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55 鉱山に行く


 サーシャに魔法を教え始めて2ヶ月が経過した。


 あれからも魔物の討伐に行き続けて、サーシャ単独でもオーク討伐ができるようになった。

 最初のゴブリン討伐の失敗からたくさん反省していたので、それからの成長は著しいものだった。

 やはり人間は失敗をして学んでいくものだと思う。

 今では私と同じように、魔力の出力調整もできるようになったし、固有魔法の空気弾(エアショット)もできるようになった。でも飛行魔法(フライ)は難しいから教えていないよ。

 しかし2ヶ月でここまでできるようになるとは驚きだよね。

 家庭教師が優秀だったみたいだ。

 え? 調子に乗るなって? ごめんなさい。

 

 もう冒険者登録したらDランクになれそうなくらいに強くなったと思う。


 ステータスが見られないから、風魔法レベルも魔力量も分からないが、学園に行けばかなりの優等生だと思う。

 聞くと学園でも魔物討伐の授業があるらしくて、最初はみんな恐怖でゴブリンも討伐できないみたいだ。

 なんせ学園の生徒はほとんどが貴族だ。

 子供のうちから魔物討伐に行かせる親がいないのは頷ける。


 それに魔物討伐だけでなく、私との対人戦も経験させたから学園の生徒ではサーシャの相手にもならないと思う。

 そもそも新入生がいきなり無詠唱魔法を扱える時点で異端なんじゃないか。

 さらにサーシャのこの容姿に合わせて、成績も優秀で魔法の天才。

 周りの男どもからモテまくるのではないか。

 そして他の女子から妬まれていじめを受けるとか……。

 サーシャいじめられないよね? 大丈夫だよね?

 先生は心配だよ。


 でもサーシャに教えられることは大体終わったので、私の家庭教師もこれで終了だ。

 最終日にフィリップから言われていた上級魔法の風撃(ウインドインパルス)を教えてみたが詠唱すると普通にできた。

 え、上級魔法まで行使できるなら風魔法レベル7はあるんだけど……。

 ちょっとサーシャが強くなりすぎていない?

 正直ここまでできるようになるとは思っていなかった。

 将来は王宮魔術師にでもなりそうだ。

 でもこれで目標は達成だ。


「ヒナタさんのおかげで娘が優秀な魔法使いになれた。短い間だったが、感謝する」

「ヒナタ先生お世話になりました」


 フィリップとサーシャにお礼を言われて、私は屋敷を後にした。


 3ヶ月くらいの家庭教師だったけど、かなり楽しかった。

 サーシャと一緒にいられたこともそうだが、私は人に魔法を教えるのが好きなようだ。

 前世ではそんなことなかったような気がするけど、学校の先生になるのも良かったのかもしれない。


 定期的な家庭教師生活も終わったので、これでカレンたちと冒険者としての活動ができる。

 いや、家庭教師期間も依頼は受けていたよ?

 でも、ウルレインってあまり面白い依頼が少ないんだよね。

 強力な魔物がいないから平和なのはいいことだけど、冒険者にとってはどうも暇を持て余す。

 新人冒険者にはもってこいの街だけど。



 冒険者ギルドにカレンたちと向かい、依頼ボードを見ると面白いものを見つけた。


「こんな依頼昨日あったか?」


 依頼を見ると、サンドラス王国にある唯一の鉱山にネメアーという魔物が住み着いてしまったらしい。

 ネメアーは獅子のような姿をしており、金色に輝く毛皮は剣などの攻撃をも弾き返し、犠牲者が多数出ているそうだ。

 このままでは鉱山からの資源の調達もできないため、サンドラス王国全土に渡って各冒険者ギルドに依頼書を発行しているらしい。


「これ、面白そうだね」


 私がそう言うと、2人は深刻な表情をする。


「剣が効かないなら、あたしたちが行っても意味なくない?」


 確かにそうだな。

 でも私の魔法攻撃は効くかもしれない。

 うーん、2人を置いて私だけ行くのもありだな。

 2人には悪いけど。


「なら私だけ受けてもいいかな? 倒せそうになかったらすぐ引き返すからさ」

「……ヒナタは一度決めたら強情だからな」


 そんなことはないと思うけど。

 カレンにはそう見えていたのか。

 

 でも、1人の方が飛行魔法(フライ)ですぐに行けるから便利なんだよね。

 3人だとどうしても馬車での移動になるから。

 それにこの鉱山って結構遠いみたい。

 馬車だとウルレインから2週間はかかりそうな距離だ。


「ごめんね。2人を危険な目に合わせるのは私も望んでいないから、私だけ受けることにするよ」

「無理はするなよ」

「ヒナタさん、気を付けてくださいね」

「うん。危険だと思ったらすぐに逃げ帰ってくるよ」


 私は2人に言った後、ネメアー討伐の依頼書を剥がして、セレナのところに行き依頼書を提出した。


「この依頼ですか……。ヒナタさん大丈夫ですか? 噂だとこの依頼、Aランクパーティーでも無理だったらしいですけど……」


 情報だけだとまだ討伐できるか判断はできない。

 もしかしたら剣とかの物理攻撃は効かないけど、私が行使するような上級魔法なら効くかもしれない。

 そうであれば、実際に戦って試した方がいい。

 もし魔法も効かず、討伐できそうになかったら逃げればいいし。


「まあ、魔物との相性もあるだろうしね。無理そうだったらすぐに逃げてくるから安心して」

「本当に気を付けて下さいね。無事に帰ってくことを祈ってますので……」

「ありがとうセレナさん。じゃあ行ってくるね!」


 心配そうに見つめてくるセレナを宥めて、私はすぐに冒険者ギルドを出発する。


 鉱山はウルレインより北東に行き、王都よりもさらに進んだところにある。

 飛行魔法(フライ)でも3日はかかるかな。


 ……ちょっと待って、あまりに早く着くと怪しまれたりしないかな。

 何処かで時間を潰しながら向かった方が良いかな……。




 飛行魔法(フライ)で鉱山を目指して1週間。

 途中で街に寄ったりして時間を潰して鉱山に辿り着いた。


 そして鉱山の入り口には2人の騎士が立っている。


「あの、冒険者のヒナタと言います」


 とりあえず挨拶をすると、2人の騎士が私を見て首を傾げている。

 お? 私の美貌に惚れたか?


「ここは子供の来るところじゃないぞ」


 子供じゃないわ!

 立派な大人の女性だよ。

 自分で言うとちょっと複雑だけど……。

 とりあえず、私の美貌に見惚れていたわけではなかったようですね。

 まあ、そっちの方が助かるけど。

 でも子供と間違われるとは……私ってそんなに子供みたいな容姿なのかな。


「正式に冒険者ギルドからの依頼を受注してここに来ています」


 私はギルドカードを見せる。

 すると騎士が驚きの表情を浮かべる。


「Bランク……だと? 確かにギルドカードは本物だ。しかし、お嬢さんのような……」


 なに? こんな子供がBランクには見えないか?

 私だって不本意のBランクだけど、正式に評価をしてもらってのランクだぞ。

 本当、こういう時はカレン達と一緒が良かったと思ってしまう。

 どうも私1人だとこのような反応をされてしまう。

 たぶん、貫禄というものがないんだろうね。


「とにかく、中に入らせてください」

「あ、ああ。しかしお嬢さん、ネメアーは危険な魔物だ。近いうちに王国騎士団の派遣もあるそうだから、無理だと思ったらすぐに逃げてくるように」

「ご忠告ありがとうございます。危険だと判断したら逃げてきますので」

「本当に気を付けてな」

「はい」


 私は騎士の2人から見送られて鉱山の中へと足を踏み入れる。

 なんかこういう空間にいると転生した時の洞窟を思い出す。


 とりあえず気配探知で反応を探ると、洞窟の奥に大きな反応が一つあった。

 それ以外は特に反応もないので、この鉱山の中には私とネメアーしかいないことになる。


「見つけた……」


 しばらく鉱山の道順に従って歩いていくと、10メートルくらい先にネメアーの姿があった。

 依頼書に書いてあった通り獅子のような姿をしており、毛皮が金色に輝いている。

 そして想像よりも大きい。体長5メートルくらい?

 前世のライオンのサイズを想定していたから驚きだ。


 とりあえず隠密で奇襲してみるか。

 でも洞窟の中だと大きな魔法は使えない。

 何故なら崩れる可能性があるだ。

 前科もあるから説得力も違うでしょ。

 

 よし、兎に角攻撃を仕掛けてみよう。

 そう思い、隠密スキルを発動させながらネメアーに接近する。


「ロックショット!」


 とりあえず、ネメアーに見えないところから岩石弾(ロックショット)を放つ。

 本当は岩石撃(ロックインパルス)を使いたいけど、あの威力だと洞窟が崩落する可能性があるからね。


「ゴガアアァァァァ!」


 頭を狙ったけど貫くことはできなかった。結構防御力は高いようだ。

 でも、血を噴き出して倒れた。

 やっぱり物理攻撃に耐性があるみたいだ。

 魔法攻撃ならダメージを与えられる。

 これなら私でも討伐はできそうだ。


 そしてすぐに起き上がったネメアーは周囲を見回している。

 私は隠密スキルを発動しているから、敵が何処にいるか分からずキョロキョロしている。

 ……すると突然、私の方にネメアーに向かって風撃(ウインドインパルス)を放ってくる。


「嘘でしょ!?」


 私は瞬時に風撃(ウインドインパルス)を回避するために横へと飛び込んだ。

 なんで位置がバレる?

 それに風撃(ウインドインパルス)ということは風魔法を扱うようだ。

 咄嗟に逃げちゃったけど、そのせいで洞窟に亀裂が入る。


「このままだと崩落する……」


 ネメアーが魔法を使うのは想定外だけど、洞窟の崩落を防ぐために私の魔法で相殺させた方がいいかもしれない。

 全くもう。洞窟じゃなかったらこんな魔物すぐ倒せるのに。

 環境によって倒せる魔物も倒せなくなってしまう。


 とりあえずネメアーはまだ私の正確な位置までは判断できていないと思う。

 いまだに首をキョロキョロとさせている。

 ならさっきはどうやって隠密状態の私の位置に攻撃できたのか……。


 ……匂いか。

 そうだ。さっきからネメアーは周囲の匂いを嗅いでいるんだ。

 遠視でネメアーをよく確認してみると鼻が動いている。


 でも、このまま隠密状態だとネメアーが無差別に風撃(ウインドインパルス)を放って洞窟が崩れる可能性もある。

 だったら、危険を承知で隠密を解除した方がいいだろう。


「ガアアアァァァ!」


 私のことが見えたネメアーが大口を開けて叫ぶ。

 そしてすぐに風撃(ウインドインパルス)を私に放ってきた。


「ウインドインパルス!」

 

 相殺を狙って同じく風撃(ウインドインパルス)を放つ。

 ぶつかりあった風撃は大きな衝撃波を生んで、私は吹き飛ばされて壁にぶつかる。


「かはっ……」


 上級魔法同士での相殺はこんなことになるのか。

 次からはどうしようか。

 また相殺しようとすると、吹き飛ばされるという結果になる。

 この洞窟が広ければ飛行魔法も使えるが、生憎ネメアーと対峙しているのは通路のような場所だ。

 こんな場所だからこそ、風撃(ウインドインパルス)の衝撃も強烈だ。


 私が倒れていると、先程の衝撃波によって舞い上がった砂煙の中から風撃(ウインドインパルス)が飛んできた。


「ぐああああぁぁぁぁ!」


 ネメアーの放った風撃(ウインドインパルス)が私に直撃した。


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