33 王宮に招待
みなさんおはようございます。ヒナタです。
昨晩は大変な不快な思いをしました。
あのクソ貴族が相応の報いを受けるのを願うばかりです。
さて、私が目覚めると、隣で寝ていたはずのシャルが私の顔を覗いていました。
「シャル! 気分はどう!?」
私は飛び起き、シャルの肩を掴む。
そして私が叫んだことにより、カレンも驚いて飛び起きた。
「シャル!」
カレンがシャルに抱きつく。
「う、うん。大丈夫です。ところで、ここはどこでしょうか?」
「ここはブルガルド家の屋敷だよ。昨日シャルが攫われたから助けに行って、ここに置かせてもらったんだ」
「そ、そうでしたか。ご迷惑をかけてごめんなさい……」
シャルが落ち込む。
今回、シャルは何も悪くない。ただの被害者だ。
悪いのはあのクソ貴族ただ1人。
「シャルは悪くないよ。それに仲間なんだから助けるのは当然でしょ!」
「それよりも何か変なことされなかったか?」
カレンがシャルを心配して声を掛ける。
「なんかずっと寝ていたからあまり覚えてないけど、身体に異常はないかな……」
シャルが自分の身体を触診してから答える。
「そっか……。ならよかったよ」
本当にシャルに何もなくてよかった。
もしシャルの身体に何かあったら、私はあのクソ貴族の屋敷を木っ端微塵にしていただろう。
そして私たちが会話をしていると、ノックの音が聞こえた後、扉が開いてユリアが入ってきた。
「あら、みんなおはよう」
「「「おはようございます」」」
「朝早くから申し訳ないけど、昨日のことで話をしに来たわ」
綺麗な白いドレスを身に纏ったユリアが昨晩のことについて話をしてくれた。
「あの後王宮に行って宰相に話を通してもらったからもう大丈夫よ。今朝には王国騎士団がミスリアド侯爵家を拘束に行っているだろうから。確実にミスリアド侯爵家は取り潰しが決定ね」
ユリアの話を聞いて安心する。
これにより今後もシャルが狙われるという心配もなくなる。
やっぱりクソ貴族の屋敷で証拠を収集をしておいてよかったようだ。
「それでね。この証拠を集めてくれた冒険者に国王陛下が直接お礼をしたいらしいのよ」
「「「は?」」」
え?
いまなんて言った?
ちょっとよく聞こえなかったな。
多分聞き間違いだろう。
「……す、すいません。もう一度お願いします」
「国王陛下がヒナタさんに会いたいって!」
「……どうしてそうなるんですか!?」
嘘でしょ。聞き間違いじゃなかったの……。
私みたいな普通の冒険者がなんで国王陛下と会えるんだよ。
王族に対する作法とか知らないよ。失礼なことするかもしれないよ。
カレンもシャルも私を憐れみの目で見ている。そんな目で見ないでよ……。
「どうしてって……。それについては国王陛下から聞いて。とりあえず、私と一緒にすぐに王宮に行きましょう!」
その後は早かった。
ユリアに言われるがままに、馬車に乗せられて王宮へと向かう。
「……あの私、礼儀作法とか知らないんですけど。それに格好もこんなラフな感じだし……」
私の今の格好はワンピース姿だ。冒険者というより、ただの街娘になっている。
到底、今からこの国で一番偉い人に会いに行くような格好ではない。
「国王陛下はとても寛大だから礼儀作法なんて気にしなくてもいいのよ! それにヒナタさんのその格好も可愛いわよ」
どうやら話が通じていない。
「私って女の子らしくて可愛い服装ですか?」って聞いてるんじゃないんだよ。
失礼な格好じゃないか心配しているんだよ。
でも冷静に考えると、私の格好がダメだったとしても、それは私のせいではない。
ユリアが急に私を拉致したんだから。
それに私はユリアのようなドレスなんて持ってない。
いや、買おうとも思わないし、着ようともそもそも思わないけど……。
国王陛下が寛大であれば、ただの平民の普通の冒険者に作法や服装で期待もしていないだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にか王宮へと到着。
門番の騎士にユリアが挨拶をして、中へと入っていく。
ここまで大きい建物はこの世界に転生してきて初めてだ。さすが王城。
私はユリアの後をついて行って、どんどん進んでいく。
王宮にいる人からも珍しい物でも見るかのようにジロジロと見られている。
やっぱりこの格好じゃ場違いだよね……。
「さあ、ヒナタさん。着いたわよ」
気がついたら、目的地に到着したようだ。
目の前には大きな扉がある。たぶん国王陛下との謁見室だろう。
まさしく、この先に国で一番偉い人がいるような雰囲気を醸し出している。
私は緊張しながらも、開いた扉の先に広がるレッドカーペットの上を歩いていく。
前を見ると、玉座に座った国王陛下がいる。まさしく王様って感じだ。頭に王冠を被っている。
私は王様の前に着くと、ユリアにならって片膝をついて頭を下げた。
「面をあげよ」
私は言われた通り、頭をあげて国王陛下のご尊顔を拝見した。
年齢は40歳くらいに見える。でもこの世界の人は若く見えるから実際は分からない。
顔はダンディなおじさまって感じだ。
「ユリアよ。そのものが此度のミスリアド侯爵家の犯罪の証拠を集めた冒険者か」
「はい、その通りでございます」
私は黙って聞いている。国王陛下が私のことを凝視している。
「その者、名はなんという?」
「はい、ヒナタと申します」
「女性に聞くのは憚られるが、年はいくつだ?」
「15歳です」
本当は34歳です。なんて言えるわけがないよね。
この容姿で34歳はあり得ないだろう。
「まだ若いな。しかし、今回のミスリアド侯爵家の件では世話になった。今までも王都の住民が攫われる事件は起きており、犯人もミスリアド侯爵家だと睨んでいたのだが、証拠がなかったのだ」
なんだ。国王陛下からも怪しまれていたのか。それなら捕まるのも時間の問題だったのかもしれない。
それでも調査に踏み込めなかったのは、決定的な証拠がないにも関わらずミスリアド侯爵家の屋敷に行って何も見つからなかった場合、それはミスリアド侯爵家への侮辱になるし、王族の失態でもある。
そう考えれば慎重に調査を進める必要もあったわけだ。
「いえ、私は仲間を助けるために動いたに過ぎません」
実際、シャルさえ助けられればそれでよかったのだ。
証拠集めはついでに過ぎなかった。
「そうか。ちなみにミスリアド侯爵家は取り潰しが決まった。集められた証拠でも十分だったが、地下牢を調べたら、100名以上の遺体が見つかった。どれもひどい状態だったらしい。よって、事件の主犯である現当主と息子は公開処刑が決まっている。それ以外の家族については、いまだ検討中だ」
公開処刑か。でもそれくらい当然だな。
あの暗く狭い地下牢で、どんなことが行われていたのかは想像でしかできないが、辛く苦しくそれに1人で寂しく亡くなったことを考えると心が痛くなる。
あの地下牢での被害者女性達のことを考えると、当然の報いだ。
それに私は基本、悪い奴はそれ相応の処罰を与えるべきだと考えている。
それに今回の主犯であるクソ貴族が処刑されることによって、被害にあった人と家族が少しでも報われればいいと思う。
「さて、今日招いたのはミスリアド侯爵家の取り潰しの報告と、貴殿にお礼を言いたかったからだ。この王都の住民を守ってくれて感謝する」
国王陛下が私に向かって頭を下げた。
貴族はクソみたいなやつしか聞かないけど、このサンドラス王国の王様は良い人のようだ。
普通であれば、身分が高いものが自分より身分が低いものに頭を下げるのはプライドが許さないだろう。
そう考えればこのサンドラス王国の国王陛下は信用に値する。
もしかしたら、私の能力を買って使い潰そうとする可能性もあったからね。
「いえ、もったいないお言葉です」
「そうか。では、もう下がって良いぞ。急に呼び出して失礼したな」
私たちは頭を下げて、謁見室から出た。
「はぁ〜、緊張したぁ〜」
「ふふ、ヒナタさん。しっかり受け答えできていたわね」
「まあ、あれくらいは……」
でも王宮に呼ばれるとかこれ以上は勘弁してほしい。二度と来たくない。
緊張で寿命が少し縮んだよ。
早く帰ってサーシャと遊びたい。
そして用も済んだ私たちは馬車に乗り、ブルガルド家へと帰った。
「ヒナタお姉ちゃん!」
「サーシャちゃん!」
屋敷の中に入った瞬間、サーシャが飛び出してきた。
こうやってサーシャを抱きしめていると、嫌なことを全て忘れられる。
このままお持ち帰りしてもいいかな。
「今日はヒナタお姉ちゃんと遊べますか?」
そんなことを上目遣いで言われると断れないよ。
っていうか、いつからそんな技術を学んだんだ?
その視線は男を惑わすよ。
「もちろんだよ」
私はカレン達がいる部屋に行き、2人にサーシャと遊んでくると伝える。
「ならあたし達も行こうかな」
「そうですね」
すると、2人も付いてくると言ってきた。
なんで私とサーシャのデートの邪魔をするんだ。
折角のサーシャとのイチャラブデートの予定だったのに。
でもさすがに2人は来ないで、とも言えないので笑顔で快諾した。
うまく笑顔ができていたかは分からないけど。
そして私たちは、4人で王都を回ろうと屋敷から出て行った。




