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37 迷子の女の子


 みなさんおはようございます。ヒナタです。


 昨日は盛んな男達とビーチバレー勝負をしていました。

 あの男達はあの後どうやって帰ったのかはさっぱり分かりません。


 今日はせっかくなので、タラサの街の冒険者ギルドに行ってみようと思います。

 別に依頼を受けたいからではなく、どんな依頼があるかを確認するためにね。

 面白そうな依頼があったら受けようと思うけど。


「朝食食べてから、冒険者ギルドに行こうぜ」

「そうだね」

「うん」


 カレンの提案に私、シャルが同意する。

 そして宿で朝食を食べ、部屋で着替えた後に3人で冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに辿り着き、中へと入るが人はあまり多くない。

 そういえば昨日、護衛依頼の完了報告で来た時もあまり人がいなかった。

 でもあの時は、時間が中途半端だったから冒険者が仕事に行っていて、人がいなかっただけだと思ったけど実はそうでもないみたい。

 通常は朝から依頼を受けるために冒険者はこの場に集まるものだ。


「あんまり人がいないね」

「そうだな……」


 5人くらいしか冒険者がいない。

 理由は分からなかったけど、依頼ボードを見て理解した。


「依頼がほとんどないじゃん」


 そもそも依頼がないのだ。

 この街は仕事がないから冒険者がいないのか。

 でも確かに、ここに来るまで魔物もいなかったからね。

 海にも魔物は出づらいから依頼もないのだろう。


 あるのは、護衛依頼とか店の手伝いとかそんなやつばっかりだ。

 平和な街なんだと感じてしまった。

 冒険者にとってはつまらないけど、住民にとってはいい街だ。


「どうする?」


 カレンが私たちを見て聞いてくる。


「帰ろうか……」

「「そうだね」」


 私の言葉に2人が頷いて、冒険者ギルドから出た。


 さて、何をしよう。

 今日の予定が一気に無くなった。


「どうしようか……」

「……」


 私の問いかけに2人とも無言だ。

 

 特にやることもないので、しばらく目的もなく街を歩いていると、シャルが何かに気づいて指を差した。


「あの女の子どうしたんだろう?」


 シャルが小さな女の子が泣いているのに気がついて、近寄って行く。

 私とカレンもシャルに付いていって、女の子に近づいていく。


「どうしたの?」

「うっ……。うぅ……。パパとはぐれちゃったの」


 どうやら迷子みたいだ。

 この街中ではぐれると見つけるのは難しいな。

 前世のように迷子センターもないしね。

 それに子供が1人だと危ないかもしれない。


「どうしようか?」

「お父さんを探した方がいいだろ」


 私の言葉にカレンが返してくれた。

 シャルは女の子と同じ目線になるように、しゃがみ込んで話しかける。


「お名前はなんて言うの?」

「ミル……」

「ミルちゃんか。可愛い名前だね」


 いつもは子供の相手は私がしてきたが、今日はシャルが積極的だ。

 もしかして、子供が好きなのかな。

 いつも私が邪魔していたのかな。


「私はシャーロット。後ろの赤髪の子がカレン。銀髪の子がヒナタよ。お姉ちゃん達がパパを一緒に探してあげる」

「本当?」

「うん。パパの着ている服とか教えてくれる?」

「緑のシャツに黒いズボンを履いていた気がする」


 それくらいしか特徴は聞けないよね。

 でも、この人混みで該当する男性を見つけるのは難しい。

 なぜなら、私とシャルは背が小さい。

 カレンが唯一の高身長だ。


「なら、一緒に探しに行こう」


 シャルがミルにそう言うと、手を繋いで歩き出した。

 しかし、しばらく歩いてもミルのパパは見つからない。

 最終的にはカレンがミルを肩車して高い位置から探し始める。


 それでもやっぱり見つからない。

 長い間探していたためかもうすぐお昼の時間になっていた。

 ミルのお腹もなったので、少し休憩しようとご飯を食べるために4人で海鮮料理を食べられるお店に入った。


「ヒナタなら海鮮料理を食べられる店を選ぶと思ったよ」

「当然だよ!」


 そりゃあそうでしょう。

 せっかく新鮮なお魚を食べられる街にいるんだから、毎日海鮮料理ですよ。

 異論は認めません。


「でも美味しいでしょ?」

「まあな……」

「海鮮料理にもいろいろな種類があるので飽きませんよね」


 今日はお刺身にした。

 単純にお刺身に醤油をつけて食べてもかなり美味しい。

 贅沢を言えば山葵が欲しいところだけど、残念ながら存在していなかった。

 そして私たちが刺身を黙々と食べていると、店員のおばさんが声を掛けてきた。


「海鮮料理を出せるのも今日までだから、味わって食べてね」


 なんてこった。

 私にとっては、余命宣告みたいなものだ。


「え!? 何でですか!?」


 私は座っていた椅子から立ち上がった。


「なんか漁に出ても魚が全く獲れないんだって。うちも魚を仕入れられないから、明日の営業も難しいかもね」


 なんで魚が獲れないんだ。

 海は食糧の宝庫のはずだ。……まさか、密漁か?

 もしかしたら別の大陸の者が領海侵犯をして密漁している可能性があるのか?

 って、そんなことをしていたら住民の人が気がつくよね。

 それに魚が獲れなくなるほどの量は無理だ。


「でもなんで魚が獲れなくなったんでしょうかね?」

「漁師も全く分からないらしいよ。5日前から急に獲れなくなったらしくてね。今日提供している魚がうちの店では最後になりそうなんだよ」


 ということは、もう魚はお店で食べられないということだ。

 このお店だけでなく、他の海鮮料理店でも同じような現象になっているはずだ。

 まあ、私は無限収納に大量に魚をしまっているんだけどね。

 ……そう考えるとよく売ってくれたな。ほぼ買い占める勢いで買っていたんだけど。


「どうするヒナタ? 海鮮が食べられないならこの街にいても……」


 いる必要もなくなる。ということだ。

 もともと、護衛依頼を受けたのもこの街で海鮮料理を食べられると思ったからだ。

 そんな海鮮料理が食べられなくなる。

 そう考えれば明日にでも王都に帰ろうった方が良さそうだ。


「そうだね。近いうちに王都に帰ろうか……」


 私が落ち込みながら返答する。

 お店での最後のお刺身も食べ終わり、再度ミルのパパを探し始めた。


「ミルちゃん、いる?」

「いない……」


 ミルがどんどん不安な顔になっていく。

 このまま見つからないということはないと思うけど、時間を掛ければミルのパパも心配だろう。

 誰か悪い男達に連れ去られたのではないか、どこかで怪我をして泣いているのではないか。

 親であれば子供のちょっとしたことでも不安になるので居ても立っても居られないだろう。

 ……こうなったら最後の手段だ。


「ミルちゃんの家に行ったらいいんじゃない?」


 私の提案に全員が「その手があったか!」みたいな顔をしている。

 普通の提案だよね?

 遠方から来ているわけじゃないから、家に直接送るのも手段のひとつだよね。


「そ、そうだね。ミルちゃんもそれでいい?」

「でも、パパが……」

「パパもママに伝えるために家に帰っているかもよ。だからどうかな?」

「……わかった」


 これで解決するかな。

 家に送れば、そのうちパパも帰ってくるだろう。


「家はどこかな?」

「えっと、海の里亭だよ」

「「「え?」」」


 私達はミルの発言に驚愕する。

 そして3人が驚いた顔でミルを見る。……ダジャレになっちゃった。

 そんなことはどうでもいい。


「海の里亭ってあたしたちが泊まっている宿じゃん」


 そう。私たちがお世話になっている宿だ。

 こんな偶然があるのか。

 こんなことなら、はじめから家を聞いておくべきだったかもしれない。

 私たちは早速、海の里亭に向かった。


「ママ!」

「ミル!」


 母娘の感動の再会。

 しかしパパの姿はない。


「パパから街でミルとはぐれたって聞いて心配したよ……」

「お姉ちゃん達が一緒にパパを探してくれたの」


 ミルが私たちのことを説明する。


「あれ? 泊まっているお客さんですよね?」

「はい……」


 シャルが返答した。

 なんとも居た堪れない状況だ。


「ありがとうございます。娘に付き合ってくれて」

「いえ、偶然通りかかっただけなので……気にしないでください」

「お礼と言ってはなんですが、今日の宿代は結構ですので……」


 なんとも嬉しい誤算だ。

 暇だったから、迷子の女の子のパパ探しを手伝っただけなのに。

 それにパパは見つけてない。つまり私達はミルを連れ歩いて一緒に海鮮料理を食べて家まで送り届けただけ。

 それなのに一泊分の宿代が無料になるとは。


「あ、ありがとうございます」


 いいことをすると、しっかり自分に返ってくると学んだ1日でした。

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