43 また王様と会う
「亡くなった騎士はどうしましょうか?」
「そうですね。馬車で運ぶのもできないので、遺品だけ持ち帰って埋葬致しましょう」
王女様は騎士の遺品を持って馬車に運んだ。
私は言われた通り、埋葬するために土魔法で大きな穴を作り、騎士たちを埋葬した。
そして王女様に馬車に乗ってもらい、私は御者をする。
私たちの前方にカレンたちの馬車が走る。
「ヒナタ様はどうしてこの街道におられたんですか?」
馬車の小窓を開けて私に声をかけてきた。
「タラサの街に行っていた帰りです。王女様はなぜこのような場所に?」
「私は来月で18歳になります。それで来月からメロン王国の第一王子に嫁ぎに行くのです。そのため最後に思い出の場所に行っていました」
王女様は他国に嫁ぎに行くのか。
王族は外交のために他国に嫁ぐのもよくありそうだな。
「そうだったんですね。思い出の場所とは?」
「私が幼少の頃に訪れた場所なのです。小さな湖なんですが、とても神秘的な場所です」
そんな湖があるのか。
王女様が好きな湖なら素敵な場所なんだろうな。
「そこは誰でも訪れることができるんですか?」
「ええ、誰でも行けますよ」
なら、私も行ってみたいな。
湖なんて最初に洞窟を抜けた場所にあった湖くらいしか知らないからな。
水浴びで何回かお世話になった場所だ。
「私もぜひ行ってみたいですね。どこにあるのでしょうか?」
「サンドラス王国より東にある森の中のイエロ湖と呼ばれている場所です」
時間があったら行ってみても良いかもな。
他国じゃないならいつでも行けそうだ。
「私もいつか行ってみたいと思います」
王女様は疲れているのか、その後寝てしまっていた。
寝顔も綺麗すぎて、まさにこの人が女神様みたいだよ。
日も落ちてきたところで、ようやく王都に到着した。
「王女様、王都が見えてきましたよ」
馬車で寝ていた王女様を起こした。
寝ぼけながらも頷いて、姿勢を正す。
私はこのまま王宮に行った方がいいよね。
流石に王族の紋章が入った馬車を冒険者ギルドに停車させて、自分の用件を優先するわけにもいかない。
私は後方にいるカルタ商会の馬車と並走させた。
「私はこのまま王宮に向かうから、カレン達は冒険者ギルドで依頼達成報告をお願い」
「ああ、分かった。ついでにいつもの宿でも取っておくよ」
「うん。よろしく」
カレンに依頼達成報告をお願いする。
本当はカレン達も王宮に連れて行きたいけど、この2人は貴族に対しては小心者になる。
ましてや王族との対話なんて無理だろう。
私としては巻き添えが欲しいところだけど諦めよう……。
そして王都の門に到着して、衛兵に事情を説明する。
「ソティラス王女殿下、長旅お疲れ様でした! どうぞ中へ!」
衛兵が元気よく発した。
王族の紋章が入った馬車を私が御者している。
そして住民の視線が集まる。
まあ、私を見ているわけではないと思うけどやっぱり緊張する。
王宮にも到着して、王女様が騎士に事情を説明し、私も一緒に王宮に入城する。
案内された場所に馬車を止めて、私も馬車から降りて王女様をエスコートする。
「王女様、お手をどうぞ」
一度やってみたかったのだ。
綺麗な女性の手を取ってエスコートするのが夢でした。
そして出来れば男の姿でやってみたかったです。
「ありがとう」
馬車から降りた王女様に付いていき、王城に入っていく。
「ヒナタ様。命を救って頂いたお礼もしたいので、少しだけ部屋で待機しておいてもらって良いですか?」
「はい、分かりました」
またお礼か。
この世界に来て街を救ったり、貴族を救ったりでたくさんのお礼を貰っている。
貰えるのは嬉しいが、さすがに貰いすぎだよね。
普通の冒険者でここまで王族や貴族と関わることってないよね。
私は普通ではないということだ。
それからは侍女に王城にある部屋に案内されて、ソファーに座り待機する。
しばらくすると、ドレスを着替えた王女様と国王陛下が入ってきた。
「ヒナタ様、お待たせいたしました」
「やはりあなただったか……」
まさかの国王陛下の登場に驚きつつも平然を装った。
そして国王陛下は私を覚えていたようだ。
「ご無沙汰しております。国王陛下」
私は膝をついて頭を下げる。
礼儀としてやった方がいいからね。
「よい。頭を上げてくれ。ここは公式の場でもないから言葉も崩して構わん」
よかった。
やっぱりこういうのはまだ慣れないな。
言葉遣いは気をつけているけど、いつボロが出るかわからないしね。
「あら、お父様もご存知でしたの?」
「ああ、以前のミスリアド侯爵家の処分に貢献してくれた冒険者だ」
「あら、あの時の……」
ミスリアド侯爵家か。あのクソ貴族だな。
あの後、王都で公開処刑がされたみたいだけど私は見に行っていない。
人が死ぬところなんか好き好んで見るものではないからね。
国王陛下と王女様は私と対面になるようにソファーに座った。
それに続いて私もソファーへと座る。
「この度は娘のソティラスを救ってくれて感謝する。其方が助けなければ、来月娘が嫁ぐはずのメロン王国との更なる交易も有耶無耶になっていただろう」
「いえ、偶然通りかかっただけなので……」
「しかし、娘の命を救ってくれて礼もなしじゃ、王としても示しがつかない。本来であれば男爵位を与えようと思うが……」
「丁重にお断りさせていただきます」
貴族なんてまっぴらごめんだ。
絶対になりたくない地位だよ。
貴族になると領地を与えられて、サンドラス王国に居続けないといけないし。
自由に世界を回るという楽しみもなくなる。
断固拒否だ。
「そういうと思ったので、金銭にしようと思う。ギルドカードは持っているか」
妥当なのは金銭でお礼だよね。
お金には困っていないけど、あって困るものでもないし。
私は言われた通りに、ギルドカードを差し出す。
「ミスリアド侯爵家の処分に貢献したことも踏まえて、謝礼金を振り込んでおこう」
どうやら国王陛下はこの場でも振り込みができるようだ。
冒険者ギルドと同じボードを持ってきて、私のギルドカードをかざして何やら入力している。
あの魔道具? かなり不思議なんだよな。
どうやって作ったんだろう。
「振り込んでおいた。そのうち確認するといいだろう」
国王陛下がニヤッと笑いながらギルドカードを返してきた。
なんか怖いな。
驚くほどの金額が振り込まれたか、少額しか振り込まなかったかの2択だ。
この顔だと前者だと思いたい。
「ありがとうございます」
「どうだろう。夜も遅いし、このまま王城に泊まっていってはいかがかな?」
え、素直に帰りたいんですけど……。
カレンも宿を取ってくれているだろうし……。
でも断れないんだよね。
これはお願いじゃなくて命令だ。
「では、お言葉に甘えて……」
ごめんね。カレン、シャル……。
宿代が無駄になったよ。
そして私に用意された部屋は、20畳くらいの部屋でベッドも大きい。
5人くらい寝てもまだ余裕そうだ。
こんな大きいベッドは前世でも見たことがない。
さすが王城だ。
「ヒナタ様、夕食の準備ができました」
部屋でゆっくりしていると、侍女の方が入ってくる。
さすが王宮勤めのメイドさんだ。所作がしっかりしているね。
平民である私に対しても礼儀を弁えている。
であれば、私も礼儀正しくメイドさんと接しなければいけない。
「はい、今行きます」
案内された部屋に入ると国王陛下と王妃様と思われる人、そして王女様がいた。
え、これなんの罰ゲームですか?
「失礼します」
「ヒナタさんとお会いするのは初めてね。私はヒルデ・サンドラスと申します」
「ヒナタです。よろしくお願いします」
うん。やっぱり王妃様でした。
王妃様はソティラス王女と似ていて美人な方だ。
年齢が全く分からないほど若く見える。
そういえば国王陛下の名前が分からない。
さすがに聞くのは失礼だから聞かないけど。
「ヒナタ様は王都で活動されているのですか?」
突然、ソティラスが質問してくる。
「そんなことはありません。護衛依頼でたまたま立ち寄っただけです。そのうち別の街にも行こうと思います。それに他国にも行きたいですし」
次はどこに行こうかな。
できれば、異種族がいる国に行きたいものだ。
エルフとか獣人族とかに会ってみたい。
このサンドラス王国では見かけたことがないので、他国にいると思う。
「そうなんですね。私もメロン王国に嫁ぎますので、そちらの文化に触れて生きていくのもとても楽しみなんですよ」
「メロン王国ってどんなところなんですか?」
「メロン王国はサンドラス王国よりも農業が盛んな国ですね。サンドラス王国にも様々な作物が輸入されています」
そうだったのか。
私が知らないだけで、他国から食材が輸入されているものなんだね。
前世と違って生産国が書いてないから分からないよ。
「それに冒険者でしたら、メロン王国にある迷宮が有名ですね」
「迷宮ですか?」
迷宮ってあの迷宮?
前世の漫画の知識だと、階層別に魔物がいて深層になるにつれて魔物が強くなるやつ。
そして魔物を倒せば宝箱が出てきて、一攫千金が狙えるあの迷宮のこと?
「はい。迷宮に関する書物では、この世界には攻略難易度が高い3つの迷宮があるのです」
どうやら3つだけは難しいようだ。
まだ一度も攻略されていないのかな。
「1つ目はパレルソン帝国にあるクロト迷宮。2つ目はトパロン王国にあるラケシス迷宮。3つ目がメロン王国にあるアトロポス迷宮です」
へぇ、勉強になるな。
でも私はあまり迷宮に興味が湧かないから自分の意思では行かないだろう。
カレンたちが行きたいといえば行くかもしれないけど。
そういえば前に教会に行ったときにも、蘇生の宝珠があるアスクレピオス迷宮っていうのが書いてあったな。
「そういえば、最近パレルソン帝国にあるクロト迷宮が攻略された、みたいな噂を聞きましたね……」
え? 攻略できたの?
攻略難易度は高いんじゃないのかよ。
「今まで攻略されたことがない迷宮なので本当かどうかは分かりませんがね」
「本当に攻略した人がいるなら気になりますね」
「ヒナタさんも挑戦してみてはいかがですか?」
いやだよ。死にたくないもん。
「気が向いたら行きましょうかね……」
当たり障りのない返事をしておく。
それにしてもパレルソン帝国か……。
どこかで聞いたような気がするんだけど忘れちゃったよ。




