49 サーシャの才能
私は2人が起きるまで待つことを決めてマイホームを出す。
そして2人を寝室のベッドに寝かせて、夕食の準備をする。
「今日はチーズ入りのコロッケにしようかな。しかもお米付き!」
最初はオーク肉の生姜焼きを作ろうと思ったけど、オークに捕まった2人にオーク肉を提供するのは不謹慎になりそうだからやめておいた。
合挽き肉を捏ねて中にチーズを入れる。
溶いた卵をパン粉につけて油で揚げる。
「できた!」
おいしそう……。
早く食べたいけど、2人が起きてくるまで待とう。
この間にお風呂にでも入ろうかな。
「あ〜、気持ちいい」
洞窟の崩落によって、髪が埃だらけになっていたから洗ってスッキリだ。
なんだかんだ湯船に浸かるのも久しぶりだからか、すごく気持ちいい。
しばらく浸かって身体が温まってきたのでお風呂から出る。
すると、寝室から2人が出てきた。
「あ、カレンとシャルもおはよう」
2人ともまだ状況を理解していないのか、困惑した目で私を凝視している。
「2人ともオークに捕まっていたでしょ? 助けに来たんだけど、2人が起きないからマイホームで休ませていたんだよ」
2人は状況を理解してきたのか2人揃って頭を下げてきた。
「助かった!」
「ありがとうございます!」
そんな感謝しなくても。
仲間なんだから助けるのは普通だよね?
「気にしないで。2人が無事でよかったよ」
私は2人をお風呂に入るように促した。
2人ともオークに乱暴なことはされていないけど、多少なりとも服も髪も汚れている。
身を綺麗にしてから食事をするべきだ。
お風呂に入っている間に私は、テーブルにコロッケとご飯を準備する。
早く食べたい気持ちを抑えて、2人がお風呂から上がってくるのを待つ。
「お待たせ」
「お待たせしました」
2人も椅子に座ってコロッケを食べ始める。
「あの後どうなったんだ?」
カレンの言う、あの後っていうのはオークに捕らわれた後のことだよね。
「オークに捕らわれた姫たちを突如として降臨した超絶美少女が助けだしたんだよ!」
椅子から立ち上がり、キュピーンっていう効果音が聞こえそうな感じで答える。
2人は開いた口が塞がらない。
「まあ、ヒナタがオークジェネラルを倒したのは分かった……」
ボケに対してツッコミはないのか。これじゃ私がスベったみたいじゃないか。
実際スベっているけど……。
それにしてもあのオークの上位種はオークジェネラルだったのか。
普通に考えればかなりの強敵だけど、隠密のおかげで大して苦労しなかったんだよね。
「2人は何があったの?」
一番聞きたいのはこれだよね。
2人なら頑張ればオークジェネラルくらい負けないと思うけど。
「それが最初はオークを討伐していたんだけど、急にオークジェネラルが現れたと思ったら気を失ったみたいなんだ」
おっと、それはびっくり。
オークジェネラルのスキルか?
それとも第三者の介入?
でも私が来た時には誰もいなかったけどな。
第三者が2人を狙ったのなら近くに待機していてもおかしくない。
そうだとすれば、オークのスキルだと考えた方がいいかな。
ならオークジェネラルのスキルを強奪した方が良かったかも……。
でもあの時は2人を助けることに精一杯だったから何も考えてなかった。
それに洞窟が崩落する予想外の展開もあったし。
「そうだったんだ。もしかしたらオークジェネラルのスキルかもね」
「そうだな。ヒナタが来なかったらあたしたちは今頃オークの苗床だったよ」
そういう表現もあるのね。
柔らかく表現する例えは苗床ね。勉強になりました。
それにしてもスキルだとしたら何か対策方法とかないのかな。
スキルを封じるための魔道具があったりとか……。
「もしオークジェネラルのスキルだとしたら、それを対策する方法とかってあるのかな?」
「スキルの対策か……。そんなのは聞いたことがないな。出来ても似たようなスキルでレベルが上の方が優先されるくらいだな。例えば、相手を麻痺させるスキルのレベルが3だとしたら、麻痺耐性スキルのレベルが4だと麻痺状態にならない……とか?」
なるほど。特にスキルによる対策は無理ということか。
出来ても似たスキル同士での対抗によって防ぐくらい。
「そうなんだ。ならまたオークジェネラルに出会ったら同じく気絶するかもしれないね」
「ああ。でもオークジェネラルよりも強者であれば威圧は効果がないはずだ」
「あ、そうなんだ」
「だから次会う時までに、もっと強くなっていればいいだけだ」
「はい。私ももっと強くなってヒナタさんに迷惑を掛けないようにしたいです」
「いや、私のことは気にしなくてもいいよ……」
カレンとシャルは普通の女の子なんだから、あまり強さを求めずに花嫁修行に勤しんで欲しいと思っている。
「そういえば、なんでヒナタはあたし達を助けに来たんだ?」
そうだった。
私は2人に伝えたいことがあってここに来たんだ。
「私は2人に言いたいことがあって冒険者ギルドで待っていたんだけど、中々帰ってこないからここまで追ってきたんだよ」
「そうだったのか。それでなんの用事なんだ?」
「明日ブルガルド家の護衛依頼でウルレインに帰ることになったんだけど、2人はどうするかって聞きたくてね」
「そんなのついていくに決まっているだろ」
「そうですよ!」
即答ですか。
王都に残るかと思ったけど付いて来てくれるんだ。嬉しいな。
そしてその後は3人でベッドに入ってゆっくり眠った。
明日は朝早くに起きてブルガルド家に行かないといけないからね。
翌朝は早めに起きて、朝食を食べてすぐに王都に向かった。
朝から冒険者ギルドは営業しているため、カレンたちの依頼完了報告に行く。
依頼内容はオークの討伐のみのため、オークジェネラルは含まれていない。
そのため討伐証明が必要なくて助かった。肉片になったし瓦礫の中だからね。
そして最も安心したのは、洞窟の崩落を2人に聞かれなかったことだ。
まあ、2人に気づかれないように洞窟を見せないようにしただけだけど。
報告も終わって、3人でブルガルド家に向かう。
屋敷に到着すると、すでにサーシャを乗せた馬車が門で待機していた。
遅刻しちゃったかな?
「遅くなってごめんね」
「気にしないでください!」
サーシャは笑顔で返してくれた。
「すみません。あたしたちが昨日の依頼で失敗しちゃって、ヒナタが助けに来てくれたんですよ」
「本当にごめんなさい」
「まあ! さすがヒナタお姉ちゃん!」
そんな笑顔で言われちゃったら照れちゃうよ。
2人もそんな悲壮な顔しないで。
説明も終わったので、4人で馬車に乗ってウルレインへと向かった。
ほとんど王都にいなかったけど、どうせまた来ることもあるだろう。
それよりも久しぶりのサーシャとの旅路は楽しみだ。
そして何事もなくウルレインを目指して2日が経った。
あと2日もあればウルレインに到着する。
この辺りになると街道も綺麗に整備がされていないので、馬車が揺れてお尻が痛い。
何かクッションみたいなものを今度買っておこう。私のお尻のためにも絶対に必要だ。
この2日だけでも十分サーシャを可愛がることができた。
サーシャが学園では特に魔法を学びたいと言っていて私が教えることになった。
まずサーシャは風魔法が使えるらしい。
だから簡単に攻撃魔法じゃない初級魔法を教えた。
私がつい無詠唱で発動させたせいでかなり驚かれたけど仕方ない。
サーシャには学園で一番になって欲しい。
無詠唱での発動方法を教えると、最初はできなかったサーシャだったが、2日目の夜には発動できるようになっていた。さすがサーシャだ。
どうやら学園でも無詠唱で魔法を行使する学生は首席になるほど優秀なんだとか。
であれば、私がサーシャに教えることによって間接的に学園にも無詠唱が広まるかもしれない。
そうすれば、学園の技術も向上して私の無詠唱が目立たなくなる。ウィンウィンの関係だね。
サーシャの風魔法レベルは分からないらしいが、もしかしたら攻撃魔法として中級魔法も扱えるかもしれない。
でも今回は無詠唱を覚えたことがすごい。サーシャは魔法の才能がありそうだ。
っていうかどうやって魔法のレベルを上げるんだろう?
攻撃魔法じゃないと魔物は倒せない。だったら何度も魔法を使うことでレベルが上がるのかな?
とりあえずサーシャには暇な時にでも魔法の練習をしておくように伝える。
ただし魔力枯渇は危険だからやりすぎないように厳命する。
さらに夜には4人で私が作った簡易風呂に入った。
相変わらずカレンはスタイルが良くて、私が男だったら惚れていたよ。
本当に日本にいたらモデルだよ。パリコレに出られるよ。
そして何よりサーシャの胸が少しだけ大きくなっているような気がした。
まさに成長期。こんなに早く大きくなるものか?
でもお母さんの胸がアレだからな。遺伝って怖い。
私は前世が男だったから胸の大きさはそこまで気にならないが、せっかく女になっているんだから大きくなりたいという願望はある。
今は決して大きくもないがそこまで小さくもない微妙な大きさだ。
でもあまり大きくなると戦闘には邪魔になる。
そして何より、周囲の男たちからいやらしい目で見られるのが一番不快だ。
あまりに大きくなったらサラシでも巻こうかとも考える。
そう考えればこのくらいがちょうどいいのかもしれない。
シャルに関しては、年下の私やサーシャと見比べて残念そうな顔をしていた。
でも、ある意味シャルは胸が小さいからこそ可愛いのだ。
貧乳はステータスだ。希少価値だ。
なんて、ら◯☆すたのこ◯たも言っていたしね。
あれ? でも元ネタは別のゲームだったっけ?
あまりゲームはやらないから知らないや。
そんな感じで女4人が特に楽しんでいる旅路だったが事件が起こる。
街道を通っていると私の気配探知に何かの反応があった。
かなり大きい反応だ。
「何か来るよ!」
私は慌てて馬車から身を乗り出した。




