58 白竜から託される
白竜はフラつきながら動き出した。
『ここに私の子供がいるの』
白竜のお腹の下に隠されていたのは卵だった。
『私の命はもうすぐ尽きるわ。でもこの獅子を倒せるあなたになら私の子供を託すことができる』
え、そんな大役私にできないよ。
責任重大じゃん。
子育てもしたことないのに、竜は育てられない。
『私が死んだらこの子は産まれることすら叶わない。でもあなたがここにやってきたことで、この子を育て守ることができる。最期にあなたに会わせてくれたこの世界の運命の女神様に感謝しないとね』
なんか勝手に話が進んでいる気がする。
引き受けるなんて言っていないけど。
でも目の前の白竜の死の直前に託された子供を見捨てるのは罪悪感が……。
さすがに断れないよね。
「本当に私でよければ……」
『あなたがいいわ。あなたにしか頼めない』
そこまで言われたら引き受けるしかない。
正直自信はないよ。
孵化したら竜が出てくるわけだから、ウルレインで育ててもいいか分からないし、この白竜様くらい大きくなったら確実にマイホームにも入らない。
最悪竜を飼っていることが住民に露見したら街から追い出される可能性もある。
というかそもそも竜と一緒に暮らすというのが想像できない。
どうやって育てるのか、ご飯は何を食べるのか……そんなこと分かるわけがない。
でもこの状況で「私には荷が重いので他を当たってください」なんて断るのを白竜様に言えるわけがない。
「……分かりました。白竜様に代わって私が大切に育ててみせます」
『ふふ。よろしく頼むわね……』
白竜が安心したのか目を閉ざした。
……あれ?
「……白竜様?」
返事がない。
気配探知で反応を確認すると消えている。
「え、嘘でしょ? 死んじゃった……?」
少ししか会話をしていないが、目から一粒の涙が頬を流れる。
なんでだろう。すごく悲しい。
たぶんこの白竜様は自分の子供のことが心配で、気力だけでここまで生きてきたのだろう。
そこに私が来て、この子を託したことで安心して逝ったのだ。
文字通り命を懸けて自分の子供を守っていた。
私は白竜様の分も合わせて、責任を持ってこの子の面倒を見ないといけない。
この卵を引き受けた以上、私にはその責任が生じたわけだ。
でもこの卵を持って王都にはいけないな。
抱えられるくらいの大きさではあるけど、どうしても目立ってしまう。
一度、ウルレインのマイホームに置いてこないといけない。
そうと決まれば、一旦ウルレインに帰ってカレン達にこの卵を任せよう。
王都行きはその後だ。
最後にこの白竜はここに埋葬したほうがいいかな。
何百年も生きた竜だ。ちゃんと弔ってあげたい。
埋葬する前に白竜に強奪スキルを使用してから、土魔法で白竜が入る大きさの穴を掘り埋葬する。
「安らかに眠ってください」
私は埋葬した白竜様の前で手を合わせる。
その後に白竜様から頂いたスキルを確認するためにステータスを開く。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :237/237
MP :307/375
スキル:水魔法LV7
風魔法LV8
火魔法LV5
土魔法LV8
無属性魔法LV5
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV3
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV6
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV6
自然回復LV6
身体強化LV3
物理攻撃耐性LV6
竜装化
竜王覇気
ユニークスキル:強奪
なんかすごいスキルなんだけど……。
竜装化とか竜王覇気とは絶対やばいでしょ……。
こんなスキル、人族が持ってはいけないスキルなのではないだろうか。
でも気になるよね。
試しに竜装化をやってみる。
「きゃっ!」
つい、女性口調になってしまった。
穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい。
周囲に誰もおらず見られなくてよかったと感じる。
それは2つの意味で……だ。
何故なら身体中に鱗が生え、さらには翼まで顕現したから。
背中から生えた大きな白銀の翼が、私を大空へと運んでくれそうです。
そしてもう一つの意味は、竜装化に伴い服が破れたのです。
今の私は全裸です。すっぽんぽんです。
まあ、竜装化のおかげで大事なところは隠されているようだけど……。
でも、人としてこの姿はダメだ。竜鱗もそうだし全裸もアウトだ。
「できれば腕だけ生えてくれればよかったのに……」
そう思って、右腕に意識を集中してみる。
「……あれ? 腕だけになった」
右手を竜鱗に変化できないか試そうと意識を集中してみると、思いの外出来た。
全身の竜装ではなく、意識的に特定の部位を竜鱗に出来るのはとても便利だ。
これで防御力高めの鱗をゲットだね。
そしてこれで完全に人外認定だね。
「はあ〜……」
私は頭を抱えて悩む。
こんなスキルは人前では絶対に使えない。
もしバレたら人類の敵として捕らえられて解剖されてしまう。
私以外の時は封印しなければならないスキルだ。
そしてもう一つのスキルである竜王覇気は機会があれば試してみよう。
多分、1人で使ってみても意味なさそうだと思う。
……さて、服とかはウルレインのマイホームのタンスに収納しているため、このまま全裸で帰るしかない。
隠密スキルを持っていてよかったと感じる。
……いや、マイホームにバスタオルくらいはあるか。
せめてバスタオルだけでも巻いておこう。全裸よりかは遥かにマシだ。
私は無限収納からマイホームを取り出して、お風呂場からバスタオルを持ってきて羽織る。
そして隠密スキルを使って、卵を持って飛行魔法でウルレインに向かう。
この格好で3日間の旅とか本当に恥ずかしい。
隠密スキルを使っているけど、誰にも見られませんように。
というより、この状態だと第三者から見てどうなっているんだろうか。
卵が浮いて見えているのか、それとも卵ごと見えなくなっているのか。
機会があれば今後のために試してみよう。
はい。無事にマイホームに到着しました。
3日間、ほぼ全裸だったから風邪を引かないか心配です。
「ただいまー」
「お、おかえり?」
「おかえりなさい?」
カレンたちが私の姿を見て呆然としている。
そりゃそうだ。玄関にはバスタオルを羽織った姿で手には卵を抱えている私がいるんだから。
「えっと、どこからつっこめばいいの?」
「まあ色々あったのよ。察してよ」
察してよ、と言われても事情を知らないとこの状況は異常すぎる。
私の隠密を知らなければ、全裸で街の中を歩いてきたと誤解されかねない。
「ちょっと王都に行かないといけないから、この卵は私の部屋に置いておくね。詳しい話は帰ってきてからするから」
「え? ちょっと!」
私はすぐに自分の部屋に行って、タンスの中から服を取り出してマイホームを後にする。
本当は王都に行くまでに時間稼ぎをするつもりだったからウルレインに帰ってきたのはちょうどいい。
このまま王都に向かっても怪しまれないと思う。
それからウルレインから出発して2日目に王都に到着した。
すぐに王宮に向かい、王城の中に案内される。
案内されたのは前回のような謁見室ではなく、執務室のような場所。
「よく来たな。ヒナタ」
中に入ると国王陛下が椅子に座っていた。
どうやらここは国王陛下の仕事部屋のようだ。
それにしても、この短い期間に国王陛下に3回も会うなんて貴族でも珍しいだろう。
正直、結構緊張するからもう会いたくない。
「鉱山に発生したネメアーの討伐に感謝する」
「いえ、たまたま倒せる方法があっただけなので」
「倒し方については気になるが……その話は今度にしよう。それで要件はネメアーを是非拝見させてほしいと思ってな」
倒し方については絶対に教えないよ。
私が上級魔法が無詠唱で使えることが分かれば、絶対に使い潰すでしょ。
それに私はもう王城には来たくないんだ!
「……ネメアーは私のアイテム袋に収納していますけど、どこに出せばいいですか?」
「そうだな、案内しよう」
私は国王陛下と一緒にいた宰相と思われる人に連れられて、王国騎士団が狩ってきた魔物を解体する場所に案内された。
「ここなら大丈夫だろう」
「分かりました」
言われた通りに、ネメアーをアイテム袋から取り出すように偽装して無限収納から出した。
「ほう。ここまで大きいのか……。こんな魔物は初めて見た」
「そうですね……」
国王陛下も宰相も驚いている。
王族ですら見たこともない魔物なら相当珍しいんだろう。
それに白竜様すらも倒している魔物だ。
でも予想だけど、白竜の場合は卵を守りながらだったから、あそこまで追い詰められたんだと思う。
「ネメアーという希少な魔物はなかなか遭遇できない。せっかくなので国として買い取っても良いか?」
「こちらとしてはありがたいですが……」
私も処分に困っていたから助かる。
その後は国王陛下にネメアーを引き渡して、再度国王陛下の執務室に戻り、ギルドカードにお金を振り込んでもらった。
ギルドカードを渡された時にまたニヤッとした顔をしていたので嫌な予感がするよ。
「では、私はこれで失礼しますね」
「ああ、ご苦労だった」
卵が心配なのですぐにウルレインに帰ることにする。
飛行魔法で丸1日移動し続け、マイホームに到着したのは夜になってしまった。
しかしまだ明かりが点いているようだ。
カレン達はまだ起きているみたいで安心した。
「ただいまー」
「やっと帰ってきたよ!」
王都の往復で3日しか経過してないよ。
このスピードは異常じゃない?
「何かあったの?」
「何かあったの? じゃねぇよ! いきなり卵をお願いとか言われても訳わかんないし!」
「あはは。ごめんね。とりあえず説明するよ」
私は2人に説明する。
とりあえず鉱山の魔物は討伐したけど、王様に呼ばれて王都を目指していたけど途中で白竜に会った。
白竜はネメアーに怪我を負わされて、死ぬ寸前だった。
そこに私がきたことで白竜の卵を託された。
「……ということだよ!」
「ってことはあの卵はあの時の白竜の子供ってことか!?」
カレンとシャルもいい反応をしている。
やっぱり2人といると楽しいね。
最近は1人が多かったからね。
「どうするんだよ……。竜の子供とか育てらんねぇよ」
「で、でも確か竜って生まれた時に最初に見た者を親だって思い込むんだよね?」
シャルが驚きのことを言い出した。
「え、そうなの?」
それなら私を親と思い込ませれば、危険はないんじゃないのかな。
「うん。昔どこかの貴族がそれで竜を飼っていたから」
いい情報をゲットだね。
昔にも竜を飼い慣らした人がいるという前例があるなら、私も頑張れば育てられる。
でもとりあえずフィリップには報告したほうがいいよね。
何かあった後に事後報告なんてしたら、罪人になるかもしれないし。
とりあえず明日はフィリップのところに行こうかな。




