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31 シャルを探す

 

 突然のカレンの報告に私の脳内で今の発言について内容を理解しようとする。

 えっと……カレンが突然やってきて、びっくりして飛び起きたんだよね。

 それでカレンが言ったのは、シャルが……攫われたって言ったよね。

 そうかシャルが攫われたのか……。

 ん……?


「シャルが攫われた?!」

 

 私はようやくカレンの発言を理解した。

 すぐに立ち上がり、カレンに迫る。


「ちょっとヒナタ、落ち着けって!」


 私は焦ったあまり、カレンの両肩を強く掴んでいた。


「あ、ごめん。ちょっと取り乱しちゃった……それでシャルが攫われたってどういうこと?」


 私は再度、カレンに問う。

 でも、シャルだけ狙われたということは原因に心当たりがある。

 カレンに外傷もないようだから争ったとも思えない。


「夜中に急に知らない奴らが部屋にいたんだ。あたしは慌てて剣を取ろうとしたんだけど、気がついたら寝ていたみたいで。そしてシャルのベッドを見たらいなくなってた……」


 私がウルレインで眠らされた時と同じスキルなのかもしれない。

 睡眠魔法みたいな……。


「とりあえず落ち着こうか。攫われたということは、殺すつもりはないかもしれないし」


 そうは言っても今回のように宿に忍び込んでまで攫われるということは、殺される可能性が低いにしても、それ以外ならあり得る。何せ、シャルはとびっきりの美少女だから。私が男だったらやることは決まっている。

 でも私が奴隷売買組織に捕まった時みたいな目にシャルが遭うのは許せない……。

 それにこんなことを仕出かすのはあいつしかいない。

 もし違っていたらその方が驚愕してしまうくらいだ。


「たぶん攫ったのはこの前のクソ貴族だと思う。あいつならこれくらいのことやってても不思議じゃなさそうだしね」

「確かにそうだな……」


 考えられるのは昨日のクソ貴族。私に言い負かされシャルを愛人に出来なかったことで、強制的に攫った可能性がある。

 でも証拠もないのにクソ貴族が犯人だと衛兵に伝えても、貴族の侮辱で逆に私が牢屋行きになる。

 となると……ここは私が直接シャルを探しに行けばいいかな。

 隠密スキルを使えば、クソ貴族の屋敷にも侵入できてシャルの救出もできるかもしれない。


「カレンよく聞いて。シャルの救出には私が向かうよ」

「な! 何言ってんだよ!」

「落ち着いて。私には姿を消せるスキルがあるから、クソ貴族の屋敷にも侵入できる」


 カレンは目を見開いて私を見た。

 ゴブリンの巣の偵察の時を思い出したのだろう。


「とは言っても、本当にあのクソ貴族がシャルを攫ったのか分からないから偵察程度にね。でも、もしシャルがいたら必ず取り返してくるし、落とし前もつけさせる」

「あ、あたしにはただ待っていろって言うのか!?」

「そんなことはないよ。カレンには屋敷の外にいて欲しい。もし私が失敗して相手に見つかって争いになったら、カレンにも助けに来て欲しいんだ。その方が心強いから」

「……分かった」


 私はカレンの肩を掴んで説得する。

 すると、カレンも納得してくれたようで小さく頷いた。


 とりあえず、クソ貴族の屋敷がどこにあるか調べないといけない。

 多分ブルガルド家に行けば教えてくれると思う。

 屋敷くらいなら大丈夫だよね。


「とりあえずクソ貴族の屋敷を調べたいから、ブルガルド家に行って教えてもらってくるよ。カレンはここにいて。すぐに帰ってくるからさ」

「あ、ああ……」


 私は隠密スキルを発動させて、飛行魔法(フライ)でブルガルド家へと向かった。


「冒険者のヒナタです。ユリア様はいらっしゃいますか」


 私はブルガルド家の門にいた男性に話しかけた。


「ヒナタ様か。こんな早朝から何の用事なんだ?」


 冷静に考えてみると、今何時だ?

 まだ辺りは明るくなってきた程度だ。

 そうなると、まだ朝の6時くらいなんじゃないかな。

 朝から慌しかったことで時間のことを忘れていた。

 流石にこの時間に押しかけるのは失礼だけど、私達も緊急事態なのだ。

 迷惑は承知でお願いするしかない。


「朝早くから申し訳ありません。でも、大事な要件を伝えたいので至急ユリア様にお会いしたいです」

「……そうか。少し待っていてくれ」


 男性は屋敷に向かっていき、しばらくして帰ってきた。


「ユリア様から許可が降りた。どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 屋敷へ案内されて、こんな早朝だというのにサーシャが出迎えてくれた。


「ヒナタお姉ちゃん!」

「久しぶりだね。サーシャちゃん!」


 サーシャが私に抱きついてきた。

 久しぶりにサーシャ成分を補充できた。

 このままサーシャといちゃいちゃしたいけど、今日は我慢しなければいけない。


「ごめんね。今日はユリアさんに用事があってきたんだ」

「そ、そうなんですか……。残念です」


 そんな落ち込まないで。

 すごく悪いことした気分になるよ……。


「あら、ヒナタさん。私に大事な用事って何かしら?」

「ユリアさん。すいません。ここでは話しにくいので、別室でもいいですか?」

「ええ。いいわよ」


 そう言って私はユリアに案内されて別室へと向かった。

 早速、2人きりになった私は事情を説明する。


「実は、私のパーティーメンバーが夜中に攫われました。たぶんですが、ミスリアド侯爵家の手の者だと思います。少し前に攫われた仲間が酒場で愛人になれと言い寄られていたので……」

「なんてことですか……。ミスリアド侯爵家にはいい噂はありませんがそんなことを。それで私に用事とは?」

「ミスリアド侯爵家の屋敷の場所を教えて欲しいんです」

「……侵入でもする気なの?」


 ユリアの目が鋭くなった。

 確かに貴族の屋敷に侵入するのは危険な行為だ。

 もし見つかれば、ただでは済まない。

 でも、シャルは絶対に助けたい。


「その通りです。私なら大丈夫なので、ユリアさんに協力をお願いしたいのです」


 私は立ち上がり、地面に頭を下げて土下座した。

 仲間のためならこの頭はいくらでも下げられる。


「……本気のようですね。でも1つだけ約束してください。必ず無事に帰ってきてください」

「当然です」


 なんとか説得できて、私はクソ貴族の屋敷を教えてもらい、ブルガルド家を出て急いで宿へと戻った。


「カレン! 屋敷は分かったから急いで行くよ!」

「お、おう!」


 カレンは大人しく宿で待っていてくれたようだ。

 こういうときって冷静さを欠いているから、1人で強行突破する可能性もあったしね。


 そして私たちは宿を出て、歩いてミスリアド侯爵家に辿り着く。

 教えてもらったミスリアド侯爵家は、ブルガルド伯爵家よりも大きな屋敷で、敷地も広く、庭がとても綺麗だった。


「カレンは怪しまれない程度にこの周囲にいて」

「任せろ。もし争いになったら何か合図をくれ」

「分かった。その時は少し大きめの魔法でも使って騒ぎを起こすよ」


 そうならないようにはするけどね。

 早速、私は隠密スキルと念の為気配遮断スキルを使って屋敷へと飛行魔法(フライ)で移動した。


「結構人がいるようだね……」


 屋敷の窓枠を見てみると屋敷の使用人が何人も忙しなく働いている。

 私はそんなことに気にも止めず、換気のためか空いていた窓から侵入し、屋敷を探索することにした。


 しばらく屋敷を歩いていると、あのシャルに言い寄っていたクソ貴族の姿が見えた。

 後をついて行くと自分の部屋と思われる場所に入っていく。

 私もクソ貴族の後ろにベッタリとついて、一緒に部屋の中へと侵入した。


「はあ……。最近は楽しませてくれる女がいないな。すぐに死んでしまう」


 突然、耳を疑うようなことを言い出した。

 楽しませてくれる女? すぐに死ぬ?

 こんな発言を聞いて落ち着けるわけがない。もしシャルが捕まっていたとしたらどんな目に遭うというのだ。


「でも、今日の夜は少しだけ楽しみだ……。冒険者の女なら少しは耐えられるだろう」


 この発言で私は確信する。これはシャルのことだ。

 何をするのか分からないが、このクソ貴族は今夜にでもシャルに何かをするつもりだ。

 早く見つけないとシャルの身が危険だ……。

 正直、このクソ貴族を今ここで始末したい所だが、もし私だとバレて指名手配にでもなったら目も当てられない。

 かなりイラついているが冷静になろう。

 私はクソ貴族が部屋を出て行くのを待ってから、部屋に何か証拠がないか探した。


「これは……」


 部屋の中を物色していると、机の引き出しの奥から、暗殺者との契約書や、人を攫うための闇組織との契約書、横領の証拠書類……たくさん出てきた。

 どうやらこのクソ貴族だけじゃなくて親の侯爵家当主も関与しているみたいだ。

 2人のサインが書かれている書類もある。

 これはクソ貴族達を(おとし)めるために必要な証拠になる。

 持っていこう。


 そして私はシャルを探すために、クソ貴族の部屋から出て屋敷の探索を続けるが……何も見つからない。

 念のため気配探知スキルを使ってマップを開く。


「あれ……?」


 すると、私のいるところに全く動かない別の反応があるのだ。

 おかしい。私の周囲に人はいない。

 もしかしたら上の階にいる人の反応の可能性もあるので、窓から外に出て飛行魔法(フライ)で確認するがやっぱり違う。


「……もしかして地下があるのか?」


 一つの仮説が思いつく。

 すぐに私は屋敷内の至る所を探り、地下への入り口を探した……が、なかなか見つからない。

 屋敷のどこを探しても地下への入り口らしきものがなく、そして隠し扉のようなものも見当たらない。


「どこにあるんだ。くそっ……」


 なかなか見つからなくて焦りも出てくる。

 というか、そもそもこの屋敷で働いている人たちは地下のことを知っているのか?

 少しクソ貴族の立場になって考えてみる。最悪の気分だけど。


「もしクソ貴族が屋敷の使用人にもバレないように人を攫っていたとしたら、隠し扉の存在は隠したいはず。だとしたら……外か!」


 私は急いで屋敷の中から出て外の庭園を探した。

 とても手入れがされている綺麗な庭園だったが、地面に入口がないか事細かく調べる。

 それでもやはり見つからない。かなりの長い時間、この屋敷でシャルの捜索をしているため、もう日も傾いてきたようだ。

 このままだとカレンも心配して、強行突破する可能性もある。

 早く、シャルを見つけないと。

 

 それから屋敷の周囲の庭園を探し続けていると、屋敷の裏手に手入れがほとんどされていない庭が見つかった。

 草木も生い茂り屋敷の裏手のためか、しばらく誰も立ち入っていないような場所になっている。

 明らかに怪しい……。


 汚い庭を姿勢を低くして細かく探す……。

 すると、地面に小さな取手のようなものが見つかった。

 取手を持ってスライドさせてみる。


「見つけた……」


 ……やはり地下があった。


 私は早速、地下への入り口から薄暗い階段を降りていくと、奥には扉があった。

 扉に手を差し伸べ押してみるとすんなりと開いた。どうやら鍵がかかっていないみたいだ。

 そして扉を開けて通路に沿って奥に進む。

 薄暗い場所だが、いくつもの鉄格子で造られた牢がある。

 目を凝らしながら一つ一つの牢を確認していると、ついに牢の中で鎖に繋がれたシャルの姿があった……。

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