35 タラサの街へ
みなさんおはようございます。ヒナタです。
本日は朝からとても大変でした。
何故なら朝から月のものが始まったからです。
起きてから大量の血が出ててかなり焦りました。
ベッドに付着した血を朝から洗っていたので、慌ただしかったです。
でも今までに比べて痛みはそうでもありません。
今までこの痛みに頑張って耐えてきましたが、今回はそこまで痛みがないのです。
それはなぜか……。多分、自然回復スキルを取得したからでしょう。
これのおかげか、多少なりとも痛みも緩和できているようです。
自然回復スキルのおかげで、億劫だった月一の激痛を何とか耐えられそうです。
さて、本日は冒険者ギルドに来ています。
中に入ると周りの冒険者が私たちを見ている。
そりゃあ、長身で美人のカレンとロリで金髪美少女のシャルがいるなら見ちゃうよね。
私にとってはハーレム状態だもん。身体は女だけど。
「ヒナタも人気が出てきたな」
カレンが不意にそう言った。
え? なんで私?
そんな顔をしてカレンを見ると。
「ヒナタも可愛いからな。他の冒険者からかなり人気なんだぞ」
え、この視線は私に向けられているの?
私が周囲に視線を送ると、顔を赤くして目を逸らされる。
「まじか……」
なんか恥ずかしくなってきた。
注目を集めているみたいで嫌だな。
男から言い寄られても困るからね。
よし、無視しよう。
「早く依頼ボートを見に行こう……」
私はか細い声でカレン達に言った。
依頼ボードに見ると、目に入った依頼があった。
それは、行商人の護衛依頼だ。
タラサの街に行くのに、近隣で盗賊が出るため護衛を依頼したいとのこと。
私が興味を持ったのは、タラサは海が有名な街なのだそうだ。
ということは、海産物が食べられるということ。
これは絶対に行きたい。刺身が食べたい。海鮮丼が食べたい。
それにもしかしたら米もあるかもしれない……。
この機会を逃すわけにはいかない!
「カレン、シャル! この依頼を受けよう!」
「護衛依頼か……。うん、いいけどシャルはどう?」
「大丈夫だよ」
こうしてタラサへの護衛依頼を受けることになった。
王都からタラサまでは馬車で2日。
食事は依頼者負担で報酬金貨10枚らしい。
かなり高額な報酬である。たったの2日で日本円で100万円。
その代わり、盗賊が出た場合は撃退を必ずしていただきたいとのこと。
なんでも、この盗賊がかなり厄介らしい。
盗賊の頭目が元Bランク冒険者みたいで、近隣の街でも行商人が被害に遭っているみたいだ。
この内容だからこそ、高額の報酬なのだろう。
だからといって、この依頼をキャンセルつもりはない。新鮮な魚が私を待っているから。
そして私たちは依頼を受注して、行商人に会いに行く。
依頼者は50代くらいのおじさんだ。
「初めまして、私はカルタ商会のランドといいます。よろしくお願いします」
「あたしはカレン。金髪の女性はシャーロット。銀髪がヒナタだ」
「「よろしくお願いします」」
カレンからの紹介も終わり、ランドさんの馬車に乗ってタラサの街へ向かった。
「みなさんはパーティーなのですか?」
ランドがカレンに聞いていた。
「そうだよ。ヒナタは最近入ったばかりだけど、あたしたちより強いよ」
カレンが私を褒めているようだ。
魔法だったら負けないけど、カレンと接近戦になったら秒で負ける自信はあるけど。
誰にだって得手不得手があるからね。
「そうなんですね。女性だけのパーティーだと色恋沙汰もないので争いがなさそうですね」
「それはあるかもな。男女混合のパーティーだと色恋沙汰で解散、なんて話も聞くからな」
そうか、そういう問題もあるよね。
パーティー内で恋愛関係になると面倒だな。
いや、精神が男性の私なら恋愛関係になってもおかしくないけど、生憎2人からはそういう目線で見られないから諦めている。
それに私には本命のサーシャがいる。浮気はダメだ。
「でも、女性だけだと勧誘してくる冒険者も多いのでは?」
「昔はあったけど、あたしたちは全員Bランク冒険者だから最近はなくなったな」
やっぱり、カレン達も勧誘とかされていたんだな。
大体そういう連中は、邪な考えがあるだろうから断るよね。
間違いなく2人の容姿に惹かれて、あわよくばを狙っていたに違いない。
「女性でBランクとはすごいですね。でしたら、タラサまでの道のりも安心して任せられます」
「ああ、任せておけ」
そんな会話をしながら、私たちはタラサの街まで半分の所にきたところで、野営をすることになった。
ランドから提供された食事は干し肉に少しの野菜が入ったスープだ。
うん、普通の野営の食事はこうだよね。
カレンとシャルも苦笑いで受け取る。
私たちが贅沢な……というか常識はずれな野営をしているから普通を忘れてしまうよね。
私に至っては、森生活以来だよ。あの時は干し肉じゃなくて野草だったけどね。
夕食も食べ終わり、私たちは交代で見張りをすることになった。
カレン、シャル、私の順番で見張りをすることにした。
「ヒナタさん、起きてください」
目が覚めるとシャルの顔が目の前にある。
どうやら私の見張りの番みたいだ。
私は1人で焚き火をしている場所で、眠気と戦いながら見張りをしていた。
「1人いるな……」
いつからいたのかは分からない。
でも、気配探知でここから離れた場所に1人いるのは確実だ。
遠視で確認しても暗いからよく分からない。
敵意はなさそうだが、こちらの様子を伺っている。
盗賊の1人が偵察でもきたのかな。
とりあえず警戒をしておこう。
「……あ、いなくなった」
何時間経っても動かなかったが、朝日が登りはじめると逃げるようにいなくなった。
そして起きてきたカレンとシャルにも、誰かが偵察に来ていたことを伝える。
「うーん、怪しいな」
「そうですね」
「今日でタラサには着くから、途中で襲ってくるかもしれない。警戒はしておこう」
「「了解」」
カレンの言葉に私とシャルは頷く。
一応護衛対象であるランドにも伝えて、警戒するよう促しておいた。
その後も何もなく進んでいるが、私の気配探知にはしっかり反応がある。
「15人いるね。多分盗賊だよ」
私の言葉に、カレンとシャルも武器に手をかける。
盗賊は前後2組になって私達の馬車から100メートルほど離れており、全く同じ速度で追従してきている。
私達は盗賊に挟まれた形になっている。
そしてしばらく進むと、盗賊が急接近してきた。
「くるよ!」
カレンが馬車から飛び出し、進行方向から来た盗賊達に向かっていく。
シャルはカレンの援護で遠くにいる盗賊に矢を放つ。
私は後方からくる盗賊に魔法を放つ。
「エアショット!」
後方からきた盗賊4人に空気弾を放つ。
盗賊のアジトがあるかもしれないから、一応生かしておかないとね。
カレン達はそんなこと考えずに加減しないで殺しそうだし。
後方からの盗賊は全て気絶させて、カレン達が戦っている前方へと移動する。
すると、残っていた1人の盗賊だけ明らかに体格が良かった。
大剣を持っていて、カレンとも同等に戦っているようだ。
2人とも動きが早く、シャルもさすがに弓で応戦はできないようだ。
「くっ……」
女性のカレンでは力負けしてしまう。
かなり苦戦している。
私も近接戦はできないので、こっそり魔法で手助けしてあげよう。
盗賊とカレンが離れた後、タイミングを見計らって、盗賊の足元に土魔法で地面に窪みを作る。
「なっ!」
カレンに向かおうとした盗賊が、窪みに右足が嵌って体勢を崩した。
「今だ、カレン!」
私の言葉でカレンが盗賊に向かって、剣を振り下ろす。
「おらぁぁ!!」
「ぐああぁぁ!!」
振り下ろされたカレンの剣によって、盗賊がその場で倒れ込む。
「危なかった……」
カレンが膝をついた。
私とシャルが駆け寄り、カレンに声を掛ける。
「カレン大丈夫?」
「ああ、ヒナタ助かったよ……」
パーティーだから助けるのは当然だ。
それに予想通り、カレンとシャルが相手をした盗賊は全員死んでいる。
後方の4人を気絶させたのは正解だった。
私は死んだ盗賊に強奪スキルを使用したが、特にスキルは得られなかった。
たぶんスキルが被ったのだろう。
こういうこともあるよね。
私たちは気絶した盗賊を馬車に乗せ、一応盗賊の頭目の死体も馬車に乗せてタラサへと向かった。
そしてタラサに到着した私は驚愕した。
目の前が海だ。
綺麗な海が広がっている。
「海だぁー!」
ものすごく興奮している私を宥めるようにカレンが話しかけてきた。
「海もいいけど、まずはこの盗賊を衛兵に引き渡さないと」
「あっ、そうだよね」
衛兵に事情を説明して、捕まえた盗賊を引き渡す。
そして、ランドと別れた私たちは冒険者ギルドに向かった。
「護衛依頼の完了報告ですね。お疲れ様でした。それと盗賊を退治してくれたということで、頭目には懸賞金が懸けられていたのでそちらも合わせてお支払い致します」
「ありがとう」
冒険者ギルドに辿り着き、すぐに受付へと完了報告をする。
どうやら、あの頭目は賞金首だったみたいだ。
確かに強かったしね。私は何もしてないけど。
私たちは、報酬と懸賞金を3等分して振り込んでもらった後、宿を取りに行った。
「ここってカレン達は来たことあるの?」
「いや、初めてだ」
カレン達も初めてみたい。
おすすめの宿があれば教えて欲しかったけど、来たことがないなら無理だな。
街の人に聞こう。
「ちょっとおすすめの宿がないか聞いてくるよ」
そう言って、私は街を歩いていた女性に声をかけて、宿を紹介してもらった。
そして教えてもらった海の里亭という宿に行き、3人部屋に泊まることにした。
3人部屋だと安くなるみたいだ。
ここに何日滞在するか分からないけど、気が済むまでは居たいな。
私は早速、海鮮料理が食べられる場所に行くために2人を誘う。
「カレン、シャル! 海鮮料理を食べに行くよ!」
「お、おう」
「ヒナタさんテンション高いですね」
私のテンションについていけない2人が後から追いかけてくる。
海辺の方に行くと、たくさんの魚や貝が売っていた。
「おおぉぉー!」
魚が売っている!
捌いて食べたい!
「ヒナタ、なんか人が変わったな」
「え、そう?」
「魚ってそんなに美味いのか?」
カレンは魚の美味しさを知らないらしい。
内地で暮らしていると、魚の魅力には気が付かないよね。
私が魅力を伝えてあげよう!
「美味しいよ! よし、あそこのお店に入ろう!」
目の前に海鮮料理が食べられるお店を見つけた。
混んでいるようだが、人が並んでいるということは人気があるということだ。
よし、ここに決めた。
私が2人の手を引っ張って行列に並んだ。
並び始めてようやく、私たちの順番になって中に入った。
店員さんから受け取ったメニューを見ると、私は驚愕した。
「海鮮丼がある!」
丼ということは米だ。
米があるんだ。
「テンション高すぎだろヒナタ」
前の席に座っているカレンが何か言っているがそれどころではない。
私は悩まず海鮮丼を注文した。
カレンと、シャルも同じものを注文していた。
そして、目の前にくる海鮮丼。
刺身にホタテのような貝もあり立派なものだ。
そして何より醤油があるのだ。まさかこの世界にも醤油が発明されているとは……。
絶対に醤油を買おう。
私は海鮮丼の刺身を口に運ぶ。
「おいしいぃぃ〜!」
この街に来てよかったと感じた瞬間であった。




