表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/108

38 海の怪物


 みなさんおはようございます。ヒナタです。


 昨日の死刑宣告によりこの街では海鮮料理がもう食べられそうにないので、非常に遺憾ですが王都に帰ろうと思います。


「せっかく海産物を求めて来たのに、2日しか堪能できなかったな……」

「本当にね……」

「でもまあ、あの海鮮丼が食べられたので良かったじゃないですか!」


 シャルが私を励ましてくれる。

 本当は浴びるほど海産物を食べるために長く滞在する予定だったけど、依頼もないし魚も獲れないしで本当に残念だ。

 もうやることもないから帰るしかない……。


 宿から出てタラサの街の門まで移動するが、昨日まで血気盛んな街並みだったのに、魚が獲れないせいでほとんどのお店が閉まっている。

 食事処はほとんどが海産物を取り扱っている街だ。

 そのせいか魚が獲れないことでここまで閑散としてしまうとは……。


「なんか静かになったな……」

「そうだね……」


 でも何故、急に魚が獲れなくなったんだろう……気になるよね。

 海に何かあったのかな?


「ねぇ、2人とも。ちょっと気になるから海に行かない?」

「え、なんで?」

「魚が獲れなくなった理由を調べたい。もしかしたら海に何かあったのかもしれないし」

「まあ、いいけど……」

「そうですね。折角ですから行ってみましょうか」


 私の言葉で2人とも納得してくれた。

 そして3人で海へと向かう。


 海には何隻もの船があったが、遠視で見てみると網には何も入っていない。

 船にはもちろんだが、何かが釣れたような雰囲気もない。

 かなり異常だと思う。


 前世の海と違い、ここの海はとても綺麗で汚染している様子もない。

 魚が獲れないなんて考えられないのだ。

 ということは、考えられるのは海に生息する魔物の影響か……。


 私はすぐに気配探知を使う。

 ……しかし、なんの反応もない。

 どうやら私の勘違いのようだ。

 てっきり魔物でもいるのかと思ったけど……。


 ……いや、ちょっと待って。

 何か忘れている気がする。

 なんだろう。なんか気持ち悪いな。

 私は自分の記憶を探るように昨日の出来事を振り返ってみる。

 えっと……確か海に到着して海水浴を3人で楽しんだ後、ビーチバレーをした。

 あの時にカレンの胸がぶるんぶるん揺れていて物凄い興奮しつつも、水着が外れないかヒヤヒヤした。

 そしてその後に、いかにも不純な動機で声を掛けてきた男達とビーチバレーの対決をした。

 勝負に勝っても男達が水着を脱がなかったから、私が魔法で脱がした後、水着を風魔法で切り刻んだ。

 その時に見えた男達の息子が小さかったんだよな……って、さっきから何を思い出しているんだ!

 余計なことしか思い出していないぞ。私の頭はお花畑か。

 違うんだ。思い出すべきところは昨日のことじゃない。

 もっと前の出来事だ。そう、初めて海岸に到着してから海を見渡したときに感じた違和感……。




「……そうだよ!」


 思い出した。


「どうしたんだヒナタ?」

「思い出したよカレン! そういえば一昨日に海で遊んでいた時に、水飛沫(みずしぶき)が上がっていたんだ。もしかしたら海に大きな魔物がいたのかもしれない!」

「え、そんなの見ていないけど……」


 そりゃあそうだ。

 遠視でもギリギリ見えたくらいだ。

 あれは鯨とかではなく、魔物の水飛沫(みずしぶき)だったのかもしれない。


 そりゃあ、気配探知に反応がないわけだ。

 今の私のスキルレベルだと半径500メートルまでしか把握できない。

 つまり魔物はそれよりも遠くにいるんだ。

 でも気配探知で確認するために船で移動するにしても、危険を伴うから安易に行きたくない。

 それに魔物の気配を探知するために飛行魔法(フライ)で海上を飛んでいくにしても、海岸には漁師さんがたくさんいるので行使ができない。


 だとしたら、夜中にこっそり飛行魔法(フライ)で、あの孤島の近くに行って気配探知で確認した方がいいかもしれない。


「ごめん、2人とも。今夜にでも海に魔物がいるか確認したいからもう一泊してもいい?」

「え、別にいいけど……」

「別に大丈夫ですよ」


 魔物がいるという私の仮説が正しければ、海の魚がいなくなったのも説明がつく。

 魔物の影響で魚が逃げ出したり、食われていたりなどで魚が獲れない理由ができる。

 絶対ではないが、もし海に魔物がいるなら一大事だ。

 海にいる魔物は、普通の人間にとっては天敵になり得る。

 私みたいに飛行魔法(フライ)が使えればいいけど、そうじゃないと戦闘にすらならない。

 それに日中に船に被害がないとすると、その魔物は夜行性の可能性がある。

 夜に私が確認するのがいいかもしれない。


 それから再度、海の里亭に行きもう一泊することにした。




 夜になって、私達は海に向かった。

 カレン達には寝ててもいいと伝えたけど、心配だから付いてくるらしい。


「本当に魔物がいるのか?」

「可能性があるくらいだよ。もしいなければそれでいいじゃん」


 もし魔物の反応がなければ、魚が獲れなくなった原因が別にあるということになる。

 そうなれば、もう環境の問題になりそうだから私で解決はできない。

 そして海岸に到着して、とりあえず気配探知スキルを使う。


「あれ……?」

「どうした?」


 海に大きな反応がある。

 やっぱり魔物がいる。当たりだ。


「海に反応がある。やっぱり魔物がいるよ」


 それに気配探知に反応があるということは、気配探知の範囲まで魔物が近づいてきている。

 やっぱり私の予想通り、夜行性の魔物なのかもしれない。

 ここで飛行魔法(フライ)で、魔物に向かって魔法を放って攻撃してもいいけど、あまり刺激して怒らせるのも良くないよね。


 とりあえず今日は魔物がいることを把握できただけでも収穫があったと思うべきだ。

 明日にでも冒険者ギルドに行って報告した方がいいかもしれない。


「魔物がいることは把握できたから帰ろうか。明日、冒険者ギルドに報告しよう」


 そう言って、3人で宿に戻って眠りについた。




 翌朝目覚めて、朝食を食べてから冒険者ギルドに3人で向かった。

 冒険者ギルドに到着すると、冒険者ギルドが何やら騒がしい。

 受付の女性達が忙しなく働いていた。


「あの、何かあったんですか?」


 冒険者ギルドの受付の女性に何があったのか聞いてみた。


「それが夜中に漁師の方が海に出ていたみたいで、朝に船が沈没した状態で見つかったそうです。漁師の方も行方(ゆくえ)が分からなくて、もしかしたら魔物に襲われたんじゃないかって……」


 なんてことだ。

 私たちがいなくなった後に、船を出した漁師がいたのか。

 でも、ここまで魚が獲れない日が続くと焦って夜に出ることもあるか。


「そ、そうだったんですか。実は昨日の夜に海に行ったんですけど、魔物の気配があったので今日は報告のためにここに来ました」

「やっぱりそうだったんですね! それでどんな魔物か分かりますか?」

「すいません。私は魔物の気配を探知するスキルを持っているだけで、どんな魔物かまでは分からないんです」


 受付のお姉さんは残念そうな顔をしている。


「そ、そうですか……。でも、魔物がいることが確認できただけでもよかったです。すぐに調査隊を出さないと!」


 そう言って、受付のお姉さんは奥の部屋へと走っていった。


「どうする?」


 カレンが聞いてくる。

 どうするって言われてもな。

 とりあえずは冒険者ギルドに任せた方がいいと思うけど。

 船に被害が出たなら無闇に海に行く自殺志願者もいないだろう。

 

「とりあえず状況を確認したいから、冒険者ギルドで待機かな……」

「了解」

「そうですね」


 私の提案に2人とも同意する。

 待つこと2時間。いくら待ってもなんの魔物なのかの情報が入らない。

 痺れを切らして受付のお姉さんに状況を聞いてみる。


「あの、魔物の情報って何か分かりそうですか?」

「今、調査隊が船で確認をしていますので少々お待ちください」


 受付のお姉さんに聞いてみると調査隊が船で確認に行ったみたいだ。

 ……どうやら自殺志願者が大勢いたらしい。

 海に魔物がいるのに船を出すとかやばすぎるだろ。


「あの、多分ですけど海にいる魔物は夜行性なんじゃないですかね。今までも日中は被害が無かったわけですし。夜に調査をした方がいいと思いますよ」


 私は受付のお姉さんにアドバイスをした。


「……確かにそうですね。でしたら、夜にでも船で調べた方がいいかもしれませんね」


 いや、だから馬鹿なのか。

 昨晩の船の沈没騒ぎをもう忘れたのか。


「船を出すと襲われると思いますよ。なので、海岸で確認するだけに留めておくといいと思います。その魔物の姿くらいは見えるかもしれませんよ」

「あ、確かにそうですね……。また被害を出すところでした……」


 どうやらこのお姉さんはちょっとお馬鹿なのかもしれない。

 いや、お姉さんだけでなく調査隊を派遣したお偉いさんも含めてお馬鹿だ。


「でしたらまた明日にでもここに来ますね」

「あ、はい! 情報提供ありがとうございました!」


 そう言って私達は宿へと戻った。




 翌朝起床して、再度冒険者ギルドに向かった。

 どうやら昨日と同じで冒険者ギルドが騒がしい。

 私達はすぐに昨日会話をしたお姉さんの所へと向かう。


「魔物が何か分かりましたか?」

「あ、昨日の冒険者の方ですね。分かりましたよ! 海にいた魔物はケートスです!」


 ……え?

 ケートスってなに?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ