが4つあり4人でも快適に過ごせそうな部屋だ。
「ヒナタさん早く着替えましょう!」
「うん、ありがとう……」
無限収納から服を取り出して着替える。
下着も濡れたから気持ち悪い。
そして濡れた服を部屋に干した。
それにしても入国していきなり雨に濡れるとか、なんか幸先が悪いな……。
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