64 コハク、勝手に無双する
私がギルマスの部屋から出て、カレン達と合流すると3人は他の冒険者とお酒を飲んだりして団欒していた。
ちなみにさっき私にプロポーズしてきた男性も混ざっていた。
あ、カレン達はお酒は飲んでなかったよ。それにコハクもジュースを飲んでいるようで安心する。
そのまま3人に用事が終わったことを報告して、いざオーク討伐に行こうと言ったが何やら私にもジュースを頼んだみたいで小一時間冒険者ギルドで駄弁ったりして過ごした。
ちょいちょい私にプロポーズしてきた男性からの視線を感じたが当然無視。
流石にゆっくりしすぎたので、急いで冒険者ギルドを出て私達はオークの出現報告があった森周辺へと移動する。
コハクは私が肩車をして移動している。
ウキウキして楽しそうにしているが、あまり暴れると首が痛くなるよ。
オーク討伐なら前回、竜の姿のコハクが単独でも討伐できているから、特に心配することもないかな。
人間の姿のコハクがどれくらい強いのかも気になるからね。
「それにしてもヒナタがAランクなんてな〜」
「いつの間にって感じですね」
それについては私も驚いているから。
国王陛下の権限で勝手に昇格させちゃったから取り消すこともできない。
せめて普通にギルドでの昇格だったら絶対に断っていたのに……。
それにしても内緒で昇格とかあり得ないでしょ。
あの王様を嫌いになりそうだよ……。
「ははは……。私も驚いているよ」
なんでもAランクの冒険者はごく少数らしい。
世界中にいる冒険者の5パーセントくらいしかいないとのことだ。
そしてSランクだと1パーセントもいない。
そんなことから、ウルレインなんていう大きな街でもないのに、Aランク冒険者がいるとなると英雄扱いだ。
今後街に何か緊急事態があれば、私を筆頭に各冒険者を指揮する可能性もある。
それだけは勘弁してもらいたい。
私は後方で指示に従っている方が性に合っている。
そもそも単独戦ばっかりやっているんだから、指揮ができるわけがない。
戦闘においての協調性なんて皆無なんだから。
これからも平和でなにも起きないことを祈るばかりです。
「ヒナタ、オークの反応はあるか?」
私は気配察知で周囲の反応を調べているが今のところない。
オークの出現報告の近辺に来ているはずだか、どうやらオークたちはこの場にはおらず離れてしまっているようだ。
「反応は調べているけど、この周辺にはいないようだね」
「ママ、あっちにいるよ」
突然コハクが指を差しながら発言する。
私の気配探知では半径で600メートルまでは把握できるが、コハクは何か確信を持って言ってきた。
「コハク、魔物がどこにいるのか分かるの?」
「あっちから美味しそうな匂いがするの!」
あれ?
この言葉を信用してもいいのか?
でもコハクの食い意地は凄いからオークだけは嗅ぎ分けられるのかもしれない。
ここはコハクを信用してみよう。
どうせ私の気配探知の範囲には反応がないんだから、このまま闇雲に探すよりもコハクの示す場所に行ってみたほうがいいだろう。
そしてコハクが指を差した方角へ行ってみる。
途中からオークの足跡も複数見つかり、本当にこの先にいるような気がしてくる。
しばらく歩いていると、とうとう気配探知に反応があった。
本当にいたよ……。コハク凄すぎ……。
「コハクの言う通り、この先に反応があるね」
「やっぱり! コハクの言った通りでしょ!」
「うん。コハクのおかげだよ」
私はコハクの頭を撫でて褒める。
まさかコハクにこんな能力があるとは。
今後も私の気配探知の範囲外に魔物がいる場合はコハクに頼もう。
さらに先に進んでいくと目の前にオークの隊列が見えた。
私達は物陰からオークの様子を窺う。
「数が多いね……」
「依頼内容と違うじゃねぇかよ……」
「どうやって討伐しましょうか……」
3人で依頼内容と違うことに困惑しながらも、どうやって倒そうか悩む。
そしてカレンが悩んだ末、声を発する。
「最初はヒナタの魔法で奇襲を仕掛けてくれ。その後にあたしが飛び込む。シャルはあたしの援護をしてくれ」
「分かった。任せて」
「気を付けてねカレン」
カレンの言葉に私とシャルも気を引き締める。
そして戦う予定のないコハクは両腕が竜鱗になった。
何故かコハクを含めた全員が戦闘態勢に入る。
「あたしが合図したら行くよ」
カレンの言葉に私とシャルは頷く。
……しかし、コハクは聞いていなかった。
「いっけー!」
コハクが単騎でオークの群れに飛び込んだ。
「ちょ、ちょっとコハク!」
あまりにも急なことだったので困惑してしまったが、コハクを止めようと声をかけてもコハクは止まらなかった。
いきなり作戦失敗だよ。何のためにさっき作戦会議をしたんだよ……。
コハクのせいで作戦は失敗したが、コハクが飛び込んだことでもう後には引けない。
私達も急いで加勢をしよう物陰から飛び出したが、コハクが1体のオークに向かって攻撃を仕掛けた。
「コハクパーーーンチ!!!」
ものすごい勢いで繰り出された右ストレートはオークの頭を一瞬にして消し飛ばした。
そして周辺に飛び散るオークの血飛沫。
「うわーお……」
思ったよりコハクのパンチは強いようだ。
これからはコハクを怒らせない方がいいかも。
あのパンチは私の物理攻撃耐性スキルでもタダでは済まないかもしれない。
そして私達がコハクの戦闘に呆然としている間に、コハクは次々とオークにお得意の右ストレート、時に左ストレートをお見舞いしている。
「コハク、強いんだな……」
「信じられませんね……」
全員目の前で起きている現象が信じられない。
私もまさかここまでとは思わなかったよ。
やはり人間の子供の姿でも竜なんだと思わされる。
あっという間にコハクは20体以上のオークを討伐して、私達のもとに帰ってきた。
帰ってくるコハクはオークの返り血でひどい有様だ。
これを洗うのは私なんだよね。
子供が公園で遊んできて、泥だらけになった服を洗濯するお母さんの気分になる。
でもそれならまだヤンチャだなと済ませられるがこれはちょっと……。
「今夜はご馳走だね!」
血塗れになったコハクが両手をあげて喜んでいる。
ここは褒めるべきか、叱るべきか。
……うん、叱るべきだろう。
「コハク、1人で勝手に行っちゃダメだよ」
少し声色を低くしてコハクを叱る。
4人で討伐に来ているんだから、連携して討伐をするべきだ。
それを1人で勝手に飛び込んでいくなんて言語道断だ。
そもそも私達の作戦会議を聞いていなかったのか。
いろいろなことを含めて考えると、今後のためにここで反省してもらわないと。
「で、でもコハク1人で倒せたよ?」
「それでもダメなの。4人で来ているんだからみんなで討伐しないとカレンお姉ちゃんたちにも失礼でしょ。それにコハク1人で行っちゃうとママが心配するの。あまりママを心配させないで」
こういう時に大事なのは協調性だ。
パーティーで動いているのだから、勝手な単独行動は許されない。
「うぅ……。ごめんなさい」
コハクは涙目になりながら謝罪をする。
反省してくれればそれでいい。
これで二度と同じことはしないだろう。
……たぶん。
それにしても今回の依頼ではコハクの戦闘力がよく分かった。
ここまで強いとかなりの戦力になりそうだ。
今までは前衛がカレンだけだったから、これからはコハクにお願いができる。
……いや、流石に子供のコハクを前衛にするのは体裁が悪いか?
周囲から幼女虐待で変な目で見られる可能性もある。
うん。コハクは大人しく私の後ろで待機させておこう。
さて、これで依頼は完了なんだろうけど、気配探知にはまだ反応がある。
少し距離があるが、目の前で死んでいるオーク達よりも大きな反応があるのだ。
「この先に別の魔物が1体いるよ。反応が大きいから結構強いと思うけど……」
「行くべきだろうな。そんな魔物が街に近付いたほうが厄介だ」
「そうですね。ヒナタさん、行きましょう」
戦闘狂のカレンが戦いたがっているので、私達は反応がある方向に歩き出す。
森の茂みを進んでいくと、目の前にいたのはオークの上位種がいた。
「あれは……。オークジェネラルだ」
カレンが言う。
カレンたちにとってはオークジェネラルは宿敵だ。
以前、オークジェネラルによって気絶されられて捕まった過去がある。
「ヒナタ、あれはあたし達に任せてくれないか……?」
前回のことを考えてか、もう一度挑戦したいのだろう。
気持ちはなんとなく分かるから意見を尊重するべきだ。
「分かった。何かあったらすぐ援護するから。コハクも大人しくしててね」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「わ、分かったよママ……」
とりあえず私はコハクの手を繋いで隠密スキルを発動させる。
このタイミングで少し実験をしてみたい。
隠密スキルを使うことで、姿を消せるけど身に付けたものも消えているので、誰かと接触していれば、その人も隠密の効果があるのか。
今までも何度かやっているが、実際に効果があるのかはっきりしていない。
カレンたちがオークジェネラルと戦っている間に移動してみても、気が付かれないのであれば実験は成功だ。
カレンは剣を構えて、シャルは木の上に移動する。
「行くぞ! シャル!」
「うん!」
個人的にコハクパンチを書きたかっただけの回です。
そのため内容が希薄になりました。
あ、いつも希薄な内容しか書いていないか……。
お付き合いいただきありがとうございました。




