59 我が子が孵化する
みなさんおはようございます。ヒナタです。
なんだかんだで久しぶりにゆっくり寝たような気がします。
白竜様に出会って強奪したスキル、竜装化を試したことで全裸になって落ち着いて寝ることができなかった。
いくらバスタオルを羽織っているからといっても、女性の裸体で3日間の野宿は流石に落ち着かなかった。
その後も急いで王都に向かって、国王陛下に会いに行ったりしていたから忙しい日々だった。
思い返せば、この数日でかなりの移動量だと思う。
飛行魔法を覚えていなかったらと思うと寒気すらする。
そんな私はマイホームに帰宅した後、白竜の卵を抱きしめながら寝ていました。
育て方が分からないから、とりあえず温めていたほうがいいと判断したからです。
稀に中にいる子供が動いたときは順調に育っているのを感じます。
早く産まれて卵の中にいる子竜に会いたいものです。
そして起きた後は卵を毛布で包んで持ち運びます。
っていうか、竜って何を食べるのだろうか。
やっぱり肉食なのかな……?
今後の食費が嵩みそうです。
産まれた時のことも考慮して『猿でも分かる竜の育て方』みたいな本とか売ってたらいいんだけどね。
無事に産まれたとしても、育て方が分からないんじゃ、凶暴な魔物として成長してしまうかもしれない。
……あ、でもシャルなら知っているかもしれない。
産まれたばかりの竜が初めに見た者を親と認識するというのはシャルからの情報だ。
あとで聞いてみることにしよう。
とりあえず今後の生活は、白竜の卵が気になるからあまり長時間の外出は控えるようにしなければならない。
いつ孵化するか分からないからこそ私がそばにいなければ。
もし誰もいない時に孵化したらこの子も寂しいだろう。
もし私がいない時に孵化したことで、その場に偶然カレンとかシャルがいて親と勘違いしたらどうする。
だからこそ、なんとしても私が孵化を見守らねばならない。
さて、今日はまずフィリップのところに行くことにする。
白竜の卵を保管していることに理解を得なければいけない。
……何を言われるかは分からないけど。
「捨ててきなさい」とか言われたらどうしよう。
そんなことになったらこの街から出る可能性もある。
我が子を捨てるくらいなら親になる私がそばにいるのが自然だ。
すでにこの子は私の子供なのだ。愛情たっぷりに育てるのだ。
前世が男でも今は女性だ。母性が溢れまくっている。
でも改めて考えてみると、初めての子供が竜なんてどこの世界を探しても私だけなんじゃないだろうか……。
そして私はマイホームに卵を置いて、フィリップの屋敷へと向かう。
流石に卵を持って街中を移動はできないからね。
屋敷へと到着し、いつも通り門番に声を掛けて屋敷内へと案内される。
「朝から用事とは何か緊急なのか?」
ある意味緊急なのかな?
朝早くから来たのは、フィリップが間違いなくいると思ったからだ。
私が自由に出入りしているから暇なイメージがあるが、街のためにかなり忙しそうにしている。
そのため失礼とは思いつつ朝早くからお邪魔した次第だ。
「少しご相談が……」
真剣な面持ちで話す私を見てフィリップは緊急の用事と判断したのか、執務室に案内されて2人きりになる。
そりゃあ、早く帰って我が子のそばにいないといけないから真剣になるよね。
私はフィリップに説明する。
冒険者の依頼で鉱山に住み着いたネメアーの討伐に行ったこと。
その帰りに偶然、洞窟の中で衰弱した白竜を発見したこと。
その白竜から死の直前に卵を託されたこと。
その卵はマイホームに大切に保管していること。
「鉱山の魔物が討伐されたことは聞いていたが、まさかヒナタさんだったとは……。いや、それよりも白竜の卵をどうするか……」
フィリップは前世でいうところの、考える人と同じポーズをしている。
私が危険な魔物である竜の卵を持ち込んだことで悩んでいる。
いくらフィリップが私に対して好意的だとしても、街の平和を脅かす可能性がある竜の存在を許容できるはずがない。
こういう時に領主として最も大事なのは民の安全を確保することだ。
そのため、いくら産まれるのが子竜だとしても、街の中に魔物が生存していることは危険を伴う。
……でも私も無責任な人間じゃない。あの子はもう大切な家族なのだ。
愛を込めて育てると誓った。
「私が責任を持って育てますのでどうか……お願いします!」
私は椅子から立ち上がり正座をした後、誠心誠意頭を下げてお願いをした。
土下座なんて大したことない。これも我が子のためだ。
「……ヒナタさんの誠意は伝わった。それなら白竜についてはヒナタさんに一任しよう。その代わり……」
そこからは一応条件を言い渡された。
一つ、孵化した白竜が危険と判断した場合、すぐに討伐すること。
二つ、私の言うことを聞くように育てること。
三つ、ある程度育って危険じゃないと判断した場合、街の住民にも竜の存在を明らかにするため、なるべく連れて歩くこと。
四つ、住民に白竜が危険じゃないことへの理解を得ること。
五つ、孵化したら見に行くから教えて欲しい。
以上、五つの条件を言い渡される。
この中だと住民の理解が一番難しい。
危険じゃないと判断されたらフィリップも協力してくれるらしいけど、どうなるかは分からない。
いくら親である私や領主様が危険じゃないと言っても、住民からはある程度の反対は出てくることになる。
住民全員が納得するのは難しい問題だ。
でもフィリップも協力的なのは一歩前進かもしれない。
最悪の想定をして私が街を出ていくという手段もあったわけだしね。
そしてフィリップとの対談を終えた私はマイホームに帰り、卵を抱きしめながら眠りについた。
「ヒナタさん、竜の卵は魔力を与えれば早く産まれるみたいですよ」
あれから1週間が経ち、シャルが竜について調べてくれた。
以前、私が竜の育て方を聞いたことでわざわざ調べてくれたらしい。
なんでも竜の子供は親から魔力をもらって孵化するとのことだ。
ってことは私がこの1週間温め続けたのは……いや考えないようにしよう。
それから食事も魔力だけで十分みたいだ。
でも味覚もあるらしくて食事を与えても問題ないらしい。
その場合は食事を体内で魔力に変換するので、親の魔力が少ない時は魔物の肉を食べさせるといいらしい。
大変ためになる情報を手に入れた。
シャルには感謝しないといけない。
お礼として今日の夕飯はご馳走にしよう。
そして夕飯はチーズフォンデュにした。
ウルレインに帰ってくる時に、サーシャ達と食べた時に好評だった為、シャルへのお礼を込めて作った。
まあ、作ったと言ってもチーズを溶かして材料を切るだけだから、そこまで手間は掛かってないんだけどね。
夕食を食べ終わった後は、早速魔力を卵に与えることにした。
卵に手を翳し、自分の魔力を流してみる。
……返事がない。ただの屍のようだ。
なんて冗談を言っている場合じゃない。
私は世間一般的には魔力量が多いようだけど、どのくらい与えればいいのか分からない。
とりあえず毎日魔力枯渇になるまで与えてみたほうがいいかな。
多分、竜ならすぐに孵化できるくらい魔力を与えられるんだろうけど、私にはそこまでの魔力量はないはず。
そうなると、竜が魔力を与えた場合、どの程度で孵化するのか疑問に思うが、調べるのは難しい。
本当の親である白竜も本当はすぐにでも孵化させたかった思うが、運悪くネメアーとの戦闘で衰弱してしまったことで、自分の生命を維持することに精一杯になり子供に与えられるほどの魔力の余裕もなかったのだろう。
っていうか、そもそも私が魔力を与えてもいいんだよね?
私の魔力の影響で孵化したら私そっくりの竜が出てくるとかないよね?
ちょっと心配事が増えてくるけど、今はそんなことを考えている場合じゃないか。
この子が孵化するまで無心で頑張ろう。
あれから4日が経ち、卵に変化があった。
いつも通り寝る前に魔力を与えていたら、モゾモゾと卵が動いた。
そして卵に亀裂が入る。
ピピピ……。
「う、産まれる?」
パキーン!
卵が綺麗に二つに割れ、中には子竜がいた。
白竜の子供は小型犬くらいの大きさですごく可愛い。
翼も小さくて、生まれたての小鹿のようにヨロヨロとしている。
「か、可愛い……」
あまりの可愛さに我が子を抱きしめる。
「キュイキュイ……」
鳴き声も可愛い。
私を親と思ったのか、胸に抱きついてきた。
あまりの可愛さに失神してしまいそうだ。
私の魔力で生まれたから、私に似た姿で生まれなくてよかった。
ちゃんとした小さくて可愛い白竜だ。
「名前考えないとな……」
新しい家族ができたのだ。しっかり親としてこの子に名前を与えないといけない。
親から初めて子に与えるものは名前だ。
しっかり考えて、キラキラネームになんてしたくない。
しかし残念なことに私にはネーミングセンスはないのだ。
明日にでもカレンたちに相談した方がいいかな……。
「キュイ……」
そんなことを考えていると、白竜が私の胸の中で目を閉じて眠ってしまったようだ。
念の為、少しだけ白竜に魔力を与えて一緒にベッドで眠った。
翌朝、ベッドの中で何かが動く気配がして目が覚める。
すると白竜が私の顔を覗き込んでいた。
朝からこんな素敵な目覚めがありますか。
白竜は昨晩と違って、自分で歩けるようになったみたいだ。
でもまだヨチヨチ歩きみたいな感じ。たまに転んでいる姿を見ると愛らしく見えてしまう。
まだまだ足の筋力もないからしょうがないよね。
私は白竜を抱えて、1階に降りる。
白竜の食事は私の魔力でもいいらしいけど、せっかくだから何か作ってあげたい。
これが母性というものなのか。
生肉でもいいのかな? でも一応両方出しておいたほうが良さそうだ。
白竜がどちらが好きなのか判断もできる。
私はオーク肉を焼いてステーキにしたものと、オークの生肉を両方一口サイズにカットして白竜に与える。
「キュイキュイ!」
白竜はオーク肉に齧り付いた。
どうやら両方食べるようだ。
しかも美味しそうにむしゃむしゃと食べている。
でも、ステーキの方が好きなのかな?
最後に一切れ残して美味しそうに食べた。
この子は好きなものは最後に残して食べる派だ。
満腹になったのか白竜がウトウトとし始める。
私は白竜を抱きかかえてソファーに座る。
そして気が付いた。白竜を抱えたことで両手が塞がり朝食の準備ができなくなってしまった。
いや、白竜をソファーに寝かせればいいのだが、眠った白竜が可愛すぎて離したくない。
眠った白竜を抱きしめたまま30分程経って、2階からシャルが降りてきた。
そして私が抱いている白竜が目に入る。
「え!? 孵化したんですか!?」
「昨晩にね」
シャルは白竜に近づいてくる。
眠った白竜を撫でる。シャルがすごい笑顔だ。
「……可愛い」
「可愛いよね」
ふふふ。
そうだろう。我が子は可愛いだろう。
この子を見ているだけで癒しになるよね。
「今ね、名前を考えているところなんだ」
「名前ですか……」
「そう。3人で考えようかなって」
「なるほど……」
2人で考えていると、カレンも起きてきたようだ。
目を擦りながら2階から降りてくる。
「おはよう」
「「おはよう」」
寝ぼけながらも私が白竜を抱いている姿を見て、急に目が開く。
「孵化したんだ!」
「そうなの。だから今、名前を考えているところなんだけど……」
「……そうだな。できれば、白竜とヒナタを合わせた名前の方がいいのか?」
まあ、確かに初めての子供は両親の名前から一文字ずつ合わせるとかよくあるけど……。
どうしたものか……。




