39 ケートスの討伐
ケートスって何?
カレンとシャルの顔を見るが首を傾げた。
2人も分からないようだ。
「えっと、ケートスってなんですか?」
私は受付のお姉さんに聞く。
「ケートスは頭部が犬で胴体が魚の姿の海の魔物です。昨日調べたら古い魔物図鑑に載っていました」
なんだそれは。
そんな得体の知れない魔物がいたのか。
頭部が犬なら可愛いのかもしれない。
でも残念ながら私は猫派だけど。
「ケートスは現在、存在が確認されておりませんでしたが、数百年前はよく目撃されていた魔物のようでした」
絶滅したと思っていたけど、実はまだ生きていたってことかな。
そんな古の魔物がいるとは……。
「討伐するんですか?」
「このままだと食料が少なくなり街が廃れていくことも考えられるので討伐対象です。しかし冒険者がいないのが……最悪、王宮魔術師の派遣をする可能性もありそうです」
確かにそうなるよね。
討伐はしたいけど、普段は危険が少ないことで冒険者が不足しているため、討伐したいのに出来ない。
それなら、騎士団ではなく王宮魔術師を派遣して海上での魔法による討伐になる……ということか。
「王宮魔術師を派遣するとなると、到着までどのくらいの期間が必要なのでしょうか?」
私の質問に対して受付のお姉さんが悩んでいる。
予想される期間を計算しているようだ。
「え〜と……最低でも2週間は掛かるかと」
う〜ん……。
もしかしたらそのケートスが食料がなくなって、いなくなる可能性はあるけど、討伐が遅くなると住民の不安もそれだけ長引く。
食料がなくなり、不安になった住民がどのような行動に出るか……容易に想像がつく。
この街では海産物を食べたり、カレン達の水着姿を拝ませてもらったりと、大変お世話になった。
そんな街が廃れたり、食料を求めた住民同士の暴動などは見たくない。
だとしたら……ここは私が挑戦してみてもいいかな。
討伐できるか分からないけど、やれるだけのことはしてみたい。
「あの、私がその討伐依頼を受けてもいいですか?」
「いや、さすがにBランク冒険者でもケートスは倒せないんじゃ……」
海の魔物であれば、いくら高ランクの冒険者でも討伐できないことはある。
いくら強い魔物でも陸であれば倒し方はいくらでもある。
しかし、海となれば弱い魔物でも戦い方が絞られて苦戦する。
でも、私は空を飛べる。
それに夜行性を利用すれば、夜に討伐ができて住民からも戦闘を見られなくて済む。
この街の遠くに岩でできた孤島があったため、そこに誘導して孤島を足場にしても戦える。
空を飛べるだけで戦い方はたくさんある。
私向きの依頼なのは間違いない。
「絶対倒せるか保証はできないので、条件は付けたいです」
「条件ですか……それはなんでしょう?」
「討伐は夜間に行います。それと戦闘は周囲に危険が及ぶ可能性もあるので、住民の方は海岸に近寄らないように周知しておいて下さい」
私の飛行魔法を誰にも見られないように、最もらしい理由で住民を近寄らせない条件だ。
これなら私も遠慮なく魔法を使って戦闘ができる。
「そのようなことでしたら構いません。こちらで対応させていただきます」
これで交渉成立だ。
私は依頼を正式に受注した。
討伐難易度も高いことを配慮して受付のお姉さんが万一にでも依頼を失敗しても、今回に限り失敗扱いにはしないとのことだ。
ありがたい提案だ。
「では本日の夜に討伐に向かいますのでよろしくお願いします」
「はい。では気を付けてお願いします」
その後、念のため冒険者ギルドで回復薬と魔力回復薬を買ってから宿に戻った。
「なぁヒナタ。本当に倒せるのか?」
宿に帰ってきてカレンが心配そうに聞いてきた。
「それは分からないよ。やってみて無理そうだったら、逃げてくるから安心して」
「あたし達も付いて行った方がいいか?」
「ううん。ケートスがどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない以上、カレン達は宿で待機してて」
「ヒナタさん……本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だから。危なくなったら飛行魔法で逃げ帰ってくるよ」
「心配です……」
「絶対に無事に帰って来いよな」
「うん。絶対に無事に帰って来るから」
万一を考えてカレンとシャルには宿に残ってもらい、私単独でケートスの討伐に向かうことにする。
そして私はケートス戦に備えて夕刻には眠りについた。
深夜に目が覚める。窓から外を覗くと街灯もないせいか辺りは真っ暗だ。
そしてカレンとシャルもベッドで眠っている。
私は静かに着替えた後、宿を出て海に向かう。
海に向かう途中では人が1人もいない。
冒険者ギルドの対応のおかげか、そもそも夜は人がいないのかは分からない。
そして海岸に到着後、周囲に人がいないことも確認してから気配探知によってケートスの居場所を探る。
「いた……」
海岸から300メートルくらい先に大きな反応がある。
私はすぐさま飛行魔法で、ケートスの反応がある方向へと向かう。
とりあえず、私に敵意を向けさせた方がいいよね。
「ロックショット!」
岩石弾を10発展開させて、ケートスの反応がある海面に向かって放つ。
「グオオオォォォ!」
ケートスが海面から姿を現した。
本当に情報通り頭が犬みたいだ。でも気持ち悪い。
こんなに可愛くない犬がいるのか。
そしてケートスは海に潜った。
しかし、気配探知で確認してもケートスの反応は移動していない。
何をするのか分からないので、そのまま空中で待機していると、海面にケートスの影が浮き出てきた。
「おおっと!」
口を開けたケートスが、海面から急に飛び出してきた。
びっくりした。食べられるかと思った。
危ないので高度を上げる。
狙い通りケートスも私に敵意を持っている。
できれば、孤島に行きたいので私は孤島に向けて移動する。
気配探知で確認すると、ケートスも付いてきているようだ。
とりあえず、魔力消費を抑えたいので孤島に行きたい。
「このまま付いてきてよ……」
海面にケートスの影は見えないが、気配探知には反応がある。
私と同じスピードで真下にいる。
「あぶなっ! また……」
再度、口を開けて海面から飛び出してきた。
目に見えないから、かなりの恐怖だ。
急に海面から口を開けて飛び上がってこないでよ……。
びっくりするじゃん。
「もう少しで孤島だ」
孤島に着いた私は飛行魔法を解除して、足を地面に着ける。
とりあえずこれで、街から遠ざかれたし飛行魔法での魔力消費も抑えられる。
ケートスの反応を調べると、孤島の周りを回っているようだ。
ケートスは攻撃を仕掛けてくる様子もないので、このままだと埒が明かない。
私はケートスの反応がった場所に岩石弾を放つ。
「ロックショット!」
しかし、ケートスは無反応のようで相変わらず周囲を泳いでいる。
ケートスには岩石弾が命中したようだけど、ダメージはないようだ。
さすがに海中に放っても威力は減衰するか。
できれば魔力のことも考えて、この孤島を足場にして戦い続けたかったけど、いつものパターンになりそうだ。
私を囮にして口の中に魔法を放たないといけないかな。
目に見えないから、急に飛び出してきて怖いんだよね。
でも、そうしないと討伐ができない。
諦めて再度、飛行魔法でケートスの上を飛ぶ。
いつ飛び出してくるか分からない状況で、上空で待っていると急に海面が割れた。
一瞬にして魔法障壁が破られて、身体に強い衝撃を受けたことにより、上空に跳ね飛ばされた。
やばい。何が起きたか分からないけど意識が……。
落下しながらも意識を保つ。
このままでは飛行魔法を維持するのも難しいため、すぐに孤島に降りようとしたが、何故か孤島が沈んでいた。
「一体何が……?」
さっきの衝撃で孤島が沈んだのか?
何が起きたのか分からない。
すぐに街の方に行って海岸に避難しないと……。
ちょっと嫌な予感がする。
予想もしない衝撃波を受けたことで、決して軽傷とは言えない程のダメージを受けている。
このままだと戦闘中に意識を失い、海に落下してケートスのお腹の中にゴールインしてしまう。
カレン達にも無事に帰って来るように厳命されている。ここで諦めて帰った方が良さそうだ。
私はすぐに引き返すように街の海岸へと方向転換させる。
しかし、ケートスがそれを黙って見ている訳でもなく、追い討ちをかけるように海面から衝撃波が来る。
「かはっ……」
2発目の衝撃波をモロに受けて、意識を保つだけでも限界に近い。
本当にまずい。
とりあえず急いで、近くの海岸を目指さないと本当に死んでしまう。
しかし、ケートスはそれを許さない。
海面から何度も衝撃波を飛ばしてきた。
もう一度受けたら確実に意識を失う。
そうなったら海に落下して喰われるのがオチ。
私は衝撃波を回避しながら必死に逃げる。
「やばいやばいやばい」
かなり焦っている。
無我夢中で近くの海岸に向かいながら、海面から飛び出してくる衝撃波を避け続ける。
途中で無限収納から、回復薬と魔力回復薬を出して空中で飲みながら海岸を目指す。
そして海岸に近づいてきたので高度を下げたところ、海面からケートスが口を開けて飛び上がってきた。
「もう見逃してくれよ!」
このケートスは結構頭が回るみたいだ。
この瞬間を待っていたと言わんばかりに、今までにないくらいのスピードで飛び上がってきた。
焦った私は無意識にケートスの口内に魔法を放った。
「ロックショット!」
ドゴォォォオオオン!!!
凄まじい威力の岩石弾がケートスを貫いた。
「え……? 何だ今のは……」
魔力回復薬のおかげで、魔力は余っていたが、いつも通りに魔力を込めただけの岩石弾だったはず……。
それなのに、凄まじい威力だった。
無意識で岩石弾を放ったので、なぜあんな威力が出たのか分からない。
新しい固有魔法を発動させたのか?
飛行魔法を解除して海岸に足を着けた後、ケートスを確認すると海にお腹を見せて浮かんでいる。
気配探知で確認すると、反応も消えている。
「……終わった」
私は飛行魔法でケートスの死骸に近寄り、強奪スキルを使ってから無限収納に死骸をしまった。
海岸に戻り、そのまま気絶するように眠った。




