48 一軒家が欲しい
「え、今日も自由行動にするのか?」
今日は昨日できなかった無属性魔法を試したい。
そのためカレンたちに伝えると不満のような声が聞こえてきた。
「そろそろ魔物をぶっ倒して稼ぎたいんだけど」
カレンってこんな戦闘狂だったっけ?
でもそうか。なんだかんだカレンたちは最近戦闘をしていない。
まともに戦闘したのはタラサに行くときの盗賊退治だけだ。
私がケートスを討伐したから、カレンたちはタラサでただ海の幸を食べ歩いただけだ。
「なら、私だけ自由に動こうかな。2人は依頼を受けてていいよ」
2人は渋々了承してくれた。
私も2人と仕事をしたいけど、今は無属性魔法の威力を試したい。
2人と宿で別れて森へと向かう。
「まずは魔力弾からかな」
目の前にある木を的にして魔力弾を発動させる。
「マジックショット」
バアアアァァァン!
的にした木に風穴が空いた。
大した魔力を込めなくてもかなりの威力が出た。
まるで空気弾の強化バージョンだ。
でも魔力弾の方が魔力消費が少ないし、威力は桁違いだ。
「これはすごい……」
でも凄すぎるからあまり頻繁に使うのも躊躇われるな。
次は魔力波を試してみよう。
魔力弾でさっきの威力だから、少し加減して発動させる。
「マジックウェーブ」
ドゴォォォォン!
広範囲の魔力波のためか、少ししか魔力を込めていないのに目の前に広がる木々が散りじりになった。
「これはまずい……」
やはり魔力を直接使った魔法のためか威力が違う。
いつも通りに魔力を込めて行使したら、さらに悲惨な惨状になりそうだ。
無属性魔法は緊急事態以外は発動を控えた方がいいかな……。
そう心に決めて、私は森から出るのであった。
暇だから冒険者ギルドに行く。
特に用事はない。依頼を受ける気もないが、自分の持っている残高を確認したい。
冒険者ギルドに入り、周囲からの視線を完璧に無視して端の方に移動する。
そこには魔道具で作られた板がある。
ここでは自動で硬貨の預入や引き出し及び残高照会ができる。まさしくATMだよ。
「残高照会っと……はぁ!?」
久しぶりに残高を見てみたが、かなりのお金を持っている。
何より王様から振り込まれた額が異常だ。日本円で1億円ほど振り込まれている。
いや、宝くじかよ。あの時ニヤけたのがよくわかったよ。ちくしょう……。
王様からの振り込みもそうだけど、それがなくてもかなりの残高がある。
冒険者として仕事もそうだけど、ウルレイン、タラサの街を助けた各領主様からの報酬も振り込んでいたから、もう働かなくても生きていけそうな額があるよ。
「土地でも買おうかな……」
そうだ。前世では一軒家に住むのが夢だった。
そこで奥さんと子供と幸せに暮らす夢が……。
もう一生叶わなくなったけど。
私がこの世界で男と結婚して子供を産むとか想像ができない。
ましてや男と触れ合うのすら嫌悪感がある。
1人で家に住むのは寂しいけど、毎回宿に泊まるのも面倒だから家を建てるのもいいかもな。
王都だと土地代が高そうだからウルレインで買ってみようかな。
「ヒナタさーん!」
誰かに呼ばれた。
後ろを振り返ると、受付のお姉さんが手を振って私を呼んでいる。
一体何事か。
「なんですか?」
「ヒナタさんに指名依頼が来ています」
「え? 誰からですか?」
「ブルガルド家からですね」
これはウルレインに帰るための護衛依頼だと思う。
なんというタイミングなんだ。
「分かりました。詳細はブルガルド家で聞いておきます」
「よろしくお願いします」
私は冒険者ギルドから出て、ブルガルド家の屋敷へと向かった。
なんか久しぶりにサーシャに会う気がする。楽しみだ。
「冒険者のヒナタです」
門番のお兄さんに話しかける。
すぐに屋敷に案内されて、サーシャが出迎えてくれた。
「ヒナタお姉ちゃん!」
「サーシャちゃん!」
いつも通りサーシャが抱きついてくる。
私はいつもよりも強めに抱きしめる。
「うぐぐ……」
サーシャが苦しそうにしていたので力を緩める。
「久しぶりだねサーシャちゃん」
「同じ王都にいるはずなのにヒナタお姉ちゃんに会えなくて寂しかったです」
ごめんねサーシャ。
なんだかんだ王都にはあまりいなかったんだよ。
依頼で各地の村に行ったり、海の幸を求めてタラサの街に行ったりで、王都の滞在期間はそんなになかったんだよ。
「あら、ヒナタさんいらっしゃい」
奥からユリアが話しかけてくる。
今回の依頼主は一応ユリアになっていた。
「はい。お邪魔してます。冒険者ギルドに行ったら指名依頼がありましたので来ました」
「そうね。サーシャがウルレインに帰るから護衛をして欲しいのよ」
やっぱりそうですよね。
なら、一応カレンたちのことも聞いておかないといけない。
「パーティーメンバーも一緒でいいですか?」
「それはもちろんよ」
なら帰ってカレンたちにも相談しよう。
もしかしたら、2人ともまだ王都に居たいかもしれないしね。
私だけ先行してウルレインに帰るのも問題ないしね。
出発は明日の朝みたいなので、冒険者ギルドでカレンたちを待とうかな。
冒険者ギルドに向かい2階の談話室みたいな場所で2人を待つ。
しかし、夕方近くになっても2人が帰ってこない。
「遅い。何かあったのかな……」
痺れを切らして、受付のお姉さんに聞きに行く。
「カレンたちってまだ帰ってきていないよね?」
「そうですね……。オーク討伐の依頼を受けていたので、今日中には帰ってくると思ったんですけど……」
それなら2人で十分だ。
この時間まで帰ってこないのは緊急事態でも生じたのか?
心配だから行ってみよう。
カレン達が受けた依頼書を確認した後、すぐに冒険者ギルドから出てオークの出現場所に向かう。
急いでいたため隠密を発動させたまま飛行魔法でだ。
気配探知でも2人の反応を探る。
15分程度飛んでいたところで、2人の反応をキャッチした。
洞窟の中に2人の反応があり、周辺にはオークの反応もある。
そして2人は戦っているような反応ではない。
「もしかして……捕まった?」
ちょっとまずいかも。
急いで飛行魔法のまま隠密スキルで洞窟の中に入っていく。
中にはオークが10体ほどいて、奥には2人が手足を縛られて気を失っていた。
さらにその2人を涎を垂らしながら凝視しているオークの上位種がいる。
他のオークと違って肌が赤く、大きな槌を持っている。
せっかく私の存在はバレていないから、覚えたての無属性魔法を使おう。
岩石弾で一撃で仕留められたらいいけど、万が一を考えて魔力波を発動させる。
「マジックウェーブ!」
オークの上位種に向けて放った魔力波によって一瞬で肉塊へと変化した。
「うわっ、すご……」
さすが無属性魔法だ。
……っとそんな感心している場合じゃない!
私の魔法で洞窟に亀裂が入って崩れはじめた!
早く2人を連れて脱出しないと!
「やばいやばいやばい」
急いで2人を抱えて、飛行魔法で急いで出口に向かう。
途中でオークが襲ってくるが無視。
このまま洞窟にいたら下敷きになる。
「ギリギリ間に合うか……?」
1人なら間に合うが、気絶した2人を抱えているためかなり遅い。
こういう時の人間ってかなり重く感じる。
いや、本当の2人は軽いはずだけどね。
私の飛んでいるすぐ後方まで洞窟が崩れてきていて、なんとか下敷きならずに済んでいる。
「もう少し……」
目の前に出口が見えてきて、魔力を込めてさらにスピードを加速させる。
上から落石してくるが、ギリギリ回避しながら必死に飛んで出口を目指す。
すると、目の前の出口が崩れていった。
「まずい!」
さらに魔力を込めてスピードを上げる。
かなりギリギリだ。
崩れていく岩の隙間を縫うように回避していき出口を目指す。
あと少しだ。
「……やった!」
かなりギリギリだったが、なんとか洞窟から出られた。
洞窟から出た途端、洞窟の出入り口が完全に塞がった。
「危なかった……」
この洞窟の崩落は私のせいだけど、2人には内緒にしよう。
バレるかもしれないけど。
とりあえず2人が無事でよかった。
あのままだとオークの上位種に孕ませられるところだった。
本当に危険なところだった。
「無事でよかった……」




