61 コハクと森で遊ぶ
コハクはサーシャとのボール遊びが気に入ったのか、1人でボールと遊ぶようになりました。
どうやらボールが友達みたいです。
私としては1人で遊んでくれていて助かります。
でも家の中なので、どうしてもボールを遠くに飛ばせないことがストレスになっていて、家の壁にボールをぶつけるようになりました。
注意してもやめてくれません。凹んだ壁を直すのも面倒だから勘弁してほしい。
なので、ボールを禁止して私が土魔法でフリスビーを作りました。
これでも一緒に遊べるからね。
完全に犬扱いだけど……。
最初は楽しそうに飛ばしたフリスビーに食いついていたけど、やはり家の中なのでそんなに遠くに飛ばせません。
簡単に追いついてしまうからコハクもすぐに飽きてしまいました。
そのせいかコハクが私の服に噛み付くようになりました。
コハクが本当は犬なんじゃないかと疑い始めています。
やっぱり竜だからこの狭い家にいるのもストレスなのかな。
でも、外に連れ出すのもな……。
……いや、待てよ。
冷静に考えてみれば、フィリップに絶対に外には出すなとは言われていない。
そもそも外に出さないのは住民にバレないようにするためだ。
ってことはバレなきゃいいんじゃね?
あの時は外出を控えるようにとしか言われていない。
要は解釈の問題だ。
なんで今まで気が付かなかったんだ。
「コハク。一緒に森で遊ばない?」
「キュッキュッ!」
コハクは私の服を噛むのをやめてぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
コハクって言葉を理解しているからすごいよね。
まだ生まれて2週間くらいだよ?
やっぱり私の子供だから優秀なんだな。うん。
早速私はまだ長時間の飛行ができないコハクを抱えたまま、隠密を発動させて飛行魔法で森に向かう。
一応依頼を受けている冒険者に遭遇しないように慎重に森の奥に進む。
コハクは私の胸で楽しそうにしている。
可愛くてつい強く抱きしめてしまうから気を付けないと。
そして森の更地になっている場所に到着したのでコハクを降ろす。
「キュッキュッ!」
コハクが颯爽と走り出す。
くるくる回りながら走り回っている。
私の周りも回っている。
すごい嬉しそうだ。連れてきてよかった。
「ほら、コハクいくよ!」
私はフリスビーを遠くに飛ばした。
コハクは楽しそうに追いかけて口でキャッチする。
こうしていると本当に犬にしか見えない。
その後もフリスビーとかボールを投げてコハクと遊ぶ。
たまにコハクが小さな翼をバタつかせて飛んでキャッチをする。
最近はコハクもそれなりに飛べるようになってきたようだ。
あの小さな翼で頑張って飛んでいる姿がとても愛おしい。
初めの頃は1分くらいの飛行だったが、成長した今では10分は飛べる。
少しずつではあるが翼も大きくなってきて、身体も成長してきている。
頭に乗ってくると首が痛くなるけどまだ耐えられる重さだ。
コハクが走り回って疲れたようだったので休憩をしていると、ゴブリン5匹が接近していた。
完全に油断していた。気配探知も使っていなかったから結構近くまで来てしまっている。
でもゴブリン程度なら簡単だ。
いつも通り岩石弾を使おうとすると……。
「キュー!」
突然コハクがゴブリンに向かって飛んで行った。
「ちょっとコハク!」
コハクが怪我をするかもと思い、制止しようとするがコハクは止まらない。
私の心配も無視してコハクはゴブリンに噛み付いた。
「キュイ!」
「ゴギャアァァァ!」
あれ? 意外とコハクって強いのか?
ゴブリンの振り回す石斧のようなものを軽々躱して、首筋に齧り付く。
いつも犬扱いしていたから忘れていたけどコハクは竜なんだよね。
そう考えればいくら幼竜でもゴブリンくらいは圧倒できるのか。
これなら安心して見守れそう。
すぐにコハクがゴブリンを討伐してしまった。
討伐を終えたコハクが口にゴブリンの血をベッタリと付けて私に近づいてくる。
私の足元に座り込み、まるで褒めてって言っている様な瞳をしている。
「うん、よく頑張ったね」
頭を撫でてあげるとコハクは嬉しかったのか、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
親としては少し心配だけど、コハクだって魔物を倒したいよね。
危険なことをしない限り、親はそばで見守るべきだ。
あ、でもお口は拭こうね。ゴブリンの血で汚いから。
「よし! コハク、魔物を倒しに行こうか!」
「キュイ!」
コハクのためにも魔物を探しに行くことにする。
それからコハクを頭に乗せて森を進んでいく。
そして気配探知スキルで魔物の反応を探る。
「コハクあっちに行くよ!」
「キュイ!」
気配探知に2つの反応があった。
走って反応があるところに進んでいくと、オークがいた。
コハクでもオークは大丈夫かな……。
体格差があるから少し厳しいような気もする。
ここは親として私が手本を見せてあげよう。
「キュイー!」
魔法を行使しようとしたが、コハクは勝手にオークに飛びかかる。
オークとコハクじゃ、体格差があるから危険だよ!
熊にタヌキが襲いかかるみたいな光景になっている。
急いで私も加勢しようとするがコハクは先程のゴブリン同様、オークの首筋を噛みちぎる。
「キュイ!」
「グオォォォ!」
やっぱりコハクは頭がいい。
教えてもいないのに魔物がどこを損傷すれば討伐できるか分かっている。
本能なのかな。
それにオークとの体格差を利用して小回りよく動き、オークを翻弄させている。
30秒程度で2体のオークの討伐が終わる。
そして討伐を終えたコハクはオークをむしゃむしゃと食べている。
今食べたら夕食が食べられなくなるよ。
私はコハクに近づいて、もう1体のオークを無限収納にしまう。
「キュキュー!」
コハクが怒っている。
そんなに頭を叩かないで。
私の頭にオークの血がついてるから……。
「帰ってから今日の夕飯にするから我慢してね」
「キュウ……」
コハクは納得したのか、私の頭を叩くのをやめる。
素直に言うことを聞いてえらいね。よしよし。
「キュイキュイ!」
頭を撫でるとコハクは喜んだ。
その後に私の頭に付いたオークの血を布で拭いて綺麗にする。
あ、でも髪に付いた血が取れない。
帰ってからお風呂で綺麗に洗わないと。
「さて、そろそろ家に帰ろうか」
「キュイキュイ」
コハクが首を横に振る。
いや、どんだけ魔物を倒したいのよ。
そろそろ遅い時間だから帰ろうよ。
夕食の準備もしないといけないし。
お母さんは大変なんだよ?
「だーめ。また今度来よう?」
聞き分けの悪いコハクには諦めてもらわないと。
別にこれが最後じゃないからね。またすぐにこうやって森に来られるだろうし。
私は嫌がるコハクを無理やり抱えて家に帰る。
家に着いて、3人と1匹分の夕食を準備しておく。
今日は魔物の血でコハクが汚れたから先にお風呂に入る。
それに私の頭に付着した血も落とさないといけない。
魔物の血ってなかなか落ちないんだよね。
服とかに付いたら本当に大変なんだよ。
私はお風呂場でコハクを拭いた後、自分自身と服を洗った。
服に付着した血を洗い落とすのに苦労している間に、コハクはお風呂の中ではしゃいでいる。
そしてどんどんお風呂のお湯がなくなっていく。
「こらこら。お風呂の中で暴れないで」
「キュイー!」
全くもう。目を離すとすぐこうやって暴れるんだから。
ゆっくり自分の事もできやしない。
でも子育てってこんな感じなんだろうな。
そして苦戦した服の洗濯も終え、お風呂から上がるとカレンがすでに帰宅していた。
「あれ? もう帰ってたんだ」
「ああ、さっき帰ってきたんだよ」
「シャルはどうしたの?」
「シャルは自分の部屋に行ったぞ」
「そうなんだ。なら、もう夜ご飯でも食べようか」
「そうだな。腹も減ったし食おうかな」
「ならシャルも呼んできて」
「はいよー」
「よし、コハクも一緒に食べよう」
「キュキュイ!」
カレンが2階に行き、シャルを呼んできて全員で夕食を食べた。
その後はコハクは疲れていたのかすぐに眠ってしまった。
私も久しぶりに外に出たからかちょっと疲れた。
いつもよりも早めにベッドに入ってコハクを抱き締めてそのまま眠りについた。
翌朝、目が覚めると抱き締めていたはずのコハクがいない。
「……あれ? コハク?」
私は寝ぼけながらもコハクがどこに行ったか周囲を見渡す。
しかし部屋にコハクはいない。
その代わりに私のベッドにコハクじゃない小さい女の子がいた。
んー、まだ寝ぼけているのかな……。
なんで起きたら目の前に裸の幼女がいるんだよ。
あれ? もしかして私が昨晩間違えてどこからか誘拐でもしてきたのか……?
ってそんながわけない。私はロリコンではないのだ。
だとすると、この幼女は一体……。
もしかして実は夢オチだったりする?
試しに頬をつねってみる。あれ、痛いな。
ってことは夢ではないらしい。
だとすればここにいる女の子は……。
「だれ!?」
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