32 クソ貴族に報復を
大変不快な表現があります。予めご了承ください。
─ガモト・ミスリアド視点─
俺は、ガモト・ミスリアド。
このミスリアド侯爵家の長男であり次期当主でもある。
そう、俺は偉いんだ。
幼少の頃から貴族としての振る舞いとして平民にナメられてはいけないと、父上からも教えてもらってきた。
平民は貴族の奴隷だ……だから平民は貴族の言うことには逆らえない。
今までもそうやって奴隷として扱ってきた。
そんな俺がいい女を求めて街中を歩いていたら、女のガキがぶつかってきやがった。
貴族である俺様に向かって奴隷がぶつかってくる……これは連れ帰って教育した方が良さそうだな。
そんなことを考えながら、いつも通り罵声を浴びせてガキを脅していると、1人の冒険者らしき男が話し掛けてきた。
折角このガキを痛めつけられると思ったのに、とんだ邪魔が入りやがった。
どうせ、貴族である俺様に頭を下げて許しを請うことしか出来ないだろう……そんな風に思っていたが、この男は違った。
俺様の言葉に臆することもなく、さらには挑発までしてきやがった。
……しかし、俺の発言は我がミスリアド侯爵家を侮辱するような内容だったため、あの場で強くは言えなくなった。
俺様にぶつかったガキに相応の報いを与えてやろうと思っただけなのに、あの冒険者のせいで恥をかいた。
「クソが!」
屋敷に帰ってきてから、自分の机を力を込めて叩く。
公衆の面前であれだけ恥をかいたんだ。
俺はすぐに暗殺者を集め、戒めとしてあの冒険者を殺してくるよう依頼したが、どうもあの冒険者はSランク冒険者だったらしい。
Sランク冒険者の相手は流石に出来ない、と暗殺者からも依頼を断られた。
本当に使えない連中だ。いくらお前らに金を渡していると思っているのだ。
でも万が一、この暗殺者連中がSランク冒険者によって返り討ちにされたりでもしたら、俺が依頼したことも露見する可能性だってある。
……だが、今日の出来事に対して俺のイラつきは収まらない。
何としてでもこのイラつきをどこかの女で解消したい。
……そうか。元々はあのガキがぶつかってきたからこんなことになったのだ。
そもそも俺はあのガキを連れ帰るために、罵声を浴びせていたのを思い出した。
早速、今日ぶつかってきたガキを攫ってくるように暗殺者に依頼をした。
そして次の日の朝に暗殺者からの手紙が机に置いてあった。
内容を確認すると「いつも通りに地下牢に入れておきました」と記されていた。
俺は早速、使用人達に見つからないように、裏庭から地下牢へと向かった。
そして鎖で繋がれ、眠っていたガキを見て俺は高揚した。
こいつで今日から数日は楽しめそうだ。
連れてこられた女達は夜に楽しむようにしている。
地下牢の存在は父上と時期当主である俺しか知らないからだ。
誰にも知られてはいけないと父上からも厳命されている。
そのため、使用人達も寝静まった夜に地下牢で楽しむのだ。
そしてその日の夜、そろそろ目が覚めて慌てている頃だろうと思い、地下牢に向かった。
そして目の前には涙を流しながら、助けを請うガキの姿。
「ガキが、楽に死ねると思うなよ」
そう言って、俺は怯えるガキの服を引き裂き強姦した。
耳が痛くなるほど泣き叫び、その度に拷問のようにガキの身体を痛ぶり続けた。
どんどんガキの身体は壊れていき、そんな日々を続けていたら3日ほどでガキが死んだ。
最初のうちは「助けてください! ごめんなさい!」と言っていたが、最後の方は「もう殺してください……」としか呟かなくなった。……つまらん、こいつも同じだ。
今までも街中で見つけて気に入った女は屋敷に招くか、暗殺者を雇って地下牢に攫うかをしてきて、壊れるまで強姦をして最後は拷問によって殺した。
こんなのは父上だってやってきたことだ。
しかし、すぐに死んでしまうことが面白くなかった。
俺の拷問に長期間耐えられるような、精神力のある女が欲しいと常々思っていた。
そんな日に酒場で見目のいい冒険者を見つけた。
背は小さいが、冒険者として生活していることで、手には胼胝まである。
こいつはいいなと思った。泣き叫びながら俺に犯されている姿を早く見たい。
そして拷問でどこまで耐えてくれるか楽しみだ。
「そこの金髪の女よ。見目がいいな。俺の愛人にしてやるからついて来い」
俺の誘いを断るということは、貴族に喧嘩を売るのと同然だ。
断られるわけがないだろうと思って声を掛けたが、反応は思っていたものとは違った。
そう。この女は断ってきたのだ。俺は金髪の女の発言に耳を疑う。
さらには、隣にいた銀髪の女も俺様に逆らってきた。
想像と違う反応のせいで焦ってしまい、俺は貴族家全てを敵に回すような発言をしてしまった。
そして俺の発言で脅しをかけてきた銀髪の女。
この場で護衛の騎士に指図してこいつら殺してやろうとも思ったが、それをしてしまうと俺の発言を認めることになり、ミスリアド侯爵家に泥を塗ってしまう。
冷静に考えれば、後で攫えば済むことだ。ここは大人しく引き下がったほうがいい。
屋敷に帰り、今日出会った冒険者を調べさせた。
調べると、Bランクの冒険者パーティーのようだった。
「あの見目でBランクの冒険者か……」
ますます楽しみになってきた。
俺はすぐに金髪の女を攫ってくるように暗殺者に依頼をした。
しばらくすると、金髪の冒険者を攫ってきて地下牢に入れたと報告が入った。
「ふっ、今夜にでも可愛がってやろう……」
─ヒナタ視点─
私は地下牢の扉を開けて、奥に進むと鎖に繋がれたシャルの姿があった。
「シャル!」
シャルはどうやら気を失っているようだ。
そして、私が一番心配していた暴行は行われていない。
たぶん、今夜にでもあのクソ貴族が来るのだろう。
なら、私はすぐにシャルをこの場から連れ出さなければならない。
夜まではまだ時間はあるが、あのクソ貴族がいつ来るかも分からない。
私は地下牢の扉付近にあった鍵を持ってきて、シャルのいる牢を開けた。
そして手に繋がれた鎖の鍵も外してシャルを担いで牢から出る。
担ぎながら周囲を見渡してみると、血だらけの死体が複数ある。
それに白骨化したものもたくさんあり、あまりにも悲惨な光景だった。
「酷すぎる……」
先程まではシャルを探すことに精一杯で、そしてこの地下牢が薄暗いせいもあってか気が付かなかった。
そして血だらけで亡くなっている、1人の少女に目が行く。
「え……嘘でしょ……?」
その少女は身体中が鞭で叩かれたような痕や鋭利なもので所々切り付けられている。
あまりにも惨たらしい姿だった。
そしてこの少女は以前、ケータが助けた子で間違いない。
クソ貴族によって罵詈雑言を浴びせられ、必死に許しを懇願していた少女。
こんな小さな女の子をこんな目に合わせるなんて……絶対に許せない。
あのクソ貴族はもはや人間ではない。人間の姿をした悪魔だ。
この地下牢で犠牲になった女性達、そしてその親族の人達の怨みを絶対にクソ貴族に思い知らせてやらないといけない。
「とにかく、早くここから出よう……」
この地下牢は死臭なども凄くて、この場にいるだけで吐きそうになる。
気配探知で確認してもシャル以外に生存者がいないようなので、急いで牢から出た。
地下牢から出るとあたりも暗くなっており、周囲に人の気配もない。
私は初めてではあったが、シャルごと飛行魔法を使ってカレンの所に行き、ミスリアド侯爵家の敷地内から出た。
「ヒナタ! 見つかったんだな!」
「うん。でもシャルは眠っているみたいだから、今のうちに安全な場所に避難しよう」
「シャルに怪我はあるか!?」
「大丈夫だよ。特に外傷もないから安心して」
取り乱したカレンを落ち着け、私たちが向かったのはブルガルド伯爵家。
もしシャルがいないことに気が付いたら、また宿に来て攫われるかもしれないためだ。
「すいません、ユリア様はいらっしゃいますか」
私はまた、門番の人に話しかけた。
すると、すでに話が通っていたかのように、すぐに屋敷の中へ案内された。
屋敷の中へと入ると、扉の先にユリアが出迎えてくれた。
「よく無事に帰ってきたわね。どうぞ入って」
私たちは案内された寝室に通され、シャルをベットに寝かせた。
そして私とカレンでユリアと共に執務室で向かい合う。
「やはり、ミスリアド侯爵家でしたか……」
私が犯人は想定通りミスリアド侯爵家であったことを報告した。
その報告によりユリアは深刻な面持ちだった。
「しかし、今回攫った件については証拠が残らない以上、罪に問うのは難しいかもしれません。いくら事実でも冒険者の言葉くらいは侯爵家で揉み消すことができるからです」
やっぱりそういうものか。
平民である私達の言葉よりも貴族の言葉を信じる。そして「そんなことは知りません」とシラを切ってしまえば、いくらでも隠し通すこともできる。
しかし、それは証拠がない場合だ。
こんな時のために、私は証拠になりそうなものを無限収納にしまっておいたのだ。
「でしたら、私が屋敷を探索した時に見つけた書類ではどうでしょうか?」
「そんなのがあるの!?」
「そんなのがあったのか!?」
ユリアと同時にカレンも身を乗り出して私に問い詰める。
「はい。こんなこともあろうかと探してきました。これが証拠の書類です」
私は机に50枚くらいの書類を置いた。
ユリアは目を見開きながら読んでいる。
「まさか……ここまでのことをしているとは……」
「マジかよ……」
ユリアは頭を抱えて項垂れた。カレンも書類を見て顔色が青ざめている。
正直、ミスリアド侯爵家は目を覆いたくなるほどのことをしている。
そしてそれは、現場を見ればさらに信じられないほどの惨状だ。
「あと、シャルを見つけた場所は地下牢です。ミスリアド侯爵家の裏庭に隠された地下牢への入り口があります。そこには数え切れないほどの死体がありました」
「本当ですか!?」
ユリアのテンションの浮き沈みが激しい。
そして私はあの地下牢で無惨な姿で亡くなっていた少女のことを思い出していた。
あの子のことを考えて、絶対にクソ貴族を許してはならないという想いから、ユリアに続けて言葉を発する。
「はい。なのであとはブルガルド家にミスリアド侯爵家への法の裁きを任せたいのです」
「……分かりました。それくらいは構いません。私はすぐに王宮に向かいます!」
そう言って、ユリアは身支度をして馬車で王宮へと向かった。
私とカレンはユリアを見送った後、シャルのところへ向かい寝室にで川の字になって眠りについた。
─ガモト・ミスリアド視点─
さて、やっとあの金髪冒険者を楽しめる。
とりあえず、屋敷の使用人が寝静まったのを確認してから俺は地下牢に向かった。
あの冒険者はどんな顔で泣いてくれるのか、どんな顔で助けを求めるのか……。
今から楽しみで仕方ない。俺は高揚しながら地下牢の階段を降りた。
「い、いない……だと」
地下牢にいるはずの金髪冒険者の姿がない。
なぜだ、どこにいる。
暗殺者連中に眠らされた人間は丸1日は眠り続けるはずだ。
だから、本来であればまだ眠っているはず……。
それなのにいない。俺は焦った。
すぐに地下牢から出て、屋敷の中に入り執務室で仕事をしていた父上に相談する。
「父上! 今日攫ってきた女が地下牢からいなくなりました!」
「な、なんてことをしているんだ! もしあの地下牢が露見したらミスリアド侯爵家は終わりだぞ! すぐに探し出せ!」
父親に怒鳴られたが、俺だけじゃあどうすることもできない。
すぐに闇組織のアジトに走って向かい、攫ってきた冒険者が逃げ出したため探し出して殺すように指示をした。
あとは連中に任せるしかない。
俺は連中からの報告を待ちながら、自分のベッドの上で朝を迎えた。
目が覚めてカーテンを開けると屋敷の門で、何やら鎧を着た連中が集まり騒ぎが起きている。
一体何が……?
気になって屋敷に押しかけて来た連中を目を凝らして見てみると王国騎士なのが分かった。
まさか昨日のことがバレたか? いや……それにしても騎士の到着が早すぎる。
父上は騎士相手に屋敷の門で騒いでいる。しかしすぐに騎士によって拘束され、手枷を嵌められて馬車に乗せられた。
「まずい! 俺も捕まる! 逃げないと!」
すぐに、屋敷の裏口から逃げようとした……が、裏庭にも王国騎士が3人いた。
そしてそれは地下牢に入る瞬間だった。
なぜ、地下牢の場所までバレている。
あの金髪の冒険者の伝でここまで国の騎士団がすぐに動くものなのか。
理解が追いつかない。
「やめろ! はなせ! 俺様を誰だと思っている!」
騎士に捕まりそうになって逃げようとするが、抵抗虚しく手枷を嵌められた。
なぜこんなことに……。
あの冒険者に手を出そうとしたのが間違いだったのか……。
今更後悔してももう遅い。
ミスリアド侯爵家は終わりだ……。
◇◆◇
ヒナタから預かった書類を持ってユリアが王宮で今回の事件の証言を行ったことにより、早急にミスリアド侯爵家への騎士団の派遣が決まった。
数日後、ミスリアド侯爵家の当主及び息子のガモトは火炙りによる公開処刑が行われた。
侯爵夫人および娘は今回の件に関与はしていなかったが、連座で斬首刑となった。
さらには、ミスリアド家の依頼を受けていた闇組織は全員捕らえられ、斬首刑となった。
ミスリアド侯爵家は当然取り潰しになったが、使用人は事件への関与が認められず無罪となった。
ミスリアド侯爵家のこれまでの罪は王都中に広がり、しばらくの間は王都を騒がせていた。




