56 ネメアーの討伐
非常にまずい。完全に油断した……。
まさかこの砂煙の中、正確に私に命中させるとは思わなかった。
というより、そもそもあの状況で魔法を行使してくるとは。
いや、逆にあの状況だからこそやってきた可能性の方が高い。
魔物のくせに知性があるようだ。私より一枚上手だったな。
そして風撃が腹部に直撃したからか、口から血を吐き出す。
どうやら先ほどの衝撃で内臓までやられたようだ。
すぐに回復薬を飲んで、あとは自然回復スキルに頼るしかない。
かなりの重症かもしれないから逃げるという手もあるが、かなり怒っているから追ってくるだろうな。
私が逃げ出したことでこの魔物を外に連れ出すわけにはいかない。
ここで始末しないといけないと思う。
「やるしかないか……」
私は立ち上がり戦闘態勢に入る。
砂煙でネメアーは見えないが、私には気配探知がある。
今度は私が砂煙を利用して一度だけネメアーに攻撃を仕掛けてみよう。
私は反応がある方向へと岩石弾を放つ。
「ロックショット!」
いつもより魔力を込めて、5発ほど展開した岩石弾を発動させた。
気配探知スキルである程度の位置は分かるけど、正確には特定できないから複数の岩石弾を放つ必要がある。
「グオオオォォォ……」
砂煙でネメアーの状態は分からないが、どうやら岩石弾は命中したようだ。
ネメアーの呻き声も聞こえたので、私は視界を良くするために風魔法で砂煙を払い除ける。
ネメアーの状態を確認すると、胴体に3発の岩石弾が命中している。
今回は魔力を込めたおかげか、胴体を貫通していた。
あれ? でも最初に頭に命中させた傷がなくなっている。
どうやらこいつも自然回復スキルを持っているようだ……。
面倒だな。
そしてネメアーは砂煙が晴れたことで、私を狙って魔法を放ってきた。
ネメアーが放ってきた魔法は土魔法の土槍だ。
すぐさま私は土壁で防御をする。
「風魔法の次は土魔法か……」
まさか2種類の魔法を使ってくるとは思わなかった。
もうないよね。お願い、頼むよ……。
とりあえず私は崩落を防ぐためにネメアーの魔法を相殺しつつ、攻撃をしなくてはいけない。
それにネメアーも自然回復スキルがあるから時間を掛けられない。
「本当に面倒な魔物だな……」
ケートスの時も危なかったけど、あの時はこの洞窟と違って広大な海上だったから遠慮なく魔法も使えた。
しかし、洞窟となると余裕がないのに手加減して倒すようなものだ。
何か手はないかな……?
何かいい案がないか模索していても、ネメアーの攻撃は止まらない。
次々と土槍と風撃を交互に飛ばしてくる。
私も同じ魔法で相殺をする。
このままだと魔力量の勝負になってしまう。
ネメアーよりも魔力量が多いとも思わないから、このままだと私が不利だ。
私も負けじと岩石弾と風刃を同時に複数展開してネメアーに放つ。
ネメアーも土壁で防御するが、岩石弾はそれを貫く。
私の岩石弾は少し特殊なので、普通の土壁で防げるものではない。
土壁が崩壊するのはネメアーも想定外だったようで、私が放った岩石弾の餌食になる。
……しかし土壁の影響で威力が弱まったせいかネメアーには傷一つ付かない。
本当に面倒だな。唯でさえ防御力が高いのに、魔法での攻撃も2種類行使できる。
なんか獅子の討伐に来たはずなのに、まさか魔法戦になるとは思わなかった。
てっきり防御力高めで喰いちぎってくる魔物だと思っていたのに……。
百獣の王らしく豪快に物理攻撃で攻めてきて欲しいものだ。
それに実際に戦ってみると分かるが、カレン達がいなくて良かったと感じる。
ネメアーはさすがにあの2人では倒せない。そもそも攻撃が通用しないからね。
私1人でも手に負えていないのに、2人を守りながらの戦闘だったらさらに危なかった。
正直いまだに倒し方が思い付かない。
洞窟の外ならいくらでも倒し方はあるんだけど……。
私も遠慮なく岩石撃とか魔力波を行使できれば、ネメアーだって瞬殺できそうなんだけどな……。
倒し方を考えながらネメアーからの魔法を相殺していく。
隙ができたらこっちから魔法を放つ。
時々魔力回復薬を飲んで魔力も回復していく。
この繰り返しをしばらく続けていくと、一つの案が浮かんだ。
「これならロックインパルスも使えるかも……」
やり方は単純だが、もしかしたら岩石撃を使っても崩落を防ぐこともできるかもしれない。
さすがに広範囲攻撃の魔力波は怖いけど。
とりあえずやってみよう。
私はすぐに洞窟の壁と天井にいつもより魔力を込めて土壁を作る。
トンネルを掘った後にその内側をコンクリートで覆うような感じだ。
これなら岩石撃を行使しても土壁がクッションになって崩落を防げると考えた。
「よし! ロックインパルス!」
手加減なしで岩石撃をネメアーに向かって発動する。
ネメアーも負けじと風撃を行使したみたいだが、すぐに打ち消されてネメアーに直撃する。
「グオオオォォォ!!!」
ネメアーに直撃したことにより、頭と胴体が切り離された。
そして岩石撃の影響で土壁も崩れた。
しかし、想定通り洞窟には亀裂一つなく崩落の心配もないようだ。
「成功だ……」
一か八かではあったがなんとか上手くいった。
気配探知で確認しても反応が消えている。
間違いなく討伐完了だ。
すぐにネメアーに近づき強奪スキルを使用する。
なんだかんだ久しぶりに使うな。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :116/237(+34)
MP :42/375(+33)
スキル:水魔法LV7
風魔法LV8(+1)
火魔法LV5
土魔法LV8(+1)
無属性魔法LV5
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV3
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV6(+1)
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV6(+1)
自然回復LV6(+2)
身体強化LV3(+1)
物理攻撃耐性LV6
ユニークスキル:強奪
なるほどネメアーの持っていたスキルが物理攻撃耐性だったのか。
こんなスキルを人族の私が持っていいのかってくらい便利なスキルだよね。
あと、久しぶりにステータスを見たからか、よく使っているスキルはレベルが上がっている。
こんなにスキルを持っている人って多分いないよね……。
人外認定されそうで怖いよ。
さて、最初に受けた風撃の影響で身体の内も外もボロボロだから街に帰ろう。
本当はここで一旦寝てから帰りたいところだけど、騎士の人達に心配させてしまうからね。
私はネメアーを無限収納にしまって洞窟から出る。
「おお! よかった、嬢ちゃん無事だったか!」
ん?
なんか洞窟を出たら30人くらいの武装した騎士がいる。
どうしたんだろうか?
「えっと。何かあったんですか?」
「洞窟からすごい轟音がしていたから、嬢ちゃんを助けに行こうと街から騎士を集めたんだよ!」
あちゃー。
この人、いい人すぎるだろう。
私が本物の女性だったら惚れちゃうよ。
あれ、よく見たらイケメンかも……?
ちょっとタイプ……って、いかんいかん!
ボーイズラブに目覚める気はないぞ!
「それは心配をお掛けしました。この通りネメアーは討伐しましたのでご安心を」
そう言って、無限収納から首と胴体が切り離されたネメアーを騎士達の前に出す。
「……」
騎士たちが無言だ。
何か言ってくれないと困るんだけど。
「本当に嬢ちゃんが倒してくれたのか……?」
「そうですけど……」
「「「うおおおおおおお!」」」
騎士たちが歓喜している。
今気がついたけど、この状況ってかなり目立つんじゃない?
早く宿に帰って寝たいがあまりに、何も考えずにネメアーを出してしまった。
このままでは私の平和なスローライフに支障が出そうだ!
「あ、あの。あまり目立ちたくないので口外しないでくださいね」
1人の騎士に言ったがどうやら騎士通しで騒いでおり、私の話を聞いていない。
お願い! 私の話を聞いて!
「あの!!!」
私は叫ぶ。
騎士たちの注目が私に集まった。
「私が討伐したことは口外しないでください……」
全員が黙っている。
なんか頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるように見える。
「えっと、嬢ちゃんは何を言っているんだ? 鉱山に住み着いたネメアーを討伐したんだ。英雄として国からも褒賞金がもらえるぞ」
「褒賞金は嬉しいですけど、目立ちたくないので私が討伐したことは秘密にして欲しいんです。どこかの高ランク冒険者が討伐したことにしてもらえませんか?」
褒賞金が貰えるのは素直に嬉しい。
お金に困ってはいないけど貰えるのならあって困るものでもないからね。
でも英雄にはなりたくないよ。英雄。ダメ、絶対。
「嬢ちゃんが言うならこっちは構わないが、冒険者ギルドで報告すると嫌でも目立つぞ」
「それはこちらでなんとかします」
とりあえず疲れたから帰って寝たい。
私は騎士たちに念を押してから鉱山の近くにある街の宿に帰ってから眠りについた。
冒険者ギルドは……明日でいいよね。




